Business Innovation
世界のエネルギーの安定供給に貢献する
天然ガスは、火力発電所で燃料として利用する際、温室効果ガスや有害物質の排出量が少ないため、環境にやさしいクリーン・エネルギーとして世界中で需要が増加しています。なかでも、米国では2000年初頭からシェールガスの生産量が急成長を遂げており、米国内で競争力のある価格で供給されています。三井物産は、この米国産天然ガスを日本などの非資源国へと輸出する「キャメロンLNGプロジェクト」に取り組んでいます。
米国で生産された天然ガスは、米国内では生産地から消費地まで気体のままパイプラインで運搬されます。しかし、日本など海外へ船舶を使って輸出する場合は、天然ガスをマイナス162℃以下に冷やして、およそ600分の1の体積の液体「LNG(Liquefied Natural Gas)」にする必要があります。この液化のためのプラントを米国ルイジアナ州に建設し、米国産天然ガスを原料とするLNGを輸出する事業が「キャメロンLNGプロジェクト」です。
LNGと共に世界を拓く(1分37秒)
「受入基地」を「輸出基地」に転換
天然ガス液化プラントが建設されているキャメロンLNG基地は、LNGを海外から米国に輸入する受入基地として、2009年7月に運営を開始しました。しかし、技術革新によって頁岩(シェール)層に含まれる天然ガスを低コストで生産できるようになる、いわゆる"シェールガス革命"が起こり、米国産天然ガスが輸入LNG価格よりも大幅に安い価格で供給され始めたことにより、受入基地としてはほとんど稼働していませんでした。
受入基地には南北2つの桟橋があり、積載量217,000立方メートルという世界最大級のLNG船を受け入れることが可能です。LNGの貯蔵設備としてLNGタンクが3基あり、天然ガスを運ぶパイプラインも設置されています。このため、新たに天然ガス液化プラントを建設すれば、既存の設備を活用しながら、受入基地を輸出基地へと転換することができるのです。
受入基地としてのキャメロンLNG基地は、センプラ社(Sempra Energy)の100%子会社であるキャメロン社(Cameron LNG, LLC)が保有・運営していました。この受入基地に天然ガス液化プラントを建設して輸出基地へと転換するに当たり、三井物産の100%子会社であるMitsui & Co. Cameron LNG Investment, Inc.は、他2社と共にそれぞれ16.6%出資参画しました。
この事業では、年間1,200万トンの液化能力を持つプラント(400万トン×3系列)が新たに建設されます。三井物産はそのうち年間400万トンの液化能力を確保し、LNG生産開始から約20年間にわたり、原料となる天然ガスを確保しキャメロン社に供給した上で、キャメロン社が液化したLNGを東京電力、東邦ガス、関西電力、東京ガスなどに安定的に供給します。
また、日本を中心とした需要家向けのLNGを輸送するため、2015年5月までに7隻のLNG船の定期用船契約を締結しました。本LNGは、これまでの油価リンクではなく、米国天然ガス価格リンクでの販売であるため、お客様にとってLNG購入価格を多様化出来るというメリットがあります。
LNG輸出に向けた難しい許可の取得
2014年10月、天然ガス液化プラントの本格的な建設工事が始まりましたが、そこに至るまでには、越えなければならないハードルがいくつもありました。
米国からLNGを輸出するためには、取得の難易度が高い、さまざまな「許可」が必要となります。
まず、米国エネルギー省(DOE:Department of Energy)より、2012年1月に「Free-Trade Agreement(FTA)締結国向け輸出許可」を取得。2014年2月には、「FTA非締結国向け輸出許可(条件付き)」を取得しました。また、同年6月、天然ガス液化プラントの建設・操業に必要な米国連邦エネルギー規制委員会(FERC:Federal Energy Regulatory Commission)による環境審査も通過しました。
2014年8月、三井物産はプロジェクトの事業パートナーと共に最終投資決断を行い、翌9月、DOEより最終的な「FTA非締結国向け輸出許可」を取得しました。それは、米国産天然ガスのLNG輸出に対する許可としては2番目、日本の企業が関係した案件としては初めてという快挙でした。
三井物産の総合力を結集
今回のプロジェクトの総事業費は、およそ100億米ドルです。16.6%を出資する三井物産にとっても巨額の投資が必要となるため、最終投資決断の前に、LNGの販売先を確保し、長期の売買契約を結んでおく必要がありました。この交渉の際、強みとなったのが、本部の枠を越えた三井物産の「総合力」でした。
エネルギー第二本部を中心に、販売以外の事業全体に関与するプロジェクト本部、LNG船の調達・運航に長けた機械・輸送システム本部と、それぞれの分野のエキスパートたちがエネルギー第二本部のフロアに机を並べ、チーム一丸となって事業の実現を目指しました。たとえば、プロジェクト本部との取り組みにより天然ガスの液化設備建設を実現し、機械・輸送システム本部によって効率的な最新鋭船でLNGをお客様のもとにお届けすることが可能となるなど、プロジェクトに大きく貢献することが可能となりました。
更に、財務部のプロジェクトファイナンスに関する豊かな知見により、今回のプロジェクトに対して総額74億米ドルの融資を受けられたことや、各種交渉時に法務部が営業と一体となり複雑な契約に対応したことは、三井物産ならではの総合力を発揮した事例といえます。
三井物産は、現在、原油・天然ガスの上流開発・生産から販売・輸送、さらに原油・天然ガスを使用した火力発電事業や化学品の製造・物流事業に至るまで、上流から中~下流までバリューチェーンの展開を推進しています。
その一部となるキャメロン天然ガス液化プラントの建設は、2019年の商業生産開始を目指して着実に進められています。生産開始後は、約1,200万世帯が1年間に使うガスの量に相当する年間400万トンのLNGが、三井物産を通じて日本などに輸出されます。
これからも、三井物産は、長年培ってきた物流機能・ネットワーク・信用力を活かし、世界のエネルギー安定供給に貢献していきます。
2015年9月掲載