大地の恵み、地熱発電。次世代型開発など伸びしろに期待大
政府は今後、更なる地熱発電の開発支援と次世代技術導入を進めます。日本の地熱発電の課題や最新動向を資源エネルギー庁・小林貴成氏に取材しました。
脱炭素社会の実現に向けた再生可能エネルギー戦略において、エネルギー源の見直しや多様な選択肢の確保は重要な視点です。地熱発電は、太陽光や風力に次ぐ選択肢であり、天候に左右されないエネルギーとして注目されています。技術的コストとリスク管理の課題を踏まえて、普及拡大を日本はどのように計画しているのでしょうか。資源エネルギー庁 地熱資源開発室長の小林 貴成さんにお聞きしました。
課題はコスト。世界的に進む、地熱発電
小林 火山国ということもあり、日本の地熱はポテンシャルが高く、アメリカ、インドネシアに次いで世界第3位です。しかし地熱の発電量は2024年時点で0.6/GWh。これは全発電量の0.3%ほどで、まだまだ十分な伸びしろがあると言えます。
2024年末には、再生可能エネルギーを増やすことが示された第7次エネルギー基本計画案が発表されたと同時に、カーボンニュートラルを目指す「GX2040ビジョン」の改定案が進展したことを受け、政府としても地熱発電を推進しようと動いているところです。
世界的な傾向としても、アメリカ、インドネシア、トルコ、ケニアといった国々は、2024年時点で、地熱発電量を大幅に増加させています。国際エネルギー機関(IEA)でも従来型の地熱発電に加えて、次世代型の地熱発電の開発意欲を示していますし、各国が地熱の発電量を増加させる見込みを公表しています。また日本企業は地熱発電タービンで世界シェアの7割を占め、技術力で世界の地熱開発に貢献しています。
小林 貴成(こばやし たかしげ)
経済産業省 資源エネルギー庁 資源・燃料部 地熱資源開発室長
1995年(平成7年)通商産業省(当時)に入省。
大臣官房、経済産業政策局、公正取引委員会、資源エネルギー庁(原子力、資源燃料)等の他、茨城県潮来市(副市長)、在カザフスタン日本大使館に勤務。2023年9月に地熱資源開発室長に着任。
——日本の地熱発電のポテンシャルは高いのに、総発電量が0.3%に止まっているのはなぜでしょうか。
小林 従来型の地熱発電は、地下の貯留層にある水がマグマで温められ、その上にある数百メートルの厚い粘土層が蓋となって作られる高温・高圧の蒸気を取り出すメカニズムでした。
しかし、地熱が起こる場所の把握自体は探査作業で可能でも、商業化できるほどの蒸気が取れるのかどうかは、実際に井戸を掘削して蒸気を取り出してみるまでわかりません。井戸は1箇所で10億円ほどのコストもかかるうえに、上記の出る成功確率としては数本に1本ほどです。井戸を掘るためにはリグという掘削装置が必要ですが、国内で保有する台数に限りがあるため、その手配や専任の人員確保は容易ではない点や、掘削地域は北海道や東北に多いため、雪が降る冬季は半年間ほど掘削作業ができないという課題もあります。
こうしたコストやリスクとは別にもうひとつ、貯留層から熱水を取り出す場所が、温泉地域とほぼ同じということも関係していると思います。深さでいえば温泉は約数百メートル、地熱発電はさらに深く約2000m以上ですので、基本的には重ならないとされていますが、地中のことですので、実際にどこで、どのように影響しあっているかはわかりません。井戸の掘削では、熱水を取り出すことを目的とするため、温泉法に基づき各都道府県が設置する温泉審議会にて掘削許可を得る必要があるとともに、地元の温泉業者との対話が必要になるため、どうしても合意には時間がかかってしまいます。
小林 実際に地熱発電を行う場所は、山の中や海沿いなど、電力を使用する需要地とは異なる場所です。そこで問題になるのは、電気を送る送電線の敷設にコストがかかること。それと、発電の前段階において、山の中にアクセスする道路がない場合は、道路から造る必要があることです。その場合、林野庁や環境省との調整が必要となり、新たな課題となります。
政府も後押し。地熱開発の加速化に向けて
——今後、地熱発電を拡大するために、どのようなことが行われているのでしょうか。
小林 資源エネルギー庁では2024年、従来型と次世代型、それぞれの地熱開発を促進させようと考えて、地熱開発加速化パッケージを策定しました。
そのうちのひとつが、JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)という政府系団体の協力で進めるものです。まず、JOGMECが全国数箇所で掘削から蒸気噴出までを国費で行い、場所の目処がついたら、それ以降の過程を事業者に譲渡する。これにより自然公園内など事業者が着手しにくいところも開発が進めやすくなります。
もうひとつ、自然環境との調和にも対処していきます。環境省や林野庁における、自然保護という大切なミッションと並行させながら、地熱開発を円滑に進めることが必要だと考えているためです。
環境省では2021年9月、国立や国定公園内における地熱開発の取り扱いについて、自然環境と調和が図れる優良な事例の確立を目指して法改正をしました。私たち資源エネルギー庁でも、環境省の協力のもとで各地域の環境団体の方々と話し合い、発電所の色彩を景観に溶け込むように配慮をしたり、建物を低くしたりと、自然環境への影響を配慮しています。
他省とも協議をしながら、現場での個別課題を抽出し、運用のリスクを解消していきたいと考えています。
小林 北海道・函館にある森地熱発電所では昔から、地熱の熱水を使い、農地のビニールハウス栽培に活用しています。また福島県の福島市にある地熱発電所では、発電所の温泉水と冷却水を利用してテナガエビの養殖を行い、地域の名産品を作っただけでなく、その収益で地域バスの運行を行っています。
こうした事例は各地にあり、地熱発電事業を成功させる上でも、また地元の方々の理解を得るためにも極めて重要だと考えています。やはり突然都市部から来た我々が何の相談もなく進めるようなことではなく、地元自治体や温泉業者の皆様など、地域の方々と丁寧な話し合いを地道に行うことは、開発の成功要素につながる大事な対応だと思います。
次世代型地熱発電に寄せられる大きな期待
——2050年のカーボンニュートラル社会を見据え、地熱の発電量をどのぐらい増やすことを計画していますか。
小林 2024年時点の地熱発電の割合は0.3%ですが、2030年までに1%、2040年までには2%になるのではと見通しています。そのため、政府は引き続き、従来型の地熱発電を進めるとともに、次世代型の地熱発電の開発にも力を入れていくことを考えています。
次世代型技術のひとつは、地下から蒸気を取るのではなく、いくつも掘った小さな鋼管から高温の岩盤を目掛けて水を流し込むことで地熱の蒸気を取る、クローズドループという手法です。またもうひとつ、アイスランドの地下5キロほどの場所で発見されたという、非常に高温の超臨界水を活用する計画も進んでいます。超臨界水は、火山地帯であれば他の地域にもあることが想定されており、探査と活用に世界各国が取り組んでいるんです。日本でも官民協議会を立ち上げて、政府としても積極的に取組んでいきたいと考えています。
——地熱発電普及に向けた意気込みを教えてください。
小林 世界的に見ても高い日本の地熱のポテンシャルを活用しない手はないと思う一方で、当然ながら無謀な乱開発は避けないといけません。きちんと地元の理解を得ながら、みんなが幸せになれる形で地熱開発を進めたいと考えています。
調査から発電所ができるまでには、どんなに短くても10年以上、場合によっては20〜30年かかることもあり、事業者の皆様のご苦労のもとに成り立っていることは間違いありません。ぜひ、事業者の皆様には積極的に政府の支援措置も活用していただきたいと思っています。次世代型の技術については、まさにこれからの事業ですので、官民一体となって、より良い未来に向けて進んでいきたいです。
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