大気からCO2を回収。DACビジネスの展望とエアルーム - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

ソリューションカーボンオフセット

最終更新:2025.06.19

大気からCO2を回収。DACビジネスの展望とエアルーム

大気中のCO2を直接回収する技術であるDAC(Direct Air Capture)が、2030年代には世界中で商用化される見込みです。そんな中、三井物産はDAC業界のリーディングカンパニーである、エアルーム・カーボン・テクノロジーズ(以後、エアルーム)に出資参画しました。ここではDACの基本情報からエアルームの特徴、今後の展望まで担当者に聞きました。

*If you would like to view this in English, please see "Capture CO2 from the Atmosphere; DAC Business Outlook and Heirloom."
脱炭素領域の新規事業開発ハブとして設立された、三井物産のエネルギーソリューション本部。その中でも、中長期で将来性が見込める先進技術やビジネスモデルを見つけ出し、投資を起点に事業創造をおこなっているのがグリーンイノベーション室です。

多様な未来志向のイノベーションの中で、現実味を帯びてきた技術が大気中のCO2(二酸化炭素)を直接回収するDAC(Direct Air Capture)。そもそもDACとはどのようなものなのでしょうか。

将来的には年間200~1000億ドルの市場規模になる

――大気中のCO2を直接回収する技術は、ダイレクトエアキャプチャー(Direct Air Capture)略して「DAC」と呼ばれています。初めて耳にする人にとっては驚くような手法ですが、まずはDACが生まれた背景を教えてください。
青木 現在、2050年までにネットゼロやカーボンニュートラルを目指すことを世界中が謳っています。その達成には、すでに排出されてしまっているCO2にも対処しなくてはいけない。というのも、CO2排出削減を最大限努力しても年間60~100億トンのCO2を大気中から除去する必要があると試算されているからです。このままではカーボンニュートラルを実現することができません。

そこで重要になってくるのが、「CDR (Carbon Dioxide Removal) 」です。これは大気中にすでに出てしまったCO2を除去する総称です。その中のひとつに「DAC」があり、もっとも有力な技術とされています。

理由として、DACは規模の拡大が見込め、事業立地に柔軟性があり、信頼性が高い。信頼性とはCO2回収量の計測がしやすいという意味です。
青木 洋子|あおき ようこ三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 グリーンイノベーション室 マネージャー2015年入社、プロジェクト本部にてアフリカ・インドでのインフラ新規事業開発やロンドン赴任を経て、2021年9月よりエネルギーソリューション本部グリーンイノベーション室に着任。カーボンニュートラル関連の新技術・イノベーション探索、革新的なスタートアップ投資ポートフォリオ構築を担当。これまでにDAC・合成燃料等の分野に投資
青木 洋子|あおき ようこ
三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 グリーンイノベーション室 マネージャー
2015年入社、プロジェクト本部にてアフリカ・インドでのインフラ新規事業開発やロンドン赴任を経て、2021年9月よりエネルギーソリューション本部グリーンイノベーション室に着任。カーボンニュートラル関連の新技術・イノベーション探索、革新的なスタートアップ投資ポートフォリオ構築を担当。これまでにDAC・合成燃料等の分野に投資
――夢のような技術ですが、本当にそのようなことができるのでしょうか。
青木 海外では「聖杯」にも例えられる技術ですが、実現は可能です。しかし、現時点ではコストが高いのが難点です。もっとも高額なものでCO2 1トンあたり1000ドル近くかかります。そのため、さらなる技術開発とスケールアップによるコスト低減が必須となっています。

しかし、コスト低減が可能になった暁にはDACを含めたCDR全体で年間200~1000億ドルの市場規模になると予想されています。また、DAC に関しては2030年までに年間約1200万トンのCO2を回収できるプラントが建設される見込みです。

米国はDACを国家戦略上の重要技術と位置付けている

――DACの産業化については、欧米がリードしています。バイデン大統領時代にスタートしたものですが、米国は政府の補助金など積極投資をしています。その理由はどこにあるのでしょうか。
タナカ 地球上にCO2が蓄積されてしまった原因に、先進国が産業革命以降に大量排出したという歴史的背景があります。その責任からCO2削減に積極的だということがあります。

また、CDRの世界は将来的に大きな機会を生むという認識があります。だからこそ、米国ではインフレ抑制法(IRA)で導入された「45Q制度」という、CO2 1トンあたり最大180ドルの税額控除が生まれました。また、エネルギー省は「地域DACハブ」の整備に数十億ドルを拠出し、技術実証とサプライチェーン形成を支援しています。

米国ベイエリアはテックスタートアップへの投資が活発、テキサス等は再エネを活用でき立地の自由度も高く、エネルギー安全保障や産業育成の観点でも価値がある。米国にとってDACは国家戦略の一環なのです。
タナカ タロウ三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 グリーンイノベーション室 シニアインベストメントマネージャー1998年PwCボストン入社、マーケティング監査やM&Aを担当。2004年よりKPMG FASジャパン、2006年モルガン・スタンレー・リアル・エステート・インベスティング、2008年PwCジャパン、2019年デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーとキャリアを重ねながらクロスボーダーM&Aアドバイザリーに従事。2022年より現職
タナカ タロウ
三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 グリーンイノベーション室 シニアインベストメントマネージャー
1998年PwCボストン入社、マーケティング監査やM&Aを担当。2004年よりKPMG FASジャパン、2006年モルガン・スタンレー・リアル・エステート・インベスティング、2008年PwCジャパン、2019年デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーとキャリアを重ねながらクロスボーダーM&Aアドバイザリーに従事。2022年より現職

DAC技術の主な種類と、エアルームによる安価で効率的なCO2回収法

――三井物産が出資したエアルームの特徴を知るためにも、DAC技術の主な種類を教えてください。また、PSCC(Point Source Carbon Capture)と呼ばれる技術と混在しがちなので、その整理もお願いします。
青木 まず、CO2の回収は大きく「CDR」と「PSCC」に分類されます。簡単に言えば、PSCCは工場などから出た瞬間のCO2を分離・回収するもの。煙突に装置を付けるようなイメージです。本来排出されるはずだったCO2を排出前に回収するという「排出削減」にあたります。一方、CDRはすでに大気中にあるCO2を新たに分離・回収するもので、「削減」ではなく「除去」「ネガティブエミッション」となります。将来的に不可避な残余排出や過去排出の除去に必要なのがCDRです。DACはそこに分類されます。

DACの分類方法もさまざまですが、一つの分類としてCO2回収方法での分類をすると、1.圧力スイング法/2.温度スイング法/3.湿度スイング法/4.電気化学分離法/5.アルカリループの5つの手法があります。ざっくりと、1と2はアミン吸着剤と言われる化学薬品を塗布した膜に、大きな扇風機で空気を吹きかけてCO2を回収します。3は湿度の変化を用いてCO2を回収、4は電気化学を用いてCO2を回収します。なお、3と4はまだ研究室レベルでの実証となっています。

最後のアルカリループという手法はエアルームが使っている方法で、アルカリ性の物質を使ってCO2を回収します。
――アルカリループを用いるエアルームが、なぜDAC業界のリーディングカンパニーになっているのでしょうか。
タナカ エアルームが優れているのは、CO2回収方法のシンプルさです。エアルームは、石灰石という豊富で安価な素材を吸着剤として使用しています。また、CO2分離プロセスもとても簡潔で効率的なため規模を拡大しやすいということが挙げられます。
――では、具体的なCO2回収方法を教えてください。
タナカ まずは石灰石(CaCO3)を微細に粉砕します。それを再生可能エネルギーで稼働する炉に入れて加熱すると、CaO(酸化カルシウム)とCO2に分離されます。ここで出てきたCO2は地下に埋めたり(CCS)、少量であればコンクリートやセメントに詰めてそのまま固定(CCU)します。

残った白い粉のようなCaOをトレイに並べ、水を吹きかけるとCa(OH)2である消石灰になります。消石灰はCO2をよく吸収する性質があります。CO2が吸収されると、石灰石になり、再度炉に入れてCO2を除去し、アルカリ循環を形成します。この石灰石はほぼ無期限に使用できます。このプロセスは自然界では6ヶ月~1年かかりますが、エアルームでは温度・湿度・空気の流れを最適化することで、2~3日で完全に吸収させることができます。そこが彼らのイノベーションの核となります。
※CCS(CO2回収・貯留)やCCU(CO2を利用する技術)について詳しく知りたい方は「CCUSとは? CO2を再利用して排出量削減に導く取り組みを解説!」をご覧ください
――コスト削減をするためには、プラントの規模を拡大するだけでいいわけですね。
タナカ はい。エアルームは2020年に設立したベンチャー企業ですが、すでに2023年11月にはカリフォルニア州で米国初の商業用DAC施設(CO2回収規模1千トン/年)を稼働させています。次はルイジアナ州北西部にさらに大規模なDAC施設を建設予定です。
米国初の商業用DAC施設(カリフォルニア州トレーシー)
米国初の商業用DAC施設(カリフォルニア州トレーシー)
ルイジアナ州北西部で建設中のDAC施設(2026年稼働予定)
ルイジアナ州北西部で建設中のDAC施設(2026年稼働予定)

信頼が厚く、投資家たちの熱量も高いエアルーム

――なぜこんなにも成長スピードが早いのでしょうか。
タナカ 繰り返しになりますが、石灰石は豊富で安価であり、同社の技術はプロセスがシンプルです。また、他社はまだ研究段階であるのに対し、エアルームはすでに技術実証が終了しています。それに加え、経験豊富な人材がマネージメントチームに揃っています。CEOのシャンクはシリアルアントレプレナー(連続起業家)であり、成功への道筋をよく理解していることも要因のひとつです。
青木 また、エアルーム社のDACから生まれたカーボンクレジットは、すでにマイクロソフトなど有力企業が多数購入済みです。ゆえに投資家の熱量も高く、ビル・ゲイツらが創設した投資ファンドのブレークスルー・エナジー、日本からも三菱商事、商船三井、JALなどが出資参画するなど盤石な体制があります。

さらに、米国の補助金を得ており政府が支援している。それらが相まって、信頼性の高いリーディングカンパニーとして注目が集まっています。
――その一つに三井物産も名を連ねているわけですが、なぜエアルームに出資したのでしょうか。
青木 DAC界のリーディングプレイヤーであるからです。とはいえ、DACにはまだ多くのプレイヤーがおり、小型分散できるものなど世界中で技術開発が進んでいます。私たちの戦略としては、それら異なる技術を組み合わせてポートフォリオ化していくことです。

さまざまなポートフォリオに投資することで、最新動向の把握、制度設計などルールメイキングへの関与、関連企業との関係性構築などをやっていきたい。最終的には、合成燃料をつくるビジネスまでつなげていきたいと考えています。つまり、エアルームへの投資はあくまでもDAC事業に関する最初の一歩という位置付けです。
――合成燃料というのは、エアルームのプロセスで言うところの炉に入れて出てきたCO2を原料として、水素と合成させるe-fuelということですね。
タナカ はい。合成燃料での活用は中長期的な戦略として考えています。私たちはDACで回収したCO2を地下に貯留する「DACCS(Direct Air Capture with Carbon Storage)」や、当社でカーボンクレジットを購入し販売するオフテイクなども検討しています。
※カーボンクレジットについて詳しく知りたい方は「【解説】CO2排出権取引の国際動向とJ-クレジットの未来」をご覧ください
――エアルームに限らず、DAC事業が採算ベースに乗るのはいつ頃だと予想されていますか。
青木 各社いろいろな発言をされていますが、2030年代後半にはさまざまなプラントが建設され、その頃には利益が発生すると予想しています。
――エアルームのプラント建設においては何か条件はありますか。
タナカ 炉を燃やすため、多くの再生可能エネルギーが必要です。敷地に関しては、次のプラントからは、酸化カルシウム(CaO)を乗せたトレイを高く積み上げるので、そこまで広いスペースは必要としません。空調に関しても、現在は温度や湿度が一定しており最適な条件の場所に建設しているので、シビアなコントロールを必要としていません。
青木 彼らのプラントに人はほとんどおらず、トレイの移動や水を吹きかけるといったこともすべてロボットがおこなっているのも特徴のひとつです。
――温度や湿度の問題もありますが、安価で豊富な再生可能エネルギーを必要とするので、日本での建設は難しそうですね。
青木 そこは否めません。しかし、最大限CO2削減努力をしても、日本もまた年間0.5~2.4億トンの排出が残るという試算があります。そのため、経済産業省もDAC技術の開発、DACで回収したCO2の価値を評価する仕組みおよび需要創出を進めています。

現実的に考えられるのは、再エネが安価な国でのDAC建設プロジェクトに参画し、そこで回収したCO2の価値を日本に移転する仕組みづくりだと思います。
※再生可能エネルギーについて詳しく知りたい方は「再生可能エネルギーとは?その導入状況やメリット・デメリットを解説!」をご覧ください

DACを通じて持続可能な未来を創造していく

――最後に、この事業を通じて叶えたい夢をお聞かせください。
タナカ 2050年カーボンニュートラルの実現において、DACは必要不可欠な技術だと考えています。この地球を持続可能なものにするためにも、より多くの人々や企業がこの分野に参加してくれることを願っています。そして、DACを通じて社会貢献していければと考えています。
青木 CDRやDACの話をすると、CO2を回収できるなら排出しても構わないんでしょ? というような意見を聞くこともあります。それは大きな間違いです。最大限努力をしても、世界中で年間20~100億トンのCO2やGHGが残ってしまう。それをどうにかしようという課題解決の手段がDACです。

回収したCO2を原料・資源として活用することも可能なこの技術を、いかに社会実装していくのか。その一部として関われることを誇りに思っています。DACを通じて持続可能な未来を創造していくことが私の夢です。
――本日はありがとうございました。

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