水素は身近なエネルギーになる。愛知から始まる「低炭素水素モデルタウン事業」の展望 - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

コラム

最終更新:2025.06.24

水素は身近なエネルギーになる。愛知から始まる「低炭素水素モデルタウン事業」の展望

水素活用が全国で進む中、愛知県では知多市を中心に「低炭素水素モデルタウン」を構想しています。交通や家庭等の多様な分野での利活用を目指し、企業と連携して実装に取り組んでいます。

化石燃料の代替エネルギーとして期待されている水素。2023年に発表された政府の「水素基本戦略」では、2040年までに水素供給量を2025年の6倍である1,200万トンまで拡大することを掲げています。
そんな中、水素活用に積極的な愛知県は、日本最多の水素ステーションを有し、官民連携で利活用を推進中です。将来的に日常生活の多様な場面で活用を目指す新たな取組みについて、愛知県環境局の北川さんと富田さんに伺います。

CO2削減だけじゃない、多様な活用へのチャレンジ

出典:愛知県「知多市における低炭素水素モデルタウン事業の事業化可能性調査を開始します[環境省事業に採択されました!]」
出典:愛知県「知多市における低炭素水素モデルタウン事業の事業化可能性調査を開始します[環境省事業に採択されました!]」
——愛知県の水素エネルギー事業について教えてください。
北川 愛知県では現在、行政と企業等が参画する「中部圏水素・アンモニア社会実装推進会議」で水素やアンモニアの海外からの輸入も視野に入れた大規模なサプライチェーンの構築と、さまざまな水素・アンモニアの利活用を検討しています。水素の街中での利活用の取組として、知多市を中心とした「低炭素水素モデルタウン事業」に取り組んでいます。具体的には、全国最多である県内34カ所の水素ステーションを起点にし、街中に水素を供給するサプライチェーンを形成しようと考えています。
2024年度の1年間を掛けて本事業を推進するための調査を実施したところ、水素の用途は多岐にわたることが分かりました。特に都市部での需要拡大が期待されます。例えばモビリティとして、バスやトラック等さまざまな商用車での利用。あるいは公共施設やオフィス、一般家庭における発電や給湯、工事現場で使われる燃料電池(FC)ショベル等への供給も考えられています。
こうした調査結果をもとに、CO2削減という観点だけに限らず、「水素は身近なエネルギー」であることを県民にもお伝えしながら社会実装を目指しています。
北川さんと富田さんが映ったお写真
北川 陵太郎(きたがわ りょうたろう):左
愛知県環境局地球温暖化対策課活動支援グループ班長。2006年に入庁。総務局、環境局、経済産業局等のさまざまな分野での職務を経て、2022年より現職。現在、カーボンリサイクルコンクリートやペロブスカイト太陽電池等の脱炭素プロジェクトや低炭素水素モデルタウン事業等の官民連携のGXプロジェクトの創出・支援に取り組んでいる。趣味は音楽鑑賞、ドライブ。
富田 洋平(とみた ようへい):右
愛知県環境局地球温暖化対策課活動支援グループ主査。2008年に入庁。環境局、都市・交通局、企業庁等での環境行政に係るさまざまな職務を経て、2024年より現職。現在、カーボンリサイクルコンクリート等の脱炭素プロジェクトや低炭素水素モデルタウン事業等の官民連携のGXプロジェクトの創出・支援に取り組んでいる。趣味はテニス、野球観戦。
富田 水素の利活用は、すでにいくつかの地方自治体で取り組まれています。例えば北九州市では、地下の水素パイプラインを活用した水素タウン事業があったり、福島県では、水素ステーションからモビリティ以外に水素を届ける試みがされています。
——水素エネルギーの利用という点において、モデル地域はあるのでしょうか。
愛知県の低炭素水素モデルタウン事業には、オートリブ、知多髙圧ガス、デンソー、東亞合成、トヨタ自動車、ブラザー工業、明治電機工業、リンナイといった地元企業が協力しており、各社で水素関連技術の開発や利用が進められています。この事業で実現させたいことは、上流から下流まで水素供給インフラを整備し、新たな市場を創出することです。現状では水素を街中に届ける手段がなく、社会実装にまで至っておりませんが、やりがいをもって取り組むべき課題だと考えています。
——街に水素エネルギーが導入されると、CO2削減以外の利点はどんなことがありますか。また企業・他の自治体と連携する可能性についてお聞かせください。
北川 そうですね、例えばFCバスはすごく乗り心地がよいんです。エンジンが動いているわけではないのでとても静かで、乗っている人にもやさしいと思います。また水素の調理用コンロも、水素だと素材の味が引き出されておいしくなると言う方もいます。県民にはこうした、環境価値以外の付加価値もお伝えしていきたいですね。
FCバスの写真
この地域には、水素ビジネスに取り組む意欲的な企業が多くいらっしゃいます。例えば、リンナイは家庭向けの水素給湯器を開発しています。そこで、地元の行政が旗を振って、今回の低炭素水素モデルタウン事業のように家庭に水素を届ける方策を検討することで、地域で水素ビジネスに取り組む企業を応援できると考えています。
さらに、今回の低炭素水素モデルタウン事業の舞台となる知多水素ステーションを運営する知多髙圧ガスは、これまでに水素ステーションが設置されていなかった知多市で、新しく水素インフラを設置したいということで水素ステーションを設置してくれました。今後も持続可能な形で水素ステーションをビジネス化していくためにも、モビリティ以外の水素の配送先を、今回の事業で新規開拓することは重要だと考えています。
またその他に、各種法規制では行政との調整が必要になりますが、橋渡し役のような役割を果たすこともできると考えています。愛知県庁の他部署との調整も窓口になりますので、気軽にお問い合わせいただきたいです。

クリーンな水素で企業を支援。「中部圏低炭素水素認証制度」

——東海3県(岐阜県、愛知県、三重県)が連携した「中部圏低炭素水素認証制度」があると聞きました。概要等を教えていただけますか。
富田 再生可能エネルギー由来で作られている低炭素水素を利用したい、という地元企業のニーズがあり、2018年からその環境価値を行政が認定する取組みを開始しました。その企業はもともと、サプライチェーン全体を見直し、「工場やフォークリフトに使うエネルギーを、CO2排出量が少ない水素に転換したい」という想いをもっていました。ただ、取組みを始めた2018年頃はまだ、再エネ水素を頑張って製造・利用しても、その環境価値が評価されず、企業努力が報われていない状況だったため、県がCO2削減量を認証するなど、しっかりと地元企業の頑張りを評価する制度を創設することになりました。
2023年からは、先ほどもお伝えした「中部圏水素・アンモニア社会実装推進会議」の制度として運用しています。また2024年には、国でも「水素社会推進法」という法律ができました。あらためて低炭素水素の定義と環境価値を認める法整備がなされましたので、今後の更なる発展に期待しています。
出典:愛知県「中部圏低炭素水素認証制度」
出典:愛知県「中部圏低炭素水素認証制度」
——水素エネルギーに関して、地域住民へはどのように認知拡大をされるのですか。
北川 たくさんの方が集まるイベント会場で、FCバスからブースに電気を供給するイベントを実施したり、その場で県民に水素の良さをご説明したりしていますが、実感としては県民に広く浸透するほどの周知はまだできていないと感じています。
ただ、実際に企業に水素を利用してもらうためには、莫大な投資をしていただく必要があります。県としても、水素の利活用を推進して、地元企業を継続的に応援していかなければいけないと思っています。実際、関心が高まっている状況ですので、今後、いろいろな水素関連の技術が実証レベルから実装段階に進むことで、飛躍的な成長が見込まれる可能性があると思っています。愛知県でも、中部圏低炭素水素認証制度の認定企業に向けた奨励金制度を2025年度から新設しましたので、今後は多くの企業が水素エネルギーの利活用を進めていただけるだろうと明るい希望を持っています。
北川さんのお写真
冒頭でもお話ししたように、愛知県の低炭素水素モデルタウンの事業構想は知多市を中心に、知多水素ステーションから街中に水素を供給するものです。しかし、FCV(燃料電池自動車)が日本でトップクラスに普及している愛知県においても、水素ステーションの経営は厳しいのが課題です。そこでモビリティ向けの水素供給だけでなく、「街中に水素供給を行う水素ステーションモデル」を県内の他地域へ展開していきたいと考えています。
相乗効果をつくりだし、水素ステーションの経営改善と、県民の水素エネルギーへの意識向上、更に水素モビリティの増加へとつながるような、好循環を生み出していきたいです。特にトラック等、FC商用車の導入を重点的に推進し、水素消費量の後押しをしながら、水素ステーション起点の多様な水素利活用モデルを展開していければと思っています。

感じてほしいことは、水素を身近に使う「嬉しさ」

——水素の利活用に取り組むおふたりにとって、身近な目標はどんなことですか。また企業に期待されることも教えてください。
北川 直近で突破したいことはやはり、水素エネルギーを使用することの嬉しさをちゃんとお伝えすることですね。「CO2が減らせます」だけでは広がらないと思いますので、資源がない日本で、水素なら「自分たちで作れる」エネルギーだということも伝えたいです。まだまだ課題はありますが、水素エネルギーが自然に受け入れられるような世の中に向けて、愛知県から拡げたいと思っています。
富田さんのお写真
富田 現状ではまだ水素を身近に感じる機会がなかなかないと思いますが、今後、低炭素水素モデルタウン事業で少しずつ、例えば給湯器やグリラー、コンロといった身近なアプリケーションが水素エネルギーに置き換わっていけば、きっと多くの方が自分事に捉えられると思います。事例はまだ国内でも少ないので、実績をつくり、広げていくことで、需要増加やコスト削減につなげていきたいです。
北川  愛知県内はもちろん、全国の企業さんと一緒に脱炭素社会につながる動きを作っていきたいですね。何かお困りごと等、まずは気軽になんなりとご相談いただけたら、私たちが全力でお役に立ちたいと思います。
富田 行政の大事な役割として、企業間をつなげることが重要だと思っています。お困りごとはもちろん、ぜひ「自分たちにはこんな技術や強みがある」といったことも教えていただけたらうれしいですね。何か良いかたちで他の企業とつないで展開できるよう、力を注いでいきたいです。

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