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Business Innovation

電力ビジネスの新しい動きを、
「分散型太陽光発電」で。

電力を遠隔地の大型発電所ではなく、消費地近くの小型太陽光発電所でつくり、効率よく届ける。三井物産の100%子会社ForeFront Power LLC(以下ForeFront)は、新しい電力ビジネスに挑戦しています。


米国では歴史的に、数多くのトレンドが西海岸から生まれ、東海岸へと広がってきました。その例のひとつが、環境運動です。1969年、カリフォルニア州の石油掘削施設の事故による海洋汚染をきっかけに運動が拡大。同州は、50年を経た今も環境保全の先駆者として他州をリードしています。

例えば、クリーンエネルギーについても意欲的な数値目標が設定されています。電気事業者の供給電力量のうち、クリーンエネルギーが占める割合の目標は、2030年までに60%。2045年までに100%の達成が掲げられています。これは同様の数値を掲げる29州の中で、最もハードルの高いものです。 三井物産は、この米国のクリーンエネルギーの中心地、カリフォルニアに100%子会社ForeFrontを設立。急速に市場が広がる、分散型太陽光発電事業に取り組んでいます。

集中型から、分散型の発電ビジネスへ

集中型から、分散型の発電ビジネスへ

ForeFrontは、2017年、サンフランシスコに本拠地を置くSunEdison社のCommercial & Industrial部門(以下C&I部門)を三井物産が買収することで誕生しました。同社は世界最大手の再生可能エネルギー開発会社のひとつとして知られていましたが、2016年、会社更生手続きを申請し解散。そのC&I部門を三井物産が買収したのです。現在、ForeFront にCo-CEOなどの出向者を送り、再生可能エネルギービジネスの最前線で新たな挑戦を進めています。

三井物産は、世界中でさまざまな形の電力事業の開発・運営を行っています。メキシコのガス火力発電、日本国内の太陽光・風力発電をはじめ、多くの国・地域で私たちが保有する発電資産。その量は約10GW相当にのぼります。こうした中、私たちは近年エネルギー業界で目立ちはじめている2つの動きに着目し、新たな取り組みを加速させています。そのひとつが、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換。もうひとつは、集中電源から分散電源へ、つまり小規模な発電施設を消費地近くに分散配置して電力を届ける方法への移行です。

分散電源は、ハリケーンによる送電線のダウンなど、米国を悩ませてきた自然災害に強いという特徴があります。消費者にとっても選択の自由が広がり、多くのメリットがあります。特に太陽光発電は、技術革新でコスト競争力が増したこともあり、分散型への移行が進んでいます。もちろん従来のような100MW級のメガ太陽光発電所は依然として大きな役割を担っていますが、その一方で、ForeFrontの強みでもある小規模な分散型太陽光発電のニーズはどんどん高まっており、その市場は今後ますます広がっていくと予想されています。

ForeFrontへの投資はこうした米国の、より大きな視点で言うならば世界の電力市場のトレンドをとらえたものに他なりません。

オンサイトソーラー事業とコミュニティソーラー事業

ForeFrontは、大きく分けて2つの事業を展開しています。オンサイトソーラー事業とコミュニティソーラー事業です。

オンサイトソーラー事業は、ForeFront がSunEdison時代から手がけてきた、企業をはじめとする大口需要家向けのエネルギーソリューション開発ビジネスです。オンサイト、つまり、クライアントの工場や倉庫、駐車場の屋上などに太陽光パネルを設置。クライアントは、必要とする電力の一部を自らの施設内でまかなうことができるのです。

クライアントには、企業だけでなく小中学校や高校、大学も数多く含まれています。現在さまざまな学校でプロジェクトを進めています。

長年のノウハウを持つオンサイトソーラー事業に対して、コミュニティソーラー事業は三井物産の出資後に市場参入した新しいビジネスです。すでに大きな成果を上げはじめており、飛躍的な成長が期待されています。

コミュニティソーラー事業では、500世帯程度の規模で地域の一般家庭に直接売電します。従来、個人が太陽光発電を生活に取り入れたい場合、自宅の屋根に太陽光パネルを設置する必要がありました。しかし、家が南向きではなかったり、設計上の規制があることも多く、必ずしも気軽に設置できるものではありませんでした。ForeFrontが地域に小規模な太陽光発電施設をつくることで、ユーザーはより気軽に太陽光を選ぶことができます。

仕組みはこうです。まず、ForeFrontは住宅地や送電網へのアクセスを考えて土地を確保します。その広さは、だいたい東京ドーム1個分程度。そこに3MW規模(約500世帯分の需要量)の電力量を発電できる太陽光パネルを用いた施設を建設・運営します。そして、発電された電力を、専門のオンラインマーケティング会社の協力も受けて販売。ユーザーは自宅の電力を100%再生エネルギーでまかなうことも可能に。各州のインセンティブにより電気代を節約することができるのです。

ForeFrontがコミュニティソーラーを展開する地域は、各州の政策や法規制をもとに決定されています。例えば、2018年、ニューヨーク州で3MW規模のプロジェクト開発を8件行いました。その背景には、同州が再生可能エネルギー供給義務化基準(RPS)において「2030年までに50%」という野心的な目標を掲げている事実があります。

ニューヨーク州と同様にコミュニティソーラーの支えとなる枠組みを導入している州は数多く、これからさらに広がろうとしています。ForeFrontはそうした動きをいち早くとらえ、これらの州で今後に向けた案件開発を先行して推進。ビジネスをいっそう広げようとしています。

オンサイトソーラー事業とコミュニティソーラー事業

全米へ、世界へ、新しい動きを広げていく

ForeFrontは、前身からの実績も含め、すでに米国23州で発電総容量約800メガワット、1000件に及ぶプロジェクトを展開。CO2排出量の大幅な削減を実現しています。三井物産はその幅広いビジネスネットワークを駆使し、同社のさらなる成長を後押ししていきます。

その一例が、三井物産が出資するスタートアップ、Stem Inc.(以下Stem)との協業です。Stemはシリコンバレーに拠点を構え、蓄電池と高度なICTを組み合わせた次世代のエネルギーマネジメントサービスを提供しています。ForeFrontは太陽光とStemの蓄電池システムを組み合わせることで、クライアントに対してよりいっそう価格競争力のある提案を行うことが可能となりました。つまり、クライアントは従来にない低コストでエネルギーを調達できるのです。三井物産は現在、日本の製造業から米国のオンライン小売業まで、さまざまな世界的企業にソリューションを提供すべくアプローチしています。

ForeFrontは、設立以来着実に導入実績を伸ばしています。2018年度の数字は、米国内で業界大手の一角を担うレベルに。さらに現在、年間の開発設備容量の大幅な増大を目指しており、業界トップをも目標にいっそう邁進していきます。

分散型太陽光発電とスマート蓄電ソリューション。カリフォルニア州を中心に広がりつつあるこの新しい動きを、全米へ。さらには世界へ。ForeFrontと三井物産の挑戦は、まだ始まったばかりです。

2019年8月掲載