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Business Innovation

鉄道の母国で、鉄道を、その先を。
三井物産のモビリティチェーン構想

世界で最初に鉄道が生まれた国、英国。三井物産は、ここで旅客鉄道事業に参画。サービス改革を進めると同時に、他の移動手段との連携やAI・ビッグデータの活用など、より便利で快適なモビリティの姿を追求していきます。


1990年代に民営化された、英国国鉄。その運営方式は、「上下分離」方式と呼ばれます。公的セクターのNetwork Railが線路や信号などのインフラを所有・管理。列車の運行は、フランチャイズ契約を結んだ民間企業が行うのです。運行の権利は、競争入札により通常8〜10年単位で与えられます。

三井物産は現在、英国の2つの地域のフランチャイズ運営に参画しています。
ロンドンから同国南東部の主要都市ケンブリッジなどを結ぶイースト・アングリア・フランチャイズと、同じくロンドンから中西部の主要都市バーミンガムなどを結ぶウェスト・ミッドランズ・フランチャイズです。そこでは、あらゆる知見を活かしたサービス品質の向上が期待されています。

鉄道の母国で、鉄道を、その先を。三井物産のモビリティチェーン構想

1,000ページにおよぶ入札資料

三井物産の鉄道事業の歴史は長く、半世紀以上前から世界に貢献してきました。1960年代、日本製の鉄道車両の輸出にはじまり、今では子会社のMitsui Rail Capitalが北米、ヨーロッパ、ブラジル、ロシアで鉄道貨車や機関車を保有、リース事業を展開しています。またブラジルでは貨物鉄道事業に加え、2007年、日本企業として初めて海外の旅客鉄道事業に参画しました。

近年、世界の都市人口の急速な増加に伴い、都市交通のニーズが高まっています。こうした背景から旅客鉄道事業への取り組みを拡大する私たちが着目したのが、法制度も整い、安定した経営の見込める英国でした。

ロンドンから、英国第2の都市バーミンガムを通ってリバプールまで。899kmの路線を持つ主要路線ウェスト・ミッドランズ・フランチャイズに入札するべく、オランダ国鉄の子会社であるAbellio UK社(以下、アベリオ社)、JR東日本と共にコンソーシアムを結成。2016年4月から11月まで、8ヶ月にわたり、80名からなるチームがタイムテーブルや車両アップグレード、収益計画など、あらゆる角度からプランを練っていきました。

その結果完成した入札資料は、1,000ページにもおよぶ詳細なもの。従来大きな問題となっていたロンドン-バーミンガム間の通勤混雑の解消に向けた新車両導入をはじめ、契約満了となる2026年までの間に約10億ポンド(約1,430億円)の投資を約束。考え抜かれた提案で、フランチャイズを獲得しました。

世界でも類を見ないラッシュ時の鉄道運営を知るJR東日本のノウハウへの期待も高く、市民からは大きな期待が寄せられています。

スタッフをひとつのチームに

スタッフをひとつのチームに

2017年12月、新ブランド「ウェスト・ミッドランズ・トレインズ」が運行を開始しました。従業員は、前ブランド「ロンドン・ミッドランド」から引き継いだ2,500名。ブランドの切り替えに伴い、制服変更や車両の塗り替えを行う一方で、私たちが最も重要と考えたのは、スタッフに新会社の理念を確実に理解してもらうことでした。

フランチャイズの経営母体が変われば、スタッフはどうしても動揺します。それでは上質なサービスは望めません。実際に駅や電車で働き、お客様と接するスタッフ一人ひとりに、サービス改善に向けたビジョンを知ってもらう、実行してもらう。それこそが改革の第一歩。ひとつのチームとなるべくさまざまなインナーコミュニケーションを展開しています。

それと並行して、現場ではすでに改善策が具体的に動き出しています。たとえば、お客様と接する全スタッフがタブレット端末を持ち、リアルタイムの情報提供を開始。2021年からは、新車両の導入も開始予定。同時に、運転本数を増やした新しい時刻表を導入、大規模な変革が次々と進んでいきます。

鉄道の先にモビリティチェーンを見すえて

鉄道の先にモビリティチェーンを見すえて

この事業が目指すのは、従来の鉄道サービスの向上という枠にとどまりません。“鉄道会社だけでは生み出せない新たなビジネス”をつくるのでなければ、三井物産が加わっている意味がない。より広く機能やサービスをつないだ「モビリティチェーン」の構築を目指していきます。

たとえば、バスやタクシー、自動車など、他の輸送形態とつながったラストワンマイルのサービス。カーシェアリングなど、多様な機能をシームレスに組み合わせた「MaaS(サービスとしてのモビリティ)」の提供。またビッグデータを活用し、乗客の移動データをもとに、1日20万人の利用者に駅そばの商店・レストランのクーポンを提供するなど。可能性は多岐にわたります。

三井物産の英国鉄道事業への取り組みは、すでに大きな広がりを見せています。
ウェスト・ミッドランズへの入札の過程で築いたアベリオ社との信頼関係をもとに、イースト・アングリア・フランチャイズへの出資参画も果たしました。この路線はロンドンのベッドタウンを広くカバーし、ウェスト・ミッドランズのおよそ2倍の路線距離と旅客数を誇ります。私たちは、引き続きさらなる力を注ぎ、英国での事業を展開していきます。

鉄道を軸として、その先により便利で快適な暮らしを支えるモビリティチェーンを広げていくこと。英国でのノウハウをもとに、ヨーロッパの他の国々へ、そしてゆくゆくはアジアへ。私たちの目には、世界をもっと豊かにするモビリティの新たな可能性が見えています。

2018年5月掲載