GX(グリーントランスフォーメーション)とは? GXリーグやGX推進法についても解説 - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

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コラム

最終更新:2024.01.25

GX(グリーントランスフォーメーション)とは? GXリーグやGX推進法についても解説

デジタル技術を活用してビジネスを変革する「DX」が話題ですが、近年は「GX」というワードもよく見かけます。クリーンなエネルギーに転換していくための変革「GX」。注目される背景や課題、日本の取り組みについて解説します。

GXとは?

GXとは、グリーントランスフォーメーションの略です。温室効果ガスの排出削減を目指す取組みを社会システムの変革に結びつける活動を意味します。
経済産業省は「GXリーグ基本構想」の中で、「2050年カーボンニュートラルや、2030年の国としての温室効果ガス排出削減目標の達成に向けた取り組みを、経済の成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力の向上の実現に向けて、経済社会システム全体の変革がGX」と説明しています。ここで重要なのは、経済合理性と共にGXを推進していくということです。

GXが求められる背景・現状

いま、なぜGXが求められているのか? 順を追って説明していきます。

1.世界的な気候変動への危機感、そしてパリ協定が転期に

近年、異常気象のニュースが世界中から届くようになりました。その原因である地球温暖化の解決に向け、世界規模での脱炭素に向けた取り組みがおこなわれるようになっています。大きなきっかけは、「パリ協定」と呼ばれる2015年の「COP21(第21回国連気候変動枠組条約締約国会議)」です。ここでは、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすることが目標となりました。
そのためには、2050年までにCO2発生量と吸収量を均衡させ、実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の達成が必要となります。

2.日本も2050年カーボンニュートラルを宣言

日本では、菅義偉首相(当時)が2020年の所信表明演説にて「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。また、政府は2021年の地球温暖化対策計画にて、2030年度において、温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指すこと、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けることを表明しました。

3.脱炭素経営に着目する投資家たち

時を同じくして、投資家の多くも気候変動を「事業上のリスク」と見なすようになり、投資先の選別において「脱炭素経営」に関心を寄せるようになりました。
象徴的な出来事として、2014年に米国ロックフェラー財団が化石燃料への投資から撤退を表明。また、金融システムの安定化を目指す国際組織「金融安定理事会(FSB0)」は、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」を設立しました。現在、日本のプライム市場に上場する企業はTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示が求められています。
このように、脱炭素への取り組みはビジネスを続けるうえでの必須条件となり始めました。
※脱炭素経営やTCFDについてさらに詳しく知りたい方は下記をご覧ください。
脱炭素経営とは?メリット・デメリットや日本企業の取り組み状況を解説
企業による気候変動への取り組みを推奨するTCFDとは?

4.取引先から求められる脱炭素化

これまで脱炭素への取り組みは、大企業を中心とする「社会的責任(CSR)」の範疇と考えられてきました。しかし、「2050年カーボンニュートラル」を目指すなかで、「サプライチェーン排出量の削減」が求められるようになっています。これは原材料の調達から輸送、製造、製品の使用・廃棄に至るまで、すべての工程でのC02排出量を算定・可視化し、削減していこうというものです。つまり、大企業と取引をしている中小企業もまた、脱炭素経営が求められています。一方で、先行して脱炭素化に取り組むことにより、事業を拡大するチャンスの時代にもなっています。
出典:経済産業省エネルギー庁ウェブサイト
出典:経済産業省エネルギー庁ウェブサイト

5.エシカル消費(倫理的消費)など消費者意識の高まり

エシカル消費とは、消費者それぞれが社会的課題の解決に意識を向け、そうした課題に取り組む事業者を応援する消費活動のことです。そのひとつに、CO2排出量を削減した製品を選ぶという消費行動があり、環境配慮型の商品開発やマーケティングが活発におこなわれています。

6.ビジネスにおいて重要な視点となったGX

脱炭素社会の実現に必要なGXの取り組みは、地球温暖化対策だけでなく、事業戦略においても必須なものとなりました。GXに対応することは、ESG投資の市場拡大とサステナビリティ経営へと向かう世界の潮流により、ビジネスにおける収益に直接影響を及ぼすものとなっているのです。

GXに向けた日本の課題と今後の可能性

現在、再生エネルギーによる日本国内の発電量は、全発電電力量の22.4%(2021年)となっています。「エネルギー基本計画」では、2030年度の電源構成において再エネの導入率36~38%を目標に掲げており、2050年カーボンニュートラルの実現には全方位でのさらなる普及が必要です。
そこにある課題と、経済合理性と共にGXを推進していくための普及ポイントを探っていきます。

1.省エネの促進

1970年代の石油ショックを機に日本の省エネは促進されてきましたが、バブル経済あたりから停滞しています。現在注目されているのは、住宅やビルなど建築物の省エネ。これまで日本建築は風通しを重視してきましたが、冷暖房を効率的に使うためには不向きです。今後は断熱構造の普及や、IoT技術を活用した空調の最適化、ZEH(Net Zero Energy House:ゼロエネルギーハウス)化など、技術進展により省エネ進展の余地があります。

2.太陽光発電の課題と普及ポイント

脱炭素社会の実現に向けた重要の高まりだけでなく、エネルギー価格の高騰、インフレなどの要因も重なり、経済合理性の観点からも太陽光発電への期待が再び高まっています。一方で、メガソーラーの建設に関してはすでに広く設置されたことで適地が減り、売電価格も下がったことで積極投資が落ち着いています。
そんな中、電力を使う場所の近くで発電し、蓄電して売買する仕組みに注目が集まっています。東京都では、新築住宅に太陽光パネルの設置を義務付ける条例が2025年より施行。さらに、太陽光パネルや蓄電池に対する補助金も復活しています。
太陽光発電で生まれた余剰電力を蓄電池やEV・PHEVに貯める、またはヒートポンプで熱利用するといった技術も進展し、太陽光発電を最大限利用することが可能になりました。今後は、住宅やビル、工場や商店などの「屋根資源」を使い「自家消費」していくことが一層進んでいくでしょう。

3.風力発電の課題と普及ポイント

「陸上風力」もまた、国土の特性により普及が遅れているひとつです。景観破壊における地元住民の反対、低周波騒音の問題などから難しい状況が続いています。その中で注目されているのは、漁港などの港湾エリアでの「着床式洋上風力発電」や、沖合に設置する「浮体式洋上風力発電」です。

4.水素イノベーション

水素エネルギーは、燃焼時にCO2を排出しないことから、脱炭社会実現のための手法として期待されています。活用が特に期待されているのは、電力では補えない強力な熱を必要とし、CO2排出削減が困難な分野(Hard-to-Abate Sector)である鉄鋼や化学業界などです。
現在、日本の製鉄業界では、コークスの一部を水素で代替することで鉄鉱石を還元する「水素還元製鉄」によってCO2を削減し、「CO2分離回収技術」でさらに排出量を抑える「COURSE50」という取り組みを進めています。こちらは2030年の商用化を目指しています。その先には、100%水素での還元(直接還元製鉄)など、さまざまな角度からゼロ・カーボンスチールの実現の取り組みがおこなわれています。
なお、これらの実現には、大量の水素を供給するためのインフラ整備も必要となってきます。
※水素エネルギーについてさらに詳しく知りたい方は「水素エネルギーとは?メリットや利用方法を解説」をご覧ください。

5.貯留技術(CCUS)の確立

CCUSとは、「CCS(CO2回収・貯留)」と「CCU(CO2を利用する技術)」の2つの言葉を合わせたもので、CO2を回収し、貯留または利用する考え方、技術のことをいいます。
CCS(CO2回収・貯留)は、CO2のみを回収して地下に貯留し半永久的に固定する技術のことです。日本では2016年より北海道苫小牧で実証実験がスタートし、2019年11月には貯留目標である累計30万トンの注入に成功しています。この分野は日本が高い技術を持っており、2030年までに産業が集積する北海道、関東、中部、近畿、瀬戸内、九州といった地域のCO2排出に対応すべく、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)では、「先進的CCS事業」として2023年6月時点で7件を選定しています。これにより、2050年時点で年間約1.2〜2.4億トンのCO2貯留が可能になる予定です。
CO2を排出する工場と貯留施設が隣接していることが最も効率的ですが、日本はその適地確保において課題があるともいえます。
※CCUSについてさらに詳しく知りたい方は「CCUSとは?CO2を再利用して排出量削減に導く取り組みを解説!」をご覧ください。

GX推進における日本の動向

GXリーグ

GXリーグとは、2030年の温室効果ガス排出削減目標の達成、2050年カーボンニュートラル実現のために、「GX」に取り組んでいる企業、官公庁、大学、金融が一体となって経済社会システムの変革や新たな市場を作るために協働する場です。2022年に基本構想が示され、2023年4月より活動が開始されました。
GXの取り組みとして、諸外国では国が法案化してスタートすることが多いですが、日本ではGXリーグに賛同する企業が官民連携を通じて、自主的に取り組むことが特徴です。現在、日本のGHG排出量の4割以上を占める570社超が参画(2024年1月時点)しています。
GXリーグでは主に以下の4つの取組みを通して、経済社会システム全体の変革を目指しています。
1.自主的な排出量取引:GX-ETS
排出量取引とは、CO2排出量の削減に取り組んだ企業が、目標を超えて削減した分を売却。または、目標達成において足りない削減量を購入できる制度です。GXリーグにおける自主的な排出量取引の場は「GX-ETS」と呼ばれ、第1フェーズでは自主的な取り組みの促進から始め、2026年頃より第三者認証や規律強化をおこない、2033年頃より発電部門から段階的に有償化(オークション)していく見込みです。
※排出量取引についてさらに詳しく知りたい方は「排出量取引とは?メリットや今後の課題をわかりやすく解説!」をご覧ください。
2.市場ルール形成:GX WORKING GROUP
「カーボンニュートラル時代の市場創造やルールメイキングを議論する場」とされており、主には投資家に向けた情報開示ルールを決めていくものです。GXリーグ参画企業がCO2排出量を算定し、第三者機関が検証、モニタリングしていく仕組みとなっており、前述の「自主的な排出量取引」も、このルールにより運営されることになります。また、信頼できるルールづくりをおこなうことで、世界的な金融市場、さらには労働市場や市民社会から応援されることを目指しています。
3.ビジネス機会の創造・共有:GX FUTURE SESSION
参画企業100社以上が集まり「2050年カーボンニュートラルが実現した未来の経済社会システム」を描いた「ビジネス機会(GX FUTURE MAP)」を作成。それらを活用しながら、参画企業とスタートアップ企業や起業家が対話をおこない連携し、新しいビジネス機会を創造する場となっています。その活動は「GX FUTURE SESSION」と呼ばれています。
4.参画企業間の交流:GX STUDIO
2050年カーボンニュートラル実現のため、参画企業間での「情報連携」「相互理解」「創発」をおこなうための対話の場です。「GX STUDIO」とも呼ばれ、気候変動対応に関する企業の関心事項や実務上の課題など、月に1度テーマを決めたディスカッションや情報交換がおこなわれています。

GX推進法

「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」、通称GX推進法が2023年6月より施行されました。大きなポイントは以下の2つになります。
1.カーボンプライシングの導入
カーボンプライシングとは、炭素(CO2)に価格付けをすることであり、CO2排出者に行動変容させるための政策手法です。今回、2種類のものが国内で初めて本格導入されることになりました。
1つは「炭素に対する賦課金(化石燃料賦課金)」です。2028年度より、化石燃料の輸入業社などに対して、輸入する化石燃料に由来するCO2排出量に応じて「賦課金」を徴収します。
もう1つは「排出量取引」の導入であり、2033年度より発電事業者に対して一部有償でCO2の排出枠(量)を割り当て、その量に応じた負担金を徴収します。
※炭素税についてさらに詳しく知りたい方は「カーボンプライシングとは?その概要と日本の導入状況を詳しく解説」をご覧ください。
2.GX経済移行債を活用した先行投資支援(約20兆円)
脱炭素型経済へ移行させるためには、設備投資など多くのお金が必要です。国は今後10年間で150兆円を超える官民のGX投資が必要と試算しています。それに先駆け「GX経済移行債」を発行し、20兆円規模の補助金を事前に用意して企業を支援していくことを決めました。
「GX経済移行債」は、上記のカーボンプライシングの収入で返済されるという仕組みにも注目が集まっています。

GX実現のために

CO2排出量の削減を経済成長とともに実現する、「GX」に向けたルール化が進んできました。さらには「GX経済移行債」など国の支援も本格化し、今後は一層の脱炭素化が求められるようになります。大企業だけでなく中小企業も含め、脱炭素化に向けたイノベーションが業績を左右する時代。トランスフォーメンションは「変化」「変換」などを意味する言葉ですが、今がまさに時代の変革期となっています。

監修者

諸富 徹
京都大学大学院経済学研究科教授
1968 年大阪府生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済 学)。横浜国立大学経済学部助教授、京都大学大学院経済学研究科助教授、京都大 学公共政策大学院助教授などを経て現職。専門は環境経済学、地方財政論など。著 書に、『人口減少時代の都市 成熟型のまちづくりへ』(中央公論新社)など。

三井物産のGXソリューション

三井物産ではCO2排出量の可視化に始まり、削減、代替、オフセットまで、GX実現に向けた最適なソリューションを、目的に応じて提案しています。
※GXリーグについてさらに詳しく知りたい方は「GXリーグ」をご覧ください。

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