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Business Innovation

アジアで医療の未来を。
ビッグデータの力で。

世界の人口の約60%を占める、アジア。三井物産は、10カ国に広がるアジア最大級の民間病院グループIHH Healthcare Berhad(以下IHH)と共に、新たな医療の可能性を切りひらいています。2020年には、8カ国でオンライン診療を開始。ニューノーマルを見据えて、デジタルの力を活用した新たな取り組みを始めています。


近年、めざましい経済成長をつづけるアジア。2020年までに、世界のGDPに占めるアジアの割合はその他の地域をしのぐと予想されています。一方で、生活が豊かになり平均寿命が延びるにつれ、糖尿病・脳卒中・心臓病など、これまでアジアを苦しめてきた感染症以外の病気が急増。新たな医療ニーズが急速に拡大しています。

最新の予測では、2018年から2025年の間にASEAN主要6カ国(マレーシア、シンガポール、フィリピン、ベトナム、タイ、インドネシア)で医療費が76%も上昇するとの説もあり、対策が急務です。三井物産は、アジア10カ国で約80病院、1万5千床以上を展開するIHHの筆頭株主として、病院を中核にさまざまなイノベーションを推進。ヘルスケアエコシステムの構築を進めています。


三井物産のヘルスケアエコシステムとは

「量の解決」と「質の向上」を目指す

アジアで先進医療のニーズが高まる一方で、その市場は数多くの国ごとに細分化されており、大規模な事業展開が難しいという問題があります。各国それぞれに医療制度も異なるため、国を越えて病院グループを展開するグローバルなプレイヤーが生まれにくいのです。たとえば米国のように、少数のメジャープレイヤーの寡占状態にある巨大市場とは大きく異なります。

そんな中、10カ国で約80病院を展開するIHHの存在感は際立っています。シンガポール、マレーシア、インド、トルコを中心に、近年では中国、そして中東の国々まで事業を拡大。まさに、アジアのヘルスケアを牽引しているのです。

三井物産は、2011年からIHHに出資参画。長年アジアで築いてきたネットワークを活かし、その成長を支えてきました。現在では32.9%の株式を保有する筆頭株主として、IHHと目線をひとつにし、アジアの医療の革新を進めています。

私たちが目指しているのは、「量の解決」と「質の向上」です。

急激に増える人口に医療の供給がまったく追いつかないという、圧倒的な需給ギャップ。この問題を、アジア全域に病院・診療所を広げることで解決すること。同時に、経営改革や先進テクノロジーの導入により、治療そのものの品質を高め、費用対効果の高いソリューションを提供すること。この2つをかなえることで、すべての患者さんに必要なケアを提供していきます。

「量の解決」と「質の向上」を目指す

イノベーションの3本の柱

イノベーションの3本の柱

ヘルスケアビジネスを考える上で理解しておきたいこと。それは、日本と世界の違いです。

日本の病院では、多くの場合、医師が病院長を務めています。「医療行為のプロ」が経営も担っているのです。しかし、海外では必ずしもそうではありません。「医療行為のプロ」と「経営のプロ」が存在し、「経営のプロ」が事業面を担う。それぞれが役割に専念し、より高い価値を生み出していくことで、患者さんにより多くのメリットを提供することができる。そんな考え方が主流となっています。

IHHのケースでは、私たち三井物産が経営の一翼、特にイノベーション推進を担っています。その中心となるが、2016年に新設され、三井物産からの出向者が牽引する「イノベーション推進部」です。各国の現場でばらばらに改革に取り組むのではなく、国をまたぎ、グループ全体を見つめ組織として改革を加速させています。

その取り組みは、3本の柱からなります。「先進的なテクノロジーの導入」「ヘルスケアスタートアップ企業への戦略的投資」そして「イノベーション企業文化の醸成」です。

たとえば、テクノロジー導入の一例として、シンガポールでAIを用いた入院費用予測システムを取り入れました。これは医療費が総額いくらかになるかを入院前に予測するシステム。導入後、従来の予測方法の2倍以上の精度を実現、現在もアルゴリズムが自己学習しており、患者さんがより正確に医療費負担を把握することが可能に。より患者さんの目線に立った医療を提供しています。

また、ブルネイの循環器専門病院では、心疾患の治療後に退院した患者さんの予後管理にウェアラブルデバイスを導入。体に装着できる小型機器で、リハビリ経過のモニタリングを行っています。

スタートアップ企業への投資事例としては、遺伝子検査ラボに対する戦略出資が挙げられます。がん、アレルギー、出生前診断など、そのカバー範囲は幅広いもの。患者さんひとりひとりの遺伝情報に基づいて治療をカスタマイズできる、個別化医療に向けた取り組みのひとつです。

イノベーション企業文化を育むためには、「Innovation Challenge」と呼ばれるビジネスモデルコンテストなどを行っています。これはグループ従業員、およびAI・IoT・ビッグデータなどを専門とするスタートアップ企業を対象とするもの。2018年に第一回を開催し、第二回となる今年はヘルスケアデータの利活用をテーマとし、社内チームから250件、スタートアップ企業から150件のアイデアが集まりました。コンテスト後は、実際に受賞したアイデアの導入に向けた取り組みを進めています。

病院グループがイノベーション部門を内部に常設するという取り組み。それは、アジアで初となる挑戦です。私たちは常に新たなトライをつづけ、これまでにないヘルスケアビジネスを生みだしていきます。

医療データプラットフォーム化への挑戦

IHHは、これからどこへ向かっていくのか。ひとつ挙げられるのが、「医療データプラットフォーム化」への挑戦です。
現在、IHHでは国を越えて年間約600万の外来患者、約60万の入院患者を抱えています。そのすべてのデータを一元管理することで、アジアの医療の可能性を広げていきます。

たとえば、来院から検査・入院・治療・退院など、患者さんが経験する全過程、いわゆる「ペイシェント・ジャーニー」のすべてのデータを集約化。患者さんのニーズを特定することで、満足度向上のために活かすことができます。

その一例として、2020年にはニューノーマルを見据え、8つの国でオンライン診療サービスを開始しました。診療予約、診療、そして、薬の処方から配送まで全てをカバーするサービスです。これは以前から考えていたものですが、新型コロナウイルス感染症拡大を受けて、その準備を大幅に加速。より安心・安全に医療サービスを受けたいという患者さんの想いに正面から向き合い、約2カ月という短期間でサービス提供に至りました。ペイシェント・ジャーニーを重視するIHHの強みとデジタルの力を活かし、患者さんの利便性を大きく向上させたケースです。

それだけではありません。データを疾病管理や予後の管理に活用することで、より効果の高い医療を実現することも期待できます。たとえば、糖尿病予備群の血糖値を継続的にモニタリングし、重篤化リスクを予測。状態が悪化する前にアプリで来院を促す、といった取り組みです。
さらに、新たなステークホルダーとの協業の可能性も広がります。たとえば、製薬会社の臨床試験に役立つビッグデータを提供。創薬・治験などの領域で、R&Dをサポートすることができます。

アジア最大級の病院グループだからこそ得られるビッグデータ。それはすなわち、アジアで最も大きなポテンシャルを秘めたデータです。そこからはさまざまなグループシナジーの可能性が見えてきます。ある国で成功したモデルをグループ全体で共有し、標準化することで、質の高いケアをすべての国で実現していく。そんな未来です。
成長するアジアで、国を越え、人びとの健康を、豊かな暮らしを支えていく。三井物産が実現していく、これからの時代の新しい「総合商社の仕事」のひとつがここにあります。

2019年6月掲載
2020年11月更新