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項 星宇

ニュートリション・アグリカルチャー本部 アグリソリューション事業部 アグリイノベーション室
ZERO FARMS MIDDLE EAST – SOLE PROPRIETORSHIP L.L.C

サウジアラビアの首都リヤドから、車で1時間。砂漠の真ん中の植物工場で、項星宇はよりサステナブルな次世代の農業をカタチにしている。


砂漠の真ん中で野菜をつくる挑戦

私は今、サウジアラビアで「植物工場」の事業を手がけています。砂漠の真ん中で野菜をつくるプロジェクトです。

植物工場は、作物の成長に必要な条件をすべてコントロールして行う農業です。完全室内型で光・温度・湿度・空気の流れ・二酸化炭素濃度・養分・水分などをAIやIoTで自動制御し、最も生産量の上がる条件をラーニングしながら栽培します。

砂漠の真ん中で野菜をつくる挑戦

たとえばリーフレタスなら、収穫までに通常10〜13週間かかるところを3〜4週間で収穫できるんです。水の使用量も最大95%減らせますし、農薬も一切使わずに済みます。

気候に左右されないこと、生産量・品質・コストを安定化できること、環境負荷が低いことなどから、植物工場はサステナブルな農業として世界でも注目されています。特にサウジは気候が過酷で生鮮食品の約80%を輸入に頼っていますから、私たちの事業はこの国の食生活に大きく貢献できると考えています。

私たちは、テクノロジー面を担うイタリアのZERO社、サウジの小売事業者最大手の一つであるTamimi Markets社と共にこの事業を創りあげてきました。2023年12月、首都リヤドから車で1時間の砂漠に工場が完成。現在(*2024年2月)は6,000m²ある敷地内でベビーリーフ、リーフレタス、ハーブ等を栽培しており、数か月のテスト栽培後いよいよ本格販売に進む予定です。

私は現在ドバイに住んでおり、サウジやイタリア等の現場に足を運んで関係者を巻き込みながらプロジェクトを前へ進めています。

入社4年目でゼロから事業開発を担って

入社4年目でゼロから事業開発を担って

そもそも、私が植物工場と出会ったのは2020年のことでした。新たなインフラ事業を探るタスクフォースで、「農業×インフラ」のひとつの可能性として上がったのです。

「ロマンあるなあ!」と思いましたね。実は農業って、社会が思うほどサステナブルじゃないんです。水資源の枯渇、耕作地の減少、農薬の使用規制など。課題が山積みです。けれど植物工場のシステムに自分の持つインフラの知見をかけ合わせれば、未来の常識になるような新しい農業ができるんじゃないか。そう思ったんです。

植物工場のビジネスは、それまで三井物産内でも何度も議論されたものの実現していない。じゃあ自分がやってやろうと思い、自ら志願して異動し、戦略策定に取り組みました。入社4年目のことです。

日本企業の一般感覚だと「若くして」という年次かもしれませんが、正直そういう思いは全然なかったです。三井物産って、「年齢に関係なく、一番詳しく、一番コミットした人間に任せる」という社風なので。私も任せてもらい、後押ししてもらいました。

ただ、仕事自体はもう困難の連続でした。95%の失敗と5%の成功を積み重ねながら自分をアップデートし続けてここまで来た、という感じです。だから、工場が完成した時は生涯忘れることがないだろうと思えるくらい感極まりましたね。ついにここまで来たんだって。

商材は、「自分自身」

商材は、「自分自身」

私は中国にルーツがあります。両親が中国生まれで、私自身は日本に生まれ小中高大すべて日本の学校ですが、家では中国語、外では日本語という生活でした。

当たり前のように異なる文化に触れていたせいか、7〜8歳の頃から、将来は海外でいろんな国の人といっしょに働くんだと自然に感じていました。

また父の故郷がかなりの田舎で。インフラが日本と比較するとだいぶ遅れた地域だったんです。「生まれた場所が違うだけでこんなに違うのか」って、大きくなるとそんなことも考えるようになりました。

それが総合商社の仕事に興味を持つようになったきっかけです。インフラを通じて、優れた技術をいろんな国に持っていって人の生活を豊かにできたらすごく面白いな!って思ったんです。

私が大事にしているのは、「主人公感をもって働く」ということです。総合商社は具体的な商材はあまり持っていません。ZERO社のテクノロジーや、Tamimi Markets社の販売網のようなものがない。三井物産の商材は、「自分」なんです。私の書くメール1本1本、私の発言ひとつひとつの積み重ね。それが三井物産の商材と思って仕事しています。

インフラの仕事はたくさんのプレイヤーが関わります。特定の商材を持つプレイヤーは、その特定の分野、つまり一部分を担っている。けれど総合商社の人間は全体を見ています。

常にプロジェクト全体を見渡して、今週、来週、1か月先、半年先、1年先、そしてこの瞬間何をするのがベストか考えていなければいけない。事業全体の主人公のつもりで臨まなければならない。そのためには、誰よりも案件にコミットしなければならないと考えています。

Beyond Leafy Greens ― 葉モノ野菜の先へ

いよいよ生産が始まった今、当面の課題は2つあります。安定生産の実現と消費者の反応です。

まずは、「生産量・品質・コストを安定化させることができる」という私たちの見立てが、サウジアラビアの環境で本当に実現出来ることを証明する。これが前提。その上で、ここで育った葉モノ野菜やイチゴを消費者が実際に買ってくれるかです。消費者に受け入れられて初めて意味のある事業になるわけですから。ここに全力でコミットします。

ただ、一方で私たちはその先も見据えています。“Beyond Leafy Greens(葉モノ野菜の先へ)”というスローガンを掲げ、事業を広げていくための研究も進めています。

たとえば、ワクチンなどの医薬品やサプリメント、化粧品などの植物由来原料の栽培です。世界中の多くの植物工場が食料の生産に注力しているのに対し、私たちのシステムはこうした付加価値の高い品種へ拡張することができます。

野菜はあくまで入口です。あらゆる植物由来のアプリケーションを生産する「植物生産プラットフォームビジネス」 へと展開することを目指し ています。

Beyond Leafy Greens ― 葉モノ野菜の先へ

そう、私のしたいことって、たぶん、三井物産という場を活用して「新しい常識」を世に送り出すことなんです。見たことがないもの、まだ確立していないものを、総合商社の機能を使い、パートナーと力を合わせ事業というカタチで具現化したい。「これは本当にできるんだぞ!」って世界に示したい。

そのためにいつもフロンティアにいたいと考えています。世界中の仲間と協力しながら、農業生産における新しい常識を実現したい。そう強く思っています。

2024年5月掲載