GX(グリーントランスフォーメーション)とは?基礎知識や企業が取り組むメリット、国内外の事例を解説 - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

コラム

最終更新:2025.06.09

GX(グリーントランスフォーメーション)とは?基礎知識や企業が取り組むメリット、国内外の事例を解説

GX(グリーントランスフォーメーション)は、脱炭素と経済成長の両立をめざす社会変革の鍵とされています。本記事では、GXの基本的な考え方やカーボンニュートラルとの違い、企業が取り組むメリット、国内外の事例まで幅広くわかりやすく解説します。

GXとは?

GXと書かれた紙
GX(Green Transformation/グリーントランスフォーメーション)とは、温室効果ガスを大量に排出する化石燃料から、太陽光や風力などのクリーンエネルギーへと転換を進め、経済や社会の仕組みそのものを持続可能な方向へと変革していく取り組みのこと。

現在、温室効果ガスの増加による地球温暖化や気候変動の深刻化を背景に、人間活動による環境負荷をいかに削減するかが、世界的な課題となっています。日本政府も、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を目指しています。

そのためには、石油や石炭などの化石燃料から、太陽光・風力・水素といった再生可能エネルギーへの転換が不可欠です。具体的には、発電の脱炭素化、電気自動車(EV)の普及、省エネ設備の導入、産業構造そのものの見直しなど、企業や地域社会を含めた広範な変革が求められています。

GXは環境対策であると同時に、新たな産業や雇用を創出し、経済成長へとつなげていくための成長戦略でもあります。

GXとカーボンニュートラルの違いと関係性とは

カーボンニュートラルと書かれた紙
GXとは、経済や社会全体を脱炭素型へと転換していく構造的な変革を指します。

一方、カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きゼロにするという、パリ協定に基づく国際的な目標です。GXは、そのカーボンニュートラルの実現と経済成長の両立を目指す、社会経済の変革のことを指します。

つまり、カーボンニュートラルが国際的な目標であるのに対し、GXはその達成に向けた具体的な取り組みの1つといえます。

GXと脱炭素の違いと関係性とは

虫眼鏡とCO2のアイコン
GXは、社会や経済のしくみを再構築しながら、持続可能な形で脱炭素を実現しようとする広い枠組みです。

一方、脱炭素は、二酸化炭素の排出量をできるだけゼロに近づけることを目的とした、具体的な行動や技術を指します。例えば、再生可能エネルギーの導入や電気自動車(EV)の普及は脱炭素の一環であり、それらを社会全体に定着させるのがGXの目指す方向です。

つまり、脱炭素はGXを構成する重要な要素であり、GXの実現は脱炭素の取り組みなしには成り立ちません。

GXが求められる背景は?

地球温暖化による環境の影響
GXは地球温暖化による気候変動対策として重要な取り組みです。GXがなぜ必要とされているのかその背景を解説します。  

地球温暖化による影響の深刻化

GXが必要とされる背景のひとつには、地球温暖化による環境や社会への悪影響が深刻化している現状があります。2021年に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告によると、温室効果ガスの排出が進んだ結果によって、世界各地で豪雨、干ばつ、山火事、熱波といった異常気象が頻発しています。

同報告では、現在の地球の平均気温は産業革命以前と比べて約1.1℃上昇しており、対策が講じられなければ2100年までに最大3.5℃上昇する可能性があると警告されています。

このまま温暖化が進行すれば、海面上昇や食料不足、生態系の破壊、経済活動の停滞といった深刻な影響が、私たちの暮らしにも及ぶことが懸念されています。

パリ協定では、気温上昇を2℃未満、可能であれば1.5℃に抑えることが国際的な目標として掲げられており、GXはその実現に向けた社会変革の手段として強く求められています。

GXの推進は、環境対策にとどまらず、エネルギーの安定供給の確保や、GXを契機とした新たな市場の開拓といった経済的な可能性にもつながると期待されています。    

2050年カーボンニュートラル実現に向けてグリーン成長戦略を策定

日本政府は2020年10月、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて「グリーン成長戦略」を策定しました。この戦略は、気候変動への対応を経済成長のチャンスと捉え、脱炭素の推進と産業競争力の強化を両立させることを目的としています。

戦略の中では、洋上風力、蓄電池、水素など14の分野を重点産業として位置づけ、技術革新や投資の促進に向けた支援策が展開されています。これにより、GXを政策として具体化していくうえで、グリーン成長戦略は極めて重要な役割を果たしています。

グリーン成長が必要とされる背景には、①地球規模での環境問題の深刻化、②温暖化対策を、クリーンエネルギーを活用した研究や技術開発を通じて経済成長の機会と捉える考え方への転換、という2つの大きな流れがあります。

GX投資は重点分野の1つ

GXは、国の成長戦略において、重点的に投資すべき分野の1つとして位置づけられています。その背景には、カーボンニュートラルの実現に向けて、社会構造を大きく転換するために多額の資金が必要とされている現状があります。

政府は「新しい資本主義」の実行計画の中で、今後10年間で官民あわせて150兆円超のGX投資を促進する方針を明記しています。具体的には、GX経済移行債の発行や制度改革を通じて、再生可能エネルギー、省エネルギー、次世代技術などへの資金供給を加速させる方針が示されています。

GXへの投資は、脱炭素の推進と同時に、新たな産業の創出や経済の活性化を図る手段としても重要視されています。

GX実現に向けた日本政府の施策

GXについて会議をする人たち
日本政府もGXの実現に向けてさまざまな取り組みを進めています。ここでは、官民で脱炭素社会をめざすための「GX実行会議」や、企業の先進的な取り組みを支える「GXリーグ」といった主要な施策について解説します。    

GX実行会議

GX実行会議は、GXを推進するために必要な施策を検討する場であり、議長は内閣総理大臣が務めています。

この会議での議論を踏まえ、2023年2月には「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されました。この方針では、脱炭素の推進、エネルギーの安定供給、経済成長という3つの目標を同時に実現することが掲げられています。

また、GX実行会議を通じて、GX経済移行債の導入や、成長志向型カーボンプライシングといった制度整備も着実に進められています。

参考:内閣官房ホームページ「GX実行会議」

GXリーグ

GXリーグは、GXに取り組む企業が官・学と連携しながら、脱炭素と経済成長の両立をめざす社会の実現に向けて協働する枠組みです。

参加企業には、自社およびサプライチェーン全体での排出削減に取り組むだけでなく、制度設計や市場の形成にも主体的に関与する姿勢が求められています。

GXリーグの基本構想では、以下の「4つの場」を柱とし、官民連携による多様な価値創出を図ることが打ち出されています。

1、自主的な排出量取引の場
2、市場ルール形成の場
3、ビジネス機会の創造・共有の場
4、自由な創発・交流の場

GXリーグは、企業がGXの主役として主体的に行動を起こし、持続可能な経済システムの構築を先導していくことが期待されている枠組みです。企業自らが変革をけん引し、社会全体の脱炭素と経済成長の両立に貢献することが求められています。

GXリーグ参加企業に求められる取り組み

GXについて会議をする人たち
リーグに参加する企業には、脱炭素化に向けた具体的な取り組みが求められます。経済産業省の「GXリーグ基本構想」を参考に、企業に求められる取り組みを解説します。    

自らの温室効果ガス排出削減

GXリーグに参画する企業には、まず自社の温室効果ガス排出削減に主体的に取り組むことが求められます。2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、2030年までの中間目標を設定し、その達成に向けた具体的な計画と戦略を策定する必要があります。

また、こうした取り組みの進捗状況は毎年公表することが義務付けられており、政府が掲げる目標を上回るような自主的な削減目標の設定も奨励されています。

サプライチェーン全体での排出削減

GXリーグでは、自社だけでなく、サプライチェーン全体の脱炭素化に取り組むことが求められています。上流の事業者に対しては、排出削減に向けた技術やノウハウの提供・共有といった支援を行い、連携して取り組みを進めていくことが重要です。

また、下流の消費者に対しては、カーボンフットプリント(CFP)表示や製品のPRを通じて、カーボンニュートラルへの意識向上を図ります。

こうした上流・下流の両面からの働きかけが、バリューチェーン全体での排出削減と、企業価値の向上を後押しする原動力となります。

GX製品の市場投入

GX製品の市場投入は、消費市場全体の脱炭素化を促進するうえで重要なアプローチとされています。企業には、CO₂排出量の少ない製品やカーボン・オフセット商品を積極的に展開していくことが求められます。

また、市民やNGOとの対話を経営に取り入れることで、社会的な信頼を高めるとともに、GX市場の拡大にもつながります。

企業がGXに取り組むメリットとは

GXに取り組む企業
企業がGXへ取り組むことで、環境にとどまらず、企業の経営にもプラスになる効果が期待できます。ここでは、GX推進によって得られるメリットを3つ紹介します。

企業イメージが向上する

GXへの取り組みは、企業イメージの向上につながる有効な手段の1つです。カーボンニュートラルに真剣に向き合う姿勢を示すことで、消費者や取引先からの信頼が高まり、ブランド価値の向上が期待できます。

さらに、環境への配慮を重視する姿勢は、投資家や金融機関からの評価にもつながり、資金調達や採用活動といった経営全体にも良い影響をもたらします。

エネルギーコストが削減できる

企業がGXに取り組むことで、エネルギーコストの削減にも大きな期待が寄せられています。省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用によって、光熱費や燃料費を抑えることが可能になります。

初期投資は必要ですが、長期的にはコスト削減と利益拡大の両面で効果が見込まれます。削減によって浮いた資金を新たな投資に回すことで、事業成長を一層促進することも期待されています。

補助金制度を活用できる

GXに取り組む企業にとって、補助金制度を活用して初期投資の負担を軽減できる点も大きなメリットです。「ものづくり補助金(グリーン枠)」や「事業再構築補助金(グリーン成長枠)」などは、GXに関連する設備導入や事業転換を支援する制度として整備されています。

こうした補助金制度は今後の拡充も見込まれており、政府が掲げる150兆円超のGX投資方針のもと、補助金の選択肢がさらに広がることで、企業のGX推進を力強く後押しすることが期待されています。

GXの取り組み事例【国内企業】

GXに取り組む企業
GXは多くの日本企業で本格的にビジネスとして取り組まれています。ここでは、脱炭素社会の実現に向けて積極的な取り組みを進めている国内企業の事例を紹介します。    

トヨタ自動車株式会社

トヨタは、「トヨタ環境チャレンジ2050」のもと、CO₂排出ゼロを目指したGX戦略を展開しています。新車の平均CO₂排出量を2010年比で90%削減するという目標を掲げ、再生可能エネルギーの導入による工場の脱炭素化にも取り組んでいます。

また、製品のライフサイクル全体を視野に入れた取り組みも強化しており、サプライチェーン全体に働きかけることで、より広範な排出削減を実現しています。

これらの取組みは脱炭素と経済成長の両立を図るGXの理念に合致しており、自動車産業全体の構造転換を牽引するものです。

日本電信電話株式会社(NTT)

NTTグループは、「Green Innovation toward 2040」を掲げ、2040年度までにカーボンニュートラルを実現することを目指しています。2030年度までには、2013年度比で温室効果ガス排出量を80%削減するという中間目標も設定しています。

その実現に向けて、再生可能エネルギーの導入に加え、次世代情報通信基盤「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」の開発を進めています。IOWNは、最先端の光技術を活用し、従来の通信に比べて大幅な消費電力削減を実現する構想であり、電力起因の温室効果ガス削減に大きく貢献することが期待されています。

さらに、データセンターのグリーン化や働き方改革といった取り組みも推進し、企業活動だけでなく、社会全体の脱炭素化に寄与することを目指しています。

パナソニックホールディングス株式会社

パナソニックは、「GREEN IMPACT」を掲げ、GXの中核を担う企業として、脱炭素に積極的に取り組んでいます。2030年までに全事業会社におけるCO₂排出量を実質ゼロにすることを目指し、2050年には、世界全体の排出量の約1%に相当する3億トンのCO₂削減を目標に掲げています。

その取り組みは自社にとどまらず、省エネ製品や環境技術の提供を通じて、GXの本質である社会構造の変革を後押ししています。

ENEOSホールディングス株式会社

ENEOSは、2040年までにカーボンニュートラルを実現することを目指しています。子会社であるJX金属が運営するチリの鉱山では、2021年から使用電力をすべて再生可能エネルギーに切り替え、電力使用におけるCO₂排出ゼロを達成しました。

国内においても、タンカー輸送の効率化や製油所の省エネ化を進めるなど、脱炭素化への取り組みを強化しています。

さらに、水素ステーションの整備、洋上風力発電、CCS(炭素回収・貯留)といった次世代エネルギー技術にも注力し、エネルギー供給構造の転換によりGXを実現する中核的な役割を果たしています。

GXの取り組み事例【海外企業】

太陽光・風力発電の再生可能エネルギー
GXの取り組みは日本だけでなく、世界の大手企業でも積極的に進められています。ここでは、カーボンフリー化や再エネ導入などを通じて、脱炭素の実現をめざす海外事業の事例を紹介します。    

ユニリーバ

ロンドンに拠点をもつユニリーバは、2030年までに自社からのCO₂排出ゼロ、2039年までにサプライチェーン全体でのカーボンニュートラル達成を目指しています。2010年以降、自社工場の温室効果ガス排出量を75%削減し、エネルギーの半分以上を再生可能エネルギーに転換しました。

また、持続可能な農作物の調達や、プラスチック使用の削減、製品原料の生分解性100%化など、環境負荷の少ない製造体制を全社的に進めています。これらの取り組みは、製造・調達・流通の全体最適を通じて脱炭素と経済活動の両立を図るものであり、GXの理念を体現しています。

Amazon

Amazonは、2040年までにネット・ゼロカーボンを達成することを目標に掲げ、GXを積極的に推進しています。2025年までに全事業の電力を100%再生可能エネルギーでまかなう方針を打ち出し、2022年時点でその達成率はすでに90%に到達しました。

同社は再エネの大規模な導入を進めており、現在では世界最大の再生可能エネルギー購入企業の1つとして、グローバルな再エネ市場にも大きな影響を与えています。    

Apple

Appleは、2030年までに自社製品のライフサイクル全体でカーボンニュートラルを達成することを目標に掲げています。再生可能エネルギーの活用や低炭素設計を推進することで、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を40%削減しています。

さらに、日本を含む世界各国のサプライヤーに対しても再エネ100%の導入を求めており、サプライチェーン全体で脱炭素の取り組みを加速させる「連鎖」を生み出しています。この取組みは、企業単体ではなくバリューチェーン全体でGXを推進する先進的なモデルになっています。    

マクドナルド

マクドナルドは、2030年までに全世界の店舗・オフィスからのCO₂排出量を2015年比で36%削減するという目標を掲げています。

アメリカ・フロリダ州のウォルト・ディズニー・ワールド内の店舗では、ソーラーパネルの設置や省エネ機器の導入により、再生可能エネルギー100%での運営を実現。イギリスなど他の地域でも店舗ごとの省エネ化を進め、脱炭素への取り組みを世界規模で広げています。グローバルな事業展開の中で、各地域のエネルギー事情や規制環境に応じたGX戦略を実践しており、脱炭素と事業成長の両立を図るGXの先進的なモデルであります。

GXは環境と経済の未来を変える重要な要素

GXが進んだ未来の社会
GXは、カーボンニュートラルの達成と経済成長を同時にめざす社会変革であり、脱炭素・エネルギー転換・産業の再構築を含む広範な取り組みです。政府はGX実行会議やGXリーグを通じて制度整備を進め、企業には排出削減やGX製品の開発が求められています。GXは環境だけでなく、企業価値や競争力の向上にも直結する取り組みであり、早期の対応が将来の成長戦略にもつながるでしょう。

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