経済合理性と環境価値の両立を目指すNew Forests社の森林ファンド
地域環境に配慮しながら森林資産の取得・管理・運営をおこなっていく、森林ファンド事業を手がけるNew Forests(ニューフォレスツ)社。日本ではまだ馴染みのない森林ファンドとはどのようなものなのか。その仕組みや将来性、さらにはカーボン・クレジットファンドについても解説します。
管理・運営している森林資産規模では、世界第2位となる森林ファンドをマネジメントしているNew Forests(ニューフォレスツ)社。近年では脱炭素化やESG投資の側面から注目されています。日本ではまだ馴染みのない森林ファンドについて、住生活マテリアル事業部の春原希望さんに話を聞きました。
森林ファンドを活用して大規模に森林資産の取得・管理をおこなうNew Forests社
――豪州のNew Forests(ニューフォレスツ)社と取り組むきっかけを教えてください。
春原 国内の製紙会社が海外の森林資源の確保に動きはじめた1990年代より、三井物産ではウッドチップの輸入販売をおこなってきました。その頃から、日本を含む東アジアマーケットへのアクセスが良く、政治的にも安定している豪州を中心に森林資源を拡大してきました。その過程で、豪州に多くの森林資源を保有していたNew Forests社と出会い、2016年に出資参画するに至ります。当社は現在、持分比率約23%の株主ですが、野村ホールディングスと共に買増しを行うことを決定しており、買増し後は野村ホールディングス41%、三井物産49%の持分比率となる見込みです。
――New Forests社は、どのような会社ですか?
春原 New Forests社は、森林ファンドを通して森林資産を取得し、現在では四国の6割にあたる110万haの森林を管理・運営するアセットマネジメント会社です。地域や国、樹種ごとに差異はありますが、森林資源は植林からはじまり、伐採して商品として加工・販売するまでに、「広葉樹」で約10年、「針葉樹」で約30 年を要します。この長期管理コストなどもあり、10ha規模の小さな森林が多い日本では、固定費がまかなえずに森林経営で利益を出すのが難しいと言われています。一方、New Forests社は合計110万haという規模の経済により、十分な利益を出すことができています。
――森林ファンドというのはどのような仕組みになっているのでしょうか。
春原 森林ファンドでは、投資家から預かった資金をもとに森林資産の取得・管理をおこないます。植林から伐採、商品出荷までに10年~30年かかりますが、伐期がきたら樹木を伐採、加工して商品販売することで得られる収益をリターンとして投資家に返す仕組みです。New Forests社では、森林管理のなかで育苗、植林、枝打ち、間伐、主伐、さらには自社製造会社での製材加工に至るまですべてをおこなっています。ちなみに、豪州での主な収益はユーカリの木(広葉樹)を原料とするウッドチップの販売、およびラジアータパイン(針葉樹)を原料とする建材となります。加えて、製造会社で新商品の開発をおこなうなど、森林資源に付加価値をつけて販売することにも取り組んでいます。
ESG投資として注目度が大きく高まっている森林ファンド
――森林ファンドというのは、日本ではあまり馴染みがないように思います。
春原 世界のプライベート・エクイティの運用資産総額は5兆ドルといわれますが、森林ファンドの運用総額は60億から70億ドルと限定的です。また、森林ファンドは世界でも限られており、運用総額上位10社のうち8社が米国、2社が豪州とブラジルに所在しています。このような状況を考えると、森林ファンドは限られた地域で運用されてきたのものであり、大規模な森林を効率的に管理・運営することが難しい日本では、あまり注目されてきませんでした。
――どのような人が森林ファンドに関心を持っているのでしょうか?
春原 森林は10~30年の長期的な投資であり、インフレとの相関関係も見られることから、年金基金や生命保険会社などの長期的な資産運用をおこなう機関投資家が、インフレに対するリスクヘッジとして関心を持っていました。近年では、これに加えてESG投資としての注目が高まっています。
――世界的な脱炭素化の動きが追い風となっているわけですね。
春原 はい、脱炭素化の動きも相まって、バイオプラスチックやバイオ燃料、CO2を吸着する木造ビルといったものに大きな関心が寄せられています。同時に、その原料となる森林資源にも注目が集まっています。さらには、後述するカーボン・クレジットも追い風となり、森林資源は需要がひっ迫しているといえます。私が森林ファンドに関わりはじめた2017年頃は、まだ日本国内ではあまり知られていませんでした。しかし、この5年で機関投資家からの引き合いも増えるなど、知名度が急激に高まっている印象です。
森林ファンド市場は2030年に現在の3.5倍の規模に
――森林ファンド市場の見通しはどのようになっているのでしょうか?
春原 森林ファンドは、これまで米国を中心に運用されてきましたが、今後はInvestable Assets(投資対象資産)がアジア、アフリカ、欧州に拡大していく見込みです。2022年に2,850億ドルだったInvestable Assetsは、2030年に3.5倍の1兆ドルに拡大することが予測されています。
――Investable Assets(投資対象資産)とはどういったものでしょうか?
春原 ファンドとして運用する以上、投資家にリターンを返していかなければなりません。そのため、経済合理性が求められます。同時に、森林は保全していくべき自然資本であり、近隣コミュニティとの共存や地域環境への配慮が必要になります。大まかに言うと、このような経済合理性と環境価値を両立することがinvestable Assetsの条件となります。なお、アジアやアフリカでは、林道や港湾などのインフラ整備や森林認証の普及が進むことで、Investable Assetsが増えることが想定されます。
カーボン・クレジットファンドにも投資
――カーボン・クレジットは、森林ファンドの収益や投資家へのリターンにどのように関係するのでしょうか?
春原 New Forests社の森林ファンドは、森林資源から得られる商品を販売し、その利益を投資家へリターンとして返すことを基本的なモデルとしています。また、新商品の開発を通して森林資源に付加価値をつけることで、収益を拡大する工夫をおこなっています。これらの収益源に加え、森林の適切な管理を通して創出されるカーボン・クレジットの売買もおこなうことにより、ファンドの総合リターンを高めることを企図しているわけです。
――三井物産はNew Forests社への出資に加え、カーボン・クレジットファンドへの投資もされていますね。
春原 はい。私も子会社出向中にフィナンシャル・アドバイザーとして関与させて頂きましたが、2021年12月に弊社はNew Forests社と共同開発したカーボン・クレジットファンド事業に出資参画致しました。この取り組みのなかで、弊社はカーボン・クレジットを取得します。
――カーボン・クレジットは、どのようにして生み出されるのでしょうか。
春原 制度ごとに異なりますが、まずはベースライン吸着量といって、現状のまま森林管理を続けていた場合のCO2吸着量を算出します。続いて、森林管理を改善した場合のCO2吸着量を算出し、ベースラインとの差分がカーボン・クレジットとして認められます。わかりやすいのは更地に植林する場合で、更地の状態ではCO2の吸着量はゼロですが、そこに植林することでCO2が吸着されるようになります。この吸着量がカーボン・クレジットとして認められるわけです。
――最後に、New Forests社の掲げている使命などがあれば教えてください。
春原 New Forests社および三井物産は、森林資源の経済合理性と環境価値の両立に真剣に取り組んでいます。我々は、森林資源を販売する「エンドユーザー」、ファンドに投資いただく「投資家」に加え、「地球環境」もまた重要なステークホルダーととらえています。適切に森林を保全することで地域環境との調和を図ることは、森林ファンドの責務であると考えています。そこには、先住民のコミュニティや文化遺産に配慮することも含まれます。このような観点を踏まえながら、豪州や米国だけではなく、今後成長が見込まれるアジアやアフリカも含む森林資源を適切に保全し、経済合理性と環境価値の両立をグローバルで実現していきたいと思います。
三井物産株式会社
住生活マテリアル事業部 森林資源事業推進室
春原希望
2007年オリックス入社後、M&Aや事業投資を担当。2015年産業革新機構に入社し、海外企業投資や国内再編投資を担当。2017年三井物産入社。 総合力推進部、金融事業部を経て、2021年12月末より現職。New Forests社株式の追加取得など、森林資源事業を中心に担当している。
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