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栗田 昌毅

MBK Real Estate Holdings Inc.
Senior Vice President

国内、アジアでの不動産事業に長年携わってきた栗田の新しいミッションは、米国のサービス付き高齢者向け住宅事業の運営。スタッフが生き生きと働き、入居者が快適な毎日を過ごすための環境づくりに取り組んでいる。


栗田昌毅

栗田が米国に渡ったのは、2016年7月。MBK Real Estate社(MRE)のサービス付き高齢者向け住宅事業(シニア住宅事業)を統括している。この事業は、1施設あたり50~200人程度の高齢者がすでに入居している日常生活支援サービス付き賃貸住宅を取得し、建物および設備の改修、従業員教育などを通じたサービス向上やマーケティング強化、運営の効率化などを図り、施設の投資用不動産としての価値の向上(バリューアップ)を実施。通常5~7年をかけてバリューアップを図った後に投資家などに売却。購入者が施設運営のノウハウを持たない場合は、引き続き運営を受託するビジネスモデルだ。

「シニア住宅事業に関する深い専門知識はありませんでした」と栗田は話す。 1995年に三井物産に入社。国内の不動産開発の仕事などに10年以上携わったのち、2008年にシンガポールに駐在。不動産投資信託マネジメント会社に出向し、アジアにおける新規不動産開発を担当した。

「1980年代以降、日本の多くの企業がアジアの工業団地や住宅開発、ホテル事業などに投資をしてきました。しかし、1990年初頭の日本でのバブル崩壊や同年代後半に起きたアジア通貨危機によって、ほとんどの日本企業が撤退を余儀なくされたのです。私がシンガポールに派遣されたのは、再びアジアの不動産開発に乗り出そうという機運が高まっていた時でした」

しかし、彼がシンガポールに赴任して間もなく、アジア通貨危機をしのぐ大きな「事件」が発生する。リーマンショックである。「それまで、高い値段で取引されていた不動産の価格が一気に3~4割下落するなど、不動産業界は非常に大きな影響を受けました」と栗田は振り返る。結果、5年間のシンガポール駐在の期間中、3年ほどは「耐える」時間が続いた。2010年代になってようやく不動産ビジネスにも光明が見えはじめ、アジア各国で新規案件の開拓に飛び回り、ようやく2012年にシンガポール政府系企業との同国内大規模オフィスビル開発事業の共同参画機会に恵まれ、アジア再参入を果たした後、帰国した。

「経済の荒波に耐えてビジネスを完遂した経験は、米国での新しい仕事に役立っています」そう栗田は言う。もっとも、同じ不動産ビジネスであっても、米国での仕事は主に米国西部で現在22施設を運営しているシニア住宅事業の統括、規模拡大である。従業員1,300人を抱える事業であり、シンガポールで体験したオフィスビルの開発とは勝手が大きく異なる。

「オフィスビルは、端的に言えば、より良い場所に不動産を保有して継続的に賃料を得るシンプルなモデルです。それに対して、シニア施設は日々のオペレーションが非常に重要です」
栗田は事業管理責任者として、株主への経営状況の報告、各施設のオペレーション状況の把握や新規物件の取得検討を担当。また、赴任して間もないころにシニア住宅事業会社の米人社長が退社したため、次期社長が決まるまでの間、社長代行も務めた。その中で、稼働率の向上や経費削減などの施策に加え、入居者の方々への心のこもったサービスこそが利益につながることも栗田は日々感じているという。

栗田昌毅

「人を相手にしたビジネスですから、スタッフが生き生きとモチベーション高く働けば、入居者も笑顔で過ごすことができます。またその笑顔はスタッフや私たちに元気を与え、『もっと何かしてあげられないか?』とやる気になりますので、施設の雰囲気はとてもよくなります。また、その施設長の人間力がその施設のサービスレベルを決めるということを実感しています。明るく元気で、スタッフを上手にモチベートできる現場の長がいる施設は、サービスの質もいいんですよ」

各施設では、スタッフと入居者が一緒になって地域住民向けのボランティア活動を定期的に企画し、入居者の「地域社会と関わり続けたい」「地域社会の一員として何か社会貢献がしたい」というニーズにも積極的に応えている。また、「この施設に入って、母がとても元気になりました。ありがとう」といった感謝状が入居者の家族から届くと、それを「Yoi Shigoto」(良い仕事)と日本語を使って呼び、スタッフ全員で共有している。「Yoi Shigoto」を通じて、入居者やその家族にとどまらず、地域社会にも貢献する。そのような高い意識を常に生み出す現場の雰囲気を作り出しているのも施設長の人間力だ。マネジメント力は人間力──。そう栗田は実感しているという。また、その人間力を上手に引き出すことが、この事業のオーナーである自分たちの役割であるということも。

「施設の現場で働いている人たちは、サービスのプロです。だから彼・彼女らの意見を最大限尊重します。そのうえで、私もこれまで国内外での様々な経験を通じて培ってきたビジネス感覚や常識を頼りに自分の意見を言い、物事がより良い方向に向かうように努力しています。現場を信頼して裁量を渡しつつ、常にしっかりとサポートする経営スタイルが現場に安心感を与える。この好循環によって、私たちとスタッフとがより一丸となってサービスレベルを上げていく。そんなスタンスが大切であると思っています」

MREは、シニア住宅事業のさらなる成長を目指して2015年に米国不動産投資信託大手のHCP社と合弁会社を設立、保有資産の拡大と良質化に取り組んでいる。その最前線に立つ栗田は次のように自らのビジョンを語った。
「アメリカという世界最大の不動産マーケットにおいてシニア住宅事業の全米展開を実現し、現場スタッフとともに「人の三井」のプレゼンスをさらに高めていきたいです。質の高い住まいをより多くの人々に提供し、人々の豊かな老後をしっかりとサポートしていくことが、結果として収益にもつながる一番大切なことだと信じています」

2017年4月掲載