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Business Innovation

物流リートの先駆者として

「Jリート」は、アメリカで生まれた金融商品「REIT(Real Estate Investment Trust:不動産投資信託)」の日本版です。企業の株式と同様、「投資口」を発行して投資家から資金を集め、金融機関からの融資と合わせて不動産を購入し、その賃貸収入や売買益を分配金として投資家に配当する仕組みです。投資口は東京証券取引所で売買されます。このJリートにおいて、物流施設を投資対象とする日本初の「物流リート」として10年前に上場し、現在に至るまで先駆者として着実な成長を遂げてきたのが、三井物産をメインスポンサーとする「日本ロジスティクスファンド投資法人(JLF)」です。


2000年頃、国内の多くの物流施設は2つの課題に直面していました。1つは、高度経済成長期に建てられた物件が多く老朽化が進んでいたこと。もう1つは、荷主の物流事業を包括的に受託するサード・パーティー・ロジスティクス事業の浸透や、インターネット取引(EC)の普及により、大量の小口の商品を短時間で仕分け・配送できる大規模化と高機能化が求められたことです。
しかし、中小規模の物流施設のオーナーにとって、多額な建て替え資金の調達は困難でした。

この深刻な課題を解決するために、三井物産は日本初の物流リートを開発しました。
2004年7月、日本の物流において長い歴史を持ち、金融においても豊富な知見と実績を有する三井物産(出資比率 51%)がメインスポンサーとなり、不動産金融分野で日本有数の実績を誇る三井住友信託銀行(同 29%)、豊富な不動産投資実績を持つ独立系アセットマネジメント会社のケネディクス(同 20%)を加えた3社で、資産運用会社「三井物産ロジスティクス・パートナーズ(MLP)」を設立。同社を設立企画人として、2005年2月に物流施設を保有する投資法人「JLF」が設立され、同年5月、東京証券取引所に上場しました。

この物流リートの登場により、市場から物流施設の建て替え資金を調達する道が開けました。また、オフィスビルや住宅などに比べて、テナントの入れ替わりが少なく、賃料変動の小さい物流施設は、景気の影響の振れ幅が小さいため、「長期にわたって安定した収益をとりたい」という日本の投資家に歓迎されました。

5つの強みで安定したポートフォリオを構築

上場から10年を経たJLFは、2015年10月1日現在、首都圏、近畿地域、中部地域、九州地域に42の物件を所有し、資産規模(取得価格の合計)は2,126億円、稼働率(物流施設にテナントが入っている率)は99.7%に達しています。
これほど安定したポートフォリオを構築できた理由としては、JLFが持つ5つの強みが挙げられます。

第1に、先駆者としての優位性があること。
本邦初の物流リートとして上場した当時、一般的には物流施設が投資適格資産であるとの認識が定着しておらず、価格が高騰する前に物流施設を購入できたことは、大きなアドバンテージとなっています。また、先駆者として培った知見やネットワークは現在の経営にもしっかりと活かされています。

第2に、三井物産の強力なサポートがあること。
JLFの運営には、総合商社として三井物産が長い歳月をかけて蓄積してきた情報、人材、物件、信用などが提供されています。

第3に、含み益率がJリートのなかで最も高いこと。
含み益は、物件の時価が簿価よりどれだけ上回っているかを示します。Jリート全体が平均6.3%(MLP調べ。各社の2015年7月31日時点で公表されている決算期末数値より算出)に対して、JLFは30.1%(2015年7月31日時点)と、業界最高水準の含み益率を誇ります。含み益を抱えた優良なポートフォリオを保有することにより、保有資産の時価評価を参考に借入条件の提示を行う金融機関との交渉も有利に展開することが可能となります。

常に投資家のことを第一に考えたリート

第4の強みは、Loan to Value(LTV)がJリートの最低水準で、財務基盤が強固なこと。
LTVとは、投資物件の時価(鑑定評価額)に対する有利子負債残高の割合です。2005年、JLFは無借金で上場し、現在もJリートの平均45.4%(MLP調べ。各社の2015年7月31日時点で公表されている決算期末数値より算出)に対して、JLFは28.8%(2015年7月31日時点)と低い水準を保っています。
LTVが低ければ、新たな借入金による物件の取得、レバレッジ効果による分配金の向上にもつながります。
なお、JLFは、日本格付研究所(JCR)、格付投資情報センター(R&I)、ムーディーズ・ジャパンから、Jリートで最高水準の格付けを取得しています。

第5の強みは、所有する物件を自社で再開発(OBR:Own Book Redevelopment)できること。
一般的には、Jリートは老朽化した物件をスポンサー企業に売却し、そこで再開発した上で、時価でJリートに売り戻すので、再開発により向上した物件価値を投資家は取り込むことが出来ません。
JLFは設立当初から一貫して「常に投資家のことを第一に考えたリート」であることをポリシーとしてきました。このため、開発利益をJLFの投資家に享受してもらうため、Jリート業界で唯一、OBRに取り組みました。OBRの場合、建て替え中の1年から1年半の間、一時的に賃貸収益は落ちることになります。しかし、物流業界に精通した三井物産グループの高い経営力で開発リスクをコントロールし、トータルで考えると投資家にメリットのある再開発を実現しています。
実際、2014年12月に竣工したOBRの2例目である「八千代物流センター」は、総賃貸可能面積が3.2倍、不動産賃貸事業損益が4.3倍、鑑定評価額は4.5倍の109億円、含み益は8.2倍の29.3億円になりました。

海外展開や新たなアセットクラスによるファンド設立も視野に

この10年間の知見と実績を基礎として、三井物産は主にアジアにおける海外展開にも取り組んでいます。
2006年には、シンガポールで物流施設や軽作業場・工場などの産業施設投資に特化した資産規模約1,000億円の上場REIT「Cambrigde Industrial Trust」の運営を手掛ける資産運用会社に資本参画し、2014年にはタイで同様の事業を行うTICON Management Company社にも参画しています。

また、広くファンド事業という観点では、2008年に豪州の金融サービス会社Challenger社と共同で設立したChallenger MBK Fund Management社を通じ、私募型の新興国インフラ投資ファンドを運用し、チリのガス配給会社への投資や、中国の上下水道資産への投資を実施しています。
将来的には、三井物産が豊富な知見と実績を有する不動産やインフラ資産を中心としたリアルアセット等の分野において、ファンド事業をグローバルに展開することも視野に入れています。

三井物産はこれからも、総合商社としての強みを活かしながら、金融という切り口においても日本や世界の発展に貢献していきます。

2015年9月掲載