Business Innovation
鉄を、ビジネスを動かし、
これからのクルマ作りを支える。
自動運転や、高度化する環境技術。自動車ビジネスが大きく変貌する今、三井物産は鋼板の供給にとどまらず、クルマ作りにおいて付加価値を生む、新たな挑戦を進めています。
世界的に自動車産業が大きな転換期を迎えています。100年続いた内燃エンジンの時代が「電動化」の時代へと移り始め、また「自動運転」も現実になりつつあります。その一方で、若い世代は自動車を所有するより、ライドシェアやカーシェアを好む傾向にあります。この先、自動車産業はどうなっていくのか。伝統的な自動車メーカー、巨大IT企業、シェアアプリプロバイダーなどが垣根を越えて新たな取り組みを進めており、市場の先行きは不透明です。
こうした中、自動車メーカーは、自動運転と環境対応、衝突防止技術にリソースを集中させる戦略的なシフトを進めています。そのため車体分野では、研究開発や製造面でのアウトソーシングが進んでいるのです。私たち三井物産はこのニーズの変化を捉え、鋼板の供給という従来の枠を超え、「クルマ作り」そのものへの関わりを深めています。世界最大手の自動車部品メーカー、ゲスタンプ・オートモシオン社(以下ゲスタンプ)への出資参画とパートナーシップはその代表例です。
車体の軽量化と高強度化を両立する
ゲスタンプは、スペインに本社を持つ世界でも有数の高機能自動車部品メーカーです。自社で設計から開発、製造まで手がけるリソースを持ち、自動車メーカーへの技術提案まで行っています。
9カ国13の開発拠点に1700人を超える開発スタッフを配し、24カ国に100以上の生産拠点を保有。あらゆる地域で標準化された高品質な部品を提供することができます。世界トップ13のOEMが全世界で製造する約1200モデルのうち、実に800モデルに部品を供給。「自動車部品メーカー」という言葉でイメージする枠をはるかに超える存在といっても過言ではありません。
ゲスタンプが誇るさまざまな先端技術の中で、ひときわ注目され、世界中の自動車メーカーに貢献しているのが「ホットスタンピング」と呼ばれる技術です。これは鋼板を900℃以上に加熱し、高温状態でプレス機に入れて成形、その後急速に冷却するというもの。日本刀の焼き入れのような効果で鋼の強度を上げます。その結果、これまで不可能だった高強度化と軽量化の両立を可能にします。
ゲスタンプの売上高は、1997年の設立以来、25年あまりで40倍強と確実に拡大し続けています。また、いわゆる「CASE」(Connected / Autonomous / Sharing / Electric)に対応するために、現在、軽量化・高強度化および車体製造の外注化は世界のクルマ作りの一大潮流となっており、こうした流れが同社の更なる成長への追い風になっています。
三井物産は、2013年6月にゲスタンプの米州事業会社群に出資し、30%の株式を取得。三井物産の持つ鋼材サービスセンターなど既存のネットワークも駆使し、同社の米州における事業拡大を支えています。
さらに、2016年末には親会社となるゲスタンプ本体の株式を12.5%取得。世界各地の拠点に社員を派遣し日系自動車メーカーとの取引拡大に貢献するなど、よりいっそう同社との関係を深め、新たなビジネスに挑戦しています。
「鋼板の供給」から「付加価値の創出」へ
従来、長きにわたり、自動車製造ビジネスにおける総合商社の主な役割は鋼板の供給でした。日本の鉄鋼メーカーから購入した鋼板をさまざまな形やサイズに裁断・保管し、自動車メーカーや部品メーカーにジャスト・イン・タイム納品するというビジネスモデルです。
しかし、私たちがゲスタンプと共に取り組んでいるのは、こうしたモデルから大きく進化した新しいビジネスです。調達の領域だけでなく組立工程へ。より完成品に近い領域で、より多くの付加価値を生み出せる存在へ。自らをアップデートしようとしています。
そのために、総合商社としての強みを活かし、あらゆる角度からゲスタンプを支えています。例えば昨今、注目が増々高まっている「ESG」(Environment / Social / Governance)は、グローバルで自動車部品事業を展開するゲスタンプにとっても最重要テーマの一つです。この「ESG」の領域において、三井物産は多様な産業に根差したビジネスを展開する中で知見を蓄積しており、ゲスタンプの更なる企業価値向上に向けた支援しています。
ゲスタンプ初の日本工場
ここ日本でも、2018年秋、三重県松阪市にゲスタンプ初の工場が誕生しました。松阪市は、中部・関東・北九州という日本の三大自動車製造エリアのまんなかに位置し、事業を展開しやすい好立地。ここを拠点に、同社はこれまで取引が相対的に少なかった日本の自動車メーカーとの関係を本格化しています。
折しも近年、日本の主要自動車メーカーもさらなる技術革新のスピードを求め、高い技術力を有した系列外サプライヤーも積極的に採用していく姿勢を打ち出しています。日本工場では、すでに日本の自動車メーカー用のさまざまな部品を生産しメーカーとの共同開発プロジェクトも進められています。また2024年2月からはホットスタンピング第2ラインの稼働を開始、日本国内においても着実に事業を拡大しています。
私たち三井物産は、工場建設の際の土地選定に始まり、設備リース、スタッフの雇用、自治体との折衝のサポートなど、グループの総力を挙げて同工場を支援するとともに、現在では工場経営にも携わっています。
この場所から、私たちはゲスタンプと共に、今までにないビジネスを次々と生み出していきます。
モビリティの発展を支え続けていく
2013年に私たちがゲスタンプに最初に投資して以来、同社の売上は着実に伸びています。2022年末の時点で、約80%の増加。私たちの提供する機能と、両社の強みによるシナジーがその成長の一因となっています。
ゲスタンプは、当社の持つさまざまな機能を活用するとともに、日本の自動車メーカーへの足場を構築。私たちは、自動車鋼板の一次加工および物流から、自動車部品の設計・成型へと事業の付加価値を高めてきました。
私たち二社はこれからも互いの強みを活かし、自動車の、より広く言うならばモビリティの発展を支えていきます。
モビリティのあり方がこれからどれほど進化しても、人が乗り移動する手段はこれからも必ず存在し続ける。そして、そこでも確かな安全性を誇る強度や、環境負荷を軽減する軽量化が重視され続けることに変わりはないでしょう。
歴史的な転換期にある、モビリティ。その次なる価値の一端を私たちは担い続けていきます。
2019年2月掲載
2024年3月更新