水素ステーションとは?仕組みや価格、普及に向けた国の取り組みを解説 - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

ソリューション水素

最終更新:2024.11.15

水素ステーションとは?仕組みや価格、普及に向けた国の取り組みを解説

水素ステーションは、燃料電池自動車(FCV)に水素を供給する重要な施設です。水素はカーボンニュートラル実現に向けた鍵となるクリーンエネルギーであり、環境負荷が低い燃料電池自動車の普及には欠かせません。そのため、国による水素ステーション整備の普及が推進されています。本記事では、水素ステーションの仕組みや設置状況、日本の水素社会実現に向けた取り組みについて解説します。

水素ステーションとは?

水素を供給される燃料電池自動車
水素ステーションは、燃料電池自動車(FCV)に水素を供給する施設。水素ステーションでは、圧縮された水素ガスが貯蔵タンクから車両のタンクに供給されます。水素を燃料とする自動車は、現在のところ燃料電池自動車が主流であり、水素を燃やして走る水素エンジン車は、まだ開発中です。

燃料電池自動車は、水素と酸素の化学反応で発電し、モーターを動かします。そのため、定期的に水素を補給する必要があります。環境負荷が低い自動車には電気自動車(EV)もありますが、燃料電池自動車の方が長距離走行が可能であることに加えて、充填時間がEVよりも短く、ガソリン車並みであるという利点があります。

ガソリン車におけるガソリンスタンドと同様に、水素ステーションは燃料電池自動車の運行に欠かせない施設です。
燃料電池車(FCV)・水素エンジン車・電気自動車(EV)については、こちらの記事で詳しく解説しています。

水素ステーションの設置場所は全国で150ヵ所以上

水素ステーションと水素タンク
<国内の状況>
一般社団法人次世代自動車振興センターによると、2024年9月11日現在、全国157ヵ所で水素ステーションが設置されています。

首都圏 47ヵ所
中京圏 49ヵ所
関西圏 20ヵ所
九州圏 13ヵ所
その他の地域 28ヵ所

水素ステーションは整備が始まったばかりで、その数はまだ限られています。しかし、燃料電池自動車の普及には、水素ステーションの整備が不可欠です。国は、2025年までに水素ステーションを320ヵ所、2027年までには約500ヵ所に増設する目標を設定しています。

出典:一般社団法人次世代自動車振興センター「水素ステーション整備状況
<海外の状況>
・ドイツ
ドイツは、2023年7月に国家水素戦略を改定し、水素の大規模生産への枠組みを設定しています。2032年までにドイツ国内の水素パイプライン網を整備し、主要な水素の製造・輸送・貯蔵拠点と需要家を結ぶ予定としている。ドイツでは水素ステーションは2025年までに400ヵ所設置する目で、水素燃料電池の研究開発や実用化、再生可能エネルギー由来の水素(グリーン水素)の生産を強化しています。

・中国
中国は、2022年3月に水素エネルギー産業発展中長期規画を発表し、モデル都市での実証事業と、水素インフラ施設の建設を推進するとしています。中国では2025年までに水素ステーションを300ヵ所設置する計画です。中国は現在、世界最大規模の水素製造国ですが、現段階では化石燃料由来の水素が主流であり、今後はグリーン水素の生産拡大を目指しています。

水素ステーションの主要設備と仕組み

引用元:経済産業省 FCV・水素ステーション事業の現状について
引用元:経済産業省 FCV・水素ステーション事業の現状について
水素ステーションは、燃料電池自動車に水素を供給するために、複数の主要な設備から成り立っています。

<水素ステーションの主要設備>
構成要素 役     割
水素製造装置 水素を製造する装置。都市ガスやLPGから水蒸気改質で水素を製造するほか、水を電気分解して製造する例もある。
圧縮機  水素を高圧(約800気圧)に圧縮する機械。シリンダとピストン方式が一般的。複数台設置されることもある。

 蓄圧機  圧縮された水素を蓄える装置。貯蔵タンク。複数台設置され段階的に圧力を上げて管理する場合もある。 
プレクーラー 水素を-40℃まで冷却する装置。充填時の断熱圧縮による温度上昇を防ぎ、FCVタンクの温度を適切に保つために使用される。
ディスペンサー 燃料電池自動車に水素を充填し、その量を計量する装置。ノズルや操作盤があり、充填中は流量や温度を監視・制御し、安全性が確保されている。
<水素ステーションの仕組み>
水素製造装置で生成された水素は、圧縮機によって高圧に圧縮され、その後蓄圧器に一時的に貯蔵されます。水素がタンクに充填される際には、タンクの温度が上昇しないようにプレクーラーで冷却されます。充填後は、ディスペンサーを通じて燃料電池自動車に水素が供給される仕組みです。

ディスペンサーには充填量や温度を制御する機能が備わっています。安全に水素を供給するため充填中はロックがかかり、充填が完了するまで解除されない設計になっています。

参考:経済産業省「FCV・水素ステーション事業の現状について」

水素ステーションの種類

水素を運搬するタンクローリーと水素タンク
現在日本で運用されている水素ステーションには、主に「定置式」と「移動式」の2種類があります。それぞれの特徴を解説します。

定置式水素ステーション

定置式水素ステーションは、街中のガソリンスタンドと同様に特定の場所に固定して設置されています。水素の補充とガソリンの給油を行うSS一体型と、水素の補充のみを行う単独型の運営方法があります。

定置式水素ステーションは、さらに「オンサイト方式」と「オフサイト方式」の2つに分けられます。

<オンサイト方式>
都市ガスやLPガスを用いて水素を製造し、そのままステーション内で車両に充填します。水素製造工場からの輸送が不要で、現地で直接水素を生成できるのが特徴です。

<オフサイト方式>
製油所や化学工場で製造された水素を定置式ステーションに輸送し、車両に充填する方式です。既に製造された水素を効率的に輸送し、コストを抑えて供給することが可能です。

移動式水素ステーション

移動式水素ステーションは、大型トレーラーに水素充填設備を搭載した移動可能な水素供給施設です。特定の場所に縛られることなく、地域やイベントのニーズに応じて水素を供給できます。定置型ステーションに比べ、省スペースで設置できるため、より柔軟な運用が可能です。

迅速に水素を必要な場所へ届けられることから、緊急の水素供給が求められる場面にも適しています。ただし、デリバリーサービスは行われておらず、指定された場所でのみ運用されています。

水素ステーションでの販売価格はいくら?

水素ステーションで水素を供給する人
水素ステーションで販売されている水素の価格は、地域や施設によって異なりますが、東京では税込みで1,760円/kg~2,200円/kgで販売されています。一時、1,200円/kgで販売されていましたが、原料である化石燃料価格の上昇や世界的なインフレの影響を受け、2024年4月以降値上げされました。

経済産業省が発表した「水電解技術開発ロードマップの策定に向けた課題整理」では、2030年までに水素価格を334円/kg(30円/N㎥)まで引き下げる目標が掲げられています。

日本における水素社会の実現への取り組み

水素とクリーンエネルギーのコンセプト
水素は発電に使用するときに排ガスやCO2が出ないクリーンなエネルギー。再生可能エネルギーを含む多様な方法で生産可能であり、保存もしやすいため、製造から利用までトータルで脱炭素化に向けた活用が期待されています。日本における水素社会実現に向けた取り組みを解説します。

2050年までに水素を主なエネルギー源の1つに

水素の普及のサプライチェーンの図
日本は世界に先駆けて、2017年12月に水素に関する国家戦略「水素基本戦略」を制定。さらに、2020年10月には2050年までにカーボンニュートラルを達成することを宣言し、水素をカーボンニュートラル実現に向けた鍵となるエネルギーとして位置づけています。

水素の普及には、「製造」「輸送・貯蔵」「利用」のサプライチェーンの整備が不可欠です。しかし、施設や技術がまだ十分に整っていないため、国は水素の供給・輸送技術の開発に多額の投資を行い、その推進に力を入れています。

水素の供給コスト削減と需要創出を促進

水素を活用してカーボンニュートラルを実現するためには、水素の供給コスト削減と需要創出が不可欠です。2030年には334円/kg(30円/N㎥)、2050年には223円/kg(20円/N㎥)以下にまでコストを引き下げることが目標とされています。

また、水素供給量については、2030年に最大300万トン/年、2050年には2,000万トン/年まで拡大する目標が掲げられています。これに加え、燃料電池車の導入を推進し、水素の利用を広範な分野で促進していく計画です。

補助金制度で水素社会実現を後押し

政府は「水素ステーション整備事業費補助金制度」を設け、水素ステーションの全国展開を推進。これにより、燃料電池自動車(FCV)の普及が期待されています。また、「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」を通じて、燃料電池自動車の導入も積極的に支援しています。

水素ステーションについてよくある質問(Q&A)

水素ステーションで水素を充填する人
水素ステーションについて、充填方法や走行距離、今後の普及などよくある質問について、詳しく回答していきます。

水素の補充方法は?セルフ充填できる?

水素ステーションでは、常駐スタッフが水素の補充を担当します。ガソリンスタンドと同様に、迅速かつ安全に充填が行われます。満タン充填には約3分を要し、ガソリン車とほとんど変わりません。

一部の水素ステーションではセルフ充填が可能ですが、安全事項や操作についての説明を受ける必要があります。またセルフ充填が可能な時間帯は限られている場合があるため、事前に確認することをおすすめします。

水素1キロで何キロ走れる?

燃料電池車のモデルや運転条件によって異なりますが、一般的に水素ガス1kg(約11㎥)で約100km走行できます。例えばトヨタMiraiでは5.6kgの水素充填で、750km~850kmの走行が可能と公表されています。

今後、水素ステーションは普及する?

現在、燃料電池自動車の導入数や⽔素燃料の供給量・コストにくわえて、ユーザーの利⽤⽅法に応じたインフラ の戦略的整備等多くの課題があり、燃料電池車の普及を妨げる大きな障壁となっています。再生可能エネルギー由来の水素製造は高コストで、技術的な課題も多いため、普及には時間がかかる可能性があります。また、ステーション整備にかかる費用の高さも、普及が進まない一因です。

しかし、政府は水素ステーションの設置を促進するための補助金制度を導入しており、今後の技術革新によっても設備費の削減が期待されています。

水素ステーションの普及で持続可能な未来へ

水素ステーションとクリーンエネルギー
日本国内に既に150ヵ所以上が設置されている水素ステーション。日本は水素社会の実現に向けて積極的に取り組んでおり、補助金制度などの支援を通じて整備が進んでいます。今後の技術革新と政策支援により、水素ステーションの普及がさらに広がり、持続可能な未来へとつながることが期待されています。

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