グローバルでの「ごみの可視化」から始めるピリカとの「共創」【三井物産共創基金】
「三井物産共創基金」は、助成金を必要とする社会課題解決のプロと、三井物産社員の「共創」によって進める社会貢献活動。ここでは、「ごみの自然界流出問題の解決」を目的に採択されたピリカの小嶌氏と三井物産の石田氏に、具体的な活動や共創によるシナジーについて聞きました。
「三井物産共創基金」では、ソーシャルスタートアップ・NPO・研究者など、社会課題の解決に取り組む個人を「イシューファインダー(Issue Finder)」と呼んでいます。そんな社会課題解決のプロと「志」をともにする三井物産の社員がペアを組み、プロジェクトを進める「
三井物産共創基金」。助成金額も1000万~1億円と高額ながら、伴走型の支援をすることでさらに大きく育て、社会的インパクトを高めることが期待されています。また、社会課題のスペシャリストと共創することで、将来的なサステナビリティ・ビジネスへの気づきを得ることも期待されています。
そんな三井物産共創基金の設立に対する熱い想いや仕組みは、
【社会的インパクトを「共創」する新しい寄付のカタチ】をご覧ください。ここでは活動事例を紹介しながら、新しい寄付のあり様を探っていきます。
ごみ問題解決の共創者となった流通インフラ事業部
――小嶌さんを「イシューファインダー」とするピリカさんは、2024年5月から三井物産共創基金の助成を得て活動されています。まずは、御社の事業を簡単に教えてください。
小嶌 一般的にごみ問題といえば、ごみ処理産業が中核にあります。私たちはそこではなく、「ごみの自然界流出問題」を解決するプロフェッショナル。ポイ捨て、不法投棄、海岸に漂着するごみなど、散らばって流れ出してしまったごみ問題を扱う会社です。
――三井物産共創基金を知ったきっかけを教えてください。
小嶌 三井物産さんとは以前からお付き合いがあり、共創基金の話は軽く聞いていました。しかし、株式会社である私たちは対象外だろうと思っていたんです。そんななか、同基金を担当する佐々生さんとお話する機会があり、ソーシャルスタートアップも応募可能だと知りました。そこからは自分たちでも共創者の方を探し始めました。
小嶌 不二夫|こじま ふじお
株式会社ピリカ 代表取締役 兼一般社団法人ピリカ 代表理事
富山生まれ、神戸育ち。大阪府立大学 機械工学科卒。京都大学大学院 エネルギー科学研究科を半年で休学し、世界を放浪。道中に訪れたすべての国で大きな問題となりつつあった「ごみの自然界流出問題」の解決を目指し、2011年に株式会社ピリカを創業。2021年に環境スタートアップ大臣賞を受賞、2022年にはMIT Technology Review Innovators Under 35 Japanに選出された
――いわゆるマッチングですね。申請の前提となる「共創者=三井物産社員」を探すのは大変でしたか。
小嶌 皆さん興味を持っていただけるのですが、多忙でいらっしゃったり、所属されている部署と解決しようとしている社会課題に親和性がなかったりとスムーズではなかったです。そんななか、流通インフラ事業部の方に関心を持っていただくことができました。
――石田さんは「共創者」の話がきたときにどう思われましたか。
石田 基金の仕組みとして、共創者は最大5名、1部署(室単位)から最大2名となっています。私は途中から参画した形になりますが、所属上長から本件の紹介を受け、まずは新しいことに挑戦できるなと思いました。また、申請の書類を見た際に、今後ごみ問題が大きな社会課題になることがわかり危機感を感じて参画しました。
石田 純一朗|いしだ じゅんいちろう
三井物産株式会社 流通事業本部 流通インフラ事業部 リテールサービス開発室
関係会社主管業務、リテール向け物流資材業務を担当。2024年6月に本件の共創者として参画
――なぜ、石田さんに白羽の矢が立ったのでしょうか。
石田 以前の部署で、プラスチックの包装材料に関わる事業をしていたことが理由のひとつ。また、現在の流通インフラ事業部でも包装容器などを小売に供給しており、消費後のごみ問題は無視できない状況にありました。
ピリカさんの案件では、配送車両に端末を設置する必要があったので小売業との接点も必要です。さらに、関係会社との接点も求められ、サーキュラーエコノミーの観点で考えるとアップサイクルなどの知識も必要でした。そういった複合的な要素が重なってお話をいただきました。
小売業との連携。配送車両にスマホを設置してもらいごみを可視化
――助成されている案件名は「ごみ調査・対策網の構築による、国内外におけるごみの自然界流出問題の解決」ですが、どんな取り組みをされているのでしょうか。
小嶌 当社が開発した「Takanome」というごみの分布調査アプリを入れたスマホを車両に取り付け、走行中に周囲を撮影していきます。これにより、ごみの数量がわかります。また、AIがそれを読み取ってごみの種類を判別する機能も実装予定です。
まずは、日本国内とグローバルの両方で調査網を広げ、次に可視化したデータの使い方を提示できるよう事例を広げていく。その2段構成でやっていきます。
――まずはごみの可視化をしていくということですね。
小嶌 はい。その背景として、ごみの自然界流出問題は気候変動問題に迫るほど深刻な社会課題になっています。しかし、ごみがどれくらい落ちているのかなど、深刻さを測るものさしが世の中にはありません。気温や湿度、CO2濃度は簡単に測れますが、ごみの分野はそれがない。
つまり、どのくらいお金をかければ解決するのかもわからないわけです。そういった構造的な問題に共感していただき支援をいただきました。
石田 私たちはお取引先様の小売ネットワークで配送している車両への設置やデータ展開を支援しています。また、ピリカさんが海外で調査する際は、三井物産の現地ネットワークを紹介するなどの連携を進めています。
小嶌 三井物産共創基金の支援をいただく以前から「Takanome」の技術はあり、一部の自治体や産業で使われ始めていました。しかし、ごみ収集車やバスなど特定ルートを走る車両にしか設置できていませんでした。小売業の配送車両にご協力いただければ、都市部をくまなく周ることができ、いろいろなことがわかるようになります。
小嶌 ひとつには、ごみ回収活動の効率化があげられます。全国的にごみを拾う活動をされている方々は多いんです。よくあるのが、市役所に集合して周囲のごみを拾うとかですね。でも、市役所周辺はきれいなことが多いので、ごみが少なくて盛り上がらない。
同じ人数・同じ時間・同じやる気の場合、ごみの多いルートで拾うことで回収量が3倍になることがすでにわかっています。年内には、世界130を超える国と地域で利用されている当社のごみ拾いSNS「ピリカ」と連動させ、ごみの多いスポットをご案内する。そうすることで効率的なごみ拾いが可能になります。
また、日本では人口減少が進んでおり、ボランティア人口を増やすのは難しい状況にあります。しかし、回収効率を上げていくことはできる。日本もまだまだ綺麗にすることができるわけです。
――外国人観光客からは、「日本は都市の道路にもごみがない」という話をよく聞きます。日本におけるごみ問題はどこにあるのでしょうか。
小嶌 おっしゃる通り、世界的にはとても綺麗な水準にあると思います。しかし、山への不法投棄、海岸への漂着ごみ、高速のインターチェンジ付近など、局地的な問題を解決して、さらなる高い水準を目指すステージかなと思っています。
ごみの可視化をグローバルで展開する理由
――先日、「5カ国9都市で走行距離1800キロ突破」というリリースを発表されました。この取り組みをグローバルで展開する理由を教えてください。
小嶌 ごみの可視化に関しては、世界標準で使われるものにしなければ意味がありません。そのため、アメリカや東南アジアといった主要な国々を回って調査しています。
収集したデータは各自治体や地元の有力企業に持っていき、解決の糸口を見つけていきたい。ごみが可視化されることで、島国であればハワイや沖縄と比べるなど具体的な話ができるようになり、いい意味での競争も生まれてくると考えています。
――なるほど、ランキングができるとやる気も生まれそうです。ピリカさんの助成金額は9806万8000円でした。助成期間中に取り組まれる範囲を教えてください。
小嶌 まずは5か国9都市を見たうえで、最終的に3箇所くらいに絞り込んで調査していく予定です。同時に、政府や自治体のネットワークづくりをおこない、私たちのデータが使われる仕組みづくりをしようと考えています。
余談ですが、この一年間で思いがけず進捗したことがありました。それは、各国のオープンデータが使えるということ。具体的には、私的に撮影したドライブレコーダーをアップしているサイトのデータからごみの可視化ができるようになったんです。そういったAIの改善・進化の費用にも今回の助成金が使われています。
共創者がいたからこそ、突破できた壁がたくさんある
――イシューファインダーと三井物産社員の「共創」という仕組みについては、どう感じていますか。
小嶌 事務局の方が支援してくださるだけでなく、石田さんのような共創者がいることで、実際にさまざまな壁を突破できています。総合商社のネットワークを活用できるのは大きな強みですね。
また、仕事の進め方や協力をお願いする方々への接し方なども勉強になります。幅広く事業をされていることを改めて知ることができ、助成期間終了後も何かご一緒できそうだなという期待感もあります。
石田 私の場合、日常業務では商品開発や物流関係の方と仕事をすることが多いんです。しかし、ピリカさんとの仕事では、各社のサステナビリティ部署の方とお話をする機会が増えました。そういう方々にはすぐに小嶌さんの熱意が伝わり、お客様の本音も聞くこともできる。同時に、自分自身もごみ問題に関する理解度が上がりました。また、小嶌さんはその道のスペシャリストなのでとても勉強になります。
エシカル消費も進むなか、新たな視点からのごみ問題を理解することで、今後のビジネスに役立つのではと感じています。
――最後に、助成期間である2026年3月までに成し遂げたい目標や夢を教えてください。
小嶌 国内においては、小売業との連携を広げていきたいです。とくにコンビニなどは細かくいろいろな地域を配送されているので、その流通網を生かしてごみの調査に役立てられるようにしていきたいです。海外においては、アメリカのようなモデルケースとなる国で調査をおこない、現地政府やNPOとの連携までやりきりたいと思います。
私たちはあえて、最長期間の3年ではなく2年で走り切る設定にしています。残り一年となりましたが、助成期間が終わって失速することがないよう自立して発展していきたいと思います。そのためにも、ビジネスにつながる実績づくりに励んでいきます。
石田 そうですね、まずはごみの自然界流出データの収集に努めていきたいです。並行して、データを活用した事例づくりもおこなえたらと考えており、世界のごみ問題解決に向けた土壌づくりに尽力していければと思います。
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