「森林J-クレジット」500万トン創出へ、企業と共に日本の森を守り育てる - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

ソリューションカーボンオフセット

最終更新:2024.09.06

「森林J-クレジット」500万トン創出へ、企業と共に日本の森を守り育てる

豊かな森林資源を有する日本ですが、戦後植林木の高齢化や再造林率の低さ等の課題が存在します。解決の糸口となるのが森林が持つCO2吸収量をカーボン・クレジットとして価値化する「森林J-クレジット」。クレジットを通じた資金還流からカーボンニュートラルに繋がる森林資源の育成にも繋がるその魅力を見ていきます。

2023年10月に東京証券取引所にてカーボン・クレジット市場が開設されました。当初は188社の参加でしたが、現在は286社と盛り上がりを見せ始めています。J-クレジットには大きく4種類がありますが、森林吸収由来の「森林J-クレジット」はその創出量が急増したことと、「地域貢献」や「自然資本」への関わりという点で急速に関心が高まっています。ここでは、「森林J-クレジット」の現状や魅力について話を聞きました。

「三井物産の森」の知見を生かした「森林経営」由来のJ-クレジット

――まずは、おふたりが在籍されているクライメートマーケット室について教えてください。
前田 カーボンクレジットの分野では、創出から販売までを国内外で行っています。「森林J-クレジット」に関しては、航空・衛星測量からクレジット創出、販売、まで行っています。
前田 拓也|まえだ たくや三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 カーボンソリューション事業部 クライメートマーケット室 室長補佐2014年入社。入社後、デジタル総合戦略部での新規事業創出を担当。2022年より現本部にて、森林J-クレジット事業を推進
前田 拓也|まえだ たくや
三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 カーボンソリューション事業部 クライメートマーケット室 室長補佐
2014年入社。入社後、デジタル総合戦略部での新規事業創出を担当。2022年より現本部にて、森林J-クレジット事業を推進
――改めて、「森林J-クレジット」について教えてください。
阿久津 決められたルールに基づき、森林を適切に管理することで生まれるCO2吸収量を国が認証する制度です。J-クレジットは、再エネ由来や省エネ由来、農業由来など複数にわかれていますが、森林J-クレジットもカテゴリーのひとつとして確立されています。
阿久津 正恵|あくつ まさえ三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 カーボンソリューション事業部 クライメートマーケット室 カーボンクレジットマネージャーエネルギー関連(主に物流)事業を担当。2023年より現本部で森林J-クレジット事業を推進
阿久津 正恵|あくつ まさえ
三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 カーボンソリューション事業部 クライメートマーケット室 カーボンクレジットマネージャー
エネルギー関連(主に物流)事業を担当。2023年より現本部で森林J-クレジット事業を推進
前田 森林の中でも3つの方法論がありますが、我々が取り組んでいるのは「森林経営(Forest Management)」由来。対象となる吸収量は、NDC(*1)報告対象の森林をベースとし、森林を適切な状態に保つ施業が行われている事、更に「森林経営計画」が作成され、プロジェクト終了後も計画に基づく管理が行われていく森林の吸収量のみが対象となっています。
*1 NDC=国が提出している温室効果ガスの排出削減目標
――三井物産が森林由来のカーボンクレジットに着目した理由を教えてください。
前田 当社は全国75か所・合計約45,400ヘクタールを有する社有林「三井物産の森」を保有しています。その管理を行う100%子会社の三井物産フォレスト株式会社との会話の中で、クレジット創出の課題として「人手測量の手間がかかる事」と共有を受けました。デジタル測量を用いて大規模に創出する事ができれば、眠る価値を引き出せるのではと考えました。
*社有林「三井物産の森」について詳しく知りたい方は、「持続可能な森林モデルで 新たな価値を創出する三井物産の森」をご覧ください。

航空・衛星測量といったDX活用で クレジット創出を効率化

――具体的にはどのような方法を採用したのでしょうか?
前田 従来は、30ヘクタール毎に1箇所(例:20m×20m)をサンプルとし、現地での人手で「樹種・樹高」データを取得していましたが、スケールに限界がありました。そこで、パートナー企業と航空測量を用い上空からレーザーを照射、クレジット対象森林全域のデータを1本毎、数cm単位で取得する事で、大規模なクレジット創出に繋げる事ができました。
――その他にもDXしたことはあるのでしょうか。
前田 J-クレジットを認証・発行をするには、森の状態を確認する巡視作業が毎年必要になります。こちらも、従来は人が現場に入って写真を撮影していましたが、当社では衛星画像とAIを活用し、自動で毎年の変化量を抽出するシステムを構築、人手巡視と組み合わせる事で、巡視業務の効率化を実現しました。また過去に、間伐等の施業が行われたクレジット対象森林を衛星データを基に自動抽出する仕組みも開発しています。
この「衛星巡視」の取組は特許も取得済みです。

森林J-クレジット創出見込量の5割超、約500万t-CO2を三井物産が共同創出

——社有林「三井物産の森」由来の森林J-クレジット以外にも、各地の自治体などと共同創出されていると聞きます。その仕組みを教えてください。
前田 5,000ha以上の森林経営計画対象森林をお持ちの森林所有者・管理者に向け、航空測量からクレジットの登録審査・販売までを一気通貫で支援しています。
現在、森林J-クレジット登録済案件における認証見込量の5割超が「三井物産共同創出案件」由来となっており、2035年迄に約500万t-Co2の創出を予定しています。
――約500万t-Co2はすごい量ですね。なぜ5割ものシェアを獲得できたのでしょうか。
阿久津 当社がファーストプレイヤーだったことに加え、各案件での創出実績をもとに自治体間で良いReputation(評判)が伝播したこと、衛星活用を含むデジタルを駆使した正確なクレジット創出力、さらには京都議定書時代より長年培った顧客網・マーケティング力を活用した販売実績が評価されています。
――一般的に「林業は儲からない」「補助金なしではやっていけない」と言われます。カーボンクレジットの創出は、森林経営を支えるうえでどれくらい貢献できるのでしょうか。
前田 森林経営が一気に黒字化するようなものではありません。追加収益を少し得るという表現が正しいです。
――ということは、利益よりも使命感のほうが強い事業となるのでしょうか。
前田 そうですね。日本の自然や森が持つ環境価値は適切に評価されず、経済価値として還元されていないことに違和感を覚えていました。森の価値を正しく評価し、経済価値に変えて循環させることで、豊かな自然が経済的にも評価される。そんな社会をつくっていきたいと考えています。

「地域貢献」「自然資本」から考える 森林J-クレジットの魅力

――「地域貢献」「自然資本」という観点も含め、森林J-クレジットに注目されている企業も増えていると聞きます。自動車メーカーのマツダは、三井物産共同創出案件である「おかやまの森整備公社」にて森林J-クレジットの長期売買契約を弊社と結ばれました。
阿久津 森林J-クレジットの購入動機として多いのは「地域貢献」の側面なんです。
地域の森林資源の保護・育成に貢献する森林J-クレジットは、クレジット調達を検討している企業にとって説得力あるストーリーから候補の一つになろうと考えております。
――デメリットはあるのでしょうか?
阿久津 制度的な問題になりますが、再エネ発電由来などに比べ、森林J-クレジットが使える目的が少ない、価格が少々高いということがあります。しかし、それを凌駕するメリットがあると考えています。
前田 森林J-クレジットの供給予定量が500万t-CO2以上あることを知らない方も多いので、本記事を契機に認知が広がれば、より多くの方の選択肢に入ると思っています。

購入者は日本の森林を育むパートナー

――森林J-クレジットはどのような企業におすすめですか?
前田 J-クレジットはJCM(二国間クレジット制度)と並びGX-ETS適格クレジットであり、GXリーグ参加企業から関心表明を受けています。どうしても削減できないScope1排出量の一部に対し、国内森林の吸収量を活用する形が良い例です。また、当社としてはクレジットを購入して終わりではなく、国内の森林を一緒に育てていく気持ちのあるパートナーをできる限り増やしていきたいと考えています。
*GXリーグやGX-ETSについて詳しく知りたい方は「GX(グリーントランスフォーメーション)とは? GXリーグやGX推進法についても解説」をご覧ください
――森林を一緒に育てるとは、具体的にはどのようなことでしょうか。
阿久津 森林J-クレジットの購入のみならず、当社やクレジット創出元の森林所有者と共に、再造林事業や新たな環境価値創出事業を組成し、その収益を森に還していきたいと思っています。
――最後に、この事業を通じて叶えたい夢を教えてください。
前田 国内の森林に資金を循環させ豊かな森を残すことを実現していきたいと思います。また、森林J-クレジットをきっかけに、国内のさまざまな企業と脱炭素課題を解決し、日本の脱炭素に貢献していければと考えています。
阿久津 森林J-クレジットを活用しながら、日本の森林を再生していきたい。さらには、三井物産グループのネットワークを通じてお客様に価値を提供し、日本を元気にしていきたいと思います。
――本日はありがとうございました。

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