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松岡 啓

エネルギー第二本部 LNG事業開発部
モザンビーク事業第二室長

世界有数の埋蔵量を誇る東アフリカ・モザンビークLNGプロジェクト。松岡啓は、同国の発展と世界のエネルギーの安定供給をビジネスで実現していく。


教科書通りにはいかないプロジェクト

私がモザンビークLNGプロジェクトに加わったのは2012年。最初にガス層が発見されてから2年後のことです。以来、今に至るまでこの事業を担当しています。

チームに加わった時は中堅の立場で、探鉱の技術的評価やプロジェクトの経済性の評価、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)との折衝などを担当していました。プロジェクトを成功させたい一心で走り回っているうちに、気づけば事業推進の室長として全体を見る立場に。今ではチームの最古参の一人になりました。
2010年のガス発見から2019年のFID(最終投資決断)まで、足かけ9年かかっています。それだけ一筋縄ではいかない案件だったんです。

「これは教科書通りにはいかないプロジェクトだ」。私がチームに加わった当時の上司の言葉です。強く印象に残っています。三井物産にとって初物づくしの案件ですし、モザンビーク自体、まだインフラも法律も未整備な部分の多い国ですから。壁にぶち当たりながらも、粘り強く知恵を絞り工夫を積み重ねていくことでなんとか乗り越えてきました。

そもそもガスは、原油に比べてはるかに商業化が難しいんです。パイプラインや液化プラントが必要ですが、インフラのない国の場合、まずそれを全て自前で建設しければなりません。莫大な初期投資が必要になります。加えて法的な枠組みから整備しなければならないとなると、プロジェクトの難易度は桁違いに上がります。実際、世界には発見されたものの商業化されていないガス田がゴロゴロしています。
一番初めにガスが見つかった時、チームのメンバーは一瞬動揺したと聞いています。「ガスか」つまり「原油じゃなかったか」ということです。その気持ちがちょっとわかるくらいガス開発はハードルが高いんです。

それにも関わらず、なぜこのプロジェクトは実現までこぎつけたか?圧倒的な埋蔵量があったからです。ちょっと大袈裟かもしれませんが、「掘れば掘るほどガスが見つかる」という感じでした。最終的に判明した可採埋蔵量はトータルで約65兆立方フィート。近年発見されたものの中では世界最大級で、日本のLNG輸入量の15年分を超えるほどの量ですから。

「これだけのポテンシャルがあるなら、もう、やるしかない」。その思いがチームを、三井物産という会社を動かし、プロジェクトをここまで進めてきたと思います。現在の環境制約を考えれば、原油ではなくむしろガスでよかった。私はそう思っています。

世界中のプロフェッショナルと向き合って

世界中のプロフェッショナルと向き合って

このプロジェクトの特徴の一つは、関わる企業が世界各国にわたっていることです。パートナーはフランス、モザンビーク、タイ、インド、日本の5カ国。プロジェクトファイナンスは日本、米国、英国、オランダ、イタリア、南アフリカなどの8つの国と地域にまたがる制度金融を活用して組成しました。

海外出張も多いですが、何もかも出張というわけにもいきませんから、テレビ会議も頻繁です。しかし、話し合う相手が、米国、東南アジア、インド、アフリカ、欧州と世界中に分散していますから、会議をするだけでも大変でした。
全社で話し合おうとすると、必然的に、東京の夜の時間帯しかない。でも、刻一刻と変化する状況にプロジェクトとして対応するためには、常にコミュニケーションを取ってパートナー間で目線を合わせておくことが不可欠です。FIDや融資契約締結前などは、連日連夜とことん議論していました。

モザンビークのプロジェクトでありながら、世界中のさまざまな国の文化や習慣に触れながら仕事する。それは、楽しいし刺激的です。グローバルプロジェクトだなと実感します。それだけ世界中から英知を結集しなければ、立ち上がらないプロジェクトということだと思っています。

私が向き合ってきた相手は、各国のプロジェクトパートナーや建設コントラクター、金融機関など。弁護士との仕事も多いです。それぞれの道のプロフェッショナルが相手ですから、そこで相手から信頼を得ながら、付加価値を発揮し、プロジェクトの推進に貢献するには、私自身がLNG事業のプロフェッショナルになる必要があると痛感してきました。
そのために日常業務を七転八倒しながら進める一方で、三井物産がこれまで手がけて来た既存のLNG案件を徹底的に研究しました。折角、会社としてこれだけのLNG案件を手掛けてきたのだから、それを活かさない手はないと。契約書や引継書のような書面だけでなく、実際に携わった人から現場での状況や判断をこと細かに聞きました。どの案件も、あたかも自分がやったかのように語れます(笑)。さまざまなLNG案件でのケーススタディをしたことは今もかなり役立っています。

もちろん、過去だけでなく常に最新の知見を得る必要があることは言うまでもありません。時代の変化のスピードは驚くほどです。知識・経験はあっという間に陳腐化します。日々、勉強です。

事業のミッション・ビジョン・バリューを定める

事業のミッション・ビジョン・バリューを定める

三井物産は会社としてMVV(Mission, Vision, Values)を定めていますが、私たちはチームメンバー全員で議論し、それに準じる形でモザンビーク事業のMVVを定めました。資源開発はそれだけ社会性や公益性が高い仕事だと考えたからです。
私たちが事業を通じて目指すことは何か。そこをとことん話し合い、『モザンビークの明るい未来づくりと、世界のエネルギーの安定供給に貢献する』というミッションを掲げました。

プロジェクトが進めば進むほど、現場で日々の問題に追われることになります。しかし私は、初心にかえるために今でも時々このMVVを見直すことがあります。ホスト国とプロジェクトが共にサステナブルに発展する仕組みをつくりたい。これから発展を遂げていく社会で、資源ビジネスにおける新たな総合的アプローチを実践したい。MVVの根底にあるのはそんな思いです。

プロジェクトによってインフラが整う。現地人材の育成や雇用が進む。現地企業に利益機会をもたらす。そういった物理的・経済的効果からもう一歩進んで、コミュニティと深い関わりを持ち、貢献することが重要と考えています。
そこでプロジェクト全体で行うCSRに加え、三井物産独自の取り組みとして研修や奨学金、義援金、サッカーボールの寄付など、さまざまな活動を行っています。もっともっと現地にとけ込み、モザンビークと共に成長したいですね。
モザンビークの人は穏やかな方が多く、私たち日本人と気持ちが通じ合う部分も多いように思います。食事はエビを使った海鮮料理が多く、出張の楽しみのひとつになっています。「胃袋を押さえられた」という感じです。

将来的には、「Mitsuiはモザンビークの会社ではなく、日本の会社だったのか!」とモザンビークの人に言われるようになるのが目標です。そのくらい現地に根を張り、共に成長できる事業を目指しています。

世界に貢献できるプロジェクトをゼロからつくりたい

これからやりたいことですか?モザンビークのプロジェクトを軌道に乗せることが目下の目標ですが、もっと長いスパンでいうと、このくらい大規模なプロジェクトをゼロからつくりたいですね。

いま私が手がけているのは、ベースはできているところからいかに商業化するかという仕事です。もちろんそれも、とてもハードな仕事であることは言うまでもありません。さまざまな分野に関わり、総合的にベストなソリューションは何か、チームメンバーと共に常に頭を悩ます毎日ですし、その分やりがいも大きいです。
けれど、せっかくなら案件を仕込むところ、世界に貢献できる大型プロジェクトを本当のゼロから生み出すところをやってみたいです。

エネルギーの仕事は社会の可能性を生み出していく仕事です。みんなの力を結集して新しい価値を創造することができたら、これほどエキサイティングなことはない。そう思っています。

2020年12月掲載