Governance
リスクマネジメント
リスクを全社横断的に見て、重要なリスクを特定するとともに、適切にコントロールするための取組みを行っています。事業本部長及び地域本部長は、権限の範囲内で職務遂行する一環で、担当領域のリスク管理に責任を負っています。一方、コーポレートスタッフ部門各部は、担当分野のリスク管理について、事業本部・地域本部を支援するとともに、全社ポジションを把握し、経営に報告します。その上で、経営会議諮問機関や下部組織である各種主要委員会は、全社リスク管理体制の設計・整備や重要なリスクへの対処にあたります。経営会議及びその諮問機関であるポートフォリオ管理委員会を核として、全社で一元的にリスクを管理する統合リスク管理体制を構築しています。事務局を務めるコーポレートスタッフ部門担当部署が全社的観点でリスクを統括し、全社横断的に見て、発生頻度と想定損害規模、及びリスク許容度を踏まえ、関係部署と連携しつつ、重要なリスクを特定し、対策を講じています。2025年3月期はこれらの取組みについて、ポートフォリオ管理委員会での議論を経て、経営会議及び取締役会に報告しました。また、こうした体制のもと、関係会社経営においては、リスクと統制の有効性を自律的に評価・改善する内部統制の自己点検であるCSA(Control Self-Assessment)を実施し、適切なリスクマネジメントの維持・向上に努めています。
当社リスクマネジメント体制(イメージ)
リスクアセットを用いた定量分析
株主資本とリスクアセット
当社では、統合リスク管理の一環として、定量的なリスク分析を毎年実施しています。その結果は、「当社のリスクエクスポージャーとコントロール」と題して、ポートフォリオ管理委員会で議論を実施し、経営会議及び取締役会に報告しています。定量的なリスク分析にあたり、バランスシートの資産に内在するリスクに加えて、市場リスクや保証債務等オフバランスのリスクを一定の基準で評価の上、「リスクアセット」と称し、そのリスク量を定期的にモニタリングしています。リスクアセットは事業投資リスク、与信リスク、市場リスクといった分類に加え、セグメントや国・地域別等、さまざまな切り口で現状分析を行うための統合的なリスク管理の礎です。リスクアセットは、過去10年間で株主資本のおよそ6~7割の範囲内で推移していることを確認しています。
また、株主資本に対するリスクアセットの割合(水準)に加えて、リスクアセットに対する当期利益の割合(水準)も確認しています。赤字決算となった2016年3月期以降、およそ15%前後で推移していましたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響が見られた2021年3月期には、10%近くまで低下しました。その後、2022年3月期から2025年3月期においては4期連続で20%水準となっています。これに加え、保有する資産の社内格付低下や、急激な為替市場・株式市場の変動等に対するストレステストを実施し、リスクアセットと株主資本の割合(水準)への影響も検証しています。基礎営業キャッシュ・フローは4期連続で1兆円規模に到達していますが、それを支える仕組みの一つに高度なリスクマネジメントがあります。今後も、適切なリスクマネジメントを継続することで業績の下方リスクへの備えとし、企業価値向上につなげていきます。
重要なリスク(2025年3月末時点)
*2 「災害時事業継続管理規程」に基づき、CHROを本部長として設置する組織
物流・トレーディング事業を支えるリスクマネジメント
当社は物流・トレーディング事業を通じ、取引先の多様なニーズに応えるとともに、収益基盤の拡充に取り組んでいます。近年は、地政学的リスクの継続、各国の経済政策の変更、価格ボラティリティの上昇、インフレに伴う金利上昇圧力の長期化等、複合的な要因が重なり、契約不履行に起因する損失リスクが高まる傾向にあります。
このような環境下において、当社では与信審査の際に、収益率、金利・為替コスト、並びにリスク関連コストを適切に評価することで、リスク及び投下資本に対するリターンの最大化を図っています。
その取組みの一環として、社内参照指標である「リスク調整後収益率(Risk Adjusted Return On Risk:RAROR)」を活用し、契約不履行リスクの定量化を促進するとともに、リスクに見合ったリターンの可視化を進めています。RARORは、物流・トレーディング事業におけるROE(自己資本利益率)の概念を応用した指標であり、与信リスク等のリスクエクスポージャーに対する利回りを示します。2025年3月期より、RARORのガイドライン値を新たに導入することで、リスクリターンへの感度向上を制度化しました。
さらに、物流・トレーディング事業においてもROIC(運転資本利益率)のモニタリングを実施しています。ROICは、運転資本に対するリターンの割合として算出され、定点観測を通じて資本効率の観点から適切なリターンが得られているかを確認するために活用しています。
これらのRAROR及びROICを活用したリスクマネジメントにより、当社は物流・トレーディング事業におけるリスクリターンの最適化と資本効率の向上を追求しています。継続的なモニタリングを通じて、各事業現場でのリスク感度を高めるとともに、全社レベルのリスク量を把握することで、事業環境の変化に柔軟に対応し、適正なリスク選好を実現する体制を構築・維持しています。