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Business Innovation

豊かなシニアライフを現場と共につくる

事業に投資するだけでなく、その事業を現場の人々と共に成長させていく──。そんな三井物産の思いが体現されているのが、米国におけるサービス付き高齢者向け住宅事業です。


トレーディングと並んで事業投資をビジネスの大きな柱としている総合商社にとって、不動産事業も重要な投資分野の一つです。しかし、ひと口に「不動産」といっても、事業の内容は千差万別です。

三井物産は1990年から米国での不動産開発運営事業を展開。カリフォルニア州に拠点を置くMBK Real Estate社(MRE)を通じて、サービス付き高齢者向け住宅事業(シニア住宅事業)や戸建て分譲・賃貸住宅の開発・運営に取り組んでいます。2008年の金融危機下でも堅調な業績を維持していたシニア住宅事業は、今後の米国における65歳以上の高齢者人口の増加予測も背景にして、その将来性が注目され、2011年からは本格的にポートフォリオを形成しながら、施設の取得・売却に取り組むようになりました。

米国 総人口および年齢別人口の推移予測

米国 総人口および年齢別人口の推移予測

一般的に米国における高齢者向け住宅は、サービス提供のないアパートメントから医療・看護サービスを提供する専門施設まで、ケアレベルや入居費用によっていくつかの形態に分かれています。MREは、そのうちの食事、清掃、ハウスキーピングなどのサービスを提供する「インディペンデント・リビング(独立生活者向け施設)」と、それに日常生活支援や健康管理サービスなどを加えた「アシステッド・リビング(生活補助施設)」の2つの分野で事業を展開しています。

オペレーションの改善でサービスレベルも向上

オペレーションの改善でサービスレベルも向上

シニア住宅事業の現場では、MRE子会社のMBK Senior Living社(MSL)が施設の運営を行っています。約1,300人以上の従業員(2017年3月末時点)とともに、カリフォルニア州、アリゾナ州やワシントン州など主に米国西部で展開。2016年には、運営または運営受託する施設数は22になりました(2017年3月末時点)。

既存の施設を取得し、建物および設備の改修、従業員教育などを通じてサービス向上や運営改善を施し、施設の不動産価値を上げたうえで売却する──。これが、このビジネスの基本的なモデルです。しかし、単なる投資と転売だけのモデルではありません。

施設の価値を上げるには、オペレーションを洗練させ、利用者の満足度を上げていく必要があります。各施設の施設長や利用者へのサービス提供を担う「ケア・ギバー(Caregivers)」と呼ばれるプロのスタッフと連携しながら、すべての施設のサービスレベルを向上させて、より良いサービスを提供すること。それがこの事業における三井物産の大きな役割です。

利用者と従業員がハッピーになることが第一

利用者と従業員がハッピーになることが第一

施設の現場には、MSLが培ってきた「顧客第一主義」の理念が浸透しています。日本以上にホスピタリティの文化が現場に根づいている──。この事業に携わる三井物産の社員たちはそう口を揃えます。また、ほかの会社が運営するシニア施設から移って来た施設長たちは、現場の自由で生き生きとした雰囲気や、スタッフ一人ひとりの考え方が尊重される仕組みにみな驚くといいます。

MSLが運営する施設の現場のスタッフたちは、施設を「コミュニティ」と呼びます。そんな独自の文化を守り、現場の人々の仕事の進め方、考え方、スタッフと利用者の関係のあり方などを最大限尊重しながら、研修やミーテイングの場などを通じ、現場のサービスの質をより向上させていく。そうしてこの施設の評判を高め、人気を上げていく──。そのような取り組みが施設の不動産価値の向上に繋がり、MSLの運営手法への評価を高めていくことになります。利用者と従業員がハッピーになることこそがビジネスの第一の目的であるという点に、まさしくこの事業が不動産ビジネスとして非常に興味深い理由があります。

米国では、いわゆるベビーブーマー世代(1946年~1964年生まれ)の高齢化が年々進行しています。2014年に46百万人だった65歳以上の人口は、2060年には98百万人までに達するという予測もあり、今後もサービス付き施設を必要とする人々はさらに増えると考えられています。しかし、きめ細やかなオペレーションが求められる高齢者向け施設の担い手の数は十分でないのが現状です。そのような高齢者向け住宅市場にあって、不動産投資の仕組みを使って施設のオーナーとなり、高齢者向け施設のサービスレベルを上げ、高齢化が進む米国社会に貢献していくこと。そこに、このビジネスの本質があると言ってもいいかもしれません。

高齢化社会に生かすノウハウ

医療の目覚ましい発達によって、人々の寿命は年々長くなっています。それは一方で、社会が高齢化に向かうことを意味しています。今後、先進国を中心に世界各国で高齢化が進んでいったとき、生活や健康維持をサポートする質の高いサービスを提供する施設が多くの国で求められることになるはずです。

現在、MSLがシニア住宅事業を展開しているのは主に米国西部ですが、将来的には、施設の数や展開地域をさらに拡大していくビジョンを掲げています。米国における高齢者向け施設の運営の経験は、総合商社の強みであるグローバルなネットワークを基礎に、あらゆる国・地域の現場で、その現場に適した形で生かされていくことになる。三井物産はそう考えています。

三井物産はこれからも、現場の声に真摯に耳を傾け、現場で共に考えながら、積極的に現場で動き、人々の豊かな老後をサポートしていきます。

2017年4月掲載