Green&Circular 脱炭素ソリューション

コラム

最終更新:2024.04.30

情報開示は変化する。サステナブル社会を願うSuMPOが、日本社会の変化を信じ、企業に伴走する理由

“失われた30年”による経済の悪化、生産年齢人口減少、自然災害の増加や気候危機など、「課題先進国」となった日本では、従来型の社会構造にも変革が求められています。
本当に持続可能性のある社会を実現するために、今この国の企業が取り組むべき課題は何なのか。一般社団法人サステナブル経営推進機構(以下、SuMPO)を訪ねて、具体的な活動内容と日本企業の現状、そしてカーボンニュートラル社会への道のりをどのように捉えているのかをうかがいました。尚、SuMPOと三井物産は、温室効果ガス可視化プラットフォーム LCA Plusを共同開発し、2022年8月よりサービス提供しています。

国内唯一のISOに基づくカーボンフットプリント認証機関として、企業との取り組みを進めて来られたSuMPO専務理事の壁谷さんは企業や社会の現状をどのように捉えているのでしょうか。

リアルなデータを可視化する仕組み

――SuMPOの活動内容について教えてください。
壁谷 私たちは、サステナブル経営をさまざまなステークホルダーと共に創ることを理念に掲げ、2019年10月に事業をスタートしました。未来のあるべきサステナブル社会を描き、その実現に向けてバックキャストすることにより、今日的な社会課題、とりわけ地球環境問題にフォーカスした経営課題解決の提案をさせていただいております。
特に、製品の原材料採取から廃棄・リサイクルまで、いわばひとつの製品の一生における環境負荷を可視化する、ライフサイクルアセスメント(以下、LCA)という手法のコンサルティング事業を得意としています。経営の現場においては、経済的利益の追及面だけではなく社会的リスクの解決が求められている今、環境負荷の見える化に基づくデータドリブンな経営判断は重要であり、国内有数のLCAエキスパート集団として、ISO国際規格(14025)に基づいたEDP(環境製品宣言)環境ラベルのプログラムを国内で唯一運営し、企業に伴走する形を取っています。
壁谷 武久(かべや たけひさ)
一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)代表理事/専務理事、2019年6月SuMPO設立により現職、2023年10月、株式会社LCAエキスパートセンターを新たに設立し代表取締役社長に着任。現在、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)戦略の策定に取り組んでおり、カーボンニュートラル、ネイチャーポジティブ、持続可能な食糧生産システムなど中長期的なゴールの実現に向けて、サーキュラーエコノミーなど新たな経済システムづくりを共感するステークホルダーとともに推進。
――日本企業もサステナビリティ・トランスフォーメーション(以下、SX)に向かっているのでしょうか。
壁谷    SXの本質は、新しい社会的価値を作り出すものです。これからは「経済価値 x 社会価値=企業価値」となっていくでしょう。日本ではまだ、温室効果ガスの排出を抑えるカーボンニュートラルが課題の軸に捉えられがちですが、世界の潮流はすでに、自然再興、生物多様性の保全、持続可能な食糧生産システムの構築といった多様な側面での対応が矢継ぎ早に進展しており、LCAやサーキュラーエコノミーはこれらのゴール実現に向けて相互に繋ぐ有効なツールまたはビジネス手段となっていくと考えています。
情報開示の観点からは、ある意味、CO2の削減量は指標化しやすいものだと言えます。一方で生物多様性はそう簡単に定義づけられるものではありません。生物多様性のCOP15における国際的な議論を見ていても、議論は複雑化し、そう簡単に決まらないことがわかります。とはいえ、課題としては確実に取り組まなくてはいけない領域でもあり、この課題にどれほど能動的になれるのか。経営者の皆さんがどこまで課題を認識し、対応意識を持っているか。そうした価値観こそ、今後の社会的価値に直結するものになっていくでしょう。

需要は右肩上がり。信頼性を担保できるデータとは

――LCA算出など、SuMPOのサービスは企業の情報開示にどういった効果を提供しているのでしょうか。
壁谷    TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に代表されるように、パリ協定以降はさまざまな指標作りが進みました。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の策定した国際基準は間もなく、欧州で義務化され、日本でもSSBJ(日本版サステナビリティ基準)の草案が公開されるなどプライム企業における情報開示の波は慌ただしくなっています。
情報開示が求められるにつれ、より重要となるのが「スコープ3」です。企業内部の直接的排出量であるスコープ1、電気など他社から間接的に排出するスコープ2までは、各社も取り組みやすい内容でした。しかし組織におけるCO2排出量を示すスコープ3は、従業員の通勤によるCO2排出量など、15ものカテゴリーがあり、多くの企業は困ってしまうわけです。また、セットメーカーなどのサプライヤーにとっては、自社努力によるCO2削減の貢献も明確になってほしい。そういったニーズから、製品単位でCO2排出量を出してほしいという需要が高まり、私たちSuMPOへの期待は大きく、多方面からの問い合わせがきており、製品ごとに上流から廃棄・リサイクルまでを算定するLCAの需要の高まりを日増しに感じています。
特に2020年のコロナ禍以降は、カーボンフットプリント(以下、「CFP」という。)を算出する需要が非常に高まりました。スコープ3も投資家向けに開示するだけなら金額ベースでいいのですが、サプライチェーン全体のリアルなデータを把握することが求められています。
私たちは、第三者認証型包括算定制度を設けるなどSuMPO独自のスキームを使った対応を進めていますが、信頼性の担保の意味からは我が国で唯一のSuMPO環境ラベルプログラムを運営しております。こちらはISO14025に準拠したEPD(環境製品宣言)をベースとしたCFPと同プログラム内でISO14067に準拠したCFPなど目的に応じて様々な対応をしております。これらはいずれもプロダクトカテゴリールール(PCR)に基づいた算定を行っており、データおよび算定結果を第三者による検証を行うことで妥当性を評価し、ステークホルダーに登録公開する一連の仕組みを公正・公平に運営しています。特に算定結果を第三者が検証する仕組みは、20有余年の実績に裏付けされており、自社内での算出だけでは担保できない社会的信頼性を付与する意味でも、旺盛な需要に繋がっていると感じています。

世界を後追いしないこと。視点を広げ、社会的責任を考える

――そうした需要が高まる一方で、一般消費者や日本の社会においては、CFPや認証が浸透しているとは言いにくい状況です。
壁谷    日本でなかなか広がらない理由のひとつは、規制がないことでしょう。CFPという言葉だけが一人歩きしてしまっており、目的が不十分なまま頭を抱えているように思います。
例えば、欧州には製品環境規制というものがあり、これはハードロー(Hard law)、つまり厳しい強制力をもった義務を意味しています。この規制で日本のメーカーに最も影響がある製品は蓄電池や車載電池といったバッテリー製品です。政府、関係業界においても積極的に対応努力が進められていますが最終的な算定ルールが未だ欧州から示されていないため混とんとした状態となっています。
いずれ欧州でのルールが確定し、公開されるとこれがグローバルデファクトスタンダードとして世界に広がっていくこととなるのですが、日本でもカーボンフットプリントやEPDといった優れた算定ルールの蓄積があり、これらを世界にいち早く発信し、規制の機先を制することができれば、市場競争においても優位性を確保できるではないでしょうか?
欧州は、今後続々と独自の仕組みを開発してきます。電池に限らずさまざまな製品で、製品環境規制が作られ、EU27ヶ国が参加する議会を通し、即座に世界に向けて適用してくるのです。今はまだ、サプライチェーン全体の情報開示とか、LCAといったことにピンとこない国内企業もあると思いますが、欧州の規制が厳しくなることは、私たちにとって相当な脅威でもあるわけです。
――結果的にサステナブル経営が進むとしたら良いことだと言えますが、外圧によってのみ変化することは少し残念にも感じます。
壁谷    極めて残念なことです。しかし昨今SuMPOには、自社算定した結果を「これで良いかどうか確認してほしい」というお問合せも寄せられており、企業の皆さんも変化しています。また私どものEPDプログラムに期待されているという自負もあります。
冒頭でもお伝えしたとおり、今も脱炭素やCFPばかりを課題にしているのは日本ぐらいです。国際社会では、カーボンを減らすことだけに気を向けてしまうと、不要なエネルギーを使ってしまい、資源消費や生物多様性にまで影響しかねないと危惧されています。
また欧州では、単一指標で良し悪しを評価することは、グリーンウォッシュになりかねないという議論も進んでいます。今後、インドやブラジルなどグローバルサウスの参画が進むと、彼らは先進国に向けた食糧生産に起因する環境汚染や水質汚染といった問題を抱えていますから、やはり単一指標では測りきれない状況になっているわけです。

臆せずに、日本のプレゼンスを示してほしい

壁谷    欧州が本気で取り組んでいる背景には、経済安全保障の観点が大きいわけです。外部からの資源が粗悪であったり、必要な資源が確保できなかったりすると問題は切実です。そこで資源消費を抑制しても経済成長に繋がるような、新しい経済システム、産業システムを作ろうとしているのです。
本来日本は優れたモノづくり国家ですから、省エネ化や少量化といった設計における環境配慮の知恵や技術はたくさんあります。どうか臆することなく、先端技術や成功事例を作り出す、そうした経営姿勢を取ってくれる企業が増えてほしいです。またそうしたロジックをきちんと伝える情報開示の仕組みが整えば、日本の素晴らしさを世界に発信でき、日本にも新しい経済モデルが生まれていきます。世界についていくだけではなく、日本が勝ち残る仕組みを示せるはずだと私は思っています。
――現時点で、注目されている国内の事例はありますか。
壁谷   なんといってもトヨタ自動車さんですね。カーボンニュートラル先行開発センター、サーキュラーエコノミー推進室など矢継ぎ早に新しい部署を作って動き出しています。これまでの設計や調達とは全く違うアプローチで技術開発に取り組んでいるのを見ていると、世界がEVだけに傾倒し始めて、例えトヨタに批判のような声が起きようとも、冷静に問題に向き合ってきた戦略を感じます。都市設計にも取り組んでいますし、マイカーを持たないなどモビリティの価値観自体が変化している現実にも向き合っていることは、これから世界にも注目されるのではないでしょうか。
また、経営者としても専門家としても、環境意識を経営に活かしているという点では、花王さんもすごいですよね。トップリーダーのけん引力もあって消費者の観点を把握し、あらゆる製品に資源消費などの技術革新を施し、社会にきちんと実装しています。
両社とも脱炭素に限らず消費全体を考慮し、時代を超えて、自らの価値観で発想できる経営姿勢は大変素晴らしい事例だと注目しています。
――これからサステナブル経営に取り組もうとする国内企業へメッセージをお願いします。
壁谷   サステナブル経営とは、未来思考であるべき社会の像を描き、その実現に向けてバックキャスト手法で課題解決の糸口を見出し、優先順位を明確にして対応していく経営手法です。この場合、環境問題など一部制約条件は受け入れ、そうした条件の中で解(新しい社会、経済システム)を導き出していくことになります。現世代の成功者が過去の栄光を引きずりながら対応するフォアキャスティング手法ではなく、次世代にとって負担になるものを引き継がないようにする、その覚悟のことです。
そのために一番大事なことは、企業経営者自らが先頭に立って、未来世代のための経済システム作りを宣言すること、30年先、50年先の未来に自社、社会がどうなっているかを創造し、「社会的価値」を次の世代の稼ぐ力としうるよう「本気」の経営革新に着手して欲しいです。
何から始めたらいいかと悩んでしまう企業も多いかもしれませんが、今、企業が投資すべきことは、売り上げを伸ばすことではなく、社会的リスクを減らすことです。もう一度、世界に憧れられるような、日本の「モノづくり」、社会価値づくりが進むことを願っています。

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