Environment
気候変動
方針・基本的な考え方
持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定の国連での採択等、気候変動や自然災害の増加・激甚化傾向は世界の喫緊の課題であり、社会の持続可能性を追求していくうえで、企業の責任ある対応がますます重要になっています。
三井物産が特定したマテリアリティには、「安定供給の基盤をつくる」、「豊かな暮らしをつくる」や「環境と調和する社会をつくる」が含まれ、環境方針においては、温室効果ガス(以下、GHG)の削減や気候変動の緩和と適応に貢献する事業の推進に努めることを掲げています。また、中期経営計画2023においては、気候変動をサステナビリティ経営における重点課題の一つに特定しています。さらに、環境・クリーンテック分野の技術革新を事業機会とすることを戦略上の重点分野の一つと位置づけ、当該分野における投資機会の追求・拡充に取り組んでいます。
当社は国際的な枠組みであるパリ協定や日本の中長期的な削減目標に寄与する目標を掲げ、世界のさまざまな国・地域の経済・社会の発展と、気候変動の緩和および適応といった地球規模の課題の解決の両方に、幅広い事業活動を通じて貢献していきます。
2022 年12月2日開催の三井物産インベスターデイ2022において当社の気候変動対応、グリーントランスフォーメーションに 関する取り組みを発表しました。詳細はリンク先をご参照ください。
TCFD提言に基づく情報開示
開示方針
当社は、2018年12月に、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に賛同しており、TCFD提言に沿って、責任あるグローバル企業としてステークホルダーの要請を意識した積極的な情報開示を進めます。
ガバナンス
気候変動対応に関するガバナンス体制
当社では気候変動対応を経営上の重要課題と位置付けています。気候変動に関わる経営の基本方針、事業活動やコーポレートの方針・戦略は、経営会議の下部組織であるサステナビリティ委員会が企画・立案・提言を行っています。 サステナビリティ委員会の活動については、取締役会による監督が適切に図られる体制となっており、サステナビリティ委員会における気候変動の審議事項は、定期的に経営会議および取締役会に付議・報告されます。
サステナビリティ委員会
管掌役員 | 佐藤 理(代表取締役専務執行役員、CSO(チーフ・ストラテジー・オフィサー)、サステナビリティ委員会 委員長) |
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事務局 | サステナビリティ経営推進部、経営企画部 |
気候変動関連議題
サステナビリティ委員会における気候変動に関する主な議題は、過去3年間で合計13件です。
- 気候変動シナリオ分析審議
- サステナビリティ関連の重点課題設定審議
- 社内カーボンプライシング制度導入審議
- GHG関連目標設定審議
- GHG関連目標設定審議
- 気候変動シナリオ分析審議
- GHG排出量調査報告
- 社内カーボンプライシング制度、GHG排出量データベース整備等進捗報告・方針協議
- GHG長期目標達成に向けたロードマップに関する意見交換・報告
- GHG削減貢献量算定ツール整備に関する報告
- 役員報酬へのESG要素導入に関する意見交換
- 気候変動/社内制度・施策の振り返りに関する報告と今後の対応方針に関する審議
サステナビリティアドバイザリーボード
気候変動を含む環境・社会テーマの外部有識者から構成されるサステナビリティアドバイザリーボード(旧・環境・社会諮問委員会)を設置し、メンバーからの情報や助言をサステナビリティ委員会の審議に活用しています。2022年3月期は、気候変動への取り組みに関し、合計4回の意見交換を実施しました。
当社サステナビリティ経営の推進体制図やサステナビリティ委員会の活動に関する詳細はリンク先をご参照ください。
気候変動対応の役員報酬制度への反映
2023年3月期より、新たに業績連動型譲渡制限付株式報酬制度を導入することを決定し、2022年6月22日の株主総会で承認されました。同報酬制度は、当社が社会的責任を果たしつつ中長期的な業績と企業価値の持続的な向上を図るインセンティブとして導入するもので、その評価指標の1つに、当社が重視すべき経営指標として気候変動対応を含むESG各要素を含みます。詳細は、2022年3月期有価証券報告書「第4 提出会社の状況、4. コーポレート・ガバナンスの状況等(4)役員の報酬等」をご参照ください。
戦略
シナリオ分析の方針・プロセス
当社は、TCFDに2018年12月に賛同して以降、グローバルな経営環境の変化に対して、柔軟に対応し当社戦略のレジリエンスを高めるため、段階的にシナリオ分析に取り組んでいます。従来から、事業本部が対象事業のリスクと対策、定量的な影響度等を分析し、サステナビリティ委員会にて審議していますが、その重要性の高まりを受け、2023年3月期から事業計画の策定プロセスにシナリオ分析を統合しました。経営会議での報告・審議を経て取締役会にて承認される事業計画プロセスに組み込むことで、シナリオ分析の結果が経営にて確認・審議され、事業計画と事業ポートフォリオ戦略に反映されています。
選定したシナリオ
当社では、短期(0-1年間)、中期(1-10年間)、長期(10-30年間)の時間軸に分けて、最長2050年までのシナリオ分析を実施しています。シナリオ分析に際しては、IEA(国際エネルギー機関)が発行するWorld Energy Outlook(WEO)に記載のある以下のシナリオ等を参照して、移行リスク(*1)・機会の分析を行っています。一方、物理的リスク(*2)に関しては、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)にて採用されているRCP(代表的濃度経路)も参考にしつつ、一定額以上の投資性資産を有する事業に関して、過去5年間に発生した気候災害の状況を基に調査し、影響の分析を行いました。
*1:政策・法規制や、技術開発、市場動向、市場における評価等の変化によってもたらされるリスク
*2:気候変動に伴う自然災害や異常気象の増加等によってもたらされる物理的な被害等のリスク
- IEA Stated Policies Scenario(STEPS):現在公表されている各国の政策目標を反映したシナリオ
- IEA Sustainable Development Scenario(SDS):地球温暖化を産業革命前に比べて2°C(できる限り1.5°C)に抑える努力を行うとのパリ協定を遵守するためのシナリオ
- IEA Net Zero Emissions by 2050 Scenario(NZE): 地球温暖化を産業革命前に比べて1.5°C未満に抑える目標を達成するためのシナリオ
- IPCC RCP(代表的濃度経路)8.5シナリオ:2100年に世界の平均気温が約4°C上昇するシナリオ
主な気候変動リスクと機会
当社は、幅広い事業を世界各国・地域で展開していることから、気候変動に伴うさまざまなリスクと機会を、事業戦略策定において考慮しなければならない重要な要素の一つと捉えています。当社は気候変動に伴うリスクと機会を短中長期の時間軸とあわせて特定し、定期的に見直しを行っています。また、各セグメントの環境・トレンドの変化やポートフォリオの入れ替え等の内外環境変化に応じて見直しを行い、適時適切に事業戦略に反映しています。
移行リスク | 政策・法規制リスク |
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技術リスク |
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市場リスク |
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物理的リスク | 急性リスク |
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慢性リスク |
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また、各セグメントにおいて、内外経営環境を見極め、事業を取り巻くリスクと機会を特定しています。
セグメント | リスク | 機会 |
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金属資源 |
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エネルギー |
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機械・インフラ |
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化学品 |
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鉄鋼製品 |
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生活産業 |
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次世代・機能推進 |
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*:CCS(Carbon Capture and Storage): CO2の回収・貯留
CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage): CO2の回収・利用・貯留
移行リスク分析
当社では、選定した事業に対して、複数の気候変動シナリオを活用して、移行リスクに伴う財務計画・事業戦略への影響や必要な対応策を検討しています。
シナリオ分析対象事業の選定
事業規模と気候変動インパクトを踏まえ、優先度を「高」「中」「低」に分類し、優先度「高」の事業をシナリオ分析の対象として選定しました。
事業分析結果
今回選定した10事業に対するシナリオ分析結果は以下の通りです。シナリオ分析で参照したシナリオを以下の通り現行シナリオ、移行シナリオに区分して整理しています。
- 現行シナリオ:
各国における現行の気候変動対応が維持されること等により、化石燃料をはじめとしたGHGを排出する資源の需要は新興国を中心に一定程度見込まれ、また気候変動に影響するビジネス上の慣行が一部で継続するシナリオ(STEPS等) - 移行シナリオ:
気候変動対応に向けた先進的な取り組みや制度が国際的に発展、また、脱炭素化の技術革新と普及によって省エネと電化が進むことにより、化石燃料をはじめとしたGHGを排出する資源の需要が低迷し、再生可能エネルギー等の需要が急速に拡大するシナリオ(SDS、NZE等)
現行シナリオおよび移行シナリオにおいて、それぞれ現在から2050年にかけての事業へのインパクトを以下3段階にて表示しています。
:事業に好影響を及ぼす
:横ばいか、事業に僅かな影響を及ぼす
:事業に、悪影響を及ぼす
石油・ガス開発事業およびLNG事業
※下記表は横にスクロールしてご覧ください。
各シナリオ下における事業環境認識 | 事業へのインパクト | 対応策 | ||
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現行シナリオ(STEPS等) 石油需要の成長は徐々に鈍化し2030年代半ばに需要がピークに達した後、2050年に向けて略横ばいになると見込みます。天然ガス需要は中国・インドを中心に、アジアの新興国の電力・産業セクター向けに堅調に拡大する見通しです。 移行シナリオ(2°C:SDS等) 先進国の輸送セクターの電化を中心に低・脱炭素化が進み、石油需要は2050年にかけて半減する見通しです。天然ガス需要も今後5-10年間は石炭火力代替として底堅いものの、2050年に向けては再生可能エネルギーの普及により発電セクターを中心に3分の2程度に減少見通しです。一方、水素原料用途等の新規需要は長期的に拡大する見通しです。 移行シナリオ(1.5°C:NZE等) 全世界の天然ガス需要は2025年以降緩やかに減少傾向となり、2030年以降2050年に向けて半減する一方で、世界的な脱炭素の流れから水素原料用途としての天然ガスの重要性はさらに大きくなる見通しです。一方、石油需要は2030年以降急激に減少し、2050年にかけ現在の4分の1程度まで減少する見通しです。 |
現行シナリオ |
移行シナリオ |
移行シナリオ |
今後の国際エネルギー情勢や地政学も考量しながら、需給動向の急激な変化へのリスク耐性を高めるべく、既存事業資産の競争力強化、GHG排出量削減や低・脱炭素化取り組みも含め、資産価値向上に継続的に取り組みます。 特に、新規案件については各国の政策転換や炭素税導入等、潜在的な将来のカーボンコストも考慮のうえ、競争力の高い案件を厳選していくとともに、時機を捉えた資産リサイクルも含め、バランスの取れた事業資産ポートフォリオを構築していきます。 バリューチェーン全体での低・脱炭素化へも貢献しながら、トランジションエネルギーであり次世代燃料の原料ともなりえる天然ガスの上流開発や液化能力の増強に引き続き取り組みます。 上流事業知見を活かし、技術開発動向や各国制度改革にも留意しつつCCS/CCUS事業や地熱事業、ガス上流資産や既存顧客のネットワークを活かした水素・アンモニア事業等の早期商業化を目指します。 |
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量の拡大と質の改善というDual Challengeに直面する中、再生可能エネルギーは着実に拡大する一方、当面、化石燃料が主要エネルギー源として不可欠であることは不変です。いずれのシナリオにおいても石油需要はピークアウトし、横ばいか減少を見込みますが、今後、当社の原油・ガス持分権益生産量におけるガス生産比率の上昇が見込まれることから、その影響は限定的です。 天然ガスは、環境負荷が比較的低く、気候変動の課題に対処しつつ拡大する需要を満たす現実解として、重要なトランジションエネルギーです。 当社は、両移行シナリオ下において、中期的にはアジアを中心としたLNG/天然ガスの堅調な需要を見込むものの、移行シナリオ(1.5°C)下においての需要減少を踏まえると上流資産の価値が毀損するリスクがあり、需要動向と当社事業への影響については継続的な検証・モニタリングが必要です。 |
2023年3月期決算 プレゼンテーション資料(P.26 エネルギー:主な事業一覧)(PDF 1.54MB)
原料炭事業
※下記表は横にスクロールしてご覧ください。
各シナリオ下における事業環境認識 | 事業へのインパクト | 対応策 | ||
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現行シナリオ(STEPS等) 先進国では、粗鋼生産量減少やスクラップ活用による高炉比率低下を背景に、2030年代から需要が漸減する一方で、インド・東南アジア地域では、高炉増設による2020年代後半以降の需要増加を見込みます。世界全体の原料炭需要は、2050年に向けて足元水準から緩やかに増加します。 原料炭の供給量は、新規計画等の増加が既存炭鉱の終掘により相殺されることで、中長期的に横ばいで推移し、需給のタイト化が見込まれます。 移行シナリオ(2°C:SDS等) 現行シナリオで見込む、先進国でのスクラップや代替原料等の使用がさらに加速することから、原料炭の需要は中長期的に横ばいで推移し、2050年時点においても足元の水準に留まる見通しです。 供給側では各国の気候変動取り組み強化を背景に、新規・拡張計画の開発許認可取得・資金調達が難化し、供給量が減少、需給がさらにタイト化する可能性があります。 移行シナリオ(1.5°C:NZE等) 低炭素化要求のさらなる高まりを受けて、より効率的な鋼材使用等も進展し、他シナリオと比して粗鋼生産量、原料炭需要ともに一段の減少が見込まれます。 供給側の新規・拡張計画は、移行シナリオ(1.5°C)下ではさらに実行の難易度が上がり、供給量が減少、需給の一層のタイト化が進む可能性があります。 |
現行シナリオ |
移行シナリオ |
移行シナリオ |
原料炭は中長期的に堅調な需要が見込まれることから、当社保有資産の優良化に努め、需要家への安定供給を果たします。また、外部環境の変化を注視しつつ、事業パートナーと共に低・脱炭素社会を見据えた、随伴メタンガスの利活用や燃料・原料代替等の取り組みを強化していきます。 |
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現行シナリオでは、原料炭需要が微増で推移し、当社保有資産の競争力も維持されるため、事業収益性は底堅く推移する見込みです。 移行シナリオでは、需要減少に対して供給側での新規・拡張計画の実行が滞ることによって供給量も減少し、当社保有資産の競争力は維持されますが、排出削減技術導入、環境対応、資金調達コストの上昇が見込まれます。 ただし、同コストが原料炭価格に与える影響は、各国の政策・方針動向による事業インパクトと併せて継続的な検証が必要です。 なお、当社では一般炭のみを産出する権益の積み増しは行っておりません。 |
2023年3月期決算 プレゼンテーション資料(P.24 金属資源:主な事業一覧)(PDF 1.54MB)
火力発電事業
※下記表は横にスクロールしてご覧ください。
各シナリオ下における事業環境認識 | 事業へのインパクト | 対応策 | ||
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現行シナリオ(STEPS等) 化石燃料由来の発電量は先進国を中心に長期的に緩やかに減少します。一方、電力需要が今後も成長し、かつ再生可能エネルギーのみで供給対応が困難な一部新興国では中期的に新設需要が継続する見通しです。 移行シナリオ(2°C:SDS等) 化石燃料由来の発電量は先進国を中心に、中長期的に現行シナリオより速い速度で減少する見通しです。先進国では再生可能エネルギーへの転換が進むものの、新興国では2050年時点でも一定の石炭火力発電需要を見込みます。また、先進国・途上国共に、トランジションエネルギーとしてのガス火力発電の需要は中長期的に継続する見通しです。 移行シナリオ(1.5°C:NZE等) 低・脱炭素化の潮流の急速な進展を背景に電力需要が中長期的に大幅に増加し、2050年には現行シナリオ対比で50%増の電力需要を見込みます。2°Cシナリオと比較し、化石燃料由来の発電量は速い速度で減少し、2050年時点ではCCUS等の脱炭素設備付きの発電所が主流となる一方で、再生エネルギー比率がさらに高まり、電力需要の大部分を再生エネルギー、主に風力と太陽光で賄う見通しです。 |
現行シナリオ |
移行シナリオ |
移行シナリオ |
低・脱炭素化の世界的な潮流も踏まえ、時代の変遷に応じた発電ポートフォリオの変革と良質化に取り組みます。具体的には、中長期的に当社持分発電容量における石炭火力の比率を引き下げ、水力を含む再生可能エネルギー比率を2030年までに30%超へと引き上げ、2050年までのネットゼロ達成に必要な発電ポートフォリオ変革を継続する方針です。 また、既存火力資産においては責任ある発電事業者として効率化をはじめ、CCUSやアンモニア混焼等の低・脱炭素化取り組みも継続的に検討していきます。 新規のガス火力案件については、各シナリオに応じたトランジションエネルギーとしてのガス火力の必要性や、潜在的な将来のカーボンコストを勘案の上、各地域の電源構成・電力需要見通しも踏まえ検討対象とする方針です。 |
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当社発電事業ポートフォリオは、発電量ではなく、稼働可能な発電容量に対して対価が支払われる長期売電契約付が大半を占め、外部環境の変化が既存事業へ与えるインパクトは限定的です。 ただし、移行シナリオ下においては、低・脱炭素化の世界的な潮流が急速に加速し、一部資産では売電契約終了後の事業性に影響を及ぼす可能性があり、座礁資産化リスクの継続的な検証・モニタリングが必要です。 |
発電事業一覧(ガス火力発電事業、石炭火力発電事業、石油火力発電事業) 2023年3月末現在 (PDF 144KB)
鉄鉱石事業
※下記表は横にスクロールしてご覧ください。
各シナリオ下における事業環境認識 | 事業へのインパクト | 対応策 | ||
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現行シナリオ(STEPS等) 世界最大の生産国である中国での粗鋼生産量は今後減少を見込む一方で、インド・東南アジアにおける生産量増加がそれを補い、中長期的に世界粗鋼生産は堅調に推移する見通しです。 移行シナリオ(2°C:SDS等) 電炉比率の上昇や高品位鉱を主に使用する直接還元鉄の生産量の増大を受けて、高品位鉱の需要増大とそれに伴う高品位鉱、低品位鉱に対するプレミアム、ディスカウントの拡大を見込みます。 移行シナリオ(1.5°C:NZE等) 低炭素化要求のさらなる高まりを受けて、鉄スクラップや直接還元鉄のさらなる活用拡大のみならず、より効率的な鋼材使用の進展等に伴い粗鋼生産量自体も減少、移行シナリオ(2°C)に比して鉄鉱石需要の減少が見込まれます。 |
現行シナリオ |
移行シナリオ |
移行シナリオ |
鉄鋼業の低・脱炭素化手段である電炉法の普及率や新製鉄技術の変化スピード等を注視しつつ、当面は当社資産の競争力強化に努めながら、需要家への安定供給を果たしていきます。また、外部環境の変化を注視しつつ、事業パートナーと共に低・脱炭素社会を見据えた取り組みを強化していきます。 |
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粗鋼生産量は2020年代半ばの中国ピークアウトの影響を受けるも、インド、東南アジアが中国の減少を補うと見込んでいます。現行・移行(2°C)いずれのシナリオ下でも中長期的に粗鋼生産および鉄鉱石の需要は底堅い見通しですが、移行シナリオ(1.5°C)下では他シナリオに比して鉄鉱石需要の減少が見込まれます。移行シナリオ(2°C)では高品位・低品位鉱に対するプレミアム・ディスカウントの拡大を織込んでいますが、全体収益の中での影響は限定的です。移行シナリオ(1.5°C)でも同様の傾向を見込みますが、需要減少に伴い鉄鉱石価格および収益性への下方圧力が想定されます。 各国の政策・方針動向による事業インパクトは継続的な検証が必要です。 |
2023年3月期決算 プレゼンテーション資料(P.24 金属資源:主な事業一覧)(PDF 1.54MB)
海洋油・ガス田生産設備事業
※下記表は横にスクロールしてご覧ください。
各シナリオ下における事業環境認識 | 事業へのインパクト | 対応策 | ||
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現行シナリオ(STEPS等) 石油需要の成長鈍化に伴い、新規生産設備の需要は中長期的に低減しますが、その時間軸には地域差があります。 移行シナリオ(2°C:SDS等) 先進国の電化促進等により、現行シナリオよりも早期に石油需要が低減し、2050年にかけて半減、これに伴い新規生産設備の需要は現行シナリオより速く低減する見通しです。 移行シナリオ(1.5°C:NZE等) 石油需要は2030年以降急激に減少し、2050年にかけて現在の4分の1程度まで減少する見通しです。需要の急激な減少に伴い、原油価格は現行シナリオと比較し2030年には2分の1程度、2050年には4分の1程度まで下落する見通しです。これに伴い新規生産設備の需要は移行シナリオ(2°C)以上に低減する見通しです。 |
現行シナリオ |
移行シナリオ |
移行シナリオ |
中長期的に需要が減少するシナリオを考慮し、既存事業で培った知見を活かせる分野(浮体式洋上風力等)への業態変革に取り組みます。 |
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当社の浮体式海洋原油・ガス生産貯蔵積出設備や掘削船等の海洋油・ガス田開発・生産設備に関する事業は2030年以降も継続する案件の多くが長期契約に基づく顧客先における長期使用がコミットされており現行シナリオ・移行シナリオによる既存事業への影響は限定的となることを見込んでいます。ただし、移行シナリオ(1.5°C)においては、2030年以降の大幅な石油需要減と原油価格下落がエネルギー企業の生産活動の継続性に影響を及ぼす可能性があり、事業へのインパクトの継続的な検証・モニタリングが必要です。 |
ガス配給事業
※下記表は横にスクロールしてご覧ください。
各シナリオ下における事業環境認識 | 事業へのインパクト | 対応策 | ||
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現行シナリオ(STEPS等) 天然ガス需要は新興国のガス需要増加に伴い、堅調に増加する見通しです。 移行シナリオ(2°C:SDS等) 天然ガス需要は、今後5-10年間は石炭火力代替として底堅いも、2050年に向けては再生可能エネルギーの普及により発電セクターを中心に3分の2程度に減少する見通しです。なお、新興国においては引き続きガス需要を見込むものの現行シナリオに比し成長は鈍化する見通しです。 移行シナリオ(1.5°C:NZE等) 全世界の天然ガス需要は2025年以降緩やかに減少傾向となり、2030年以降2050年に向けて半減する見通しです。また、石油需要は2030年以降急激に減少し、2050年にかけて現在の4分の1程度まで減少する見通しです。 |
現行シナリオ |
移行シナリオ |
移行シナリオ |
GHG排出量削減やバイオガス活用等の低・脱炭素化取り組みも含め、資産価値向上に継続的に取り組みます。新規案件については、潜在的な将来のカーボンコストを考慮し取り組んでいます。 |
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当社ガス配給事業は、新興国に位置し、長期契約に基づく公共および規制事業として対象域内での独占的ガス配給権が確保されています。新興国のガス需要が中長期的に見込まれる現行シナリオ・移行シナリオ(2°C)においては、既存事業への影響は限定的となることを見込んでいます。移行シナリオ(1.5°C)においては、石油生産減退に伴う随伴ガス減少と発電セクターの再生エネルギー比率が急速に高まることにより新興国においてもガス需要が減少することが想定され、ガス配給量の減少により事業収入へ影響を及ぼす可能性があります。 |
LNG船事業
※下記表は横にスクロールしてご覧ください。
各シナリオ下における事業環境認識 | 事業へのインパクト | 対応策 | ||
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現行シナリオ(STEPS等) 天然ガス需要はアジアの新興国の電力・産業セクター向けに長期的に堅調に拡大することから、船舶での運航需要は増加する見通しです。 移行シナリオ(2°C:SDS等) 中長期的には石炭火力代替として天然ガス需要が継続することが見込まれ、2050年に向けては船舶での運航需要は増加する見通しです。 移行シナリオ(1.5°C:NZE等) 天然ガス需要は世界的な脱炭素化の影響で2020年中盤以降減少傾向となり、2050年には船舶での運航需要の減少が見込まれます。 |
現行シナリオ |
移行シナリオ |
移行シナリオ |
中長期的な需給・価格動向を考慮し、次世代燃料船、新燃料輸送船等の新規事業の成長機会の取り込み、見極めを行い、LNG船ポートフォリオにおける収益性の維持・向上と安定操業・効率化に努めます。 |
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LNG船事業は、近年の案件のほとんどが長期契約に基づき収益が確保されており、どのシナリオでも当面は当社収益への影響は限定的となることを見込んでいます。天然ガスは脱炭素への重要なトランジションエネルギーとして、アジアを中心に中期的には堅調な需要を見込むものの、移行シナリオ(1.5°C)では2050年に向けて需要の減少が見込まれる中で、長期傭船終了後の資産価値が毀損するリスクがあり、事業へのインパクトを注視する必要があります。 |
再生可能エネルギー事業
※下記表は横にスクロールしてご覧ください。
各シナリオ下における事業環境認識 | 事業へのインパクト | 対応策 | ||
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現行シナリオ(STEPS等) 低・脱炭素潮流やエネルギー安全保障への対応を踏まえ、需要は中長期的に大幅に増加する見通しです。 移行シナリオ(2°C:SDS等) 現行シナリオよりも速い速度で需要が大幅増加する見通しです。特に米国、豪州等の先進国における電化等が需要の増加を後押しし、2050年には電力需要の過半を再生エネルギーで賄う見通しです。 移行シナリオ(1.5°C:NZE等) グローバルな低・脱炭素化潮流の急速な進展が電化の普及を後押しし、電力需要が中長期的に大幅に増加、2050年には現行シナリオ対比で50%増の電力需要を見込みます。移行シナリオ(2°C)以上に再生エネルギー比率がさらに高まり、2050年には電力需要の大部分を再生エネルギー、主に風力と太陽光で賄う見通しです。再生可能エネルギーの普及に継続的な大規模投資が必要となるとともに、各地域の電力システムの安定性担保のため、送電網の強化や蓄電池・デマンドレスポンス等の需要拡大も見込まれます。 |
現行シナリオ |
移行シナリオ |
移行シナリオ |
低・脱炭素化の世界的な潮流も踏まえ、時代の変遷に応じた発電資産ポートフォリオの変革と良質化に取り組みます。具体的には、中長期的に当社持分発電容量における再生可能エネルギー比率を2030年までに30%超へと引き上げるべく、太陽光・陸上風力・洋上風力等の規模感ある大型再生可能エネルギー事業、および地域の需要にこたえる地産地消型の分散型再生可能エネルギー事業に取り組みます。 また、事業者間の競争激化の可能性を見据え、再生可能エネルギーを活用したグリーン水素・アンモニア・メタノール製造販売や、クリーン電力販売、EVインフラ、洋上風力向けインフラ等の周辺領域に当社総合力を発揮し取り組むことで、再生可能エネルギー事業をコアとした事業群を形成し、付加価値の取り込みを狙います。 |
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再生可能エネルギー産業は、今後大きな需要の成長が見込めるものの、事業者数拡大に伴い競争が激化する可能性があります。一方、一部地域では急速な再生可能エネルギー比率増加に伴う系統不安定化に対応するために、需給バランス調整ニーズの拡大も見込まれます。また、デジタル技術を活用したエネルギーソリューション事業の拡大も見込まれます。 EV市場も各国の政策支援のもと拡大が想定され、クリーン電力の需要拡大が見込まれます。 |
発電事業一覧(再生可能エネルギー事業) 2023年3月末現在 (PDF 144KB)
次世代エネルギー事業
※下記表は横にスクロールしてご覧ください。
各シナリオ下における事業環境認識 | 事業へのインパクト | 対応策 | ||
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現行シナリオ(STEPS等) バイオ燃料をはじめとする次世代エネルギーの需要は主に化石液体燃料を代替する形で中長期にわたり強い成長を続ける見通しです。 移行シナリオ(2°C:SDS等) バイオ燃料の需要は中期的に急激に成長し、長期的には伸びは鈍化しますが、航空・船舶輸送用途向けの需要が拡大していく見込みです。また、中長期的に天然ガスを代替する形で、水素・燃料アンモニアの成長が見込まれます。 移行シナリオ(1.5°C:NZE等) バイオ燃料の需要は中期的には移行シナリオ(2°C)を上回る成長を見せますが、その後は成長が頭打ちとなります。ただし、航空・船舶輸送用途向けの需要は中長期に渡り順調に拡大していく見込みです。また、移行シナリオ(1.5°C)においては、2050年に向け移行シナリオ(2°C)を大幅に上回る勢いで水素・燃料アンモニアの急激な成長が見込まれます。 |
現行シナリオ |
移行シナリオ |
移行シナリオ |
中期的な需要の中心になると見込まれるバイオ燃料事業においては、環境への影響を見極めた上で、既存投資先の技術・ノウハウを活用した事業の拡大に取り組みます。また、低・脱炭素化社会の現実的解として、長期的には大きな需要が見込める水素・燃料アンモニア、地熱発電事業等の取り組みを進めています。次世代の代替エネルギー源として期待されている分野の本格的な普及のためには、さらなる技術革新が必要なことから、社内専門チームを組成し取り組みを加速しています。 |
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次世代エネルギーへの需要拡大への期待は大きく、有望な次世代エネルギー技術も開発が進んでいます。各国政府による制度整備等もあり、新技術開発への投資のさらなる加速と低・脱炭素エネルギーの製造コスト低減が見込まれ、一層の需要拡大を促すことから、事業機会の増加を見込みます。 |
森林資源事業
※下記表は横にスクロールしてご覧ください。
各シナリオ下における事業環境認識 | 事業へのインパクト | 対応策 | ||
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現行シナリオ(STEPS等) 世界的な人口増、特にアジアを中心とする新興国における住宅・紙の市場拡大に伴い、原料となる森林資源(木材・ウッドチップ等)の需要が堅調に増加する見通しです。さらに、各国の天然林保護政策・伐採規制強化により、植林材を主とする森林資源の価値が向上することが見込まれます。 移行シナリオ(2°C:SDS等) 住宅資材や紙の原料となるウッドチップ等の森林資源需要は、現行シナリオ同様堅調に増加する見通しです。さらに、森林資源の持つCO2吸収機能や再生可能な自然素材としての特徴への注目度が高まり、森林由来の排出権市場の拡大と排出権価格の上昇、バイオケミカル等木材由来の高付加価値品市場の拡大も見込まれます。 移行シナリオ(1.5°C:NZE等) 移行シナリオ(2°C)と比較し、CO2排出削減強化に伴い、カーボン価格も先進国で移行シナリオ(2°C)対比約1.5倍上昇することが見込まれており、森林由来の排出権市場の拡大と排出権価格の上昇、バイオケミカル等木材由来の高付加価値品市場の拡大が見込まれます。 |
現行シナリオ |
移行シナリオ |
移行シナリオ |
環境価値の創造、社会課題の産業的解決に向けた基盤となるべく、収益力、リスクを踏まえた資産の積み上げを行い、森林資源事業を拡大していきます。紙・住宅用途、排出権創出に留まらず、木質素材の新たなニーズ開発にも取り組むことで、森林資源の価値最大化を目指します。 |
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木材を中心とした気候変動対応に資する再生可能な自然素材としての森林資源は現行シナリオ下において、需要拡大が見込まれます。また、移行シナリオ下においては排出権取引の需要の高まり・排出権価格上昇や、森林資源由来のバイオケミカルの有効活用等が見込まれており、収益性を向上させる効果も期待されます。 |
物理的リスク分析
当社は、幅広い事業をさまざまな国・地域で展開しており、気候変動に伴い異常気象が増加した場合には、物理的リスクの顕在化による影響を受ける可能性があります。物理的リスクによる当社事業への影響を明らかにするため、RCP8.5シナリオ等を参照し、一定額以上の投資性資産を有する事業に関して、過去5年間に発生した気候災害の状況を基に調査し影響の分析を行いました。
主な物理的リスクとしては、局地的な暴風雨、特に大西洋および南太平洋で発生する強い熱帯低気圧であるハリケーンやサイクロン等が、当社が行う金属資源やエネルギー等の事業の操業に悪影響を及ぼす可能性があるほか、生産現場や生産設備、出荷に使用される道路、鉄道、港等のインフラが甚大な被害を受けた場合、その復旧まで生産や出荷が長期間にわたり停止する可能性があります。また、当社出資先のみならず、当社取引先が甚大な被害を受けた場合、原料供給を受けられない等サプライチェーン全体での不稼働リスクの可能性があります。
当社は、災害時において人命尊重を最優先事項としています。その上で、地域社会との共生にも留意した事業継続のための危機管理方針を定めています。また、リスクを回避するための適応・緩和策として、複数サプライヤーの確保や設備の増強を行う、さらには、必要に応じた保険の付保等を実施しています。リスクへの対応の妥当性については、今後も定期的に評価していく予定です。
当社が保有する資産における主要な物理的リスクは以下の通りです。
リスク管理
当社では、全社リスクを横断的に見て、重要なリスクを特定するとともに、リスクを回避するための諸施策やコントロールするためのさまざまな取り組みを行っています。その体制として、経営会議およびその諮問機関であるポートフォリオ管理委員会を核として、全社一元的にリスクを管理する統合リスク管理体制を構築しています。統合リスク管理体制においては、事務局を務めるコーポレートスタッフ部門担当部署が全社的観点でリスクを統括します。当社が想定する重要なリスクには気候変動によるリスク、コンプライアンスに関するリスク、感染症・自然災害・テロ等に係るリスク等、環境・社会・ガバナンスに関連するものも含まれますが、特に、気候変動によるリスク(物理的・移行)は、事業投資リスクやカントリーリスクに次ぐ重要度と位置付け、対応策を講じています。
当社のリスク管理体制の詳細は、以下ページをご参照ください。
なお、世界各国・地域で事業を展開する当社にとって、気候変動に関わる各国・地域の政策は各事業の収益性、持続可能性に大きな影響を及ぼす可能性があります。当社では、IEA等の複数の気候変動シナリオを活用し影響が大きい事業のシナリオ分析を実施し、リスクと機会の両側面での影響を把握し、投融資案件やM&A等の意思決定に活かしています。
また、当社が事業に取り組むに当たっては、新規に開始する段階に加え、操業時、および撤退時においても環境・社会に対する最大限の配慮に努める仕組みを整えています。気候関連リスクを含む環境・社会リスクについては、その対応方針や施策を、サステナビリティ委員会で討議し、経営会議および取締役会に報告・承認取り付けの上、実行しています。
指標と目標
GHG削減目標
- 単体+連結子会社(含むUn-inco JV*)のScope1+2および Scope3カテゴリー15(投資):
2050年の「あり姿」としてのネットゼロエミッションを掲げ、その道筋として2030年に2020年3月期比GHGインパクト半減を目指す。 - 単体+連結子会社のScope1+2:
2030年のGHG排出量を2020年3月期比半減する。 - 発電事業における再生可能エネルギー比率:
2030年までに30%超に引き上げる。
*:Un-inco JV:Un-incorporated Joint Venture(共同支配事業)
GHGインパクトは、自社の排出量から事業を通じて実現した削減貢献量を差し引いたものを指します。当社は、自社の排出量削減のみならず、事業活動を通じて社会全体の低・脱炭素化への移行に貢献することを重視しています。こうした削減貢献量も含め目標として設定することで、全社的にその取り組みを加速していきます。
2050年のネットゼロエミッションは、当社排出量から吸収除去・オフセット量のみを差し引いて実質ゼロにすることを指します。削減貢献量は、2050年の目標数値には含めていませんが、引き続き事業を通じた社会全体の削減貢献に積極的に取り組んでいきます。
また、総合商社ならではの産業横断的な事業形態を活かして、多様な形で排出削減(Reduction)と削減貢献(Opportunity & Transition)を推進します。
2030年GHGインパクト半減へのロードマップ
2020年3月期の GHGインパクト34百万トンを、2030年3月期には17百万トンまで半減することを目指します。
現中期経営計画最終年度の2023年3月期は、GHGインパクトは約33百万トンと見込んでいます。2024年3月期から2030年3月期の期間は現在建設中の火力発電事業の操業開始等により若干の排出量増加が見込まれるものの、さらなる排出削減と削減貢献事業を実現することにより、2030年の「GHGインパクトの半減」の達成を目指します。
GHG排出量内訳
社内カーボンプライシング制度
GHGを多く排出する事業の中長期的なレジリエンスの向上、また当社および社会のGHG排出削減に貢献する事業の促進を目的に、2020年4月から社内カーボンプライシング制度を導入しています。新規投資案件については、GHG規制等がリスクあるいは機会となり得る案件につき、2°Cシナリオに進んだ場合に生じる影響の分析、ならびにリスクとなる場合には対策等の妥当性が、投資判断の一要素として追加されました。また、既存事業のリスク評価も社内カーボンプライシング制度を使って実施しています。なお、価格設定についてはIEA等の外部機関が公表している定義や価格を参考に、対象資産の国・地域、時間軸等を考慮した価格設定を行っており、2050年までの期間に亘り、先進国は概ね$10~$200/トン、その他地域は概ね$0~$160/トンの価格を適用しています。
グリーン案件評価連絡会
低・脱炭素化社会への動きが加速する中、当社事業のGHG排出量の削減に取り組むと同時に、社会のGHG 削減に資する事業を推進し、社会課題の解決に貢献しながら、当社としても持続可能な成長を実現することを目指しています。再生可能エネルギー等の気候変動対応を機会とする新規案件の審査において、ESG視点から、取り組みの戦略的意義等の定性面を含め総合的に評価するグリーン案件評価連絡会を設置し、2021年4月1日より運用を開始しました。
その他環境指標・目標
GHG削減目標のほか、以下の環境指標・目標を設定し、モニタリングを継続して行っています。
- エネルギー使用量:
- 単体におけるエネルギー使用量を原単位で年平均1%以上低減する。
- 水資源:
- 単体における水使用量を前期使用量以下に削減し、水の利用効率を改善する。
- 汚染防止:
- 単体のうち自社ビル(本店、関西支社)における廃棄物のリサイクル率を2030年までに90%以上にする。
- 単体における紙資源使用量を2030年までに原単位で2020年3月期対比50%以下にする。
各種パフォーマンスデータに関しては以下をご参照ください。
ステークホルダーとの協働
イニシアティブへの参画
当社は、責任あるグローバル企業として国際的なフレームワークに基づいた取り組みや日本の業界団体を通じた幅広いパートナーシップを通じて、パリ協定の遵守や日本の中長期的なGHG削減貢献に寄与し、ステークホルダーに対し適切に情報開示すべく、イニシアティブへの参画を通じた気候変動への取り組みを推進・拡大させています。各イニシアティブへの参画においては当社の気候変動に対する基本方針・取り組みと合致しているか確認の上、参画を決定しています。
TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)
当社は2018年12月、気候変動がもたらすリスクおよび機会の財務的影響を把握し、開示することを狙いとした提言 “Task Force on Climate-related Financial Disclosures”に賛同しました。
TCFDコンソーシアム
TCFDコンソーシアムは、TCFD 提言へ賛同する企業や金融機関等が一体となって取り組みを推進し、企業の効果的な情報開示や、開示された情報を金融機関等の適切な投資判断につなげるための取り組みについて議論する場として経済産業省・金融庁・環境省をオブザーバーとし、2019年に設立されました。当社は本コンソーシアムの会員企業として、TCFD提言に沿った適切な開示に引き続き取り組んでいきます。
CDP(Climate Change)
企業の気候変動リスクに関する情報公開プログラムCarbon Disclosure Projectに2011年から回答しています。2021年に実施されたCDPの質問書に対する回答の結果、「B」の評価を受けました。
Maersk Mc-Kinney Moller Center for Zero Carbon Shipping
海運業界における排出量削減が世界的な課題となっている中、海運業界の脱炭素化を目指しゼロカーボン輸送に向けた応用研究を行う「Maersk Mc-Kinney Moller Center for Zero Carbon Shipping」に、2021年4月に戦略的パートナーとして参画しました。
International Iron Metallics Association
International Iron Metallics AssociationはOre-Based Metallics(銑鉄、還元鉄等の鉄鉱石を原料とする鉄鋼原料)の業界団体であり、当社を含めた加盟メンバーの生産/取扱高は世界シェアの8割を超えます。 当社は従来よりこれら商品を含む冷鉄源商内を物流・投資の両面から推進しており、鉄鋼業の低炭素化に関連しこれら商材が注目を集める中、引続き本領域での事業展開を通じ鉄鋼業の低炭素化に貢献していきます。
ASI(Aluminium Stewardship Initiative)
ASIは、持続可能な社会へのアルミニウムの貢献の最大化をビジョンに掲げ、2012年に発足、アルミニウム生産者や需要家、国際アルミニウム協会等、さまざまなステークホルダー約226社・団体が参加(2022年5月現在)しています。国際基準の策定および認証システム確立を通じ、アルミニウムサプライチェーンにおける、サステナビリティ向上とESGへの貢献に取り組んでいます。当社は2020年1月に参画し、メンバーの一員としてこうした取り組みをサポートしていきます。
電池サプライチェーン協議会(Battery Association for Supply Chain; BASC)
一般社団法人電池サプライチェーン協議会(Battery Association for Supply Chain; BASC)は、脱炭素社会実現に向け、電池の原材料や部品に関わるサプライチェーンの国際競争力強化を推進する団体で、2021年4月に設立され、当社も設立時から会員として参加しています。他会員企業と共にリチウムの国際標準化、電池エコシステム構築に向けたルールメイキングなどの課題に対応していきます。
日本経済団体連合会
当社は、日本経済団体連合会における、以下の委員会等に参画しています。
- 企業行動・SDGs委員会:企業行動憲章の周知、「Society 5.0 for SDGs」の普及・推進、企業の社会貢献活動推進
- 資源・エネルギー対策委員会:S+3E(Safety+Energy Security、Economic Efficiency、Environment)のバランスを確保したエネルギー政策の推進
- 開発協力推進委員会:インフラシステムの海外展開の推進、各国政府・国際機関との連携
- 環境安全委員会:気候変動対策、循環経済推進、環境規制・制度等の改善
日本貿易会
当社は、日本貿易会の地球環境委員会のメンバーとして、気候変動分野の活動に積極的に関与しています。具体的には、商社業界全体のエネルギー使用量の把握、3R(リデュース、リユース、リサイクル)活動の推進、事業活動を通じた新エネルギー対応の取りまとめ、気候変動対策長期ビジョンの策定等を行っています。また、商社の観点でのサステナビリティ・CSRに関する課題の検討や内外の動きについて調査・研究を行っているサステナビリティ推進委員会のメンバーとして活動しています。
GXリーグ基本構想
当社は、2022年2月に経済産業省が公表したGX(グリーントランスフォーメーション)リーグ基本構想に賛同しました。
GXリーグは日本および世界全体のカーボンニュートラルの達成に向け、脱炭素化に積極的に取り組む企業群が経済社会システム全体の変革のための議論と新たな市場の創造のための実践を行う場であり、他の賛同企業と共にGXリーグの稼働に向け詳細設計の議論と取り組みの実証に積極的に参加していきます。
一般社団法人 水素バリューチェーン推進協議会
水素バリューチェーン推進協議会は水素社会の構築・拡大を目指し、水素分野におけるグローバルな連携や水素サプライチェーンの形成を推進するため2020年12月に設立された団体です。同団体は2022年4月に一般社団法人化され、同団体の準備委員会設立時から参加している当社は、理事会員として、水素社会の実現に向けて他の会員企業と共に取り組んでいきます。
FSC®(Forest Stewardship Council®、森林管理協議会)
環境NGO、民間企業や先住民団体等による会員制の非営利組織FSC®(Forest Stewardship Council®、森林管理協議会)は、環境保全の点からみて適切で、人権尊重等、社会的な利益にかない、経済的にも継続可能な森林管理を世界に広めるための国際的な非営利組織です。
当社は、全国74か所、約44,000ヘクタールすべての社有林「三井物産の森」で、森林管理を対象とするFM認証(FOREST MANAGEMENT )を取得し(FSC®-C057355)、切り出した木材の加工・流通を対象とするCOC認証(CHAIN OF CUSTODY)を子会社である三井物産フォレスト株式会社が取得しています(FSC®-C031328)。数量としては日本国内で民間企業ではトップクラスの国産FSC®認証材供給を行う当社は、国内におけるFSC®の普及・推進、日本版の原則基準の検討・作成にも協力しています。なお、当社では、植林事業においてもFSC®認証を取得し、責任ある森林資源管理を推進しています。
一般社団法人 カーボンリサイクルファンド
CO2を資源として捉え、カーボンリサイクルイノベーションを推進するというカーボンリサイクル政策が日本のエネルギー政策の重要な要素となってきています。一般社団法人カーボンリサイクルファンドは、カーボンリサイクルイノベーション創出による地球温暖化問題と世界のエネルギーアクセス改善の同時解決を目的として、2019年8月に設立され、当社は2020年1月から加盟しています。低炭素化に有用なCCUSに関する最新情報へのアクセスや会員各社とのネットワーキング強化を通じ、事業機会の追求および気候変動問題の解決への貢献を目指します。
一般社団法人 エネルギー総合工学研究所 ACC技術研究会
CCS技術は大量のCO2処理が可能であり、CO2削減のための有効な手法と考えられますが、昨今CCU技術においても大量のCO2処理が可能な技術、システムの構築が求められています。CO2の有効利用技術に関する調査、研究、情報発信を行い、その早期実現と社会実装に寄与することを目的として、2018年10月に発足したACC技術研究会に当社は2020年7月から加盟しています。
クリーン燃料アンモニア協会
アンモニアエネルギーの利用技術の社会実装に加え、CO2フリーアンモニアの供給から利用までのバリューチェーン構築を目指し、技術開発・評価、経済性評価、政策提言、国際連携などの産学官のプラットホームである一般社団法人クリーン燃料アンモニア協会に、2019年4月から理事会員として参画しています。
取り組み
当社では、中期経営計画や環境方針に気候変動への対応を掲げ、経済の発展と気候変動への対応の両立を目指し、当社が関与するバリューチェーンの中でサプライヤーをはじめとする取引先と環境負荷への低減に向け対話し、取り組みを進めています。また、再生可能エネルギー事業、モーダルシフト推進事業のほかCO2の排出抑制に寄与する事業や、エネルギー消費の効率改善につながるさまざまな事業の拡大および技術の普及に取り組んでいます。
国内すべての事業所で使用する電力の実質CO2フリー化(再生可能エネルギー由来のクレジット活用)
当社は、2050年の「あり姿」としてのネットゼロエミッションの具体的な施策の一つとして、2020年5月に移転した本社ビルで使用する電力を、主に当社の出資先である福島天然ガス発電所(福島県相馬郡新地町)から調達し、関係会社である甲南ユーテイリテイ株式会社(以下、甲南ユーテイリテイ)のバイオマス発電で創出した再生可能エネルギー由来のクレジットを適用することで、実質CO2フリー化としています。加えて、国内のすべての支社・支店と研修所を含む事業所で使用する電力にも、甲南ユーテイリテイや社有林「三井物産の森」から創出されるクレジットを適用することで、本社および国内すべての事業所で使用する電力を実質CO2フリー化しています。
気候変動への適応に関する取り組み-中東における植物工場事業
- ニュートリション・アグリカルチャー本部

当社は、2022年3月、中東における植物工場事業に参画しました。当社およびサウジアラビアの小売店Tamimi markets、イタリアの植物工場事業会社ZEROと共同事業会社を設立し、将来の大規模生産を見据えての植物工場の生産、および販売の実証事業を開始します。中東においては、生鮮作物の消費が増加する一方、厳しい気候環境により食料自給率の向上が課題です。
植物工場は、水の使用量をコントロールすることにより節水を実現(水90%前後減)し、また、一般的な露地栽培に比べてCO2の排出量を45%抑えられるほか、気象条件に左右されない安定供給体制の構築が可能です。さらに、生産地と消費地の近接により、輸送時の食品ロスおよび、食糧輸送時のCO2排出(フードマイレージ)の削減も見込まれています。
世界人口の増加により、一人当たりの耕作地面積は2050年までに、2005年比で25%減少するともいわれる中*、低環境負荷な農業生産へのニーズが拡大、フードチェーンの可視化など、農業生産においても、環境や社会的課題への配慮といった意識が高まっており、よりサステナブルな農業生産性向上が求められています。
当社は、植物工場事業を通じた生鮮野菜・果物の地産地消により当該食材の自給率向上・品質向上・食の安心安全の実現に寄与します。
*:国連「世界人口推計2019年版」、農林水産省「2050年における世界の食料需給見通し(2019年)」
再生可能エネルギー
- プロジェクト本部
- エネルギーソリューション本部
発電事業として、持分発電容量における石炭火力の比率は段階的に引き下げ、水力を含む再生可能エネルギー比率を2030年までに30%に引き上げる方針です。2023年3月末現在、当社持分発電容量は11.0GWで、そのうち水力を含む再生可能エネルギー比率は23%を占めています。
発電事業一覧
※下記表は横にスクロールしてご覧ください。
(2023年3月末現在)
燃料・種別 | 持分(MW)* | 比率 | 目標 | ||
---|---|---|---|---|---|
ガス | 6,169 | 56% | 70%未満 | ||
石炭 | 2,048 | 18% | |||
石油 | 296 | 3% | |||
再生可能エネルギー | 2,551 | 23% | 30%以上 | ||
内訳 | 太陽光 | 773 | |||
水力 | 816 | ||||
風力 | 940 | ||||
太陽熱 | 15 | ||||
バイオマス | 5 | ||||
地熱 | 2 | ||||
合計 | 11,064 | 100% | 100% |
*建設中含む
詳細はリンク先をご参照ください。
発電事業一覧(再生可能エネルギー事業、ガス火力発電事業、石炭火力発電事業、石油火力発電事業)2023年3月末現在(PDF 144KB)
再生可能エネルギー事業をグローバルに展開するMainstream Renewable Powerへの出資参画
- プロジェクト本部
当社は、ノルウェーのクリーンエネルギー投資会社Aker Horizons ASA(以下、Aker Horizons)が持株会社を通じて保有する再生可能エネルギー事業者Mainstream Renewable Power Limited(以下、Mainstream)に出資参画しました。
Mainstreamは中南米・アフリカを中心に陸上・洋上風力並びに太陽光を手掛ける、同地域における再生可能エネルギー事業のリーディングカンパニーです。イギリスにおける洋上風力を始めとする6.5GWの開発実績、中南米・アフリカ・アジアにおける建設・操業・開発中計16.6GWの資産を有し、エネルギートランジションを機会とし、グローバルポートフォリオの拡大に向け、今後10年で上記資産の立ち上げを含め25GWの開発を目指しています。
Aker Horizonsの親会社であるAker ASAは1841年に創業したノルウェー第2位の石油ガス複合企業グループです。近年脱炭素に舵を切り、再エネ分野の中核企業としてAker Horizonsを設立し、傘下にMainstreamの他、CO2回収・貯留(Carbon Capture and Storage)開発事業会社、クリーン水素・アンモニア開発事業会社、洋上風力開発事業会社を保有しています。
当社は、世界各国での大型発電所建設・運営ノウハウやグローバルな顧客ネットワークを活かし、Mainstreamの成長と企業価値向上に貢献します。また本参画を通じて、規模感ある再生可能エネルギー電源開発を推進し、発電ポートフォリオの更なる良質化・事業を通じた社会のGHG排出量削減加速に繋げます。
インド大型再生可能エネルギー事業への出資参画
- プロジェクト本部
当社は、三井物産100%子会社ミットパワーインディアを通じ、インド再生可能エネルギー事業者最大手ReNew Power Private Limitedが推進する大型再生可能エネルギー事業の開発に参画しました。本事業は、インド国内に3件の風力発電所(総出力90万kW)および1件の太陽光発電所(総出力40万kW、最大10万kWhの蓄電システムを併設予定)を新設し、インド新・再生エネルギー省傘下のインド太陽エネルギー公社 Solar Energy Corporation of India Limitedとの25年間の長期売電契約に基づき40万kWの電力を安定的に供給するものです。従来の再生可能エネルギー案件は、風況或いは日照量により発電量が変動し、安定的な電力供給が難しいのが課題でした。本事業は、蓄電技術を含めた複数の再生可能エネルギー発電所から24時間安定的に電力供給を行うことを契約条件に含めたインド初のRound-the-Clock(ラウンド・ザ・クロック)スキーム型事業となります。総事業費は約13.5億米ドルで、2023年8月の商業運転開始を予定しています。三井物産は、これまで国内外で培ってきた発電事業の知見を活用し、本事業の着実な完工と円滑な事業運営に貢献します。
インドは現時点で世界第三位の温室効果ガス(GHG)排出国ですが、インド政府は、2021年11月に開催された第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)にて2070年迄にGHG排出量ネットゼロを表明し、非化石燃料による発電容量を2030年までに500GWに引き上げる方針を発表しました。再生可能エネルギー100%の電力を安定して供給することが可能となるRound-the-Clockスキームの推進は、こうしたインド政府の方針に合致するものであり、現在インド総発電設備容量の過半を超える石炭火力発電所を将来的に置き換える役割を果たすことが期待されます。人口やGDPの継続的な成長が見込まれるインドに於いて再生可能エネルギーは今後も拡大が期待される事業分野です。当社は本事業を通じて、インドの電力不足解消と脱炭素化の推進に貢献していきます。
代替燃料
水素関連
- エネルギーソリューション本部
水素は、利用時に温室効果ガス(GHG)や環境有害物質を排出せず、環境負荷のないクリーン燃料として世界中で注目されています。当社においては、エネルギーソリューション本部を核とし、各事業セグメントが持つネットワーク・知見を活用し、社内横断的な協業により総合力を発揮した水素事業に取り組んでいます。当社は、水素事業をNet-zero emissionsを達成するために有効なアプローチの一つと捉え、ステークホルダーと共に必要な社会基盤作りを進め、収益力のある事業創出に向け尽力していきます。
クリーン水素製造技術の開発
- エネルギーソリューション本部
当社は、天然ガスなどに多く含まれるメタンからクリーン水素を製造する次世代技術を開発するカナダEKONA Power, Inc.社に出資参画しています。
電力やモビリティを含むさまざまな産業において、燃焼時にCO2を排出しないクリーンなエネルギーである水素の活用は、脱炭素社会の実現に向けて重要な位置づけとなります。一方で、クリーン水素の製造のためには、製造過程で排出されるCO2の回収・貯留(CCS)など、コスト面や技術面などの課題もあり、その実現には技術革新が必要とされています。EKONA社は、メタン熱分解と呼ばれるメタンから水素と固体炭素を取り出す技術を開発しています。本技術は従来の水蒸気改質*による水素製造技術と比べ、同程度の製造コストに抑えながらも製造過程におけるCO2排出量の削減を実現するものです。また同社技術では、大部分の炭素分が固体炭素として生成されるため、CO2の処理が必要なく、さらに既存の天然ガスやLNGのインフラを活用しながらクリーンな水素製造が可能となります。産業界が具体的なCO2削減策を検討する中で、当社は主に日本における水素製造において本技術を活用した事業展開を目指します。
*化石燃料を触媒下で加熱し化学反応させてガスにし、そのガスの中から水素を取り出す水素製造方法を「改質法」といいます。特にメタンを改質して水素を作る方法は水蒸気改質法と呼ばれ、すでに工業分野で広く利用されています。製造コストは比較的安いが、CO2の発生を伴うのが課題となっています

触媒を用いない独自の熱分解方式を用いてメタンを高温条件下で水素と固体炭素に分離させ、クリーンな水素を取り出す技術。
欧州におけるグリーン水素製造事業
- パフォーマンスマテリアルズ本部

当社は、2022年4月に、欧州で再生可能エネルギーを利用し、製造過程でCO2を出さないグリーン水素を製造するフランスLhyfe(ライフ)SAの転換社債10百万ユーロ(約13.5億円)の引き受けを行いました(5月下旬に普通株転換済)。Lhyfe社はフランスの原子力・代替エネルギー庁(CEA)出身のメンバーが、再生可能エネルギーに関する知見を元に、グリーン水素製造で温室効果ガス(GHG)の排出量を低減するべく2017年に設立、2021年に風力発電所と直接つないだグリーン水素製造のための第一号商業プラントを立ち上げました。既に欧州10か国で活動しており、モビリティ向けおよび産業向けに、2022年から2028年にかけて稼働開始を予定している90以上のパイプライン案件を有しています。
欧州連合では、2050年までのネット(実質)ゼロ実現をターゲットとしたグリーンディール政策を打ち出し、2030年までに40GW(ギガワット)の水素製造用水電解装置の導入目標を掲げ、水素普及に向けた制度設計の導入が進んでいます。その中で、当社は、地産地消モデルでグリーン水素製造に取り組むLhyfe社への参画を通じて、欧州水素市場のインサイダー化を進め、既存の水素関連事業との相乗効果や新たな顧客開拓により、同社の企業価値向上につなげます。また、欧州水素収益基盤を確立し、欧州グリーン水素の発展によるGHG排出量削減加速に貢献していきます。
ニュージーランドにおける燃料電池大型車両向けグリーン水素供給ステーション事業
- エネルギーソリューション本部

当社は、2020年6月にHiringa Energy Limited(以下、HE社)と締結した戦略的提携契約に基づき、2021年9月、ニュージーランドで燃料電池大型車両向けグリーン水素供給ステーション事業を計画するHE社傘下のHiringa Refuelling New Zealand Limitedに出資しました。
ニュージーランドは水力、地熱、風力などの再生可能エネルギー(以下、再エネ)が豊富な国であり、2030年までに再エネによる発電を現在の85%から100%へ引き上げることを目指しています。そうした中で、同国発電セクターの温室効果ガス排出量(以下、排出量)が限定的である一方、輸送セクターの排出量は比較的高く、拡大傾向にあります。
本事業では、まずはニュージーランドの輸送拠点4都市に水素ステーションを2022年末までに設置し、排出量が大きい大型車両に再エネ由来のグリーン水素を供給します。これは、大型車両数は全登録車両数の約4%でありながら輸送セクターの排出量の約40%を占めることから、排出量の大幅な削減効果をねらうものです。将来的には水素供給拠点を拡大し、同国輸送セクターの排出量を加速度的に削減することを目指しています。
当社は、持続可能な地産地消型の水素社会実現に向けたHE社との包括的な取り組みを通じて、気候変動対応という世界の喫緊かつ複雑な課題の一つの解決策であるグリーン水素の事業に挑戦していきます。
バイオ燃料
インドにおける農業残渣サプライチェーンマネジメント事業
- エネルギーソリューション本部

当社は、2021年8月、インドで農業残渣サプライチェーンマネジメント事業を手掛けるPunjab Renewable Energy Systems Pvt. Ltd.(以下、PRESPL社)に出資参画しました。
世界屈指の農業大国であるインドでは、農業残渣の野焼きが深刻な大気汚染の主要因の一つとなっています。こうした中、インド政府により農業残渣などの「食と競合しない」非可食資源の有効活用政策が導入されていることを背景に、同国ではバイオマスエネルギー市場のさらなる拡大が見込まれています。PRESPL社は2011年の創業以来築き上げてきた農家との強固なネットワークを活かし、農業残渣の集荷・供給事業にとどまらず、農業残渣を原料としたブリケットの製造や熱源供給事業など、多岐にわたる事業を展開しています。
当社は今回の出資によりインドでの農業残渣を利活用したエネルギー事業を推進・強化します。出資後は、三井物産の保有する幅広い事業アセットとのシナジーを活かして、PRESPL社の事業拡大に取り組み、インドをはじめとしたグローバルでのバイオ燃料事業の拡大を目指します。これによりインドでの大気汚染などの社会課題解決に寄与し、地球温暖化をはじめとする地球規模の課題解決にも貢献していきます。
燃料アンモニア
ホスト国とのパートナーシップや長年培ってきた既存の顧客基盤・マーケティングノウハウ、クリーン燃料アンモニア協会への参画等、多数の産業へのリーチがある総合商社の強みを活かしたバリューチェーンの構築に取り組んでいきます。
西豪州におけるクリーン燃料アンモニア生産を見据えたCCS共同調査の実施
- エネルギー第一本部
当社と、独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、2021年、西豪州におけるクリーン燃料アンモニア生産の事業化を見据えて、CO2の回収・貯留(Carbon Capture and Storage、以下、CCS)に関する共同調査を実施することに合意し、当社100%子会社のMitsui E&P Australia Pty Ltd(以下、MEPAU)とJOGMECの間で契約を締結しました。
併せて、MEPAUはWesfarmers Chemicals, Energy & Fertilisers Limited (以下、WesCEF)と西豪州におけるクリーン燃料アンモニア生産に関する事業化調査を実施することに合意し、両社間で覚書を交換しました。
MEPAUは50%の権益を保有する西豪州ウェイトシアガス田をオペレーターとして開発中です。また、同社はウェイトシアガス田の近隣に位置する廃ガス田の権益を100%保有しています。こうした地理的に近い2つの地下資源(天然ガス生産とCO2貯留)を結びつけることで、当社は西豪州における石油・ガス生産事業のオペレーター機能に加えて、今後は既存優良ガス資産を活用したクリーン燃料アンモニアの生産と日本を含むアジアへの輸出に取り組むことを計画しています。
具体的には、ウェイトシアガス田で生産される天然ガスを改質して得られる水素をもとにアンモニアを合成し、その過程で排出されるCO2を廃ガス田に貯留することにより、クリーン燃料アンモニアを製造・輸出することを検討していきます。今回の共同調査では、廃ガス田におけるCCSの有効性を調べます。
WesCEFはアンモニア製造事業者として、製造・販売にわたって豊富な知見を有することから、MEPAUは同社との協業を決定しました。MEPAUとWesCEFは、日本を含むアジアと豪州国内へのクリーン燃料アンモニアの供給の実現に向けて、両社が持つ強み・ノウハウを活用して協業を進める方針です。また、クリーン燃料アンモニアのサプライチェーン確立に向けた投資および雇用創出を通じて、豪州経済にも貢献していきます。
当社は石油・ガス上流事業の知見と、2021年3月に出資参画した英国のStoregga Limited社との業務提携を通じて得られる知見を活用して、CCS事業をグローバルに展開し、「環境と調和した社会」の実現に向けて世界に低炭素エネルギーおよびCO2削減ソリューションの提供を目指します。
ブルーアンモニア製造
- ベーシックマテリアルズ本部
世界最大のアンモニア製造事業者である米国CF Industries Holdingとは、2021年7月にMOUを締結以来ブルーアンモニアプラント新設に関する協議を重ね、既に建設地の候補も固まり、共同でのFEED推進を近々に開始する予定で、2023年のFID、2027年の稼働開始を想定しています。また、CF Industriesは現在稼働中のアンモニアプラントのブルー化も進めており、当社のネットワークを活かし、アジア向けを中心に2024年頃からのブルーアンモニアの販売開始を見込んでいます。本邦への燃料アンモニアとしての供給および化学・肥料用途におけるクリーンアンモニアの供給を通じて、世界の脱炭素化に貢献していきます。

電源開発・エネルギーマネジメント
スマートグリッド・分散型電源
- プロジェクト本部
経済成長を続けるアジア・アフリカを中心に世界のエネルギー需要が増加する中、特に電力業界ではDecarbonization(脱炭素化)、Decentralization(分散化)、Digitalization(デジタル化)がメガトレンドとなっており、環境負荷の低い再生可能エネルギーへのシフトが急激に進んでいます。当社は、これら「3つのD」への対応として、集中電源としての太陽光発電や、風力発電に加え、より最終消費者に近いところでサービスを提供する分散型電源についても世界に広がる形で展開を進めています。
世界には電力へアクセスできない人々がアジアやアフリカを中心に約10億人*存在し、非電化が解消されたインドにおいても依然として長時間の停電の頻発が大きな社会課題になっています。一方で、これらの地域においても携帯電話の普及率は非常に高まっており、データ通信用に安定的な電力供給が重要になっています。そこで「地産地消型」分散型電源事業を通じて、携帯基地局を基盤顧客とし、さらに周辺の事業者や住民にも、主に太陽光発電や蓄電池を組み合わせた電力を安定供給するべく、当社は2017年にOMC Power Private Limited(以下、OMC)に出資参画しました。現在OMCが保有する発電拠点は280か所あり、同拠点から238か所の携帯電話基地局、約11,000か所の地域施設と銀行や学校等の事業所、約 15,000世帯・10万人の地域住民を支えています。当社はOMCと共に、少しでも多くの人々に環境にやさしい電力を届け、地域の生活・経済の向上へ貢献する取り組みをすすめていきます。
また、サハラ以南のアフリカでは、住宅や小規模商店の屋根上にソーラーパネルを設置し、太陽光発電により照明、携帯充電器、家電(ラジオ、TV)等を稼働させるSolar Home System(以下、SHS)事業を展開する、M-KOPA Holdings Ltd. (以下、M-KOPA)への出資参画を通じ、同地域へ電力供給を行っています。同地域では、送配電網整備の遅れによっていまだに6億人以上が照明や炊事に灯油を使用していましたが、SHSによって化石燃料である灯油の使用量を削減、環境負荷の低減にも貢献しています。アフリカでは今後も急速な経済成長を背景とした生活レベルの向上や生活様式の変化により電力需要の大幅な需要が見込まれることから、M-KOPAの提供するサービスの強化・拡大を加速することで、アフリカの人々の便利で快適な暮らしを支援していきます。
蓄電ICTシステムを用いたエネルギーマネジメントサービス
- エネルギーソリューション本部
再生可能エネルギー導入量がグローバルに増加している一方で、送配電系統への負荷増加、電力料金負担の不均衡、煩雑な需給調整などが課題となっています。当社はこうした問題に対応するため、蓄電ICTシステムを用いたエネルギーマネジメントサービスを提供するStem, Inc.、Sunverge Energy, Inc.へ出資しました。また、Stem社の蓄電システムと、北米で産業・商業需要家や公共機関向け分散太陽光事業に取り組む当社100%子会社のForefront Power社の分散太陽光をパッケージにしたソリューションを提供する等、多様化するニーズに応えるべく、新たなビジネスモデル開発にも取り組んでいます。さらに、再生可能エネルギーの急速な普及による電力市場のボラティリティの増加も課題となっており、当社では価格ヘッジや需給調整機能といったソリューションを提供するなど、構造変化による新たなニーズにも応えています。欧州ではアイルランドのErova Energy Limitedへの出資などを通じて、電力物流分野での事業拡大や機能向上にも貢献しています。
天然ガス発電
- エネルギー第二本部
- プロジェクト本部
当社が29%出資する福島ガス発電株式会社の福島ガス発電所は福島県相馬郡に2基の天然ガス火力発電設備を保有しており、その発電容量は118万KWです。発電設備はガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた、発電効率の高いガスタービン・コンバインドサイクル方式を採用しており、従来の火力発電方式と比較してCO2の排出量を削減することが可能です。
本事業は、福島県がイノベーション・コースト構想で目指している「環境負荷の低いエネルギーの導入」や「新たなまちづくり」などに沿うものです。当社は本事業の推進を通じ、震災からの復興を目指す福島県浜通り地域の経済の活性化に寄与するとともに、今後も社会の発展に不可欠な資源の持続可能な安定供給と、環境と調和した社会づくりに取り組んでいきます。
モーダルシフト推進事業
- モビリティ第一本部
長年取り組んできた鉄道リース事業に加え、各種鉄道プロジェクトの開発と運営に積極的に取り組むことで、社会インフラを整備・構築するとともに、モーダルシフトを推進しグリーン物流に貢献しています。2022年3月末現在、当社が鉄道運営に参画している鉄道網は、貨物関連が10,700キロメートル、旅客関連が2,810キロメートルとなっています。
※下記表は横にスクロールしてご覧ください。
(2022年3月現在)
事業内容 | 国・地域 | 事業規模等 | |
---|---|---|---|
貨車リース事業 | 米国 | 世界4極(米国、ブラジル、欧州、ロシア) 総保有貨車数 約15,200両 総保有機関車数 約350両 |
|
ロシア | |||
貨車レンタル事業 | ブラジル | ||
機関車リース事業 | 欧州 | ||
貨物輸送事業 | ブラジル | 約10,700キロメートルの鉄道網および港湾ターミナルの運営 | |
旅客鉄道事業 | |||
リオデジャネイロ近郊鉄道 | 輸送実績 約35.2万人/日(2021年12月) | ||
リオデジャネイロ Light Rail Train | 輸送実績 約5.7万人/日(2021年12月) | ||
サンパウロ地下鉄4号線 | 輸送実績 約47.7万人/日(2021年12月) | ||
East Anglia | 英国 | 輸送実績 年間 約3,977万人(2021年12月) | |
West Midlands | 輸送実績 年間 約3,279万人(2021年12月) |
EV(Electric Vehicles)
- モビリティ第一本部
- エネルソリューション本部
当社が新たな成長分野と定めるモビリティ(移動手段)分野のなかでも、「電動(EV)化」は、成長が見込める分野です。当社は、EV導入が加速している欧州でインフラを含め総合的にEV化を支援するビジネスモデルを構築し、他地域でも展開していきます。
当社は、これまで出資したEVメーカーLucid Group, Inc.、CaetanoBus-Fabricação De Carroçarias S.A、Letenda Inc.、電池パックメーカーForsee Power SA、EV用電池を利用したエネルギーマネジメント会社The Mobility House社などを有機的に結びつけ、包括的なソリューションを提供する新たなビジネスモデルの構築を目指しています。たとえば、ある街で路線バスのEV化が検討された場合、当社は街のEV化を加速させる役割を担いたいと考えています。具体的には、EVバスの供給、電池リース機能提供、エネルギーマネジメントを含めた包括的なサービスを提案することです。さらに、将来的には使用済み電池の再利用・再リースに関わるビジネスも視野に入れています。当社はこれらの取り組みを、まずは欧米において開始し、そこからアジアへと広げていきます。
欧州他におけるZEV(Zero Emission Vehicle)バス事業
- モビリティ第一本部
2017年12月、当社はポルトガルのCaetanoBus(以下、カエタノバス)に出資参画しました。同社は2010年よりEVバスの開発に取り組んでおり、2016年には空港内乗客輸送のランプバスを販売開始、2017年にはEV路線バスの商業生産・販売を欧州でスタートさせています。当社のグローバルネットワークを活用して同社製バスの拡販を支援しています。カエタノバスの世界展開の一例として、2020年春にはロンドン2路線に合計34両のシングルデッカー電動バスを納入。また、FC(燃料電池)路線バスは2020年末に開発完了し、ドイツやサウジアラビアを皮切りにトヨタ製燃料電池を搭載したFCバスの販売を開始しています。引き続きカエタノバスと共に、脱炭素社会に向けたオペレーションに合った最適なソリューションの提供を検討していきます。
産業オペレーション・オートメーション
- コーポレートディベロップメント本部
プラスオートメーション株式会社(以下、+A)は、2019年6月に設立された物流ロボットサービス会社です。当社のネットワークを活用したロボット調達力や物流子会社の知見、物流不動産のリーディングカンパニーである日本GLP株式会社のカスタマーネットワーク、グローバルに物流ソリューション事業を展開する株式会社豊田自動織機のエンジニアリングノウハウを活用し、顧客の課題に寄り添いながら物流の課題解決に取り組んでいます。2022年6月現在、累計ロボット導入台数が1,500台を超える等サービス展開を加速、さらには、ロボットをはじめ、多様な物流機器やシステムの連携を可能とする独自開発システム「+Hub」の提供により、付加価値向上を図っています。
eコマース拡大、販売のオムニチャネル化、人手不足、職場環境の変化等により、物流現場では自動化のニーズがますます高まっています。+Aでは「テクノロジーで次代のロジスティクスを共に創る。」のビジョンの下、高い機動力と柔軟性を維持しながらも初期投資不要のサブスクリプション型の一貫サービス「RaaS(Robotics as a Service)」を通じ、ロボットを始めとする自動化機器を物流業界全体でシェアリングし業界全体を繋げながら物流高度化に貢献します。

エア・クオリティ
CCS事業への参画
- エネルギー第一本部
当社は、CO2の回収・貯留(Carbon Capture and Storage、以下、CCS)の事業会社である在英国のStoregga Limited(以下、Storegga社)に出資参画しています。Storegga社は英国政府が掲げるCO2排出量削減と2050年までのCO2 Net-zero emissions達成に向けて、英国ならびに周辺諸国から排出されるCO2の回収・輸送・貯留を行うAcorn CCSプロジェクトを開発中です。Acorn CCSプロジェクトは有望なCO2貯留層として、生産が減退した油田やガス田を活用し、既存インフラを転用することでコスト競争力を実現します。加えて、Storegga社は大気中から直接CO2を回収するDirect Air Capture技術(以下、DAC)の事業化などにも取り組んでおり、当社とStoregga社はDAC技術の事業化に向けてMOUを締結しています。当社はStoregga社とともにDAC技術の事業化に向けた共同調査、当社によるカーボン・クレジットの引き取り・販売、同事業への出資参画に関しても検討を進めていきます。
また、当社はインドネシア国営石油会社のプルタミナと同国でのCCUS事業化を目指し、共同調査を開始しました。本調査は、同国スマトラ島中部でプルタミナが操業する国内最大規模の陸上油・ガス田群であるRokan(ロカン)鉱区内において、生産が減退した油・ガス田におけるCO2地下貯留可能量を評価し、産業・発電プラント等から排出されるCO2の回収、輸送を含めたCCUSバリューチェーンの構築に向けた事業化検討を行うものでインドネシア国内のみならず、船舶輸送による日本を含めた国外からのCO2受け入れも検討対象としており、同国での新たな低炭素ビジネスの創出を狙います。
当社は石油・ガス上流事業の知見と広範なビジネスネットワークを活用し、CO2の回収・利用・貯留(Carbon Capture, Utilization and Storage(以下、CCUS))事業に関する制度設計が先行しつつある英国や欧州で得た知見および当社の総合力を活用して、アジアを含めたグローバルなCCUS事業を展開し、世界にCO2削減ソリューションを提供することを目指します。
CCU–米国でのCO2を有効活用したメタノールの製造
- ベーシックマテリアルズ本部
当社関係会社のFairway Methanol LLCでは、周辺プラントで副生される二酸化炭素(CO2)を原料として購入(最大で年間約18万トン)、有効利用してメタノールを製造(年間約13万トン)する設備の増設を2021年3月に決定しました。今回の設備の増強は、既存の工場能力を最大限に有効活用したもので、増設分の原料には周辺工場で副生されている二酸化炭素を使用します。二酸化炭素を分離・有効利用するCCU(Carbon Capture and Utilization)の取り組みの一つで、二酸化炭素を資源と捉え素材や燃料に再利用することで、大気中への排出を抑制するカーボンリサイクルを実現するものです。
メタノールは住宅建材、自動車・エレクトロニクス用高機能樹脂、医薬品用途など、さまざまな産業の基礎原料として今後も安定的な需要の伸長が見込まれています。また、昨今では、二酸化炭素を原料とした基幹化学物質としても注目が高まっています。当社は、メタノールのトレーディング事業にも長く従事しており、製造面でも今回増設を行う北米での事業に加え、サウジアラビアでも製造事業へ参画しています。
当社はメタノールの安定供給を通じて幅広い産業の発展、持続可能な社会の実現、また、中期経営計画で目標に掲げた2050年のNet-zero emissionsの達成に向けて、既存事業と、そこで培ったノウハウを活かして脱炭素社会実現に向けた取り組みを進めていきます。
素材
リサイクルポリプロピレン製造事業開発
- パフォーマンスマテリアルズ本部

既存技術(THE PAST)、PureCycle技術(THE FUTURE)
当社は、2021年9月、米国PureCycle Technologies, Inc.(以下、PCT社)と、日本におけるリサイクルポリプロピレン樹脂製造事業の共同開発に向けた覚書を締結しました。
海洋プラスチック問題や気候変動といった環境問題を背景に、日本でも更なるプラスチックのリサイクル活用が求められています。しかし、包装材料や自動車材料に広く利用されるポリプロピレン樹脂(以下、PP樹脂)は、分離が難しい着色料等の添加剤を含んでいることが多く、リサイクル材が利用出来る用途は限られています。
PCT社は、廃プラスチックからヴァージン材と同等品質であるUltra-Pure Recycled Polypropylene(UPRP)と呼ばれるリサイクルPP樹脂を生産する技術ライセンスを有し、UPRPの生産に成功しています。現在、2022年末の稼働を目指して米国オハイオ州に年産約5万トンの工場を建設中です。同工場で生産されるリサイクルPP樹脂は既に20年先まで長期引取契約として概ね販売合意済みで、他にジョージア州オーガスタでも大規模リサイクル工場の建設が計画されています。
当社は、本案件の推進により消費財や食品の容器、自動車内装材向け等にもリサイクルPP樹脂の用途拡大を目指し、廃プラスチックの確保からリサイクルPP樹脂の製造、お客様への供給までのサプライチェーンを構築することで、廃プラスチックの削減、サーキュラーエコノミーの確立に貢献していきます。
グリーンビルディング
- コーポレートディベロップメント本部
当社は、低環境負荷物件への投資と、保有物件の運用における環境・省エネルギー対策等を通じたエネルギー利用の効率化に取り組み、低環境負荷ポートフォリオの構築を目指しています。
日本ロジスティクスファンド投資法人
当社子会社の三井物産ロジスティクス・パートナーズ株式会社が運用する上場REIT・日本ロジスティクスファンド投資法人(以下、日本ロジ)では、DBJ Green Building認証※1を15物件で取得しているほか、BELS評価※2、CASBEE評価※3を取得しています。
また、さらなる推進をはかるべく、資金調達拡充の一つとして、2021年4月にグリーンボンドを発行しました。なお、本グリーンボンド発行の仕組みに対する第三者評価として、株式会社日本格付研究所(以下、JCR)より、「JCRグリーンファイナンス・フレームワーク評価」の最上位評価である「Green1(F)」の評価を取得しています。
※1:環境・社会への配慮がなされた不動産(“Green Building”)を支援するために、2011 年4 月に株式会社日本政策投資銀行(以下、DBJ)が創設した認証制度です。
※2:建築物の省エネルギー性能を表示する第三者認証制度です。
※3:建物の環境性能を評価し格付けするもので、省エネや省資源・リサイクル性能といった環境負荷削減の側面に加え、室内の快適性や景観への配慮も含めた建築物の環境性能を総合的に評価するシステムです。
外部認証の取得
GRESBリアルエステイト評価
不動産会社・ファンドの環境・社会・ガバナンス(ESG)配慮を測る年次のベンチマーク評価GRESBリアルエステイト評価において、日本ロジは2021年、最高位の「5スター」評価を取得しました。また、ESG推進のための方針や組織体制などを評価する「マネジメント・コンポーネント」と保有物件での環境パフォーマンスやテナントとの取り組み等を評価する「パフォーマンス・コンポーネント」の双方において優れた参加者であることを示す「グリーンスター」の評価を4年連続で獲得しました。さらに、ESG情報開示の充実度を測るGRESB開示評価においても、ESG情報開示の取り組みが高く評価され、最上位の「Aレベル」の評価を取得しました。
*:不動産会社・ファンドの環境・社会・ガバナンス(ESG)配慮を測る年次のベンチマーク評価およびそれを運営する組織の名称。
グリーンビル認証取得
グリーンビルディング認証等の環境認証・評価の取得を継続的に推進し、保有物件のグリーン認証取得割合(賃貸可能面積ベース)について、以下を目指します。
- 2025年度までに50%まで向上
- 2030年度までに70%まで向上
グリーンビル認証取得割合(2021年7月31日時点)
※下記表は横にスクロールしてご覧ください。
認証種別 | 物件数 | 賃貸可能面積 (m2) |
ポートフォリオ 面積割合 |
---|---|---|---|
DBJ Green Building | 15 | 572,847 | 44.0% |
BELS | 3 | 153,067 | 11.8% |
DBJグリーンビルディング認証取得物件一覧
評価 | 取得年 | 物件名 |
---|---|---|
4つ星 | 2018年 | M-6 船橋西浦物流センター |
M-12 横浜福浦物流センター | ||
M-13 八千代物流センターII | ||
M-19 草加物流センター | ||
M-26 相模原物流センター | ||
M-31 新木場物流センターII | ||
M-32 横浜町田物流センター | ||
2019年 | M-11 八千代物流センター | |
M-24 新子安物流センター | ||
3つ星 | 2018年 | M-5 浦安千鳥物流センター |
M-22 武蔵村山物流センター | ||
2019年 | M-28 千葉北物流センターII | |
M-25 三郷物流センター | ||
M-39 埼玉騎西物流センター | ||
M-40 加須物流センター |
BELS認証取得物件一覧
評価 | 取得年 | 物件名 |
---|---|---|
5つ星 | 2020年 | M-11 八千代物流センター |
2021年 | M-19 草加物流センター | |
M-22 武蔵村山物流センター |
CASBEE
再開発後の八千代物流センターおよび市川物流センターII、横浜町田物流センターにおいて、CASBEE-建築(新築)Aランクを取得しました。
投資法人みらい
上場REIT・投資法人みらいの資産運用会社である当社関連会社の三井物産・イデラパートナーズ株式会社は、サステナビリティ基本方針に基づき、継続的なリアルエステイト評価への参加やグリーンファイナンス等のサステナビリティに関する施策を推進しています。
外部認証の取得
GRESBリアルエステイト評価
上場REIT・投資法人みらいは2021年に実施されたGRESBリアルエステイト評価において、総合スコアの相対評価によるGRESBレーティングで「2スター」の評価を、また、ESGの推進方針や組織体制を評価する「マネジメント・コンポーネント」と保有物件での環境パフォーマンスやテナントとの取り組みを評価する「パフォーマンス・コンポーネント」の双方において優れた参加者であることを示す「グリーンスター」の評価を、ESG情報開示の充実度を測るGRESB開示評価においても「Bレベル」の評価を取得しました。
DBJ Green Building
投資法人みらいは、DBJ Green Building 認証を7物件で取得しています。ポートフォリオにおける環境認証の取得率は以下のとおりです。
(2022年4月15日時点)
取得価格ベース | 延床面積ベース |
---|---|
55.4% | 74.4% |
評価 | 取得年 | 物件名 |
---|---|---|
4つ星 | 2019年 | 新宿イーストサイドスクエア |
3つ星 | 2018年 | 品川シーサイドパークタワー |
2019年 | 六甲アイランドDC | |
2020年 | 東京フロントテラス | |
2021年 | ミ・ナーラ | |
1つ星 | 2020年 | MIテラス名古屋伏見 |
川崎テックセンター |
森林吸収源・排出権ビジネス
- パフォーマンスマテリアルズ本部

当社は、オセアニア・アジア・北米で植林アセットマネジメント事業を展開するNew Forests Pty Limited(オーストラリア、管理下資産総額約4,700億円、資産面積約79万ヘクタール、以下、New Forests)に出資参画しています。同社管理下森林資産のCO2貯蔵量は1.7億tCO2e、2020年のカーボンクレジット獲得量は750万tCO2eに上ります。
また、当社は2021年12月New Forestsと共同開発した森林カーボンクレジット・ファンド事業に出資参画しました。総事業費は初期段階で約50百万豪ドル、創出されるカーボンクレジットは合計約400万tCO2eを予定しており、市場ニーズに応じて総計1,000万tCO2e超まで事業拡張を目指します。
当社は、持続可能な森林資源の供給に加え、森林吸収源・排出権を創出する森林ファンド事業を通じて地球温暖化防止に貢献していきます。
パフォーマンス
GHG排出量
当社は、国内では2006年3月期から、海外では2009年3月期からGHG排出量調査を実施しています。GHG排出量としては、従来GHGプロトコル*1の支配力基準に基づくScope1、およびScope2を開示してきました*2。これに加え、2020年3月期からは当社のScope1、2に該当しない投資形態のエネルギー・金属資源・火力発電事業等におけるScope 1、2、および全事業領域の関連会社のScope1、2について、Scope3のカテゴリー15(投資に伴う間接排出)として追加で開示しました。気候変動に対応するリスク耐性を意識したポートフォリオの継続的な見直しと、幅広い事業展開を活かした機動的な機会への挑戦に取り組むという当社戦略の観点より、開示範囲を拡充したものです。
2022年3月期の本店、国内支社・支店、連結国内外子会社によるGHG排出量は59万トン、金属資源・エネルギー分野の共同支配事業(Un-incorporated JV)によるGHG排出量は359万トンで合計418万トンとなっています。また、Scope 3カテゴリー15投資によるGHG排出量は3,600万トンです。
*1:GHGプロトコル:WRI(世界資源研究所)とWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)を中心としたイニシアティブにより策定されたGHG排出量の算定および報告基準。
*2:集計範囲は本店、国内支社・支店、全ての連結国内外子会社(100%)およびUn-incorporated JVを対象。
その他参考データ
2021年3月期 | 2022年3月期 | |
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販売費および一般管理費に含まれる研究開発費(環境課題解決に向けた研究開発用途を含む) | 40億円 | 41億円 |
社有林「三井物産の森」で年間16万トンのCO2を吸収・固定
社有林「三井物産の森」におけるCO2吸収・固定量*1は、年間約16万トン、CO2蓄積量は約1,000万トンと推計され、持続可能な森林経営を通じて気候変動リスクの緩和に貢献しています。また、同社有林の公益的価値は約2,000億円*2と推計されています。
*1:“2019 Refinement to the 2006 IPCC Guidelines on National Greenhouse Gas Inventories”のChapter 4 Forest Landにおける Tier 2アプローチを採用し算出。従来の2006 IPCC GuidelinesにおけるTier1アプローチによる算出に代え、2021年3月期から精緻化を図るためTier2に変更。
*2:環境省「企業の生物多様性保全活動に関わる生態系サービスの価値評価」を基に算出。