「FSC®︎認証」が目指す、森林の保全と活用の両立 - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

コラム

最終更新:2024.08.23

「FSC®︎認証」が目指す、森林の保全と活用の両立

みなさんの身近な商品でもよく見かける木のイラストの「FSC」ラベルは、その製品が使われている原材料が責任をもって調達されていることを意味します 。そして、責任ある管理をされた林を増やすために、FSC認証を国内に広める活動をされているのがFSCジャパンです。
適切な森林管理を可視化する「FSC認証」の認知啓蒙活動を行うFSCジャパンの三柴ちさとさんに、日本の森林保護のあり方や資源活用についてお伺いしました。尚、三井物産は日本全国75か所、合計約45,000ヘクタールの社有林「三井物産の森」において、FSC認証を取得しています。

FSC認証の目的は識別と還元

――FSC認証とはどのようなものか、設立背景などについて教えてください。
三柴 20世紀の半ば頃から森林破壊が世界的な問題となり、欧米では消費者の不買運動が展開される一方、企業が森林破壊を行っていないことなどを主張する独自のラベルをそれぞれが出し、市場にラベルが氾濫するような状況となりました。FSC(Forest Stewardship Council®️)認証の設立は、そうした社会状況が背景にあります。
森林破壊について、各国政府を含めた国際的な話し合いも行われてきたのですが、なかなか進みませんでした。1992年の地球サミットで採択された「森林原則声明」もその一例です。森林の問題で初めて世界的な合意に至ったことは重要な実績ですが、本来なら各国政府の目的や行動にコミットする条約を締結するはずが、足並みが揃わず、声明レベルに留まってしまいました。
そこで、何か民間でできることはないか、と考えて作られたのがFSC認証です。市場では一般的に、違法に伐採された木材など、問題のある木材と、適正に管理された森林の木材との区別がされておらず、消費者もそれを分からずに買うことによる森林破壊への加担が蔓延しています。責任ある森林管理を実践している事業者を識別し、サプライチェーンと繋げて、消費者に分かりやすい仕組みで認識してもらうこと。その流れの中で生まれる経済的利益を、また責任ある森林管理事業者に還元していくのがこの認証の目的です。
三柴 ちさと(みしば ちさと)
三柴 ちさと(みしば ちさと)
FSCジャパン 指針・規格マネージャー
森林科学修士(米国イェール大学林学・環境学大学院)、農学博士(東京大学大学院生命科学研究科、森林科学専攻)
大学院で熱帯林生態学を学び、森林保全の道を志す。修士卒業後、インドネシアに単身赴き、エコツーリズムのコンサルタントを経て、国際環境NGOレインフォレスト・アライアンスのアジア太平洋地域事務所にて森林認証に携わる。審査員としてアジア太平洋地域の12か国で審査を経験。2014年からFSCジャパンに勤務。FM(森林管理)認証で使われる日本国内規格の策定や管理木材国内リスクアセスメントを主導。
――FSC認証のビジョンや特徴は、どんなところですか。
三柴 FSCは、「将来世代の権利や需要を損なうことなく、現在の世代の社会的、環境的、経済的な権利や需要を満たすこと」をビジョン(理念)としています。また、ミッション(使命)として、「環境保全の点から見ても適切で、社会的な利益にかない、経済的にも継続可能な森林管理を世界に広めること」を掲げています。
これらを実現すべく、FSC国際会員はその立場から環境・社会・経済の3つの分会に分けられ、3つの分会すべての賛成なしには重要事項は決められないというガバナンスの仕組みになっています。また、FSCのルールが改定される際は必ずステークホルダーに広く意見を聞く、コンサルテーションが実施されます。
FSCの会員には、森林事業者をはじめ、森林管理の影響を受ける先住民族、地域住民、労働者といった森林管理に関係する方々がいらっしゃいます 。そうしたすべての人々が国境を越えて集まり、世界の資源管理のルールを決め、自主的にコミットすることでグローバルな問題の解決を図っていこうとする。この取り組みは「マルチステークホルダープロセス」と呼ばれているものです。FSCは、マルチステークホルダープロセスの先駆的な存在と言われており、水産認証など他分野のサステナビリティ認証でも、FSCをモデルにして作られたものも多くあります。
©FSC / Orange juice carton
©FSC / Orange juice carton
――認証の仕組みについても教えていただけますか。
三柴 世界中にさまざまな森林があり、その管理方法は土地ごとの生態系や慣習、ビジネススタイルによってかなり異なっています。そのためFSCでは、世界中のステークホルダーの声を集め、何年もかけて作りあげた10の原則と、70の基準からなる世界的な統一ルールがあり、定期的に改訂もされています。
10の原則は、合法性、労働者の権利、地域社会との関係など社会的なものが4つと、環境や経済、計画性等をテーマにした6つで構成されています。この10原則に基づいて定められたのが70の基準で、より詳しい要求事項があり、さらにその下に、各国で異なる200以上の指標という三段階の規格によって森林管理の認証をしています 。また、そうした森林の木材が最終製品となるまでのサプライチェーンに対してはさらに別に、CoC(Chain of Custody)認証というものを定め、それらすべてに認められたものが初めてFSC認証のラベルをつけることができます。
なお認証はFSCではなく、認証機関と呼ばれる多くの民間会社が行っているのですが、ASI(Assurance Services International)と呼ばれる組織が、認証機関のパフォーマンスをチェックする役割として存在しています。
10の原則
10の原則

森林保護に関わる社会的課題

――森林管理と気候変動の関係についてはどのようにお考えですか。
三柴 FSC認証の原則の中で、具体的かつ直接的に気候変動に対応する項目はありません。しかし森林は二酸化炭素の重要な吸収源であり、土壌も大量の炭素を含む有機物が蓄積されているという観点から、森林保全が気候変動対策として大切であることは間違いありません。
世界中の森林は、それぞれ管理の目的や生態系が異なるので、具体的な気候変動対策として何ができるか、何が適切かも異なります。例えば、手付かずのまま保たれている原生林はそれ自体に保護価値があり、人為的な影響を最小限にとどめ、モニタリングを行うことによって二酸化炭素吸収源としての森林を守ることが適切な森林管理、気候変動対策となるでしょう。一方、木材を資源として生産するための人工林も必要なものですので、経済的価値を生み出して森林としての状態を守るという意味でも、効率的かつ持続可能に木材を生産することで生態系価値の高い森林への伐採圧を抑えるという意味でも森林保全、ひいては気候変動対策に寄与している、と言うこともできます。また、FSCではリサイクル材の使用も認められていますが、これも資源の有効活用により森林への伐採圧を下げ、森林保全に貢献するという考え方からで、森林保全や資源採取の持続可能性を高めるために、FSC認証はひとつの基準になると考えています。
何をもって気候変動対策を行っているのかは議論の余地があると思います。ただ、FSC認証製品を選ぶことで、少なくとも森林破壊には加担していないということは間違いありません。森林破壊は気候変動に直接結び付くものですので、世界の森林資源を守ることが、総合的な気候変動対策として価値があると考えています。
岩泉町のFSC認証林 ©️藤島斉
岩泉町のFSC認証林 ©️藤島斉
――FSC認証を受けた森林の具体例や、課題についてご紹介くださいますか。
三柴 全国各地にある全ての社有林でFSC認証を取られている三井物産様の例もありますが、日本ではなかなか森林の認証は広まっていない、というのが正直なところです。認証林は現在国内32件 、日本の森林面積の約2%にも満たないです。
これはやはり日本の林業というものが、1980年代をピークに木材価格が大幅に下落し、産業として低迷し続けていたことが大きな理由です。林業は本来、山間地域の主要産業として地域を支えるべき存在ですが、儲からないので人が集まらず、大きなビジネスにもならないため、政府からの補助金で細々と繋いでいるところがかなりあるのです。
その中でこの認証を受ける手間やコストを固定費としてかけるというのは、かなり勇気のいることです。しかもFSC認証の木材が高く買われているかというとそうではないので、主旨には賛同して参加したいと思っていても、ビジネスとしての判断は難しい、というのも拡大しきれない理由かと思います。そこで私たちは、認証を簡略化した小規模林家を対象とする認証の仕組みの拡大や、国内のサプライチェーンのネットワークづくりにも取り組んでいます。
また、認証材が欲しい人と売りたい人のマッチングができていないという課題もあります。認証林がある三井物産様や九州電力様主催で2024年1~6月にかけて行われたワークショップでは、日本のさまざまなステークホルダーが集まり、こうした課題について具体的なアクションが話し合われました。 認証取得者同士でのネットワークづくりも自主的に始まっているようです。
――ビジネスにおけるFSC認証のメリットについても教えていただけますか。  
三柴 今やSDGsや気候変動といった社会の潮流は絶対に無視できないところです。ESG投資でも、どのような環境配慮を行っているかが投資家から評価されています。国の規制においても、EUでは森林破壊に寄与している製品は一切EU域内には入れず、持ち込んだ場合には罰則を適用するというような厳しい流れもありますので、今後はFSCのスキームをより活用していこうという流れが出てきています。
さらに、これまで森林の価値と経済的価値は、どうしても林産物を生産・販売することでしかつけられなかったのですが、森林が持つ、それ以外のさまざまな機能にも価値をつけていく取り組みを始めています。「生態系サービス」と呼ばれる、炭素吸収・貯留機能や生物多様性、水質保全といった森林の効果を検証し、スポンサーを募って、取り組みを支えていく仕組みで、全世界に拡大しているところです。これなら森林保護に全く関係ない業界であっても、責任ある森林管理に貢献できるようになります。まだ日本では事例がない取り組みですので、私たちとしても注力していきたいと考えています。
山梨県のFSC認証林 ©️藤島斉
山梨県のFSC認証林 ©️藤島斉

再生可能資源だからこそ信頼あるものを

――最後に社会にむけたメッセージをお願いします。
三柴 現在、気候変動対策のひとつとして、プラスチックよりも紙や木材を使うという取り組みがさまざまなところで進んでいます。石油由来のプラスチックではなく、再生可能資源である木材を使う、ということには賛成するのですが、木材ならすべてよいかというと、そういうことではありません。その紙が森林を破壊してつくられた紙の場合、気候変動対策にはマイナスになってしまう可能性があります。そのため、紙や木材を選ぶ際には、どのようなもので作られたかが大変重要になってきます。そこでメーカーや企業、消費者の皆さんにも、世界で最も信頼性が高いFSC認証のマークを日常生活の中でも意識して探していただき、活用してくだされば大変嬉しく思っています。

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