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Prasenjit Adhikari

ICHIBANYA INDIA PRIVATE LIMITED(出向)
CEO

インドに起源を持ち、日本に渡って独自のおいしさに進化した日本のカレー。Prasenjit Adhikariは、“カレーをふるさとに持ち帰る”プロジェクトに挑む。


始まりは、インド人社員が東京で味わった感動

始まりは、インド人社員が東京で味わった感動

日本中に1,250以上もの店舗を持ち、老若男女に広く愛されているカレーチェーン。「カレーハウスCoCo壱番屋」(株式会社壱番屋)が2020年、カレー発祥の地・インドに進出することをご存知でしょうか。壱番屋は、2005年から海外展開を開始。2013年には世界最大のカレーチェーンとしてギネス世界記録にも認定されています。私は、三井物産と同社がインドでビジネスを展開していくために2019年に設立された合弁会社のCEOを務めています。

そもそもの始まりは、インド三井物産の若手インド人社員が東京でCoCo壱番屋のカレーを食べて「なんておいしいんだ!」と感動したことにありました。彼は研修生として2年間日本にいましたが、週2回はCoCo壱番屋に通っていたそうです。かなりの常連ですね(笑)。

「インドのカレーとは違う。いわば“日本食”だが、スパイスはなじみがあり実においしい。」それが彼の意見です。そして帰国後の幹部宛の研修レポートで、「当社としてCoCo壱番屋のカレーをインドで広めてみてはどうか、成功するポテンシャルがある。」と書いたのです。

私たちは真剣に議論し、大きなビジネスチャンスではと感じました。そこでインド三井物産から壱番屋にコンタクトを取ったのです。時を同じくして、まさに同社でもインドへの進出を検討していたところでした。壱番屋は既にアジア各国やアメリカ、直近ではイギリスのロンドンに1号店をオープンさせたところ。次はいよいよカレーの母国・インドへ、と考えていたのです。

こうして様々なタイミングが合い、点と点が線につながりました。三井物産には、インドで事業を成功させるための幅広いネットワークと知見があります。壱番屋の素晴らしい商品力と店舗運営のノウハウに私たちの力をかけ合わせることで、必ず大きな成功を収めることができると確信しています。

そう。これは私たちにとっては、インドに起源を持ち、日本に渡って独自のおいしさに進化した日本式カレーを、インドに里帰りさせ、インド全土で店舗展開することで広めていく、いわば“カレーをふるさとに持ち帰る”チャレンジです。非常に大きなやりがいを感じています。

食材にこだわり立地にこだわる

食材にこだわり立地にこだわる

合弁会社の設立に先立ち、私たちはプロジェクトチームを立ち上げました。CoCo壱番屋をインドで成功させる方法をあらゆる角度から検証する、言うなれば“ココイチ・プロジェクト”です。

CoCo壱番屋は、日本ではファンの間で“ココイチ”という愛称で呼ばれているんですよね。ここでは敬意と愛情を込めて、“ココイチ・プロジェクト”と呼ばせてください。

インド三井物産のココイチ・プロジェクトは、6人でスタートしました。コールドチェーン(生鮮食品などの低温物流)の知見を持つスタッフや、法務のプロ、公認会計士などです。そして日本の壱番屋から、海外の店舗展開を複数手がけてきた経験豊富な社員の方(現ICHIBANYA INDIAのCOO)を招き、デリー周辺で何度も市場調査を行いました。各モールに頻繁に足を運び、集客状況をリサーチ。三井物産としても感触をつかむため、実際のカレーソースを使った社員向け試食会などをくり返しました。インドには、日本食レストランは多くありません。大半のインド人にとって、まだ、「日本料理=お寿司」なのです。だからこそ、試食会でも好評だったココイチ独自の味をここインドで広めていきたいと思っています。

さて、飲食店の開業準備で特に大事なのが、食材調達と物件の確保です。

食材調達に関しては、香港のCoCo 壱番屋を視察しそのオペレーションを参考にしました。今回のプロジェクトの最大のチャレンジは、品質の管理。ここインドでは、クオリティの高い食材を、365日つねに同じ品質で確保することは日本の皆さんが想像するより遥かに困難です。私たちは無数の食品会社にアプローチし、サンプル作りを重ねました。試作に試作をくり返し、なんとか“ココイチ”の名に恥じぬトッピングの目処をつけることができました。お客さまが好きな具材を選んでトッピングし、自分だけのオリジナルカレーを注文できるのは“ココイチ”の大きなアピールポイントですから。

ちなみにインドでのメニューでは、カレーソースは日本からの輸入ですが、パニールと呼ばれるこちらのカッテージチーズなど、“インドのエッセンス”もトッピングに取り入れています。

物件の確保については、高い集客を見込めるロケーションを徹底的に探し回りました。飲食店にとって立地は決定的に重要です。特に1号店は旗艦店ですから、「一に立地、二に立地」といっても過言ではありません。ですから、一切妥協しませんでした。

その結果たどり着いたのが、デリー郊外の新興都市グルグラム。中でも50以上のレストランやカフェが軒を連ね、“食の中心地”とも呼ぶべきグルメスポットになっている「DLF Cyber Hub」という商業施設です。巨大IT企業やグローバル企業が拠点を構えるエリアの中心に位置しています。そこを押さえるのに1年以上かかりましたが、理想的な立地だと胸を張って言えます。

2020年春には、いよいよオープンを迎えます。今は店を開ける日が来るのが楽しみで仕方ありません。

子どもたちの食べる顔を想像して

子どもたちの食べる顔を想像して

私個人の話をすると、インド三井物産に入社する前はあるホテル内のライフスタイルストアで働いていました。店頭販売員から始め、接客を通して、お客様のために何をすべきか多くを学びました。インドでは名の知れたホテルでしたので、日本のビジネスパーソンもたくさん接客させていただきました。

新聞広告を見てインド三井物産の面接に行ったのは、1997年のことです。実は募集していたのは鉄鋼部門で、私にはその領域の実務経験はまったくありませんでした。ただ、どうしても三井物産で働きたいと思えたんです。その思いを面接で語ったところ、情熱が通じたのか、採用となりました。その時に用意してくれたのが、総務・経営企画のポジションでした。以来、23年間もこの会社に勤めています。いま考えても、あの面接の日が私の人生の大きなターニングポイントでした。

入社以来、インド三井物産の拡大に合わせ、私はオフィス候補地の選定や設備の整備、時にはオフィスの売却など、たくさんの経験を積んできました。特に2018年のニューデリー本店のオフィス移転は、今までで最もハードかつ大がかりなプロジェクトとして記憶に残っています。立地選定から賃料の交渉、内装の決定など、すべてを統括し、より効率よく働けるオフィス環境を1年がかりでつくりあげました。とても大変でしたが、こうした経験が1号店の候補地を見つける上で非常に役立ちました。

プライベートでは、私自身も料理をします。学校の先生としていつも忙しかった母に代わって、子どもの頃から1日2回、私が家族の食事を作っていました。母に楽をさせてあげたかったのと、それ以上に、料理を終えれば家の近くの卓球クラブに行っていいことになっていたからですが(笑)。たまごカレーが得意でしたよ。

料理好きは、今の仕事に活きています。プロジェクトチームは、ベジタリアンやパン食派、お米派など、みんな異なる嗜好やバックボーンを持っています。多様性の国、インドらしいメンバー構成です。ただ、おいしいもの好きであることは共通です。メニューを決めるにあたっても、いかによりおいしくできるか、全員で試食プロセスにのぞみ、とことん意見をぶつけ合いました。最高のチームだと思います。

現在はICHIBANYA INDIAのCEOとして、インド全土でのフランチャイズ展開を見据えて、まずは事業を軌道に乗せることが当面のミッションですが、その感想は一言でいえば「エキサイティング!」に尽きます。新しい領域への挑戦に、日々刺激を受けています。

インドは巨大な人口を抱え、経済成長を続けています。世界最大の消費者市場のひとつと言えるでしょう。インド国内での消費者向けビジネスは、私たちインド三井物産にとって新たな注力領域です。デリーを皮切りに、中期的には、ベンガルール、ムンバイ、コルカタ、チェンナイなど他の大都市にも出店できたらと考えています。

・・・が、まずはインドの人たちがCoCo壱番屋のカレーを食べてどんな顔を見せてくれるかが楽しみですね。特に子どもたちの反応が。私の勘では、オムレツカレーは相当イケるのではないかと踏んでいます(笑)。その時の子どもたちの顔を想像すると、本当にワクワクします。

2020年3月掲載