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米澤 明男

プロジェクト本部
物流インフラ事業部 第一営業室
室長補佐

官庁から三井物産へ、活躍の場を移した米澤明男。「インフラ開発を通して人に、社会に、豊かな未来をとどけたい」という想いを胸に、今日も現場で汗を流している。


“小さな修羅場”をモグラ叩きのように

“小さな修羅場”をモグラ叩きのように

私が担当している「CT1」は、インドネシアの首都ジャカルタの玄関港・タンジュンプリオク港の新コンテナターミナルです。この港には、国全体の輸出入貨物の実に半分以上が集まります。同国の成長を支え続けるため、キャパシティの拡大が急務でした。

“何もない海上にゼロから港をつくり、国の物流と貿易の中核にする”というこのプロジェクトを、三井物産は外資コンソーシアムのリーダーとして牽引。私は2015年末、港の建設が佳境を迎える中、進捗管理の立場で担当となりました。操業が始まった今は、オペレーションの効率化も含め事業の成長に尽力しています。

CT1は、上下分離方式でつくられた人工島です。土台となる杭やデッキなどの“下モノ”をインドネシア側が、クレーンや建屋などの“上モノ”をコンソーシアム側がつくっていました。私の仕事は両方の進捗をみて計画通りに進行・完成させ、無事開業に“こぎつける”こと。今わざと“こぎつける”という言葉を使ったのですが、まさにそんな感覚でした。2016年の半分は、開業達成のためインドネシアで現場に張りついていましたね(笑)。

プロジェクトの最終段階というのは、ずっと見落とされてきた問題が一気に表面化するフェイズなんです。電気がこない、配管の高さが30cm合わない、そんなことの連続。それひとつでプロジェクト全体が開業できなくなってしまう。三井物産には「修羅場・土壇場・正念場」という言葉があるのですが、小さな修羅場を一個一個モグラ叩きのように地道につぶしていく。そんな毎日でした。

建設作業のスタッフを入れれば、数千人規模のプロジェクトですから。それぞれの現場の担当者は、自分の範囲は見ても隣りまでは見ていない。見る余裕がないんです。全体を俯瞰してひとつの方向に進めていくプロジェクトマネージャー的な人材が必要で、それをやらなければと考えていました。

プロジェクトを進めていけば必ずどこかで遅れやミスは出ます。我々にも、パートナーにも出る。そんなとき「キミたちの遅れだから、ボクらは知らない」では、プロジェクト全体にとって何の解決にもなりませんよね。自社のミスであれ、相手のミスであれ、常に代替案を提示して建設的に前に進める協議をしよう。そう決めていました。

触媒になり緩衝材になる

触媒になり緩衝材になる

こうした仕事の進め方には、前職の国交省時代の影響もあるかもしれません。たとえば公共事業ひとつとっても関係者は実に多様です。賛成派、反対派が必ずいて、しかもみんな考えが違う。そんな中、何とか全員が「まあこれなら」と言ってくれる着地点を見つける。価値観の違う人がいる中で、必ずしも全員のベストではなくても納得できる解を見つけながら、一歩でも事業を進めていく。プロジェクトとは、そういうものだと思っています。一歩でも前に進める。その連続です。

もうひとつ。フィリピンでインフラ関連のODAを担当していた経験から、相手政府の物の見方・考え方がわかるという面もあります。プロジェクトがどう進むか、どこでトラブルが起こるか、何をケアすべきか、ある程度見通しがつく。そのくらいトラブルは同じパターンで起きるんですね。その意味では、他の人がなかなか持てない知見を持っているのかもしれません。

同じインフラの案件でも、国交省時代はいわば「制度をつくり、予算をつける」仕事でした。今は、「制度を活用し、現場で汗をかいて直接的にものをつくる」仕事。取り組む視点は異なりますが、どちらもプロジェクトを進める上では欠かせないプロセスで、社会のために自分でプロジェクトをつくっているという実感を持てるところに、この仕事の大きなやりがいを感じています。ときに触媒になり、ときに緩衝材になって、たくさんの人と共にプロジェクトを動かす。そこに醍醐味を感じます。

人が国、人が未来

2016年8月18日。操業開始日の朝に見た光景をはっきり覚えています。現地で採用されたオペレーター数十人が円陣を組み、かけ声をかけ、一斉にデッキの上を駆け出していったんです。ドラマのようでした。

未経験で採用されたスタッフも多くいます。何ヶ月も訓練を積み、スキルを身につけ、いよいよ初日を迎えた。自分の国の物流を支える仕事に対する彼らの緊張や決意、誇りが伝わってくるようで、その背中がまぶしくて、頼りがいがあって、言葉になりませんでした。

インフラをつくるということは、ある意味、「国を創る」ということです。国の玄関港に物流と貿易の新拠点をつくるこのプロジェクトは、まさにその好例といってもよいと思います。

しかし、国創りというとき、さらに重要なのは「人」ではないでしょうか。本件の契約期間は25年です。私たちコンソーシアムは、25年間ターミナルを運営したのち去ることになります。そしてそのあとに残るのは、経験を積み成長した優秀な現地スタッフです。その意味では、現地の人びとと共に歩み、共に成長することこそが、私たちがインドネシアの国創り、未来創りに貢献することだ、といえるかもしれません。

これからは、本件の経験を活かしてインフラのビジネスをさらに広げたいですね。港湾以外のプロジェクトも立ち上げたいですし、三井物産のフィールドの広さを活かし、もっと他の地域、他の国のインフラも手がけてみたい。世界のどこかで役に立てる案件を、ひとつでも多くやりたいです。

2018年3月掲載