360° business innovation | 水戸 直人 - 三井物産株式会社

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水戸 直人

ベーシックマテリアルズ本部
オレフィン・クロールアルカリ事業部 オレフィン第一事業室

プラスチック、繊維、合成ゴムなど、様々な化学品の原料となるプロピレンの取引を担当する水戸は、商習慣や文化の違いなどの“隔たり”を埋め、志と哲学を共有できる顧客と信頼関係を結ぶことで、全員がWin-Winとなるビジネスを目指す。


三井物産は、アジア域内のプロピレン総貿易量380万トンの5分の1に当たる80万トンを取り扱うなど、業界での存在感は大きい(2015年プロピレン貿易量 当社推定)。
水戸は、プロピレンプロダクトマネージャーとして、ベーシックマテリアルズ本部(BM本部)で中長期的な将来需給動向の分析を踏まえた戦略立案、環境分析に基づく仮説の構築と顧客への提言、9名の本店チームと20名のグローバルチームのマネジメントなどを担当する。

「入社前は商社のトレーディングは、物理的な国境や言葉の“隔たり”を埋める仕事だと思っていましたが、国によって異なる商習慣や文化などの“隔たり”を埋めることも、大切な仕事です」
そう語る水戸は、2008年4月、三井物産に入社し、化学品部門に配属されて半年も経たないうちに、この“隔たり”に直面する。

同年9月、リーマン・ショックを発端とする金融危機が起こり、プロピレンをはじめ世界中であらゆる製品の需要が激減した。日本においても内需が冷え込み、ある日系メーカーから、海外でのプロピレンの安定供給先の紹介を強く依頼されていた。
一方、アジア最大のマーケットである中国も同じ状況にあった。ユーザーからの契約破棄や価格改定要求などが頻発しマーケットが混乱するなか、顧客の誰しもが長期でのプロピレン調達を躊躇していた。そのような困難な状況の中で、「長期安定供給」という命題を達成するにはどうすれば良いか?三井物産が出した答えは、価格や数量といった条件以上に、国は違えど「ビジネス哲学」を共有できる企業同士の連携というものだった。そこで、1996年から取引があり、リーマン・ショックの混乱の中でも契約を徹底して守ってくれた中国のプロピレン輸入商社 EverGlory社をその日系メーカーに紹介することにした。
三井物産は、プロピレンの徹底的な需給分析に加え、日々のトレーディングで磨いてきた市場に対する知見や肌感覚から中国の化学品需要の回復を予測していたこともあり、「当社は、『今の混沌とした状況でこそ、日系メーカーのような安定的な調達先を確保すべきだ』とEverGlory社に提案しました」。
三井物産の後押しもあり、両社共にパートナーとの信頼関係構築を大切にする哲学に共鳴し、大型の年間契約の締結に結びついた。
その後、三井物産の需給予測通り、中国の化学品需要は急速に回復。日系メーカーとのビジネスは、EverGlory社の急成長に大きく貢献し、いまでは、EverGlory社は最大の取引先となっている。また、3社間の契約は8年目に突入し、継続している。

「売買交渉は、一方が得すれば他方が損する『ゼロサムゲーム』です。しかし、哲学と志を共にすれば、長期的には両社が成長し勝者となる『プラスサムゲーム』にもなることを学びました」

水戸が2015年3月にプロピレンのプロダクトマネージャーとしてトレーディングの現場に戻った時、プロピレン市況は一変していた。市況が好調だった3年半前、プロピレンは「世界的に不足する」と予測されていたが、中国でプラントが乱立し、間もなく空前の余剰バランスに転じる懸念が生じていたのだ。このプロピレン供給過剰という厳しい事業環境の下、日本国内の化学メーカーから純度の低いプロピレン販売の相談がもちこまれた。この難題解決のため、BM本部は信頼の厚いEverGlory社に相談した。
EverGlory社は、中国のとある大手化学メーカーを見つけてきた。接着剤の原料をつくる同メーカーは、低純度のプロピレンを使用することが可能だったのだ。
「2015年4月、三井物産、EverGlory社、日中それぞれの化学メーカーで『4社の信頼関係に基づく長期的なビジネスにする』という基本合意をつくりました」
しかし、秋から始めた契約交渉は難航した。中国産の低純度プロピレンの価格が大幅に下がり始めたからだ。このままでは中国側の化学メーカーにとって輸入プロピレンは採算に合わないという。

水戸は決して諦めず、粘り強く交渉を続けた。「信頼関係に基づく長期的なビジネスで4社すべて勝者になるという志の高いコンセプトを掲げておいて、たった半年で崩壊させるのは、プロの仕事ではない。何とかして成立させなければというプライドをかけての交渉でした」
しかし、売り手である日本の化学メーカーの価格設定も、買い手である中国メーカーの採算もすでにギリギリであり、議論は完全に煮詰まっていた。
水戸は、チームで徹底的に議論し、EverGlory社の社長と膝詰めで協議を続けた。
そして、これまでチャーターしていた船舶より積載量が大きい船舶の効率活用で輸送費用を削減する一方で、EverGlory社が中国メーカーで副生されるプロパンを販売し収益を確保するというアイデアにたどり着いたのである。
こうして“経済性の隔たり”が埋められ、2016年4月、契約が成立した。

「中国・天津に4社が集まったサイニングセレモニーで、中国の化学メーカーの代表者から言われました。『日本と中国は離れているけれど、三井物産とEverGlory社が間に入ることで、あたかもパイプラインで直接つながっているかのようなビジネスになった』と」
水戸らと志と哲学を共有してきたEverGlory社は、現在も引き続き、三井物産にとって重要な取引先である。

水戸は言う。
「豊かになりたいという人間の欲求があるかぎり、あらゆるものに使用される化学品の需要は伸び続け、そのトレーディングの現場では文化や商習慣の違い、需給のギャップ、価格など、様々な“隔たり”が生じます。それらを解決する新たな『バーチャルパイプライン』の仕組みを作り、世界の人々に役立つ新たな事業を実現していきたいと思っています」

2016年11月掲載