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コラム

最終更新:2024.03.19

ブルーカーボンとは? メカニズムや取組み事例 課題をわかりやすく解説

海草や海藻が生える沿岸部のCO2吸収・貯留能力に注目が集まっています。それらはブルーカーボンと呼ばれ、政府も本腰を入れて生態系の保全・育成を促進させています。ここでは、ブルーカーボンのメカニズムや取組み事例、課題を解説していきます。

ブルーカーボンとは?

森林などが吸収するCO2を「グリーンカーボン」と呼ぶのに対し、海藻など海の植物によって海中や海底に吸収/埋没されるCO2のことを「ブルーカーボン」と呼びます。この言葉は、2009年の国連環境計画(UNEP)の報告書において命名されました。
ブルーカーボンの活用は、海の豊かな生態系を育成するだけでなく、大気中のCO2を捕捉して吸収する「ネガティブエミッション技術」のひとつとも考えられています。
そのため、2020年10月に菅元首相が「2050年カーボンニュートラル」を宣言したことでブルーカーボンは大きな注目を集めました。なぜなら、CO2排出削減を最大限努力しても、2050年時点では約2割の残余排出が発生すると予想されているからです。この残余排出をゼロにするには、何かしらのネガティブエミッション技術が必要であり、日本の地理的条件や風土的にブルーカーボンが注目されるようになったのです。

ブルーカーボンのメカニズム

【CO2の吸収】
●海草や海藻の光合成により、大気中のCO2を吸収
【CO2の長期貯留】
●枯れた海草や海藻などに含まれる炭素が海底に堆積して貯留
●成長過程で放出される、水に溶けた難分解性の炭素が海中や深海に貯留
光合成によって吸収したCO2の多くは大気に戻ってしまいます。しかし、海底や深海に堆積した残りのCO2は、数百年から数千年もの間長期貯留されます。

グリーンカーボンより優れている点

グリーンカーボンと呼ばれる森林の場合、木々の中にCO2が貯留され、成長した分だけCO2貯留量が増えたとみなされます。一方、日本の森林は老齢化が進んでいるため森林の成長速度も遅く、吸収量も減っています。また、伐採や山火事によってすぐにCO2が大気に戻ってしまいます。
日本の森林と比較した場合、単位面積あたりのCO2貯蓄量は同等程度ですが、海底に溜まるブルーカーボンはより安定的で長期的な貯留能力があると言えます。
IPCC第6次評価報告書によれば、地球のCO2排出総量を100とした場合、海洋が約35%のCO2を吸収しています。海洋面積は地球上の約70%を占めますが、ブルーカーボン生態系となる沿岸域の面積はその中の0.5%以下に過ぎません。しかしながら、海洋全体の海底に貯留される炭素の約80%を占めると言われます。
その一方、UNEPの報告書によれば、ブルーカーボン生態系は年間平均で2~7%も減少を続けており、このままではその多くが今後20年の間に失われてしまいます。そのため、さらなる保全・育成が世界規模で求められています。

主なブルーカーボン生態系

海草(うみくさ)藻場
海草は、種も根もある陸上植物に近い種であり砂や泥を必要とします。そのため枯れ葉などが海底に埋没しやすく、単位面積あたりの貯留能力は海藻(うみも)よりも高くなるケースが多く見られます。
●主な分布地:温帯~熱帯の砂浜、干潟の沖合の潮下帯(水深20~60m)
●代表的な海草:アマモ、コアマモ、スガモ
海藻(うみも)藻場
岩場に生えることの多い海藻(うみも)は、種類も豊富です。極域から赤道域まで地球上のさまざまな場所に分布しているため、地球全体で見るとCO2吸収量は多いと考えられています。
●主な分布地:主に寒帯に分布。沿岸域の潮間帯から水深数十メートルまでの岩礁海岸
●代表的な海藻:アオサ、コンブ、ワカメ、テングサなど
干潟/湿地
海岸部に砂や泥が堆積し、勾配がゆるやかな潮間帯の地形です。干潮時に露出する砂泥上に生息する微細藻類や、ヨシなどが生えます。干潟は研究が遅れている生態系でありますが、吸収・貯留ポテンシャルは他の生態系と同様に高いとの報告もあります。
●主な分布地:河口域や湾奥に広がる平たんな砂泥地
●代表的な植物:微細藻類、ヨシ
マングローブ林
熱帯・亜熱帯地域の淡水と海水が混ざり合う場所に生育している植物の総称で、砂や泥質の環境に分布します。国内では鹿児島以南の海岸に自生しています。世界的にブルーカーボンの研究がもっとも進んでおり、単位面積当たりのCO2吸収速度も高い生態系です。
●主な分布地:日本では鹿児島県と沖縄県の沿岸
●代表的なマングローブ:オヒルギ、メヒルギ、ヤマヤエヒルギ
図解提供:Kuwae, T. and Hori, M. (eds) (2019), Springer Natureを改変

CO2吸収量(貯留量)の算定方法

吸収係数とは?
IPCC(気候変動に関する政府間パネル:Intergovernmental Panel on Climate Change)のガイドラインをもとにさまざまな藻場を調べ、1ha /1年あたりの正味吸収量を算出して係数化したものです。
面積(活動量)とは?
すでにある藻場を増やした場合、面積の測定は簡単ではありません。主な測定方法として、森林と同じようにベースライン(仮にプロジェクトを実施しなかった場合に想定される広さ)比較をおこないます。
その際、ビフォア/アフターの「時間的な比較」をおこなうと同時に、その藻場と似たような場所と比較する「空間的な比較(コントロールインパクト)」も並行しておこなっています。専門用語では「Before-After-Control-Impact(BACI)」と呼ばれます。
その他、単位面積あたりの重質量を計算するバイオマスをベースとした、より具体的な算定方法もあります。

ブルーカーボンの現状

高度成長期における沿岸域の開発などで、日本の藻場や干潟は大きく面積を減らしました。しかし、1990年代中頃以降は一定の水準を維持しています。
その後、港湾分野では2000年前半より構造物の形を工夫し、藻場や干潟を作る活動が進められるようになりました。国土交通省ではそれらの構造物を「ブルーインフラ」と呼んでおり、有効活用することで、CO2吸収源を増やす技術開発を後押ししています。
水産分野においては、磯焼け対策の一環としてウニやアイゴなどの駆除。さらには最適な種苗を開発してブルーカーボン生態系を広げる活動がおこなわれています。

国内の主な取組み事例

環境省のまとめによると、日本全国のブルーカーボン取組み実施場所は2023年12月時点で、57ヶ所(45事例)あります。日本では、地域の漁業組合やNPO法人が、環境保全活動に関心の高い企業と共に実施している例が多く見られます。
製鉄スラグ(鉄鋼副産物)を活用した磯焼け対策
・プロジェクト名:北海道増毛町の藻場造成
・取組み主体:日本製鉄株式会社、増毛漁業協同組合
・概要:2000年頃より磯焼けが広がり、漁獲が減少したことで取組みをスタート。海域の鉄不足が磯焼けの要因であることに着目し、製鉄スラグ(鉄鋼副産物)を活用した「ビバリー®︎ユニット」と呼ばれる腐食酸鉄(Feイオン)を人工生成。海水中に供給することで、2022年には藻場面積を約5倍(2015年比)に増加させた。
https://www.blueeconomy.jp/wp-content/uploads/jbc2022/shinsei/11/11-gaiyou.pdf
藻場再生活動を通じた地域連携
●プロジェクト名:葉山町の多様な主体が連携した海の森づくり活動
●取組み主体:葉山アマモ協議会(葉山町漁業協同組合、葉山町立一色小学校、ダイビングショップナナ、鹿島建設株式会社)
●概要:
鹿島建設が開発した種苗生産技術を活用。漁業組合と地元ダイバーが連携しながら、アマモ場とカジメ群落の保全活動および養殖を実施。学校での種苗づくりや勉強会を開催することで教育にも繋げ、朝市の開催などで地域経済を活性化させる試みをおこなっている。
https://www.blueeconomy.jp/wp-content/uploads/jbc2023/shinsei/12/12-gaiyou.pdf
神戸空港島の周囲に大規模な浅瀬を構築
●プロジェクト名:神戸空港島におけるブルーカーボン創出プロジェクト
●取組み主体:神戸市
●概要:
神戸空港島の造成にあたり、周囲の護岸を緩やかな石積みにすることで太陽光が届く浅場を広範囲に構築。人工的な砂浜や磯浜を配置することで、豊かな生態系の育成や環境の創造。一部は釣り場として開放している。
https://www.blueeconomy.jp/wp-content/uploads/jbc2022/shinsei/01/01-gaiyou.pdf

持続可能なブルーカーボン生態系の保全・育成を目指す Jブルークレジット®

ブルーカーボン生態系の保存・育成活動は、これまでNPO法人や漁業関係者を中心としたボランティアに近いものが多く、大きな資金が投入されることはほとんどありませんでした。その一方で、2050年カーボンニュートラルを考えると、ブルーカーボンを活用したCO2吸収量はまったく足りていない状況です。そこで、カーボンクレジットを販売して資金を還流させ、持続可能にしていく取組みが生まれました。
Jブルークレジット®は、国土交通省の認可法人である「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)」により、2020年度よりスタート。ブルーカーボン創出に向けた自主的な取組みに対して、前述の「CO2吸収量(貯留量)の算定方法」に準じ認証・発行しています。なお、Jブルークレジット®はボランタリークレジットです。
図解提供:Japan Blue Economy Association(JBE)
売上げはブルーカーボン生態系の再生や創出によるさらなるCO2除去活動に使用されます。また、クレジットを購入した企業や行政は、CO2をオフセットできるだけでなく海の環境保全活動に貢献することができます。
2020年度の実績は1ヶ所/CO2換算22トンでしたが、2022年度には21ヶ所/CO2換算の合計3733トンと大幅に拡大。これまでに、商船三井や東京海上日動火災保険、東京ガスなど100社以上が購入するなど、活発な取引がおこなわれています。
図解提供:Japan Blue Economy Association(JBE)

ブルーカーボンの課題

計測技術
ブルーカーボンにおいて一番難しいのは計測になります。養殖いかだでの海藻養殖の場合は、活動エリアの境界が明確ですが、自然藻場の場合は活動エリアやその効果の及ぶ範囲が不明確になり、ベースラインよりもどれだけ増えたかを計測するのは容易ではありません。

従来はダイバーを使っていましたが、面積が広くなると難しくなります。そこで、水深が浅い場所においては、空中ドローンの活用が進んでいます。または、海上からビデオカメラを下ろして計測する方法もあります。計測に関する技術革新は今後期待されているところです。
大量養殖技術
2050年カーボンニュートラルを目指すうえで必要な吸収量を見込むのであれば、現在の養殖技術では追いつきません。森林レベルの年間4000~5000万トンのレベルを目指すには、海藻の大量養殖が必要です。そのためには新たな技術開発が不可欠となります。

日本がブルーカーボンを推進する理由

ブルーカーボンの研究において進んでいるのはマングローブです。オーストラリアが真っ先にGHGインベントリに反映させ、アメリカが続きました。日本も3番目の国として、2023年にマングローブの吸収量2300トンを計上しインベントリに反映させました。
現在、日本は海草や海藻についてもGHGインベントリに反映させるべく取組んでいます。海藻についてはもし実現すれば世界初となります。また、COP28ジャパンパビリオンでは「国際連携によるブルーカーボンの推進」をテーマとしました。
このように、日本がブルーカーボンに力を入れている背景には、海に囲まれた島国という地理的背景が挙げられます。さらには、古くから海藻を食べる文化があり養殖技術が確立していたこともあります。
それ以上に、海を有効活用しながら大事にする文化があったことが大きいでしょう。ゆえに、ブルーカーボンへの取組みに対して国民の理解が得やすいのです。Jブルークレジットが盛況な理由もそこにあると考えられています。
ブルーカーボンはCO2排出削減の目的だけでなく、海を保全・育成するという意味でも、より幅広い層に支持され成長していくことが予想されます。

監修者 桑江 朝比呂

ジャパンブルーエコノミー技術研究組合 理事長
1993年京都大学農学部卒業、1995年京都大学大学院農学研究科修了。運輸省港湾技術研究所 研究官、 (独)港湾空港技術研究所 主任研究官、 (独)港湾空港技術研究所 沿岸環境研究チーム チームリーダー、熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター 客員教授などを経て現職。国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, 港湾空港技術研究所, 領域長も務める。

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