自然災害の頻発化・激甚化により、気候変動問題への関心も高まり、2024年は脱炭素とサーキュラーエコノミーの重要性がますます注目される年となりました。各国政府や企業が持続可能な未来を目指すなかで、脱炭素社会の実現に向けて、再生可能エネルギー導入などの施策は私たちの社会や経済の基盤を構築する必須の要素として位置づけられています。2024年における脱炭素・循環経済に関連する主要な施策や出来事を振り返ります。
2024年における世界の脱炭素の取り組み
世界規模で異常気象や自然災害が増加し、「気候危機」とも呼ばれる状況のなか、脱炭素とサーキュラーエコノミーの重要性が高まっています。
地球温暖化は異常気象や生物多様性の損失を引き起こしており、その主な原因は温室効果ガスの排出です。これに対処するため、多くの国や企業が脱炭素化、二酸化炭素の排出量を減らすことを目指し、カーボンニュートラルな社会の実現に取り組んでいます。
同時にサーキュラーエコノミー(循環経済)は、資源を再利用し循環させる経済モデルとして注目されています。この考え方は企業に対して循環を意識した製品やサービスの開発を求めています。
2024年の気候変動の状況とパリ協定
EUのコペルニクス気候変動サービスは、2024年の世界平均気温が工業化以前と比べて1.5℃以上高くなる見込みを示し、欧州の気象当局は2024年が統計開始以来、最も気温の高い年となることが「ほぼ確実」となったとの見通しを発表しました。また、ポツダム気候影響研究所(PIK)は気候変動による被害総額は2050年までに推計で年間38兆ドルに上るとの報告を出しています。これらの深刻な状況を受けて、パリ協定やSDGsを通じて、各国が協力連携し、持続可能な未来を目指す取組みが進行中です。
2015年に締結されたパリ協定には、196か国が参加し、地球温暖化防止に向けた2つの目標が掲げられました。1つ目は、産業革命以前と比べた気温上昇を2度より低く抑えることを目指し、さらに1.5度以内に抑える努力を行うこと。2つ目は、今世紀後半までに温室効果ガスの排出量の人為的な排出量と吸収量を均衡させることでした。しかし、もはや1.5度目標の遵守は危うい状況にあり、世界中で政策立案や資金援助が行われ、地球規模の課題に対する意識が高まっています。
*異常気象と気候変動の現況について詳しく知りたい方は、「
気象予報士 森朗さんに聞く。気候変動を食い止めるその対策とは? 」をご覧ください。
2024年までの脱炭素の取り組み
パリ協定を受け、日本では2020年に菅内閣総理大臣より「2050年に脱炭素社会の実現を目指す」ことが宣言されました。中期目標として、2013年度と比較し2030年までに26%、長期目標として2050年までに80%、温室効果ガスの排出量を削減することを掲げています。また、翌年の2021年に環境省は「地球温暖化対策の推進に関する法律」を一部改正し、2050年カーボンニュートラルを実現することを法律に明記しました。それに伴い、日本は、2021年4月に、2050 年カーボンニュートラルと整合的で、野心的な目標として、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指すこと、さらに50%の高みに向け挑戦を続けることを表明しました。
他にも、脱炭素に関する取組みや、企業の排出量情報のオープンデータ化を進める仕組みを制定。国が事業者の排出量を公表する制度をデジタル化し、開示請求を不要とすることで、報告する側と使う側の双方の利便性向上を図り、企業の取組みが評価されやすい環境を整備します。加えて、2022年改正では、温室効果ガスの排出の量の削減等を行う事業活動に対し資金供給や、国が地方公共団体への財政上の措置に努める旨を規定しました。
2024年までのサーキュラーエコノミーの取り組み
2024年、サーキュラーエコノミーの取組みは、各国の具体的な目標に基づき活発化しています。例えばEUでは、社会・経済をよりクリーンで競争力のあるものにすべく、2020年に循環型経済行動計画(CEAP)が採択されました。製品の設計方法、廃棄物の防止など、製品のライフサイクル全体にわたり資源が循環する仕組みを整えています。
そして、日本ではプラスチック資源循環促進法により企業にリサイクル・リユースの義務が強化され、企業はプラスチック包装材の削減や再生可能素材の使用に注力しています。これらの施策は、気候変動対策や資源の持続可能な利用の達成に向けた重要なステップです。
そして、2024年における各国の脱炭素やサーキュラーエコノミーを推進するための施策を振り返ります。
2024年 日本の施策
GX推進法(グリーントランスフォーメーション推進法)
2023年6月に施行された「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」、通称GX推進法は、企業に対し再エネの利用拡大や脱炭素技術への投資を促進する法律です。2024年度には、企業がカーボンニュートラル目標に向けて実質ゼロエミッションを目指すための技術導入や補助金制度が拡充されました。GX推進法のポイントと、2024年の新たな取組みは下記の通りです。
①カーボンプライシングの導入 カーボンプライシングとは、炭素(CO2)に価格付けをすることであり、 CO2排出者に行動変容させるための政策手法です。
②GX経済移行債を活用した先行投資支援 国は「GX経済移行債」を発行し、 約20兆円規模の補助金を事前に用意して企業を支援しています。 ③GX推進機構の立ち上げ
カーボンプライシングも財源にしながら、新技術への投資や、企業の脱炭素プロジェクトを
支援する体制を整えています。民間投資の活性化を通じて長期的な低炭素成長を 目指しています。
プラスチック資源循環促進法
2022年4月に施行された「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」は、「プラスチック資源循環促進法」とも呼ばれています。海洋ごみ問題や大量生産・大量生産の問題で指を指されることも多いプラスチック製品に対し、この法律では製品の設計から廃棄に至るまでのライフサイクル全体でプラスチック廃棄物を減らし、リサイクルやリユースを促進することを目的としています。
2024年からは、環境省が中心となり、製造・販売事業者等による自主回収・再資源化に向けて、より積極的な施策が進められています。実際に、プラスチック製品の使用削減を目指す新法が施行され、企業に対し使い捨てプラスチックの削減、再生利用の義務が強化されました。他にも、大手コンビニエンスストアのファミリーマートでの袋有料化のように、消費者向けにもリサイクルやリデュースを促すキャンペーンが展開されています。
2024年 EUの施策
欧州グリーンディール (European Green Deal)
欧州グリーンディールは、EUが気候変動への取組みを強化し、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを目指す包括的な戦略です。2019年に発表されたこの計画は、EU全体の経済や社会、そして環境政策をグリーンな方向へ転換することを目指しています。
その一環としてカーボンボーダー調整メカニズム(CBAM)は、EUが2023年に導入し、2026年から全面施行を予定している、域外からEUに輸入されるカーボンフットプリントが大きい製品に対する課税制度です。2024年にも本格的に導入が進んでいるこの制度はEU域外で生産されるカーボンフットプリントが大きい製品に適正な炭素価格を付け、地球温暖化への対策を促すことを目的としています。
現在は、様々な企業や輸入業者が適切な排出データの提供方法やデータ収集のための情報を収集している段階ですが、2025年以降はさらなる義務や監視が厳格化される予定です。鉄鋼やセメントなど、現在では一部の輸入品に限定されていますが、対象品目は今後増やしていく方向で調整を進めています。輸出企業は、より環境負荷低減によるモノづくりが求められることになります。
EUのサプライチェーン法
EUの「企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)」は、欧州グリーンディールの一環として2024年に採択され、サプライチェーンにおける人権や環境デューデリジェンスを義務づけるものです。
従業員1,000人以上かつ年商4億5,000万ユーロを超える大企業が対象で、自社およびバリューチェーン全体での人権侵害や環境への悪影響の特定、予防、対応を求められます。特にリスクの高い鉱業や繊維業界における労働搾取や環境破壊への対策が重視されています。
この法のもとで、大企業には環境および人権リスク管理の徹底とサステナブルな調達の義務が課され、違反には罰則が設けられています。現時点では指令であるため、法的に拘束されるものではありません。しかし、グローバルで活動する日本企業は、指令で要求されている内容に適切に対応できているのか、そのギャップを把握しておく必要があるでしょう。
2024年 アメリカの施策
クリーンエネルギー税制優遇拡充 (Inflation Reduction Actの拡充)
IRAは2022年に成立した、アメリカのクリーンエネルギー推進と気候変動対策に関する法律で、日本ではインフレ抑制法とも呼ばれています。再エネ業界に対する大規模な支援とインセンティブの提供によって、温室効果ガスの削減を加速させることを目的として制定されました。
2024年には、再エネプロジェクトへの税制優遇がさらに拡大され、特に風力、太陽光、バッテリー貯蔵技術に対するインセンティブが強化されました。税制優遇の一環として、地方自治体や非営利団体などが恩恵を受けられる仕組みを導入したことで、様々な組織が再エネ事業における資金調達が容易となり、プロジェクト実現のコストが下がることが期待されています。
世界最大級の気候変動イベント「Climate Week NYC」
ビジネスリーダーや政策決定者が集まり、具体的な行動を促進する場として、「Climate Week NYC」が2024年9月にアメリカのニューヨークで開催されました。イベントでは、化石燃料の脱却や気候変動に対応しない際の経済損失、再エネやAIの活用など、今後の気候変動への対策やイノベーションについて議論されました。また、トランプ政権に代わり、IRAの廃止やパリ協定の離脱も危惧されるなか、イベントでは、政権交代が起きてもアメリカの企業は気候変動に対する取組みを継続するだろうとの示唆が共有されました。
2024年のテーマである「It’s Time」は、行動を起こす時が来たことを意味しています。温室効果ガスの排出量が減少していない、という厳しい状況に対し、国や企業の抜本的な取組みが求められています。
*Climate Week NYCについて詳しく知りたい方は「
Climate Week NYC 2024」世界最大級の気候変動イベントとは?」をご覧ください。
脱炭素の取り組み強化の必要性
気候変動対策の緊急性が増す中で、世界各国が脱炭素およびサーキュラーエコノミーの取組みを加速しています。温室効果ガス削減の一環として、国際的な連携が求められるパリ協定や、EUのカーボンボーダー調整メカニズム (CBAM) などの政策が強化され、企業や国民に対して具体的な行動が促されています。
また、GX推進法やプラスチック資源循環促進法の施行により、再エネ技術や廃棄物削減といった分野への投資が進む中、日本を含め、企業はサステナブルなビジネスモデルを導入する方向にシフトしています。
さらに、アメリカのインフレ抑制法 (IRA) の拡充により、再エネ産業やエネルギー貯蔵技術への税制優遇が広がり、再エネ事業の加速が期待されています。これらの取組みがサステナブルな未来を築く基盤となり、2030年の気候目標達成へと近づくため、企業や政府、市民が一体となって、脱炭素社会に向けた具体的な行動を起こすことが求められています。
参考
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