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Business Innovation

モロッコで、世界で、
タンパク質バリューチェーンを

一人当たりGDPが3,500米ドルを超え、経済成長の中で食肉需要が大きく伸びるアフリカの新興国・モロッコ。三井物産はその変化に応えながら、その先に世界規模の動物性タンパク質バリューチェーンを築こうとしています。


穀物輸入、飼料製造、孵化、養鶏、と畜、食肉加工のすべてを。画像

2020年、世界中の鶏が330億羽を超えました。これは、人類全体の数の4倍以上。この数字は今後も伸び続ける見込みです。世界の鶏肉消費量は牛肉や豚肉の2倍以上にあたる年間2.3%のペースで増加しており、鶏肉は2033年までに、すべての動物性タンパク源の43%を占めるまでになると予想されています。

急激な人口増加に動物性タンパク質の供給が追いつかなくなる「タンパク質危機」が懸念されるこれからの世界で、養鶏事業の革新は最も期待されるソリューションのひとつなのです。

私たち三井物産は、経済成長著しいモロッコにおいて、同国最大の農業・食品関連企業Zalar Holding S.A.(以下ザラール)に出資参画。養鶏のあらゆるプロセスを担う同社の生産性向上を支えると共に、世界の食の未来を守る動物性タンパク質バリューチェーンの構築を目指しています。

穀物輸入、飼料製造、孵化、養鶏、と畜、食肉加工のすべてを

世界中で鶏肉の消費量が圧倒的に伸びている理由は2つあります。ひとつは価格の安さ、もうひとつは宗教の制約が少ないことです。

鶏肉は、1kg生産するために必要なエサの量が非常に少ないことで知られています。その数値を畜産用語で「飼料要求率」と言いますが、鶏肉の飼料要求率は豚肉や牛肉よりはるかに優っており低価格を実現しています。

宗教的には、「イスラム教徒もヒンズー教徒も食べられること」が大きなメリットです。世界に19億人いるイスラム教徒は豚肉を食べず、12億人いるヒンズー教徒は牛肉を食べません。この制約がないだけで、世界の需要に対して大きなポテンシャルがあることがわかります。

一般に、食生活は経済の発展段階に応じて変わります。「生存消費」と呼ばれる小麦・トウモロコシ・米などを中心とした段階から、「欲求消費」と呼ばれ動物性タンパク質の消費量が爆発的に伸びる段階へ。その分岐点は、一人当たりの年間GDPが2,500米ドルを超えるタイミング(低所得国から低中所得国へ飛躍する時期)だと言われています。

モロッコは現在、一人当たりの年間GDPが3,672米ドル。人口のほとんどは豚肉を食べないイスラム教徒であり、まさに養鶏事業の成長条件が揃った一大市場といえます。

私たち三井物産は2018年、この国で最大の農業・食品関連企業ザラールに出資参画しました。ザラールは穀物輸入から、エサとなる飼料製造、孵化、養鶏、と畜、そして食肉加工に至るまで全行程を一手に担う、業界で言う“鶏インテグレーター”です。この6つの事業分野すべてで国内トップシェアを誇っています。

穀物輸入、飼料製造、孵化、養鶏、と畜、食肉加工のすべてを

三井物産自身も、タンパク質バリューチェーンにおいて川上から川下まで幅広いネットワークを持っています。

例えばその投資先は、世界有数の畜水産苗種企業ヘンドリックス・ジェネティックス、日本で一、二を争う飼料メーカー フィード・ワン、東日本最大級の鶏インテグレーター プライフーズ、そして国内市場で大きな存在感を持つ食肉加工会社スターゼンなど多種多彩。私たちはそこで得たあらゆる知見を活かし、ザラールの生産性・品質の向上を加速させています。

KAIZEN & KARAAGE ― 「改善」と「唐揚げ」

三井物産は現在、ザラールを成長させるべく様々な取り組みを進めています。その代表的なものが、「KAIZENプロジェクト」と「KARAAGEプロジェクト」です。

KAIZEN & KARAAGE ― 「改善」と「唐揚げ」。画像

KAIZENプロジェクトは2018年の出資直後にスタートし、それ以来、長期的・継続的に業務改善を進めてきました。その一例が、三井物産の子会社プライフーズのノウハウを導入した生産性向上の取り組みです。

あまり知られていませんが、日本の養鶏業は世界トップレベルの生産性を誇り他国から大きな注目を集めています。プライフーズはその中でも有数の企業であり、「一羽の親鶏が10ヶ月で何個の卵を産むか」という評価指標において非常に優れた成績を上げています。

プライフーズが日本で培った養鶏手法をザラールへ取り入れることで、三井物産参画以前に比べ、実に3割近い成績向上を達成しています。

KAIZEN & KARAAGE ― 「改善」と「唐揚げ」。画像

一方、KARAAGEプロジェクトは付加価値の高い商品開発を目指した取り組みです。日本風の唐揚げの冷凍食品化に挑んでいます。

モロッコでは経済成長に伴いインスタント食品のニーズが急速に高まっていますが、これまで冷凍食品のほとんどが海外からの輸入品でした。またザラールの経営課題として、価格競争やコモディティ化を避けられるオリジナル商品の開発が求められていたことから三井物産が提案。2年間の開発期間を経て、2024年9月、商品化に至りました。

ザラールの持つ「DINDY(ダンディ)」という食品ブランドを冠したその冷凍唐揚げは、モロッコで好まれるクミンという香辛料の味付けと、日本的なショウガ風の味付けの2種類。
ここでもプライフーズのレシピ開発力や製造ノウハウが大いに力を発揮しました。日本の定番メニューがアフリカの食卓でどう評価されるか、スタッフ一同固唾を飲んで見守っています。

世界の「タンパク質危機」を解決するために

モロッコでは、2020年までの10年間で鶏肉の一人当たり消費量が11%増加しました。それでも現在の年間消費量は、まだ一人当たり約20kg。米国ではこの数字が58㎏にも達することを考えれば、ザラールは今後も飛躍的に成長していくことが期待できます。

また、周辺諸国への輸出も視野に入れています。モロッコは西アフリカや中東、欧州に対して、アクセスしやすい地理的なメリットに加え約60もの自由貿易協定を結んでおり、輸出には大きなポテンシャルがあります。

それだけではありません。三井物産は、より大きな世界規模の動物性タンパク質バリューチェーンの構想の中にザラールを位置付けています。そしてそのネットワークを次々と強化しているのです。

例えば鶏肉分野では、2018年のザラールに続き、2023年にエジプトのワディ・ポルトリー社に、2024年にはインドのスネハ・ファームズ社に出資参画を決定しました。

水産分野では、2019年に世界最大のエビ生産加工企業であるベトナムのミンフー・シーフード社に、2024年には世界最大のエビ養殖企業であるエクアドルのインダストリアル・ペスケラ・サンタ・プリシラ社に出資参画しています。エビをはじめとする魚介類は鶏肉に次いで急成長しているタンパク源であり、今後いっそう重要度を増していくと予想されています。

このように世界中にバリューチェーンを広げることで、私たちは国を越えて知見や技術を活用し、より安定した食料生産を可能にしたいと考えています。

現在、世界人口が急激に増加する中で、動物性タンパク質が不足する「タンパク質危機」の可能性がささやかれています。その影響は非常に深刻なものになるとの研究もあり対策が急務です。

私たち三井物産は、この人類規模の課題と正面から向き合っていきます。より安全・安心で、より持続可能な食の供給網をつくる。そのために世界中にネットワークを広げ、今日も新たな挑戦を続けています。

2025年2月掲載