EUDR(欧州森林破壊防止規則)とは?対象や企業への影響を解説 - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

コラム

最終更新:2025.06.24

EUDR(欧州森林破壊防止規則)とは?対象や企業への影響を解説

EUDRは、EU市場で販売される特定品目が森林破壊・劣化に関与しないことの証明を企業に義務付ける規則です。対象品目や対象企業、義務の内容、違反時の罰則について解説します。

世界の森林破壊に歯止めをかけるため、2023年6月にEUDR(欧州森林破壊防止規則)が施行されました。この規則は、EU市場で販売される特定の製品が森林破壊・劣化に関与しないことの証明を企業に義務付けるものです。本記事では、日本企業がEUDRにどう対応すべきか、EUDRの背景と目的、対象製品や対象企業、そして企業に対する義務の内容を交えながら詳しく解説します。

EUDR(欧州森林破壊防止規則)とは?

EUDRの概要

EUDR(欧州森林破壊防止規則)とは、EUで流通する特定品目の生産において、森林破壊・劣化に加担していないことの確認、すなわち森林破壊・劣化に関するデューデリジェンスを義務化する規則です。2023年6月29日に施行されましたが、企業の準備状況を踏まえ、EUDRの適用開始は1年延期されました。これにより、大規模・中規模企業は2025年12月30日から、小規模・零細企業は2026年6月30日から規則が適用されます。

EUDRの背景や目的

森林破壊*1と森林劣化*2は気候変動や生物多様性の損失にも深く関連しており、近年その認識が世界的に高まっています。このような問題意識の高まりが、EUDR発効の背景にあります。
1980年代から1990年代にかけて、熱帯林の持続可能な管理に対する関心は高まっていましたが、国際的な合意形成が難航し、具体的な成果には至りませんでした。その後、2000年代に米国、豪州が違法伐採木材の規制を導入し始め、2013年にはEUDRの前身として「EU木材規則(EUTR)」が発効されました。
しかし、農地利用が森林破壊の主な原因となっているにもかかわらず、木材の違法伐採のみを規制の対象としていたため、違法伐採以外の森林破壊・劣化には十分対応できないとの指摘がありました。そこで、森林破壊・劣化につながる特定製品の市場流通や輸出をより包括的に規制するため、2023年にEUDRを新たに発効し、それに伴いEUTRを廃止しました。
この背景には、農業利用による森林減少の深刻さがあります。2022年度の国連食糧農業機関(FAO)の報告書によると、1990年以来、4億2千万haの森林が減少しており、その要因の約90%が農業利用のための森林伐採です。これは、特定の農産物やその派生製品の生産に伴う農地利用への土地転換が、森林破壊・劣化の主な要因であることを示しており、農地拡大の抑制が急務となっています。
出典:農林水産省「森林減少と農産物生産をめぐる国際的な議論①」
出典:農林水産省「森林減少と農産物生産をめぐる国際的な議論①」
森林破壊・劣化に対してより包括的な対応を求めるEUDRの目的は、主に以下の3点です。
・EU域内で消費される規制対象の商品を生産するために引き起こされるすべての森林破壊・劣化に対処すること(農地拡大も規制対象)
・森林破壊・劣化リスクの高い製品のEUへの輸出入を禁止すること
・EUにおいて、規制対象の商品の生産と消費に伴う炭素排出量を最低で年間3,200万トン削減すること
*1 森林破壊:森林が完全に失われ、他の土地利用(農地、都市開発等)に転換されること。
*2 森林劣化:森林が完全に失われるわけではないが、森林の生態系や機能が損われること。過剰な伐採による樹木密度の低下、森林火災や過放牧等による森林土壌の保水力や炭素吸収能力の低下、動植物の生息環境が悪化することを含みます。

EUDRの対象製品と対象企業

具体的な対象製品

EUDRにおいて、対象製品が「森林破壊フリー製品(‘deforestation-free’ products)」であることが証明できなければ、当該製品をEUで流通させることはできません。森林破壊フリー製品とは、2020年12月31日以降に森林が破壊されていない土地で生産された対象製品を指し、木材やその関連製品の場合は、森林劣化も引き起こしていないことが要件となります。
具体的な対象製品は、①牛、②カカオ、③コーヒー、④パーム油、⑤ゴム、⑥大豆、⑦木材の7品目と、その関連製品(牛肉、チョコレート、タイヤ、木製の家具、印刷紙等)です。
対象関連商品 対象関連製品(主なもの)
生きた牛、牛肉、牛革
カカオ カカオ豆、チョコレート
コーヒー コーヒー
パーム油 パーム油、パーム油かす
ゴム ゴム、タイヤ
大豆 大豆、大豆油、大豆かす
木材 木材、紙、木製家具
また、EUDR規則には科学的・技術的進展やリスク評価に基づき、対象製品を見直すと明記され、将来的に対象製品が拡大する可能性があるため、企業は動向を注視する必要があります。

EUDRの対象企業

EUDRは森林破壊・劣化に包括的に対処するため、幅広い企業を規制対象としています。具体的には、EU市場で対象品目を販売・流通させる事業者、またはEUから輸出するすべての事業者が該当します。例えば、食品業界(牛肉、カカオ、コーヒー、パーム油、大豆等)、木材加工・製紙業界、住宅業界、ゴム製品業界等が含まれます。
日本からEUへ輸出する場合、EU市場で当該製品を最初に扱う輸入事業者がEUDRの対象となります。ただし、企業規模や役割によって課される義務が異なるため、EUDRの対応に当たっては、自社がどの範囲に属しているのかを確認することが重要です。

EUDRにおけるデューデリジェンス義務と企業への影響

握手する男性たち

デューデリジェンスとは?

EUDRにおけるデューデリジェンスとは、企業が自社の事業活動、サプライチェーン、利用するサービスにおいて、森林破壊・劣化を引き起こしていないことを証明するためにとる一連の取組みのことを指します。

必要な情報開示とは?EUDRの実施フロー

EUDRでは、対象製品をEUで市場に投入または輸出する前に、デューデリジェンスの実施が義務付けられています。そのプロセスは以下のステップで進められます。
1.情報収集(第9条)EUDRの対象製品については、製品の内容・生産国・対象製品が森林破壊・劣化を伴わないことを証明する情報を収集し、5年間保存することが義務付けられています。
出典:EUプラットフォーム・ブリュッセル事務局「EUのEUDR(森林破壊フリー製品規則)の概要」
出典:EUプラットフォーム・ブリュッセル事務局「EUのEUDR(森林破壊フリー製品規則)の概要」
特に、生産地と加工地が異なる製品等の場合には、サプライチェーン全体を通じた情報の把握が求められ、より詳細なデータ管理が必要となります。例えば、地理情報については、対象となる7品目が生産されたすべての土地区画の位置情報や、生産日(収穫日)・生産期間等の詳細な情報を収集する必要があります。
さらに、森林破壊フリー要件及び合法性要件に照らし、製品が森林破壊・劣化を伴わないこと、ならびに関連する国内法及び国際法に適合していることを確認することが重要なポイントとなります。
2.リスク評価の実施(第10条)
次に、収集した情報にもとづき、対象製品がEUDRに適合しないリスクがあるか判断する必要があります。
リスク評価には、「ベンチマークシステム」が導入されています。ベンチマークシステムとは、生産国が、森林破壊フリーではない産物が生産されるリスクの度合いに応じて、「高リスク」「標準リスク」「低リスク」の3つのカテゴリーに分類されるシステムです。分類は森林破壊・劣化の蔓延状況、先住民の状況等にもとづいて行われ、幅広い観点からの評価が求められます。
なお、製品が低リスク国で生産された場合、デューデリジェンスにおけるリスク評価とリスク低減措置が免除される可能性があります。ただし、国の分類はあくまでも評価の出発点にすぎず、企業の責任を免除するものではないという点に留意が必要です。
ベンチマークシステムは、制度の効率化や予測可能性の向上を目的とした仕組みであり、森林破壊・劣化のリスクは各国の制度や地域環境に大きく依存するため、最終的には企業単位での評価・対応が求められます。また、最低でも年1回は、リスク評価結果の文書化とレビューを行う義務があります。
3.リスク低減措置(第11条)
リスク評価の結果、リスクがゼロに近いと明確に判断されない限り、以下のリスク低減措置を講じる必要があります。
・追加情報の調査
・第三者による監査を実施する
この措置は、監査において「リスクなし」と判断されるまで、繰り返し実施することが求められます。
さらに、企業はデューデリジェンスシステムを構築し、情報を公表する必要があります。デューデリジェンスシステムとは、対象製品が規則に適合することを実証するための手続き及び措置の仕組みで、これを用いて企業は、年1回、開示情報を見直し、原則公表する義務が課せられています。
加えて、デューデリジェンス・ステートメントを公開することで、関連製品のコンプライアンスに対する責任を正式に負うことを表明します。デューデリジェンス・ステートメントとは、「森林破壊・森林劣化に関与していないこと」および「生産国の関連法令(森林、土地利用等)に準拠していること」を確認した旨の宣誓です。なお、労働・環境・人権などの社会的要素に関する遵守は、EUDRではなく、企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)など他の制度により規定されています。
*CSDDDについて詳しく知りたい方は「人権と環境を優先。政治的事情も越え、EU発デューデリジェンス指令の影響力」をご覧ください

EUDR違反による罰則と企業への影響

EUDRに違反した場合、対象製品の価値に応じた罰金や、製品・利益の没収、EUで製品を市場に投入することを禁止されるなどの厳しい制裁措置が科される可能性があります。これにより、企業は直接的な経済的損失を被ることになります。これらの罰則の具体的な内容や適用の厳しさはEU加盟国ごとに異なるため、進出先や販売先の国の運用方針にも十分注意が必要です。
また、EUDR違反による影響は金銭的な罰則にとどまりません。違反の事実が消費者や取引先、投資家に認知されることで、企業の信頼性やブランドイメージが損なわれるレピュテーションリスクを招くおそれがあります。特に、ESGやサステナビリティへの対応が重視される近年では、社会的信用の低下が長期的な事業リスクにつながる可能性も否定できません。
したがって、EUDRへの対応は法令遵守という観点に加え、企業の中長期的な価値維持・向上のためにも極めて重要であると言えます。

日本企業への影響・対策とEUDRの展望

日本企業への影響と対策

EU市場でビジネスを行う日本企業は、製品の市場流通量に関係なく、すべてEUDRの対象となります。そしてEUDRに対応するにあたり、日本企業はデューデリジェンスシステムの導入・運用や情報収集、リスク評価、第三者監査の実施等に伴う「コスト増加」が避けられない可能性があります。
こうした負担を最小限に抑えながらEUDRに違反しないためには、生産地から最終製品に至るまでの情報を一貫して追跡・管理できる体制を整えるなど、「サプライチェーン管理の強化」が不可欠です。

EUDRの展望

EUDRは、企業に対し、これまで以上に生産地の情報収集やサプライチェーン全体の把握・管理を求める規則です。企業にとっては負担ともなり得ますが、早期にトレーサビリティ体制を整え、リスク評価やデューデリジェンスを確実に実施することで、将来の法的リスクやサプライチェーンの混乱を未然に防ぐことができます。
しかし、EUDRへの対応は単なる法令遵守にとどまるものではありません。
この制度を機に、持続可能性に配慮したサプライチェーンを再構築することは、企業にとって中長期的な競争優位性の確保にもつながります。ESGやサステナビリティへの対応がグローバルで重視される中、EUDRは持続可能なビジネスモデルへの転換を加速させる重要な転機と捉えるべきでしょう。

参考

農林水産省 EUの森林減少防止に関する規則への対応について|https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/EUDR.html
農林水産省 森林デューデリジェンス規則(EUDR)のポイント③|
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/attach/pdf/e_r4_zigyou-63.pdf
EUプラットフォーム・ブリュッセル事務局 EUのEUDR(森林破壊フリー製品規則)の概要|https://www.eu.emb-japan.go.jp/files/100677647.pdf
European Commission Deforestation Regulation implementation|https://green-forum.ec.europa.eu/deforestation-regulation-implementation_en
EUR-Lex Regulation - 2023/1115 - EN -|https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32023R1115
European Commission Regulation on Deforestation|https://environment.ec.europa.eu/topics/forests/deforestation/regulation-deforestation-free-products_en
(すべて2025年6月6日参照)

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