ビジネス界からも参画を。COP28の成果から考える、削減目標への取り組み方 - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

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コラム

最終更新:2024.01.23

ビジネス界からも参画を。COP28の成果から考える、削減目標への取り組み方

2023年、28回目となる国連の気候変動枠組条約締約国会議、通称「COP28」が開催されました。各国のリーダーたちや専門家、民間企業、そして市民社会からの参加者が議長国であるアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに集い、喫緊の環境課題を議論した約2週間。一体どんなことが決まり、私たちの暮らしにどんな影響をもたらすのでしょうか。

事前に注目されていたアジェンダは、大きく3つでした。パリ協定の目的達成に向けた進捗を評価するグローバル・ストックテイク(GST)、前年のCOP27で大きく進捗した気候変動の影響に伴う損失と損害、そして、化石燃料の段階的廃止です。

前回に続き、本会場で多くの議論を見守った国際NGO「気候ネットワーク」の田中 十紀恵さんに、COP28の決定事項と、ビジネス視点での捉え方についてうかがいます。

──COP28、ドバイの会場はどんな様子でしたか。
田中 まず会場には「昨年よりたくさんの人が来ているなぁ」という印象がありました。実際に、UNFCCC(United Nations Framework Convention on Climate Change 国連気候変動枠組条約)の事務局からの発表でも、参加者は過去最大の8万3千人だったそうです。同じく過去最大と言われた去年のCOP27から、倍近く増えたことになります。議長国UAEの強い意気込みは早くから伝えられていましたが、注目度の高さもあり、大規模なCOPを実現させたと感じました。
田中 十紀恵(たなか ときえ)
田中 十紀恵(たなか ときえ)
特定非営利活動法人気候ネットワーク 国際コーディネーター
京都生まれ。民間企業勤務ののち、国際協力NGOに転職。NGOスタッフ向けの研修や政策提言、ネパールの首都カトマンズにて川の保全とごみに関する環境教育を通じた地域づくりプロジェクトなどを担当。2021年6月より現職。主に気候変動の国際交渉のフォローを担当する他、地域での活動にも参加。エネルギーや資源の観点から考える、長く住み続けられるまちづくりに関心が高い。
田中 交渉会議ではやはりグローバル・ストックテイクが注目されていたため、議長国も良い成果を出したいと考えているのが伝わってくるようでした。そのせいか全体的に、エネルギーに関する議題が先行して進んだような気もします。

“異例中の異例”な幕開け

田中 温暖化によって途上国が被った被害に対する基金「損失と損害基金」の運用についての議論が注目されていましたが、運用に関するルールが開催初日に採択され、このことは現地参加していた多くの人を驚かせました。通常初日の開幕プレナリーでは、COPで話し合われる議題が決まるのですが、前日のうちに基金に関する合意文書の草案が発表され、初日に採択されたのです。これは、過去のCOPを振り返ると、異例中の異例だと言えます。
我々NGOを含めて、損失と損害基金の運用については、議論が長引くと思っていました。というのも、草案は途上国側が求める要望が完全に反映された内容ではなかったからです。しかし、おそらく途上国側もまずは採択されることを優先し、この内容で賛同したのだと思います。被害を受けている人たちの意図が反映されたかたちで、必要なお金を受け取れる仕組みとなるよう、今後も見直しや議論が続けられることを願っています。
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合意が示唆する「化石燃料時代の終わり」のはじまり

──そして、時間を掛けて議論されたのがグローバル・ストックテイクですね。
田中 はい。グローバル・ストックテイクとは、パリ協定で示された世界の気温上昇を1.5度未満に抑える目標に対する各国の取り組みについて、5年ごとに進捗を評価するものです。今回が初めてのグローバル・ストックテイクでもあることから注目されていました。
通常COPでは、議案ごとの決定文書とは別に「カバー決定」と呼ばれる全体の決定事項をまとめた文書が作られるのですが、今回はそのカバー決定が作られませんでした。その代わり、グローバル・ストックテイクの結果をもって、会議全体の決定とするかたちが取られたと言えます。昨年から懸案事項だった化石燃料についても、グローバル・ストックテイクに盛り込まれました。
この化石燃料については、いったん「段階的廃止」という意欲的な文言が盛り込まれた合意案も示されましたが、最終的に「化石燃料からの脱却」をめざすことで合意しました。
背景としては、やはりグローバル・ストックテイクの議論がかなり紛糾したことが想像されます。日本でも報道されていたようですが、OPEC(石油輸出国機構)の事務局長が、OPECプラスのメンバーに化石燃料に言及する案を拒否するよう求めていたことが報道され問題視されました。それだけ産油国にとっては、化石燃料の廃止が決定文言になることを避けたかったのだと思われます。そんな中で、「化石燃料の段階的廃止」とはならなかったものの「化石燃料からの脱却」が盛り込まれたのは歴史的な合意だったと言えるでしょう。
同じように、再生可能エネルギーの設備容量を3倍にすることや、省エネの効率改善を倍増させることもグローバル・ストックテイクに盛り込まれました。こうしたことからも、国際社会が化石燃料から再生可能エネルギーへ移行していくという方向性が示されていると言えます。UNFCCCのサイモン・スティル事務局長も閉会スピーチの中で、「化石燃料時代の終わりの始まりだ」と明言していました。

グローバル・ストックテイクが示す大きな方向転換

田中 さまざまな決定事項を含めて、第一回目のグローバル・ストックテイクはこれで終わりました。今後の流れとして、各締約国には、次の「国が決定する貢献・NDC(Nationally Determined Contribution)」、つまり2035年までの排出削減目標を、2025年11月に開催予定のCOP30の9~12ヶ月前までに提出することが求められます。グローバル・ストックテイクの結果をどのように反映させたかを報告する必要もありますので、各国とも早急に具体的な議論を進めていくはずです。
──今回初めて、原子力がCOPの文書に盛り込まれた、という報道もされていました。
田中 まず、会期のごく始めに発表されて話題になりましたが、原発を3倍にするというのはCOPの決定事項ではなく、有志国によるプレッジ(誓約)です。アメリカが主導し、CO2削減のために2050年までに設備容量を3倍にするというプレッジを発表しました。最終的なグローバル・ストックテイクの合意文書では、化石燃料から移行する先はあくまでも再生可能エネルギー中心の社会であると示されています。原子力はCO2排出削減が困難な部門でのゼロ排出・低排出技術の一例であり、取り扱いは大きくありません。
──その他、先送りになった議題で気になることはありましたでしょうか。
田中 日本で注目されていたことのひとつに、カーボンマーケットに関する議論がありましたが、こちらはまだまだ課題が残るということで先送りになりました。パリ協定の第6条2項が定める「二国間クレジット制度」、あるいは国連が一括管理を行う6条4項の「世界全体の排出における総体的な緩和」に関する議題です。運用が始まると、前述のNDCで掲げる排出削減目標の達成に活用できることから、6条に期待している国もあり、来年以降の動きに注目したいと思っています。
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異なる立場のなかで問われる公平性

──さまざまな議題のなか、今回の全体的な決定事項から感じた事は何でしたか。
田中 全体として「公平さの担保」が課題になっていたと思いました。かつて、京都議定書では、「共通だが差異ある責任」の考えのもと、温暖化が世界共通の課題であっても排出削減の義務を負うのは、原則として先進国でした。しかし時を経て途上国を含む国際的な協力が必要となり、COP21で採択されたパリ協定では、どの国も一緒に排出削減に取り組むこととなっています。
しかし歴史的な排出を考慮すれば負担の度合いが違うことは明らかで、途上国は気候変動対策には資金や技術、情報に対して支援を必要としています。一方の先進国は、先進国ばかりに義務や負担が課されることはもう避けたい、あるいは、削減対策が不足していたと追及されたくない思いもあるでしょう。立場が違うことで、意見の対立はいろんな議題でどうしても出てくることになります。こうしたことから公平性(Equity)をどう担保するかの議論があちこちで見られました。
市民社会やNGOも、これまでCO2の排出が大きかった国には率先して気候変動対策に取り組んでもらいたい、と主張しています。来年以降もせめぎ合いは続くかもしれませんが、公平性を確保しながら、世界全体で気候変動対策に取り組んでいくことが理想です。
──COP29の開催も決まりました(日程は2024年11月11日〜22日、議長国はアゼルバイジャン)。次回に向けて注目すべき事はどんなことでしょうか。
田中 次回の議論はおそらく「資金」が大きな話題になると思われます。気候変動対策の資金をどのように捻出するべきか、特に途上国への資金援助が求められています。資金については、2020年までに先進国から途上国に対し年間1000億ドルを拠出するという目標がありましたが、当初の年限には目標を達成することができていません。同時に、2025年以降の資金の目標に関する議論も進められており、COP29で結論を出すことになっていますので、来年は大きくフォーカスされるテーマだと思います。
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注目は、削減対策を踏まえたビジネス界の動き

──日本のビジネスシーンにおいて、今回のCOP28の成果をどのように捉えることが期待されますか。
田中 化石燃料からの脱却は、今後の国際ビジネスに大きく影響してくると考えられます。石炭火力を使う日本の製品が受け入れられなくなる可能性や、海外市場での評価の変化など、厳しく見られることを考慮することが必要ではないでしょうか。各々の関わるプロダクトやサービスがどのような電力を使用しているのか、近い将来に向けて検討することが、大きな変化につながると思います。
実際近年のCOPでは、非国家のアクター、例えば自治体や一般企業に期待される役割が大きくなってきています。また、COPのパビリオンなどに参加する一般企業が増えている背景に、気候変動問題への注目の高まりを感じています。
一例として、企業や自治体などが温室効果ガスの排出量を正味ゼロにする「ネットゼロ宣言」について。昨年のCOPでは、国連の専門家グループが、非国家アクターに向けたネットゼロ宣言の提言レポートを作成して話題になりました。今年のCOPではさらに、同じグループのメンバーを中心に、ネットゼロに関するタスクフォースの立ち上げが発表されました。提言だけではなく政策の基礎作りを推進することで、非国家アクターのネットゼロ宣言に沿った活動を後押しすることが狙いでもあります。これにより言えることは、非国家アクターの信頼性や説明責任などが、今後より一層求められる社会になることだと言えるでしょう。日本企業の脱炭素社会への早急で確実な取り組みを期待しています。

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