e-dashとLCA Plusが事業統合。一元化で進化する、脱炭素経営支援
三井物産グループのe-dash株式会社は、2025年8月1日に三井物産の「LCA Plus」事業を統合し、「e-dash CFP」を立ち上げました。これにより、企業単位のGHG排出量算定と製品単位のCFP算定を一気通貫で提供し、企業の脱炭素経営を一層強力に支援します。
2025年8月1日、三井物産グループのe-dash株式会社は三井物産株式会社が運営してきた「LCA Plus」事業を統合しました。企業の脱炭素経営をより強力に支援するために踏み出した、大きな一歩です。この事業統合によって何が変わり、どのような展開を目指しているのか。e-dash株式会社の代表取締役社長・山崎冬馬さんと、三井物産にてLCA Plus事業を率いてきた岩佐達朗さんに聞きました。
「時が来た」顕在化するニーズに応える新体制
——今回の統合で誕生する「e-dash CFP」について教えてください。
山崎 私たちe-dashは、CO2排出量削減への取組みを総合的に支援するサービスプラットフォーム「e-dash」を主軸に事業展開をする会社として、2022年2月に設立しました。「e-dash」のサービスを通じ、主にGHGプロトコルに則ったScope1、2、3と言われるGHG(温室効果ガス)排出量の算定と開示、削減支援に取り組み、企業単位のGHG排出量に関する脱炭素の取組みを包括的にサポートしています。
そして、LCA Plusは2022年8月に三井物産の社内でサービスを開始し、正確で簡便な製品ごとのCFP(カーボンフットプリント:製品のライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガス排出量)算定を提供してきました。今回、三井物産のLCA Plus事業との統合により、我々のラインアップに、製品単位におけるCFP算出のソフトウェアとサービスが加わることになります。これによりe-dashは、企業単位のGHG算定で「e-dash」、製品単位のCFP算定で「e-dash CFP」とサービスのラインアップを拡充し、より広範な企業の脱炭素ニーズに応えられる体制となりました。今後、お客さまにはよりスムーズでシームレスな体験をご提供していきたいと考えています。
山崎 冬馬|やまさき とうま
e-dash株式会社 代表取締役社長
三井物産株式会社に入社後、主に電力等のインフラ事業の新規案件開発及びM&Aを担当。2015年に米シリコンバレーに駐在し、エネルギーやモビリティ等のクリーンテック分野でのベンチャー投資・事業開発を担当。帰国後、e-dashの事業を企画・立案し、2022年のe-dash株式会社の設立と同時に代表取締役社長に就任。
——事業統合に至るまでには、どのような背景があったのでしょうか。
岩佐 一つには、脱炭素市場におけるニーズの変化があります。これまでは、法的な報告義務が明確な企業単位・事業所単位のGHG排出量算定が先行してきましたが、現在ではその対応が一巡し、多くの企業は次のステップとして、製品単位のCFP算定に向き合い始めています。LCA Plusでもこの3年間、そうしたお客さまが急速に増加していることを感じており、その流れの中、これまでも一緒に連携してきたe-dashとの統合は、いよいよ「時が来た」という感覚です。
岩佐 達朗|いわさ たつろう
三井物産株式会社 LCA Plus事業推進チーム プロジェクトマネージャー
2007年三井物産入社。鉄鋼製品物流、海外店(台湾)勤務、新規事業立上げ、事業撤退案件等を幅広く経験。2023年8月からLCA Plus事業のプロジェクトマネージャー。
山崎 もともと同じ三井物産グループで事業を展開していましたので、展示会に共同出展したり、お客さまを紹介しあったり、さまざまな実務レベルでの連携がありました。また以前から「企業単位のことはe-dashで、製品のことはLCA Plusで」という利用をしているお客さまもいらっしゃいます。
そもそも、脱炭素市場においては、サプライチェーン全体のGHG排出量である「Scope3」への対応が喫緊の課題となっています。2025年3月に環境省が発表したガイドラインでは、Scope3算定において、従来の業界平均値ではなく「一次データ化」が求められる方向性が示されました。つまり、企業が部品や原材料を調達する際、個別の調達先から排出量データを取り付ける必要が生じることを意味します。
これによりサプライヤーに対してCFPの提供を求める流れが強まり、同時に、大企業が中心だったCFP算定も今後は、中堅・中小企業へと広がっていくことが予測できます。企業単位のScope3算定と製品CFP算定が結びつき、両方一体で提供することの重要性が高まっていくことは間違いありません。お客さまのニーズが顕在化するタイミングに先んじて、最適なサービス提供の体制を構築することは非常に重要だったと思います。
——統合によってユーザーにはどのようなメリットがあると思いますか。
岩佐 一気通貫の総合ソリューションが提供できることは、とても大きなメリットになるはずです。CFP算定は企業単位のGHG排出量算定に比べると精緻な算定をしていて、どの製品のどの材料がどのくらいのGHG排出量なのか、一つひとつ可視化することができます。そのためGHG排出量の削減に向けた対策を考えやすいという特徴があります。しかしこれまでのLCA Plusでは、算定でサービスが完了し、削減サービスを持っていなかったんです。e-dashは算定のほかにも、削減に向けた支援が充実しているので、連携によって実現されるシナジー効果は非常に大きいと考えています。
山崎 削減提案や情報開示支援については、高い専門性を有する人材が多く在籍しており、e-dashにはお客さまの状態を理解し経済性込みで総合的に判断した上でGHG排出量を削減する提案力があります。電力の切り替えや再エネの導入、非化石証書の購入やカーボンクレジットの取引に加え、三井物産の多様な事業領域を活かした連携支援も強みの一つです。
またScope3の一次データ化に加えて、人権侵害デューデリジェンス等、サプライチェーン全体でのESG対応が求められるようになります。そこで2025年5月には、サプライチェーンのESGデータ収集・分析・アクション実行までワンストップで支援する「e-dash Survey」というサービスもリリースしました。サプライヤーとの対話がサプライチェーン上でますます活発化していくことが予想される中、標準的な取組みの一つとして企業の規模を問わず、CFP算定が根付き、その裾野を広げていくことを目指しています。
コンサルティングサービスによる細やかな対応を継続
——LCA Plusの既存のユーザーにとって、サービス移行による変化はありますか。また、「e-dash CFP」ならではの特徴について教えてください。
岩佐 統合後も違和感なくご利用いただけるよう考慮して、UI/UXの設計に取り組みました。システム面では「e-dash CFP」としてリブランディングしますので、コーポレートカラーに合わせるなどの変更はありますが、例えばボタン配置が変わって戸惑う、といったストレスが起きないようにこだわりました。基本的にはこれまでどおりの使い勝手が踏襲されています。サービス面においても、統合前からe-dashのカスタマーサクセス専門部隊と連携して、お客さまへの説明や引き継ぎをシームレスに行うことに努めていました。
山崎 この事業統合において、企業単位と製品単位のデータ連携がますます重要になる、という認識のもと、データ連携や操作性の向上、API連携等の機能拡張に取り組んでいます。また「e-dash CFP」でも引き続き、導入から運用まで、システム提供と合わせて、有人のコンサルティングサービスを提供し、お客さまの状況に応じた柔軟な支援に努めています。
もともとe-dashは、お客さまのユーザビリティを向上することを念頭において取り組んできましたし、e-dashとLCA Plusはいずれも、単なるツール提供にとどまらず、お客さまに寄り添い、伴走して支援するという哲学を共有していました。特に、排出量の可視化(カーボンアカウンティング)は、歴史上まだ始まったばかりです。システム提供だけではなく、担当者がしっかり伴走するきめ細かいサポートを継続することで、今後も変わらずお客さまに安心してご利用いただけると考えています。
岩佐 CFPの算定自体、これから初めて取り組む企業も多いため、お客さまに合わせた柔軟な対応が重要だと考えています。先ほど申し上げたとおり、CFP算出は精緻な算定ですが、我々の強みはあくまでも企業目線であること。つまり、GHG排出量削減に取り組むために必要な情報はしっかり把握できる一方で、学術的で細かすぎるデータまでは求めず、あくまでも企業が実務で使いやすい企業目線の可視化を重視しているということです。これは開発パートナーであるSuMPO(一般社団法人サステナブル経営推進機構)と共に取り組んできたことであり、ISOや経済産業省・環境省CFPガイドライン等、いろいろな規格に沿ったGHG排出量算定を可能にしています。
——CFP算定を通じて、何か印象的だった事例はありますか。
岩佐 先ほども話に出ましたが、製品単位のCFP算定からサプライチェーン全体を巻き込んだCFP算定やScope3算定を行うことは、今後ますます重要になってくると考えています。その点で印象的だったのは以前、ある自動車メーカーが主要サプライヤー複数社を巻き込んで、サプライヤーから得られたCFPデータを統合・分析するという取組みをされたことです。これまでのような業界平均値ではなく、実際の取引先からのデータに基づいた、「一次データ化」に先行して取り組まれていました。
加速させたい、調達側の脱炭素経営
——今後のe-dash、どんな点に期待してほしいですか。
山崎 e-dashは、単なる排出量可視化サービスにとどまらず、企業の脱炭素経営に伴走することに取り組んできました。LCA Plusの統合により、脱炭素経営に取り組む上で必要なピースがかなり広範囲に揃ったと言えます。
これまでLCA Plusを利用していたお客さまに対しては、e-dashの多様なプロダクトやサービスラインアップでより広い価値提供を目指し、また、「e-dash」を企業単位でご利用されていたお客さまや新たなお客さまに対しては、CFP算定を提案することで、更に次のステップをご一緒したいと考えています。そのためにもe-dashのサービス間での連携も強化し、機能拡張や多角的なGHG排出量削減支援はもちろんのこと、将来的にはグリーンスティールや再生材等を通じたCFP削減支援等、サプライチェーン全体での本質的なGHG削減に貢献していく考えです。
現在、欧州等ではすでに規制が始まり、今後ますますCFPの法規制が進んで行くことは間違いありません。企業における調達は、これまでのようなQCD(品質、コスト、納期)を基準にしていたところから、環境配慮へと大きく変容しています。企業がCFP算定を行い、製品の環境負荷改善に努め、環境によりよいプロダクトを謳うことは当たり前になっていくでしょう。私たちe-dashでは、調達側の変化を促し、産業構造の進化を後押しすることで、持続可能な社会の実現を加速させたいと考えています。
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