Green&Circular 脱炭素ソリューション

コラム

最終更新:2024.02.02

COP28の振り返りと 脱炭素にまつわる最新動向

脱炭素社会実現への取組みが進む中、毎年開催されている「COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)」に対する関心も高まっています。ここでは2023年にUAEで開催された「COP28」を総論的に振り返りながら、脱炭素にまつわる最新動向を解説します。話を聞いたのは、かつて国際協力銀行で「融資のための環境ガイドライン」を作成し、現在は三井物産戦略研究所で気候変動問題や生物多様性の資金メカニズムの分析をしている本郷 尚シニア研究フェローです。

エネルギー関連では現実的なプローチが示された「COP28」

――まずは「COP28」に参加された率直な感想をお願いします。
本郷 「気候変動問題」が定着した印象を受けました。というのも、多種多様な議論が生まれており、エネルギーはもちろん、産業競争力など貿易や経済、生物多様性や自然資本、さらには人権など社会問題に至るまでさまざまです。一方、論点があまりにも広がり過ぎてしまうことは、具体的に何か行動を起こすうえではマイナスにもなります。2週間の会期では決まらないことも増えており、そもそもCOPで議論すべきことなのかを含めて、反省点だと思いました。
――将来を見据えた理想的な姿の話と、そこに向けた実行性のバランスが大事だということですね。日本での報道では「化石燃料からの脱却を進め、この10年間で行動を加速させる」というような見出しが多く見受けられました。
本郷 何を重要とみるかはさまざまでしょうが、合意文章では「再生可能エネルギーのキャパシティを2030年までに3倍にする」「エネルギー効率改善(省エネ)のスピードを2倍にする」この2点が盛り込まれたことは重要だと思います。
――それはどういうことしょうか。
本郷 まずは「省エネによってエネルギー消費を減らしていく」そのうえで「低炭素・脱炭素なエネルギーに切り替えていきましょう」というアプローチが示されたと考えてよいと思います。化石燃料はすぐにやめるべきという人は満足しないでしょうが、再エネを増やしながら当面は不足分を化石燃料でまかない、最終的にゼロにしていくことは現実的な考え方だと思います。

「水」の持続可能性が議論される時代になる

――エネルギー以外での注目点はありますか。
本郷 「水」の重要性です。飛行機を例に挙げれば、気体燃料は圧縮してもエネルギー密度が低いため、長距離航空の燃料は今後も液体燃料に頼る必要があります。現実的な選択肢となるのがバイオ燃料です。バイオ燃料を作るためには農業が必要であり、そこでは「水」が使われます。
先行している例として、ICAO(国際民間航空機関)のCO2排出削減プログラムがあります。そこにはバイオ燃料に関する持続可能要件があり「水」が出てきます。具体的には「河川や地下水が枯渇する方法で作られたバイオマス燃料は使わない」と書かれているわけです。そうなると、地下水を汲み上げてスプリンクラーで撒くような、灌漑農業から生まれるバイオ燃料はどうなるのか? というような問題が出てきます。
水素製造においても、電気分解で作るためには「水」が必要です。海水そのままでは有害なガスが出てくるので淡水化する必要があるなど、真水が必要なわけです。地下資源を掘り出し、品位の高い鉱石を取り出す際にも大量の水が必要です。
――「水」の持続可能性に関する議論は至る所であったのでしょうか。
本郷 知っている人は知っているという程度で、まだ十分に認識していない人が多いような気がします。COP28に関わらず、この問題は徐々に生まれています。チリの銅鉱山開発でも当初は地下水を使っていました。しかし取水制限が出たため、海水を淡水化して標高1700mまでポンプアップした三井物産の事業の例があります。かつては排出制限のなかったCO2と同じように、今後は「水」に対して量的な制限が生まれる可能性があります。
――前回の「COP27」では「損失と損害」が大きな議題となりました。自然災害を被った途上国に対し、先進国はどのようなサポートができるのか。最終的には基金の設立が決まりました。「COP28」での進展はいかがでしたか。
本郷 「ロス&ダメージ(損失と損害)」については、各国の主張が食い違い、最終日にまでもつれ込むかと当初は考えていました。しかし、最初の段階でUAEが「1億ドル拠出する」と言って一気に流れが変わりました。日本も「1000万ドル拠出する」と。準備していなかったはずですが、世界で3番目に明言したのは大きな評価でした。そういったこともあり、ロス&ダメージの資金集めの問題は意外に早く峠を越しました。
※COP28のアジェンダ「損失と損害」についてさらに詳しく知りたい方は「ドバイにて開幕直前。COP28で問われる気候変動の重要アジェンダ」をご覧ください。

国際的な排出量取引にまつわる パリ協定6条が合意できず

――排出量取引において何かトピックはありましたか。
本郷 排出量取引はパリ協定の6条で規定されているのですが、そこで予想外のことが起きました。日本が進めている「二国間クレジット制度(JCM)」は、2国間でルールを決めて削減目標に使える仕組みであり6条2項にあります。6条4項は、そういった排出量取引を国連がルールを決めて国連が運用するものです。そのどちらの詳細手続きも合意ができなかったのです。
とくに6条2項(二国間クレジット制度のような協力的アプローチ)は、削減量をやり取りした双方の国がどう気候変動枠組み条約に報告するかの手続き上の問題が残っている程度でした。6条4項(国連管理メカニズム)に関しては、多少揉めるだろうと思っていましたが、事前に専門家委員会がまとめていたので問題ないという話でした。そのどちらも合意できなかったのは驚きでした。「失望」と表明する市場関係者もいたほどです。
――その背景と、今後の影響を教えてください。
本郷 産業界では、EUがブロックしたとの見方があります。EUとしては、他国での排出削減に頼らずに、自国で排出削減を進めるため「EU ETS(欧州排出量取引制度)」のようなものを各国が採用すべきだということでしょう。今回合意できなかったため、取組みのスタートが最低でも一年は遅れてしまいます。国連の排出削減量をやり取りする枠組みを使いたい国々にとっては大きな痛手です。
しかし、日本が進めている「二国間クレジット制度」をGX ETSで利用することに関しては問題ないでしょう。国連への報告ルールがどう変更されても、お互いの国が了承している仕組みですから。

EUが進める「CBAM(炭素国境調整メカニズム)」の行方

――ビジネス的な視点では、EUの「CBAM(炭素国境調整メカニズム)」の今後が気になります。
本郷 COPは主に目標や途上国支援の話が中心となるので、あまり各国の個別政策やビジネス側の話は出てきません。しかし、サイドイベントなどでは話題になっていました。EU域内の製造事業者に課せられる炭素コストと同等額を、輸入品に対して課すというものですが、多くの国や企業が反対しています。CBAMも実行性の部分でまだ問題があるので、制度的な見直しが今後あると思いますが、いかに気候変動対策と自由な貿易の両立を図るかは、引き続き検討していく必要があります。
一方、日本も将来的にはCO2排出量の規制が本格化されることが予想されます。その際には、CBAMのような仕組みも必要になってくると思いますので、その視点においても注目すべきだと思います。

DAC(ダイレクトエアキャプチャー)とAIに注目

――COP28に限らず、脱炭素にまつわる最新の動向で注目する点は何かありますか。
本郷 技術面での注目は、大気中のCO2を直接回収する「DAC(ダイレクトエアキャプチャー)」や、工場などで排出されたCO2を地中深くに貯留・圧入する「CCS(二酸化炭素回収・貯留)」です。2050年までにすべてのエネルギーをゼロエミッションにすることは現実的に難しく、とくにHard-to-Abate分野(鉄鋼や化学などCO2排出削減が困難とされる分野)を中心にCO2排出は避けられませんので、これらの技術は重要です。
――CCS事業は日本でも本格始動しましたが、DACは世界的にどんな状況なのでしょうか。
本郷 CCSは1tあたり百数十ドルのコストですが、DACとなるとキャプチャーだけで1tあたり600~700ドルにもなり現段階では経済性はありません。しかし、将来に向けて技術を蓄積していく必要があります。このあたりは時間軸を考えながらビジネスをしていくことが大事だと思います。
※「CCS」についてさらに詳しく知りたい方は「CCUSとは?CO2を再利用して排出量削減に導く取り組みを解説!」をご覧ください。
本郷 あとはAIですね。一昨年(COP27)の合意文章にもAIは出てきましたが「専門家を交えて検討しましょう」程度でした。しかし、今回のCOP28では「やりましょう」という文言になっています。ただし、「データなどの情報セキュリティに注意しながら」という留保条件が付いています。日本のメーカーとしてチャンスがあるのは、各種センサーかと思います。AIを使うための情報を集める際にセンサーが必要になってきますから。
――国内ではGXリーグが2023年から本格的に稼働しました。昨今の日本の脱炭素関連の取り組みにおいて評価できる点、足りていない点はどこでしょうか。
本郷 日本の強みであり、今後さらに伸ばさなくてはいけないのが「省エネ」の部分です。それに付随して重要なのがアジアとの連携です。
EUは経済が成熟しており省エネなどでエネルギー需要を減らすことが可能です。一方、アメリカは移民の流入や経済の拡大は続いており、またエネルギー生産国でもあり、エネルギー需要を減らしにくいわけですが、省エネの余地は十分あります。
したがって、途上国の中ではアジアがポイントになります。特にASEAN上位国は経済成長率が高く、エネルギー需要の伸びも顕著です。再エネを増やしていくのは間違いありませんが、すぐに需要を満たせるか、難しいだろうとみられています。
そのときに、EUでもアメリカでもない「アジア」を語れるのは日本だろうと思います。日本は、人口構成や経済成長などエネルギー需要の面では異なりますが、再エネだけは需要を埋めきれない可能性があるという点でASEAN上位国と共通する部分があります。また、省エネやCCSの必要性が高いとの共通点があります。
ASEAN上位国と連携しながら将来的なヴィジョンを打ち出すことは、日本にとってもアジア諸国にとっても有益なことだと思います。
――日本として、さらにはアジアをまとめたうえでのヴィジョン形成というのは、昔から言われている課題であり苦手としているところですよね。その一方で、日本企業による脱炭素への取組みは進んできているように感じます。
本郷 それは言えると思います。他方で、世界情勢は不安定化していますし、2024年はアメリカやEUなどで重要な選挙があります。先行きが不透明な中で、環境に対する注目度の低下などによってお金をかけらなくなると予想する企業もあります。また地政学リスクへの対応と脱炭素の両立も重要な課題になってきています。
「気候変動問題」への取組みが世界的にスローダウンする可能性はありますが、カーボンニュートラルに向けた行動を続けることは次のピークに必ず役立ちます。気候変動問題は長期的な課題ですので、企業としても長期的な視点で今後も取組むことが重要だと考えています。
――本日はありがとうございました。

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