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梅野 剛平
CaetanoBus - Fabricação De Carroçarias S.A (出向)
Board of Directors
Chief Liaison Officer & Assistant to CEO
クルマの電動化が世界中で進むいま、電動バスを通してクリーンな街、クリーンな未来を目指す。そんな次世代への挑戦の真っ只中に梅野剛平はいる。
電動バスを起点にクリーンな社会を実現していく
私はいま、ポルトガルNO.1のバス製造会社であるカエタノに出向しています。販売と事業開発が担当ですが、とりわけ電動バスのマーケティングとパートナーシップの構築に力を注いでいます。
カエタノへの投資は、検討段階から担当していました。デューデリジェンス(投資先の価値・リスクなどの調査)のために長期出張で4ヶ月ポルトガルに張り付いたり。かなり深く関わってきました。
投資の検討を始めてから、実際に決まるまで1年以上かかっています。実は私は、この案件に携わる前は別の本部でLNGのプロジェクトを担当していまして。EVを起点にした新しい事業開発に可能性を感じ、自分から手を挙げて異動してきたんです。ですから、投資が決まった時は本当にうれしかったですね。私自身にとっても新しい挑戦ですし、カエタノの成長を支援し、絶対に結果を出すぞと気合が入りました。
この会社はいま、企業としてダイナミックな成長を遂げるステージにいます。バスの車体を作る会社から、電動バスを自社で開発する完成車メーカーへ。社会の変化がその強い追い風となっています。
欧州の大都市の多くは路線バスの電動化を進める方針を打ち出しており、今後、バス市場は電動化がどんどん拡大する見込みです。三井物産のネットワークを活かすことで、カエタノの電動バスの拡販を進め、欧州はもちろんアジア市場にまで進出していきたい。
電動バスを起点に欧州で、アジアで、世界中で、よりクリーンな社会を実現していく。そんな未来を共に目指せることに大きなやりがいを感じます。
世界が注目するロンドンの路線バスへの採用
こちらに来て、「一番大変だったこと」と「一番うれしかったこと」ですか?それはどちらも同じ答えになりますね。何と言っても、ロンドンの路線バスを受注した件です。
ロンドンは世界中のバスメーカーが注目する非常に競争の厳しい市場なんです。中国系をはじめ、勢いのあるライバル企業がしのぎを削っています。そうした強力なライバルと競い、採用されました。2020年から、ロンドンの2つの路線でカエタノの電動バスが走り出します。
ロンドンのバスと聞けば、世界中の人があの赤いバスを思い出します。それほどシンボリックな存在に選ばれたことは、カエタノにとって非常に大きな意味があります。これまでカエタノは、ポルトガル国内での圧倒的な実績に比べ、国外では電動バスの販売実績が少なかった面があります。最激戦区ロンドンでの評価は、グローバル市場で飛躍していく上で絶好のアピールになると思います。
ただ一方で、そこに至るまでの過程は本当に大変でした。さまざまな会社と国を越えたチームを編成し提案に臨んだのですが、なにしろ何をやるにも全てが初めてという体制でしたから。最初にあがった提案書はまったくインパクトのないものになってしまいました。提示価格も、最終的に提案したものの倍以上だったと思います。
取締役という立場で赴任したので当初は現場スタッフに任せる予定だったのですが、そんな状況ではない。社長と相談の上、私がプロジェクトマネージャーを務めることになりました。
関係各社に通い詰め、提案のクオリティをひとつひとつ上げていくしかない。そう思って問題を一個ずつ潰していったのですが、想像以上に意見がぶつかって。まさに侃侃諤諤です。社外はもちろん、合意が取れていたはずの社内から急に異論が上がったり。実に厳しかったですが、結果的にはそうした議論でとことん揉まれたことで、あらゆるリスクが考え抜かれたいい提案書になったと思います。
また社内のメンバーと徹底的に話し合ったことで、ひとつに結束することができました。
「巻き込む力」と「大きな絵」
私たち三井物産の仕事は、さまざまなパートナーと共にビジネスをつくっていく仕事です。そこでは、いろいろな人たちを「巻き込む力」が求められると思っています。
そのためには信頼が必要です。こいつを信じてみるか、こいつの言うことに乗ってみるか、と思ってもらえるかどうか。何よりコミュニケーションが大切だと考えています。
私には新人時代とてもお世話になった先輩がいるのですが、その先輩に「人の評価は3ヶ月で決まるよ」と言われたことを今でも強く覚えています。3ヶ月で評価は決まってしまう。だからその中でいかに自分をアピールするかが大事だ、と。何年たっても変わらない、私の大事な指針です。
また、もうひとつ意識していることとして、「大きな絵」を描きたいという思いがあります。企業としてのミッションやビジョンを大事にしたい。何をやりたいかを常に心の真ん中に置いておきたいということです。
先ほどのロンドンの案件でも、こちらのスタッフとそういう話を重ねてきました。「ポルトガルを代表する会社になるチャンスだ」「電動バスを広げられれば、世界中でクリーンな社会を実現していける」「10年、20年たっても、子どもたちの世代に胸をはれる、誇らしいプロジェクトにきっとなる」と。そんな大きな絵が見えていることが、絶対に仕事をする上での力になる。そう思っています。
・・・なんて、ちょっとエラそうなことを言ってしまいましたが、突き詰めるとすべては「人と人」なんですよね。先日、日本での上司にからかわれました。投資の検討をしていた頃、こちらに4ヶ月出張していた際、お前いつの間にか地元のサッカークラブに入ってたよなと。地元の人とハイタッチしてるのを見てビックリしたぞ、出張中にサッカークラブに入るか?って(笑)。
人の輪にどんどん入っていきたい性格なんです。こっちでうまくやれていると感じるのも、理屈より単純にそのおかげかもしれませんね(笑)。
バスや輸送という枠を超え、新しい仕組みを
今後やりたいことは、まずは、カエタノを成長させてポルトガルを代表する会社にすることです。そしてバス、バッテリーを含めたトータルソリューションを世界中で提供し、クリーンな社会を実現したい。本気でそう思っていますし、社員にも常々この話をしています。
さらにもっと長期的な視点で言うと、バスや輸送という枠を超え、モビリティ・インフラ・エネルギーマネジメント・街づくりなどが有機的に連携した新しい仕組みをつくりたいですね。
日本はもともとエネルギーを輸入に頼っています。太陽光発電などの再生可能エネルギーも広がっていますが、貯蔵技術の難しさから十分活用しきれていないのが現状です。しかし、EVを起点に電力をより有効活用できるインフラや街づくりまで展開できれば、日本の社会全体が大きく変わるのではないか。さらに、世界をもっと豊かにできるのではないか。そんな思いです。
そして、それは私たち三井物産だからこそできることではないかと。
大それたことを言っていると自分でもわかっています。これはいわば、私自身の仕事を前に進めるための、「大きな絵」なんです。私たちのビジネスには「大きな絵」が必要だ。その絵に向かって一歩ずつでも進んでいきたい。私はやっぱり、そう思うのです。
2019年10月掲載