Main

Business Innovation

あらゆる隔たりを越えて。
三井物産のバーチャルパイプライン

衣服、自動車、家電の部品など、私たちの生活に不可欠な化学製品をつくる工場が、世界では10万以上も稼働しています。その原料や製品の安定的かつ効率的な調達・販売・輸送をサポートし、お客様の工場が見えないパイプラインで世界とつながっているようにするのが、三井物産の“バーチャルパイプライン”です。


総合商社のビジネスでは、近年、投資した企業の経営に携わり、その事業の成長を支援し、継続的に価値を高めていく「事業投資」の比重が高まってきました。一方、顧客が必要とするものを安定的に調達し、最適な物流で安全に送り届ける「トレーディング」においても、引き続き商社ならではの機能発揮が求められています。
とりわけ基礎化学品業界では、トレーディングは重要です。化学品は危険物が多いこともあり、世界各地の石油化学コンビナートでは効率的にパイプラインで各工場をつなぎ、製品を輸送しています。一方で、グローバル化の進展に伴い新興国を中心に輸入需要が増加する中、中東や米国などのコストの安い地域で原料を製造し、消費地で製品を製造するような国際分業も進展し、基礎化学品のグローバルでの貿易量は増加しています。コンビナートから離れた工場への物流には、ガス製品を液化する加圧や低温化などの特殊な設備を備えたタンカーを使用するなど、輸送コストを下げるための様々な工夫が必要となります。
また、基礎化学品製造は、機械設備に莫大な投資を要する固定費の大きな“装置産業”なので、休むことなく製品をつくり続けなければ事業が維持できません。しかし、製品は液体なのでタンクに在庫できる数量には限りがあり、市況の影響や生産設備のトラブルなどで、一部の工場の需要と供給のバランスが崩れることも少なくありません。それでも調達や製造の流れを止めるわけにはいかないのです。
この難易度の高い化学品のトレーディングを行っているのが、ベーシックマテリアルズ本部(BM本部)です。
BM本部は、特殊専用タンカーなどのロジスティクス、長年にわたって積み上げてきたお客様との信頼関係と化学品輸送に関する豊富な知見、65か国に広がる販売ネットワークなどを駆使して、原料の調達先や製品の買い手を新たに探し、急な物流の変更にも柔軟に対応するなど、三井物産の総合力を発揮することで、世界中の化学工場の安定稼働を守っています。
結果、BM本部は、エチレンやプロピレンはアジア域内総貿易量の5分の1、フェノールや二塩化エチレンはグローバルで3分の1を取り扱うなど、大きな存在感を示しています(2015年主要石化製品当社取り扱いシェア当社推定)。

BM本部が誇るロジスティクスとトレーディングにより、お客様の工場があたかも見えないパイプラインで世界とつながっているかのように、安定的かつ効率的な化学品の製造に貢献する---それが、三井物産の“バーチャルパイプライン”です。

あらゆる隔たりを越えて。三井物産のバーチャルパイプライン

事例1:逆境を逆手に、顧客の課題を解決

2013年、深刻な問題が起こりました。合成ゴムの原料となるブタジエンの不足です。
BM本部は、米国のメキシコ湾沿岸地域で製造されたブタジエンを同地域のユーザーにローリートラックを使って販売していました。
ブタジエンは、主に原油を精製して製造されるナフサを原料としてエチレンをつくるときの副産物として生産されます。しかし、シェール革命で競争力ある天然ガスが産出されるようになったため、エチレン原料が従来のナフサからガス由来のエタンに大きくシフトすることになりました。エタンはナフサよりも安価ですが、副産物として得られるブタジエンの量が大幅に少なくなってしまいます。そのため、米国のあるブタジエンサプライヤーは「ブタジエンの供給契約を終了する」と当社ユーザーに通達してきました。当然のことながら、ブタジエンを原料とするユーザーにとっては、工場での生産継続を左右する死活問題となりました。

米国内での不足を補うためには輸入するしかないのですが、当時、ユーザー各社は、ブタジエンの貯蔵に必要な特殊タンクを保有していませんでした。一方で、タンクの新設コストは高く、自社の使用量のみではタンクの回転率を上げて固定費負担を軽減することも困難でした。つまり、事業性を維持させながら原料ブタジエンを安定調達するという難易度の高い課題に直面したのです。

そこでBM本部は、ユーザーのコンビナートの敷地内にあった中古タンクをレンタルし、ブタジエン仕様に改造して輸入拠点とすることを考えました。さらに、既存のユーザーに加えて、同じ悩みを抱える新規ユーザーのニーズも取り込み、タンクの容量の一部を貸し出し共用することで、回転率を改善することに成功しました。BM本部はお客様の絶体絶命のピンチにおいて“バーチャルパイプライン”でソリューションを提供することができたのです。

さらに、バーチャルパイプラインは国境を越えて繋がります。
米国中西部の大手タイヤメーカーは、これまでカナダとメキシコ湾沿地域の工場から貨車でブタジエンを調達していましたが、高い輸送コストに悩まされていました。一方、カナダのブタジエンサプライヤーも、長年取引があるメキシコ湾岸地域のユーザーへのブタジエン輸送コストを下げる方法はないか、模索していました。
そこで、BM本部は、カナダのサプライヤーがメキシコ湾岸地域へ販売する量に相当するブタジエンを、主に欧州やブラジルから輸入し、メキシコ湾岸地域にあるタンクに貯蔵。そのタンクからメキシコ湾岸地域のユーザーにブタジエンを供給し、カナダのブタジエンをより近距離にある米国中西部に供給できるようにスワップ(交換)するトレーディングを成立させたのです。
結果、BM本部は米国中西部ユーザーに対して、ブタジエンを安価な輸送コストで追加供給することができ、カナダのサプライヤーはメキシコ湾岸の顧客向け販売の輸送コストを低減してビジネスを継続することができるようになりました。

このように、“バーチャルパイプライン”の機能を発揮することで、米国内やカナダ、さらには米国外のサプライヤー、米国メキシコ湾岸や中西部ユーザーの抱える課題を一気に解決しただけでなく、新たなビジネスも開拓・拡充したのです。

Before
After

事例2:新時代の化学品インフラ “バーチャルパイプライン”

ペットボトルは、ナフサからつくられる中間製品のPTA(Purified Terephthalic Acid:高純度テレフタル酸)とMEG(Mono Ethylene Glycol:モノエチレングリコール)を混ぜてつくります。このPTAとMEGの価格は、市況によって大きく乱高下するため、大手飲料メーカーやペットボトル製造業者にとっては、容器の原料価格が乱高下するのは非常に困った問題でした。ペットボトルやその原料を1年間、一定の価格で買いたいというニーズをかなえるために、BM本部は、新たなビジネスを構築しました。
三井物産は、PTAの原料となるPX(Paraxylene:パラキシレン)を年間250万トン扱うアジアのリーディングポジションを担っています。その強みを活かして、PXの原料であるナフサの先物取引なども活用しながら、PXをPTAメーカーに固定価格で販売することでPTAの価格を固定化。MEGについてもさまざまな物流機能を駆使して価格をヘッジし固定価格で販売するスキームを確立したのです。

こうして、ペットボトル製造業者は、固定価格での原料調達、製品販売により利益を安定化させることができ、大手飲料メーカーも原料価格の乱高下によるペットボトル価格の変動に悩まされることがなくなりました。三井物産も適正に設定したマージンで利益を上げ、3社にとってWin-Winのビジネスが生まれました。

三井物産の“バーチャルパイプライン”

化学品の世界では、原料や製品がますますグローバルに行きかう一方で、それらの「トレーディング」には、無数の隔たりが存在しています。例えば、物理的な距離、商習慣や文化の違い、数量・納期の問題、突発的トラブルなど。三井物産は、この隔たりを解消するため、タンカーをはじめとするロジスティクス、65か国に広がる販売ネットワークや社員一人一人のエキスパートの発想力、交渉力、実現力すべてを駆使して、オーダーメイドでお客様のニーズに応えています。
それが、三井物産の“バーチャルパイプライン”なのです。お客様の工場が見えないパイプラインで世界とつながっているかのように、あらゆる隔たりを越えて、効率、安定と新たなビジネスの可能性を届け続けています。

2016年11月掲載