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平岡 杏菜

Moon Creative Lab(出向)
Entrepreneur in Residence

総合商社のビジネスを進化させていく、三井物産のいちばん新しい挑戦。Moon Creative Lab。平岡杏菜はそこで、今までにない革新的なヘルスケア事業を生み出そうとしている。


入社3年目でビジネス開発に挑む

入社3年目でビジネス開発に挑む

私がいるMoonは、これまでの商社の枠を超えてまったく新しいビジネスを生むためのイノベーションラボです。私はMoonのサポートを受けて起業する「アントレプレナー・イン・レジデンス」として、新たなヘルスケア事業の立ち上げに取り組んでいます。

メンバーは、プロジェクトリーダーと私の2人だけ。背負うものも、やれることも、必然的に大きくなりますよね。ゼロから事業をつくっているという実感があります。

私がMoonに加わったのは、三井物産に入社してまだ2年目の秋でした。生物学やがん研究をしていたバックボーンがあることから参加することになりました。

この若さで、ゼロからビジネスをつくる場にいられるのはとてもラッキーだと思っています。けれど一方で、Moonには若いからどう、経験が浅いからどうという空気は一切ありません。とてもオープンで、個の視点や、個の意志に対するリスペクトを感じます。

大きなチームの一員として働いていた時とのいちばんの違いは、自分の意志や判断が今まで以上に問われているな、ということ。大きなチームなら上司の確認・承認に頼ることができた場面でも、今は毎回まず「私が」どうしたいかを提案し、実行しなければなりません。

案件の規模の違いがありますから、一概にどちらがいいという話ではありませんが、個人としてはやはり今の仕事には格別な思い入れがあります。

Moonでは、オペレーティングチームのメンバーが私の未熟な部分をあらゆる角度からサポートしてくれる。でも、それはすべて「サポート」。私自身が、何に着目し、何を感じ、何を解決したいか。どうしたいか。そこに強いものがなければ、プロジェクトは前に進まないし、世界に新しい価値を生むビジネスなんてできない。常にそう問われている気がします。

それが、ゼロから事業をつくるということなのだと思います。

AIを活かした疾病診断

AIを活かした疾病診断

私が手がけているのは、AIを活用して疾病診断ができるようになるサービス、そのプラットフォームの開発です。まずは米国でのサービス展開を予定しており、いずれは世界に広げていきたいと考えています。

患者さん、医師。そもそも誰を顧客とするか自体から考え、いちばん求められるカタチで事業化を進める。本当にゼロベースでのビジネス開発です。進行中の案件のためまだお伝えできないことが多いのですが、成果の一端として、より早く、より痛みのない、より正確な診断が可能になり、世界中でたくさんの命を救えるようになると考えています。

AIのテクノロジー面を支えているのは、最先端のノウハウを持つ三井物産の投資先企業。三井物産が世界展開に向けた市場開拓とビジネス設計を、そして私たちMoonサイドがユーザー体験の設計と向上を受け持っています。

「0から1を生み出す」事業開発ですから、Moonにとっても三井物産にとってもこれから経験を積んでいくべき領域がたくさんあります。そこでMoonが提携する世界屈指のデザインコンサルティング企業IDEOと共同で開発にあたっています。

たとえば、2018年10月から3ヶ月にわたり、全米でユーザー体験設計のためのプロジェクトをIDEOとともに行いました。医師側・患者側さまざまな立場の方に広くインタビューしたリサーチ。そのリアルな声を活かした、サービスアイデアのブレーンストーミング。そして、いいアイデアはどんどんカタチにしてみて、ユーザーテストで改善していくプロトタイピングなどです。

一切の予断を持たずユーザーを見つめるIDEOのアプローチは、まさに発見の連続でした。意外なことがマイナスに働いたり、想像もしなかったユーザーの本音に気づいたり。サービスに大いに活かせると思います。

また、個人的にも、あるユーザーインタビューがとても強く心に残りました。自分の大切な存在をなくした方にご自宅でお話を伺ったとき、その悲しみや乗り越えるのにどれほど長く時間がかかったか聞いているうちに、私自身、自然に涙が出ていたのです。ユーザー体験を設計する上で欠かせないものは“信頼”であり、“Empathetic”つまり共感性のあるサービスこそが必要なんだ、と肌で感じた瞬間でした。

医療のサービスは、ある意味、人の想いとダイレクトにつながるサービスです。私たちの事業は、世界から悲しみを少しでも減らせるかもしれない。ビジネスを通じて世界を少し変えられるかもしれない。今はそう思っています。

東南アジアで生物学の教師を務めた経験

実は、私は大学を卒業してすぐ三井物産に入社したわけではありません。

大学では生物学を専攻していました。病理学から植物学まで幅広く学び、がんの新薬の研究もしていました。そして、卒業後はインターナショナルスクールで生物学の教師になりたいという夢があり、縁があってある新興国の学校に赴任したのです。

しかし、現実は私の想像とは大きく違っていました。道路や電気、水道などのインフラの遅れ。学校には机も椅子も足りません。サッカーボールが学校全体で1つありましたが、それもつぶれている。そんな環境でした。

そこで教師として懸命に務めていたのですが、無理をしすぎたのか体を壊し、倒れてしまいました。病院へ運ばれ、帰国せざるを得なくなってしまったのです。

帰国後しばらく都内のインターナショナルスクールで教える機会を得て、生徒たちに触れ合う中で、ズタズタになった精神面を少しずつ回復させることができました。未来に何の恐れも抱かず、温かい心と希望に満ちあふれていた子どもたちのおかげです。

そこから、もう一度スタート地点に立ち、日本で仕事を探そうと決意しました。その時、やりたいと思ったことが3つありました。

ひとつは、生物学の知識を活かしヘルスケアビジネスに貢献すること。次に、子どもたちが夢を膨らませカタチにできるような教育に関わること。最後に、私自身が目の当たりにした途上国のインフラ向上に貢献することです。

総合商社なら、どれか1つに絞るのではなく、キャリアを積みながら3つすべてに関われるかもしれない。そう考えました。思い通りにいかなかった経験をムダにするのではなく、その先に広がるものを仕事にしたい。あの経験があったからこそできる、そんな仕事がしたいと。

調べたところ、三井物産が私のやりたいこの3つの分野すべてでビジネスを展開していたのです。実際、いま手がけている案件では大学で身につけたことがとても活きています。

やりたいからと手を上げても、やれるとは限らないのが仕事ですよね。なのに私はこの機会を与えられている。全力を尽くさなければ、と思います。

Moon・三井物産という場を活かして実現したい夢

これからのやりたいことですか?そうですね。3つあります。

1つ目は、もちろん、いま手がけているAIによる疾病診断のビジネスを成功させること。世界中で一人でも多くの人がハッピーな人生を送る手助けをしたいです。

2つ目は、その結果、三井物産の他の若手や女性に刺激を与えること。「彼女にできるなら自分にもできるはず」と思ってもらいたい。一人ひとりがクリエイティビティを発揮できるような文化・環境を、三井物産にもっともっと作っていくことに貢献したいです。

そして最後に、3つ目。私自身がゼロから考えた教育やヘルスケアの新事業を、Moonで立ち上げること。つまり、いちばん最初に抱いていた夢を実現することです。

Moonにも、三井物産にも、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちがいるのが魅力です。さまざまな知見やサポートが得られるネットワークがあります。ここで成長を続けられれば決して叶えられない夢じゃないと思うのです。

うん、やっぱり私は恵まれていると思います。

2019年4月掲載