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コラム

最終更新:2024.01.19

ドバイにて開幕直前。COP28で問われる気候変動の重要アジェンダ

観測史上最も気温の高い年となった2023年。気候変動は今や“気候危機”と呼ばれることが増え、国連事務総長の「地球沸騰化」という発言が話題になるなど、その深刻さは顕在化してきました。国際的な専門家によるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書でも改めて、平均気温の上昇を1.5度に抑える必要性が強調されています。
 
もはや待ったなしともいえる気候変動への対策について、各国の政府代表団が有識者とともに議論する場が、COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)です。第28回国連気候変動会議(COP28)は、2023年11月30日から12月12日までドバイのエキスポシティで開催されます。私たちの生活に直結する環境問題は今、一体どんな課題があり、どのように議論されるのでしょうか。

温暖化問題における政策提言などを行う環境NGO「気候ネットワーク」の田中 十紀恵さんに、第28回目となる今年のCOP28について、長年NGOとして参加されてきた視点でのお話を聞きました。

締結した国々が一同に集結

──COPについて教えてください。
田中 COPとは、英語のConference of the Partiesの略で、日本語では「締約国会議」と訳されています。ある条約を結んだ国々による会議、という意味です。
COP28は、1992年に採択された国連の「気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)」を締結した国々が議論をする会議です。気候変動の他にも、「生物多様性条約」を結んだ国々によるCOPや、「水銀に関する水俣条約」の締結国によるCOPもあります。
田中 十紀恵(たなか ときえ)
特定非営利活動法人気候ネットワーク 国際コーディネーター
京都生まれ。民間企業勤務ののち、国際協力NGOに転職。NGOスタッフ向けの研修や政策提言、ネパールの首都カトマンズにて川の保全とごみに関する環境教育を通じた地域づくりプロジェクトなどを担当。2021年6月より現職。主に気候変動の国際交渉のフォローを担当する他、地域での活動にも参加。エネルギーや資源の観点から考える、長く住み続けられるまちづくりに関心が高い。
田中    気候変動に関するCOPは、第一回目が1995年にドイツ・ベルリンで開催されました。1997年に京都で開催されたCOP3では、温室効果ガスをどのくらい削減するか具体的な目標が盛り込まれた「京都議定書」が採択されています。今年は28回目の開催となり、会場はUAE(アラブ首長国連邦)のドバイです。
──気候ネットワークは COPにどのような関わりがありますか。  
私たち気候ネットワークは、前身団体の気候フォーラムとして参加したCOP3以降、毎回NGOとして参加しています。会期中は、交渉会議においてどのような話し合いがされたのかを聞き、それを元に報告書を書いたり、NGOとしての意見をまとめたり、他国のNGOと会議を開いたりして、現地からも情報発信をしています。また、CAN(気候行動ネットワーク; Climate Action Network)という世界130カ国、1900以上のNGOが参加するネットワークがあり、会期中は彼女/彼らとの会議や情報交換も行います。毎日、朝から晩まで会場内を走っている感じです。
日本では普段、なかなか気候変動への関心が集まることは少ないですが、COP会期中はメディアでの報道も増え、注目される機会でもあります。今回もぜひ多くの方に、世界で議論されていることを知る機会にしてほしいと願っています。

COP27から28へ。議論の軸は大きく3つ。損失と損害、グローバル・ストックテイク(GST)、化石燃料の段階的削減。

──具体的にはどんな課題が議論されるのでしょうか。
田中    COPでは会期中、たくさんの議題が進行するのですが、昨年COP27で特に注目されたのは「損失と損害」についてでした。損失と損害とは、議長国だったエジプトを含むいわゆる途上国において、温暖化による自然災害などで被った破壊的な被害に対して、どのように対応するべきか。特に、G7加盟国などの先進国がどうサポートできるのか、という議題です。
この問題はすでに30年ほど前から、ツバルなど太平洋諸島の国が国際社会に訴えてきたことでもありました。温暖化の影響を受けた海面上昇によって、国土が沈んでしまう危機感に迫られていたからです。
途上国側が補償や支援を強く願うということは同時に、CO2をたくさん排出する先進国の責任が問われることでもあるので、これまでなかなか議題に挙がりにくいことでした。しかし近年、世界各地で災害が起こるようになり、話し合わなければならないという機運が高まっていたのだと思います。
立場も意見も違うことなので合意は難しいと思われていた議題でしたが、時間を掛けた議論の末に、損失と損害の基金設立が決定されました。EUが賛同を示し、各国が同意したこの基金の設立は、COP27の非常に大きな成果だったと言えます。
その後、専門の委員会が作られ、具体的にどうやって資金調達ができるのか、資金の受け手は誰なのかといった枠組みが話し合われてきました。今回COP28ではそうしたロードマップから具体策が決められていくと思います。とはいえ、おそらく簡単には進まないというか、議論はいろいろ紛糾すると思いますが。
──その他の議題についても教えていただけますか。
田中 もうひとつ、「グローバル・ストックテイク(GST)」という、実施状況に対する評価も重要な議題です。
気候変動における国際的なルールは現在、2015年のCOP21で採択された「パリ協定」を元に定められていますが、パリ協定では、各国それぞれがCO2排出削減の目標を自ら定め、自主的に実行するものとされています。国連や他の国が削減目標を指示するのではなく、先進国も途上国も、それぞれが自主性をもって取り組まなくてはいけないという共通認識があるためです。そして、目標に対する進捗を5年ごとに評価しましょう、と定められました。その評価の仕組みが「グローバル・ストックテイク(GST)」です。
すでにCOP26からの約2年間で、各国それぞれが気候変動対策の何を達成したのか、そして、目標達成のためにはあと何をするべきか、といったことが科学的な視点から特定され、評価の検証が進められてきました。パリ協定では、世界全体の平均気温の上昇を1.5度に抑えることが目標にされていたので、実際どのくらい近づいているのか、はたまたどれほど遠いのか、と評価するものです。
今回のCOP28では、第一回目となる最終的な検討と評価が決まることに注目が高まっています。その結果をもって、各国がどんな政策を打ち出すのか。そして次の2035年に向けた削減目標(NDC)をどう決めるのか。一体どういった内容で合意するのかが、COP28最大の焦点だと言えるでしょう。
出典:IGES – COP27の焦点:グローバル・ストックテイク(GST)
田中 また今回の議長国であるUAE(アラブ首長国連邦)は産油国ですので、エネルギーに関する議論も注目されると思います。
特に、化石燃料の段階的な削減について。2年前のCOP26では、「排出削減対策が取られていない石炭火力発電の段階的削減」が合意されました。それを受けてCOP27では、石炭火力だけでなく化石燃料を全体的に減らすことで議論が進んだのですが、最終的には合意形成が取れませんでした。
COPでは必ず全員の合意がないと決められない民主的な仕組みになっており、化石燃料の産出国が納得しなかったと報道されていました。しかし現状の国際情勢を考慮したら、化石燃料というキーワードが今年こそ合意文書に含まれるのかどうかが気になるところです。
それとエネルギーに関しては前回のCOP27で、再生可能エネルギーへの投資を拡大することが合意されました。少し前、G20でも再生可能エネルギーの拡大が話し合われましたし、具体的にはどのくらい再生可能エネルギーを増やしていくべきなのか、そして、G20の合意はCOP28にどこまで反映されるのか、私たちも意識を向けています。

NGOから各国首脳陣への期待は、さらなる対策強化

──NGOとしてCOP28に期待することは何ですか。
田中  温室効果ガスの削減目標については、各国首脳が今一度しっかりとした意識づけを促してくれることを願っています。
すでにCOP26の時点で、「今後10年間の取り組みが非常に重要」として各国が合意し、2030年までにかなりしっかりとした気候変動対策、特にCO2など温室効果ガスの排出削減対策を行わなくてはいけない、とされた背景があります。
以降どこの国も努力を続けているとは思いますが、2022年3月のIPCCの発表によれば、現在実施されている政策を積み上げても1.5度の目標には届かない、と予想されています。ですので、どうか各国とも、2030年の達成目標に向けて、現在の対策で満足せず、もっと対策を強化しようというメッセージが出ることに期待しています。
──COPにおける日本の存在感はどうお感じになりますか。
田中    議題によって違ってくると思います。日本も北米中心のアンブレラグループに入っていますので、「損失と損害」やエネルギーに関することは、他の先進国に意見を揃えて交渉することが多いと思いますし、一方で、早期警戒システムなどの防災がテーマの時は、日本が積極的に発言していると思います。また、カーボンマーケット関する議論においては、日本が積極的に発言しています。
しかし、あくまでも気候変動対策の最優先事項は、自らの排出を減らすことにあります。
風力発電など日本の再生可能エネルギーのポテンシャルは大きいのですが海外製品を使っていることが多いです。日本企業の技術力のポテンシャルは大きいと思いますし、実際、COPの会場では展示などで技術を紹介している日本の企業もたくさんあり、国内企業への投資が増え、日本の企業が取り組みを増やし、国内の技術が伸びていくことにも期待しています。

ビジネスパーソンこそCOP28に注目を

──COPは日本のビジネスパーソンにどんな影響があると考えられますか。
田中    条約に参加している以上、COPで合意されたことは必ず日本の私たちにも影響があると言えます。
気候変動は決して国同士だけの話ではなく、ビジネスにおける課題であることも認識されてきました。パリ協定以降、多くの企業が気候変動対策に取り組み、共通の社会課題として意識しています。日本でも、2020年に当時の菅元首相がカーボンニュートラル宣言をして以来、脱炭素の取り組みを実施する企業が増えました。COPの会場ではパビリオンと呼ばれる展示スペースで、先進的な技術や取り組みが紹介されており、日本のビジネスパーソンもたくさん来場しています。
同時に、世界ではグリーンウォッシュに関する規制が強化される傾向も見られており、これからも企業は、内実が問われるようになっていくでしょう。しかし幸いなことに、気候変動に関しては科学的知見や国際合意がかなり揃ってきています。つまり、やるべきことははっきりしている課題です。
日常生活でどのくらい海外メディアの報道に触れるか、あるいは、どれくらい国際情勢や環境課題に関する話題をフォローしているかは、人によってさまざまだと思いますが、COP会期中は、世界の動きがわかりやすく伝えられる期間です。ぜひ、世界が今どんな議論をしていて、企業にはどんな可能性が考えられるのか、あるいは、自分たちの影響力はどのように活かせるのか、といった視点でCOP28の行方を見ていただけることを願っています。
──本日はありがとうございました。

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