Main

Business Innovation

スバルからブランドを預かり、メキシコで育てる。

世界中の自動車ブランドがしのぎを削る激戦市場、メキシコ。ほとんどのブランドがメーカーの直接出資でビジネスを展開する中、三井物産はスバルに代わってブランド育成を全面的に手がけています。


日本の5倍以上、中南米で第3位の面積を持つメキシコは、世界有数の自動車の生産・輸出台数で知られています。ITA(米国際貿易局)によれば、年間生産台数は350万台。その90%近くは海外への輸出用です。世界の自動車メーカーが、安価な人件費や自由貿易協定、そして巨大なアメリカ市場に隣接していることを理由にメキシコで工場を運営しているのです。

その一方で、メキシコの自動車産業には別の側面もあります。1億2,600万人の人口を持つ、その市場としての絶大な可能性です。2023年の国内自動車販売台数は約136万台。しかし、国民の平均年齢が29歳と若く、また海外進出企業の国内回帰による経済活性化が期待されており、今後飛躍的に成長していくと予想されています。

そうした中、三井物産は2016年から、メキシコにおけるスバルのディストリビューター(販売代理店)としてブランド確立のための戦略・施策を一手に担っています。

スバルからブランドを預かり、メキシコで育てる。 スバルからブランドを預かり、メキシコで育てる。

スバルの世界的な独自性×三井物産のノウハウ

スバルの世界的な独自性×三井物産のノウハウ

三井物産の自動車ビジネスの歩みは1960年代に遡ります。日本の完成車メーカーの輸出を支えるところから出発し、日本が自動車大国として成長するのに伴って、現地でディストリビューターへと事業を拡大。オートローンやアフターサービスなど、さまざまな領域に機能を広げてきました。

現在では世界中に100以上の関係会社を持ち、グループで約1万人の社員が自動車関連の事業に携わっています。

その中でもとりわけ力を発揮してきたのが中南米諸国です。たとえば1965年にペルー、1980年にチリで設立されたトヨタの販売代理店事業は大きな成功を収めており、“お手本”とも呼ぶべき事例となっています。

私たちは、こうしたこれまでの知見を結集しメキシコで活かしていきます。

スバルは、世界的に見ても非常にユニークな存在です。すべての車種をひとつのプラットホームから作り、同一のボクサーエンジンを使用する超効率経営と、熱狂的なファンを持つブランド力で、世界でもトップクラスの利益率を実現しています。

個性的なブランドは、世界では必ずしも珍しくありません。しかし、実はそのほとんどは巨大資本の傘下にあります。そうしたバックボーンを持たないスバルが、大きな資本力を持つブランドと競いながら新たな市場で地位を確立するのは決して容易ではありません。

三井物産は現地に根ざした事業展開、販売網やサービス網の構築からマーケティング戦略の策定・実施まで、必要なあらゆる機能でブランドを育てていきます。

戦略・施策のすべてを一手に担う

2016年に三井物産がスバルのメキシコでのディストリビューターとなった時、ブランドは非常に困難な状況にありました。

スバルのメキシコ市場参入は、2006年のこと。当時はメキシコ資本の会社が販売代理店を務めていましたが、ディーラー網の構築がうまくいかず、アフターサービスの提供やマーケティング投資も十分に行えなかったことから市場シェアは大きく低迷していました。

こうした中、三井物産は抜本的な構造改革に着手。新会社Subaru Automotriz Mexico(以下SAM)を設立して事業を引き継ぎつつも、旧体制のCFO・営業本部長をはじめ経営メンバーを一新。23あったディーラーのうち20を閉鎖し再構築するなど、事業をゼロベースでつくり替えるほどの変革を推し進めました。

過剰在庫の処分など前体制の積み残した課題をひとつひとつ解決すると、2019年末からはいよいよ新たな成長戦略を展開。まずブランドコミュニケーションを見直しました。

その戦略の根幹は、訴求ポイントを大胆に絞り込みブランドとしての立ち位置を明確化することにあります。「安全」と「運転する愉しみ」にメッセージを特化し、特定ターゲットに圧倒的に支持されるユニークブランドとして成長していくことを目指しました。

スバル車は、メキシコでは“トヨタやホンダの平均的車種より高価格だが、BMWやメルセデスベンツのようなブランドよりは低価格”というゾーンに属しています。この価格帯でかつ「安全」「運転する愉しみ」に反応するターゲットとして、私たちは40〜60代の医師・エンジニアといった中〜高所得プロフェッショナルのファミリー層を設定。ピンポイントのコミュニケーションを展開しました。

デジタルマーケティングに加え、半日かけてオフロードでスバル車の運転体験を直接味わえる「SUBARU DAY」を各ディーラーに導入。ブランドコンセプトの浸透を図りました。

同時に、ビジネスオペレーションも合理化。それまでは港に着いた車両をいったんメキシコシティまで鉄道で運び、そこから各ディーラーへトラック輸送していたのを、港から直送する形に変更。また、むやみに販売台数を追わないユニークブランド戦略を徹底したことで在庫を圧縮。ブランド戦略による販売増加とオペレーションの効率化を並行して行うことで、収益も改善しました。

さらに、購入をサポートするカーローン「スバルファイナンシャルサービス」や、スバル純正部品で修理を請け負う「スバル保険」などの新サービスを開発。メキシコ国内のメカニック養成学校と提携し一流の整備士を育成するなど、あらゆる角度からサービス品質を高めています。

これらの取り組みが実を結び、スバルはブランドとしてユニークな地位を築きはじめました。2020年、2021年こそ新型コロナ感染症、およびコロナ禍でのロジスティクス機能低下と半導体不足で大きな打撃を受けたものの、現在では回復。目覚ましい成果をあげています。SAMは2021年以降黒字を維持し、2023年の販売台数は最低を記録した2018年の3倍以上にまで達しています。

現在の3倍の販売台数へ、そのはるか先へ

現在の3倍の販売台数へ、そのはるか先へ

急速な成長へとカーブを切ったスバルブランドですが、これは第一歩に過ぎません。当面の目標は、2028年までにメキシコ市場でシェア1%を達成すること。これは年間販売台数にして1万5,000台にあたり、現在のさらに3倍の数字となります。

この目標達成に向け、SAMは2つの戦略を打ち出しています。

対外的には、ディーラー網および販売車種を拡張すること。現在メキシコ32州のうち、スバルのディーラーがカバーしているのは16州にとどまります。この販売網を広げ、早急に全州を網羅する必要があります。また現在5車種ある販売モデルを増やし、マーケティング予算も思い切ってかけていくことで成長を加速させたいと考えています。

対内的には、新たなフェイズに向けた会社全体の力の底上げです。本格的な成長モードへ、会計システムの刷新、オフィスの拡大、人員増加に加え、スタッフを中南米にある三井物産子会社や三井物産東京本社に派遣し研修を行うなど。すべてをひとつ上のレベルへ引き上げ、より高度な市場ニーズに応え得る真に強い会社にしていきます。

メキシコは、三井物産にとって戦略的に重要な国です。私たちはスバル以前から、この国で日野自動車のトラックやコマツの建設機械のディストリビューターを担ってきました。その土台にスバルが加わったことで、私たちは現在、中南米有数の大国において自動車輸送のあらゆる領域で事業を展開する独自のポジションを築いたと言えます。

私たちは、ここでシナジーを生み出していきます。急速に進化する世界の自動車市場に自在に対応できる、「モビリティバリューチェーン」とも呼ぶべきビジネスを構築していく。モビリティの新しい可能性がメキシコにあります。

2024年3月掲載