Business Innovation
三井物産の総合力
Vale社とのアライアンス
人類に文明と発展、進化をもたらしてきた金属、鉄。日本の製造業が高度経済成長期に隆盛し、世界有数の経済大国となった礎には、世界トップレベルの品質を誇る鉄鋼業の発展がありました。
鉄の原材料である鉄鉱石は、世界のさまざまな国と地域で産出されていますが、鉄鉱石業界は寡占化が進んでおり、トップ3社によって世界の約40%の鉄鉱石が産出されています。その3社とは、ブラジルVale(ヴァーレ)社、英豪RioTinto社、豪BHP社。三井物産は、この3社共に良好な関係を築いており、貿易業務だけでなく、鉄鉱石資源開発の投資事業でも共同で取り組んでいます。その中でも海上貿易シェア約2割(2023年時点)を誇る鉄鉱石サプライヤーVale社と三井物産は、特に深い関係にあります。Vale社は1942年に、米国や英国へ鉄鉱石を供給するブラジル国営企業として設立。その後1997年の民営化を経て、現在は主力の鉄鉱石に加え、ニッケル、銅、金、一般貨物輸送事業など、多様な事業を展開する世界最大級の資源企業へと成長しました。Vale社の2022年の売上高は約440億米ドル、従業員数約64,500人のブラジル有数の大企業です。
三井物産とブラジル鉄鉱石投資事業の歴史は1970年代にさかのぼりますが、Vale社との関係はブラジル鉱物資源企業Caemi社に、両社がパートナーとして共同出資した2001年から一気に加速しました。これを機に、さまざまな分野における協業の推進を目指した戦略的アライアンス協定が締結され、多目的・複合的にビジネスを創出する当社の「総合力の発揮」に向けた体制が構築されました。そして2003年に、三井物産はVale社に出資、取締役差入れ等を通じて同社経営に参画しています。
現在、鉄鉱石事業、ブラジルの一般貨物輸送事業への共同出資に加え、鉄鋼業への低炭素鉄源および低炭素製鉄ソリューション提供に向けた取り組みや鉱山機械のゼロエミッション化に向けた取り組みを検討しています。また、物流案件ではニッケル、銅といった資源のトレーディングに加え、鉱山用鉄鋼レール、鉄鉱石運搬用貨車、鉱山機械などの販売実績を積み重ね、三井物産の多くの事業本部がVale社とビジネス上の接点を持っています。三井物産とVale社とのいくつかの取り組みについてご紹介します。
Vale社との鉄鉱石事業
鉄鉱石は鉄の原材料です。1トンの鉄を作るのに、どれくらいの鉄鉱石が必要かご存じでしょうか? 答えは約1.6トン。鉄鉱石に含まれる鉄は6割程度で、コークスによる還元や、製鋼過程で不純分が取り除かれ、純度の高い鉄が作られるのです。
日本の鉄鋼業は、戦後の高度経済成長期に飛躍的な発展を遂げました。その際、日本の鉄鋼メーカーにとって最も重要な課題は、海外から製鉄原料を長期安定的に調達することでした。三井物産はそのニーズに対応するために、1960年代から豪州と南米を中心に、海外における鉄鉱石資源開発に乗り出しました。
2022年に世界で消費された鉄鉱石は22億トン強で、このうち約15億トンが海上貿易で流通していますが、三井物産は、投資事業を通じて権益ベースで約5,830万トンの持分権益生産量を保有し、そのうち約1,940万トンがVale社に関連する鉄鉱石権益です。
三井物産は、鉄鉱石事業を通じ、地域社会や地球環境に配慮した鉱山開発・インフラ整備を行い、資源保有国の成長への寄与と顧客への鉄鉱石の安定供給を通じて、世界経済の発展に貢献しています。
ブラジルでの一般貨物輸送事業
日本の22.5倍、世界5位の国土面積を持つブラジル。世界有数の鉱物・金属資源輸出国であり、世界有数の農産物輸出国でもあります。
そうした恵まれた輸出資源を持ちながらも、経済発展の遅れなどから、世界の先進国に比べて国内の輸送インフラの整備が遅れています。鉄道網整備の遅れや、港湾ターミナルの不足のためトラック輸送への依存度が高く、高い物流コストが問題となっています。ブラジル政府はこの深刻な問題を解消するため、近年、国策として鉄道網と港湾インフラ投資計画を進めています。
Vale社は自社の生産した鉱物を運搬し、輸出するための設備として、約10,700kmの鉄道網と、それに接続する複数の港湾ターミナルの事業権や通行権を保有していましたが、2010年12月、Vale社はその一般貨物輸送事業をVale社本体から切り離し、VLI S.A.(以下:VLI社)を設立。現在同社は、ブラジル中部および北部地域において、穀物や肥料、製鉄原料や鉄鋼製品などの一般貨物を対象とした複合一貫輸送サービスを提供しています。
三井物産は、米国、欧州、ブラジルおよびロシアにおいて貨車・機関車リース事業を展開するほか、世界各地で港湾インフラ事業にも参画してきました。そのノウハウを提供することも期待され、2014年4月、約700億円を投資してVLI社の株式の20%を取得しました。この出資以降、VLI社は、機関車・貨車の調達や鉄道網および港湾ターミナルの整備・拡張などの新規投資を進め、鉄道輸送や港湾能力の増強を達成、ブラジルの物流を支える存在へと成長しています。
日本とブラジルの交流を深める
三井物産は、ホスト国の課題やニーズに応える仕事を通じて、長期的な目線での国創りに寄与しています。ブラジルにおいては、日伯賢人会議、日伯経済合同委員会にVale社長と共に参加しており、ブラジル財界活動にも積極的に協力し、両国の発展と関係強化にも貢献しています。
また、三井物産とVale社は、長きにわたる信頼関係をより強固にしていくには人と人の交流が重要であると考え、2003年に交換研修プログラムを開始しました。2024年3月現在、これまで三井物産から159名の研修員を派遣し、Vale社の研修員を173名受け入れています。この研修を通じ、両社の事業内容だけでなく日本・ブラジルの文化・商習慣を相互に理解する格好の場になっています。
今後も、事業本部の枠を越えた横断的な取り組み、「総合力」の発揮を通じて、より高い付加価値を迅速に提供し、各事業価値の向上に貢献していきます。
2015年9月掲載
2022年4月更新
2024年3月更新