社会的インパクトを「共創」する新しい寄付のカタチ【三井物産共創基金】 - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

コラム

最終更新:2025.05.19

社会的インパクトを「共創」する新しい寄付のカタチ【三井物産共創基金】

助成金を必要とする社会課題解決のプロと、三井物産社員の「共創」によって進める社会貢献活動。2023年にスタートした「三井物産共創基金」は単なる資金提供を超え、サステナビリティに寄与するビジネスのR&D機能も有していると言います。そこにある想いを担当者に聞きました。

サステナブルの基礎知識から応用、実践までを学べる、小中高を対象とした三井物産「サス学」アカデミー。耕作放棄された谷津田を再生し、生態系がよみがえりつつあることを実感、自然や生物多様性の価値を学んでいく「谷津田再生プロジェクト」。アジアを中心とした紛争・貧困地域の子どもたちに絵本を届ける「外国語の絵本づくり」。さらには、在日ブラジル人コミュニティへの支援、被災地に対しての災害支援金など、さまざまな社会貢献活動をおこなっている三井物産。
ここでは2023年にスタートした「三井物産共創基金」に焦点をあて、その取り組みを紹介していきます。

「地域貢献」「環境」「人材育成」すべてに社員が関わる

――まずは、三井物産による社会貢献活動の全体像について教えてください。
種房 当社の社会貢献活動は「地域貢献」「環境」「人材育成」の3つを柱としています。その中には災害支援も含まれます。また、すべてにおいて役職員が参加することを大切にしています。
――役職員の参加を重視するという歴史は長いのでしょうか。
種房 これまでにもさまざまな社会貢献活動をおこなってきました。しかし、2021年に活動のあり様を見直すことになり、先ほどの3分野を柱とすること、役職員の参加を大切にすることを継承しつつ、「信頼の醸成」と「社会課題の解決」を考慮するガイドラインを新設しました。
種房 陽|たねふさ あきら三井物産株式会社 サステナビリティ経営推進部 グローバルソーシャル事業室 次長1992年入社、食料本部において食品原料関連のトレーディング、コーポレート部署にて事業投資関連に従事。2023年9月よりサステナビリティ経営推進部にて社会貢献活動の一環として三井物産共創基金に取り組む
種房 陽|たねふさ あきら
三井物産株式会社 サステナビリティ経営推進部 グローバルソーシャル事業室 次長
1992年入社、食料本部において食品原料関連のトレーディング、コーポレート部署にて事業投資関連に従事。2023年9月よりサステナビリティ経営推進部にて社会貢献活動の一環として三井物産共創基金に取り組む

「三井物産共創基金」は単なる寄付ではなく伴走型の支援

――「三井物産共創基金」も、その一環として生まれたのでしょうか。
種房 はい。前身に「三井物産環境基金」がありますが、それは各種団体に寄付をおこなう一方向的なものでした。社員にとっては直接関与していないので「詳しくはわからない」という状況でもあったのです。
そこを改め、「共創」をキーワードに社員が直接関与する基金として2023年3月に立ち上げたのが「三井物産共創基金」です。三井物産環境基金の良い点を受け継ぎながら、より積極的に社会課題に関与できるよう設計し直しました。選定には第三者の評価会を活用して公平性を担保しながらも、役職員が「共創者」として推薦から支援に一気通貫して関与するところがポイントで、役職員の推薦を得られなければ申請することもできません。
――「共創」が目指すものは、どこなのでしょうか。
種房 社会課題解決に取り組まれている「個人」を、私たちは「イシューファインダー(Issue Finder)」と呼んでいます。三井物産共創基金では、イシューファインダーと、当社役職員が「共創者」としてペアを組み、案件を進めるのが特徴です。寄付のみではなく伴走型の支援ということです。

社会課題解決を目指す方と一緒に伴走させていただくことで、新たな気づきと刺激をもらい学ばせていただく。その一方、当社としてもこれまで培ってきた専門知識やネットワークを提供する。そういった関係を構築できればと考えています。
――社員の方々は、業務時間外で活動されるのでしょうか。
種房 会社としての正式なプログラムですので、共創者である役職員はワークロード(仕事量や作業負荷)の最大10%まで活動に割くことができます。
――助成のメカニズムを教えてください。
佐々生 役職員による推薦制です。役職員が推薦するイシューファインダー、またはウェブサイトなどを通じて外部から応募やコンタクトがあった案件について、まずはマッチングをおこないます。その後に申請へと進み、社内審査や社外審査員による案件評価会を経て助成が決定されます。

なお、支援先となるイシューファインダーはあくまでも個人です。個人の熱意に依拠しているからです。寄付を実施する上では法人格が必要なのですが、あくまで審査にとって重要なのは、個人です。
佐々生 陽介|ささき ようすけ三井物産株式会社 サステナビリティ経営推進部 グローバルソーシャル事業室室長補佐2003年入社、主に鉄鋼製品本部において自動車用鋼材を中心とするトレーディング、事業投資に従事。CIS修業生経験を活かし、ロシアビジネス等を担当。2021年1月よりサステナビリティ経営推進部にて三井物産共創基金を新設。現在は社会貢献活動全般の戦略を担当
佐々生 陽介|ささき ようすけ
三井物産株式会社 サステナビリティ経営推進部 グローバルソーシャル事業室室長補佐
2003年入社、主に鉄鋼製品本部において自動車用鋼材を中心とするトレーディング、事業投資に従事。CIS修業生経験を活かし、ロシアビジネス等を担当。2021年1月よりサステナビリティ経営推進部にて三井物産共創基金を新設。現在は社会貢献活動全般の戦略を担当
種房 助成金額は1件あたり1000万円から最大1億円。期間は最長3年間で、年に2件を選定します。審査では、イシューファインダーの実行力、社会的インパクト、当社役職員の共創意欲などが問われます。事務局では定期的なフォローアップ会議を実施しており、進捗状況や課題について共有・改善を図っていきます。
――イシューファインダーと役職員のマッチングにおいて、重視していることを教えてください。
佐々生 大切にしているのは、「WILL」と「CAN」です。イシューファインダーのWILL(志)に対して、共感できる共創者かどうか。また、実際に組んで何かを生み出すことができるかという、CANも審査では問われます。ただ興味があるだけでは、役職員がイシューファインダーに価値を提供できず、社会課題の解決への貢献も心もとなくなります。
――イシューファインダーを選考するにあたっての基準はありますか。
佐々生 詳細はホームページをご確認いただきたいですが、基本的には法人格を有する組織・集団に所属していることが前提です。営利団体やソーシャルスタートアップでも構いません。しかし、大企業内の社内起業案件は対象外としています。

社会課題のジャンル、国や地域も問いません。ただ、政治や宗教に関係するようなものは対象外となります。

サステナビリティ・ビジネスをつくりだすR&Dの役割を目指す

種房 三井物産共創基金はあくまでも寄付であり事業投資ではありませんので、収益やリターンは求めていません。一方で、この基金を通じて何かしらの事業とのつながりが生まれることも期待しています。

例えば、実務と絡めた社会貢献活動をする場合、ご協力いただくお取引様にとっても社会貢献活動をサポートできるというメリットがあります。それにより、当社とお取引様との更なる関係強化や、助成案件への参画を含めた新たな事業の取り組みにつながるというようなことです。
佐々生 社会貢献活動が、三井物産にとって、サステナビリティに寄与するビジネスをつくるにあたっての「R&D」的なものになるのではとも考えています。

今でこそCO2排出量削減がクレジットになるという認識がありますが、20~30年前はありえませんでした。そう考えると、今直面している社会課題が将来のビジネスの種になるかもしれません。もちろん、ビジネスの種になることが必須条件ではありませんが、共創するなかで可能性を探ることも大切だと考えています。
――これまでにない面白い発想ですね。社会貢献活動の新しい可能性、広がりを感じます。
佐々生 極論を言えば、いつか三井物産の社会貢献活動がゼロになってもいいと思っているんです。
――どういうことでしょうか。
佐々生 三井物産のすべてのビジネスが、社会課題を解決するものになる未来です。
現時点でも当社のビジネスは社会課題解決をしていると考えています。然しながらあらゆる社会課題を当社のビジネスでとらえきることは難しいと思います。本質的には社会課題はビジネスで解決することができる可能性があり、より一層、サステナビリティに対する意識、社会貢献への強い思いを役職員全員が持つことで、今の時点では捕捉できていない社会課題へのチャレンジする機会を創りたいと思っています。その接点を生み出し、Deep diveするためのツールが、「三井物産共創基金」なのではと思っています。
先ほど「R&D」と言ったのも、全ての社会課題をビジネスで解決するにはまだまだ道が遠い。そこで、まずは社会貢献活動をおこない、そこに役職員が関与することでサステナビリティの意識をもった人材が育っていくことで、最終的にすべてのビジネスがそうなるということです。まずはそのためには、しっかりと社会貢献活動を続けていく必要があると思っています。

助成金最大1億円。伴走しながら大きく育てていく

――助成金が最大1億円という点も稀有かと思います。
佐々生 はい。1案件1000~2000万円を助成する基金や財団はたくさんありますが、1億円はほとんどありません。しかも、人件費にも使えるなど使用用途の制限を設けていません。合理的な理由があれば計画の変更にも柔軟に対応します。

本気で社会課題の解決に取り組むのであれば、金額規模をより大きくして、当社も伴走しながら支援して大きく育てるほうがいいと考えたわけです。そのほうが社会的インパクトも大きくなります。
――対象が非営利企業だけでないのも特徴です。
佐々生 そこは時代の大きな変化です。近年、社会課題の解決と投資リターンを同時に確保する「インパクト投資」が急激に増えています。他にも、大きな震災があるたびに寄付金は増え続けています。

また、成功した起業家の間では社会的に良いことをしようという機運が高まっています。海外ではマイクロソフト創業者であるビル・ゲイツ氏が主導するビル&メリンダ・ゲイツ財団や、国内ではメルカリの創業者の山田進太郎さんによる山田進太郎D&I財団などもそうです。NPOだろうが企業だろうが関係なく、社会課題解決に適切な形態を選んで支援しているだけ。イシューファインダーという造語もまた、それらを包括する概念なんです。
――どのような方からの応募を期待していますか。
佐々生 社会課題に対する本質的な理解度が高く、発信力や人を巻き込む力のある人。そういう方に応募いただきたいと思っています。
種房 多くの社会課題の解決は、2~3年のスパンではできない問題です。どうしてもそれ以上の時間がかかってしまいます。その間の活動資金が必要なわけですが、三井物産共創基金から1億円の寄付があっても、資金がなくなった途端に活動ができなくなるということは避けたい。
共創期間が終わっても、継続して課題解決に向けた取り組みができる案件であってほしいと思います。

そのためには、資金調達などさまざまな能力がイシューファインダーには求められます。ジャンルは問いませんが、そういった能力を有している方に応募いただきたいと思います。
――最後に、三井物産共創基金を通じて叶えたい夢を教えてください。
佐々生 社会課題の解決には、経済性と社会的インパクトの両立が大切だと思っています。GHG排出量の問題は、すでに市場として成立しています。つまり、システムチェンジ、ルールチェンジが起きて、一つのエコシステムが生まれています。そのようなことが、すべての社会課題領域で起きることを望んでいます。

システムチェンジを起こすための火種は、「カタリティックキャピタル(触媒的資本)」と呼ばれています。三井物産が寄付をすることで、イシューファインダーの所属する団体や企業が社会的にも信用されて取り組みが広がる。そういったエコシステムが生まれることを望んでいます。

また、役職員の関心が生まれることで、社会課題の解決に関連したビジネスが更に社内からも生まれてくる。そういう2つの動きができればいいなと思います。
――本日はありがとうございました。
三井物産共創基金を活用した、「ごみの自然界流出問題」を解決するための具体的な取り組みについては、【グローバルでの「ごみの可視化」から始まるピリカとの「共創」】をご覧ください。

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