Green&Circular 脱炭素ソリューション

ソリューション最適化

最終更新:2023.10.17

プラント設備のオペレーション最適化により GHG排出量を削減するShape社のAI技術

FPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)などの大型プラント設備に、人工知能(AI)を活用したデジタルソリューションを提供するShape社。そこでは、O&M(オペレーション&メンテナンス)における設備機器のモニタリングと故障予知と同時に、温室効果ガス(GHG)の排出削減もおこなわれています。同社が提供するプラント設備向けのデジタルソリューション、その概要と今後の展望とは?

FPSOのオペレーターである、三井海洋開発(MODEC)のプラント設備運営上の課題を解決するために生まれたShape社のデジタルソリューション。プラント設備に関する現場知見と、AIモデル開発を強みとした同ソリューションは、高精度な故障予知を実現すると同時に、プラント設備の温室効果ガス(GHG)排出量を可視化、および将来の排出量予測を可能とします。さらにShape社では、AIモデル化された現場知見を強みとしたプラントオペレーションの最適化、および温室効果ガスの削減提案をおこなっています。Shape社が提供するこれらのソリューションはFPSOに留まらず、「石油・ガス」「金属資源」「発電設備」「製紙業」等へ横展開されています。

前身はFPSOのオペレーターによる、FPSOの故障予知サービス

──Shape社の成り立ちからお聞かせください。
田辺 Shape社は、三井物産と三井海洋開発(以下、MODEC)が出資する人工知能(AI)開発を強みとする会社で、これまでに800以上の機械学習モデルを開発し、主にFPSO(浮体式生産設備)のオペレーション領域にAIを活用したデジタルソリューションを提供しています。ちなみに、FPSOとは陸地から200~300kmの沖合で海底から原油や天然ガスを汲み出し、生産して積み出す海上設備のことです。
三井物産プロジェクト開発第三部第四営業室(デジタル総合戦略部からの社内出向) 田辺大樹
2003年入社。16年超さまざまな事業領域でのデジタル分野に従事(AI/Block Chain/IoT/Big Data/M2M)。2014年よりE&PやNew Energyでのエネルギー分野の事業経験後、直近7年はエネルギー/プラント/金属資源等の重厚長大系Digital ProjectのProfessionalとして活躍。2020年よりSHAPE Brasil社創業に向けOperation Committeeメンバーとして尽力、2021年にVP of Business Development就任、同社経営/経営企画業務に従事。
──Shape社は2021年に設立されていますが、設立の経緯を教えてください。
田辺 前身となったのは、MODECによるAIを活用した故障予知の開発です。当社は実証段階から人的リソースと資金の拠出で貢献してきました。ブラジル沖合で操業するMODEC/当社保有のFPSO「MV29」は、WEF(World Economic Forum/世界経済フォーラム)が認定する先進的な工場「Lighthouse(灯台=指針)」に選出されました。石油・ガス産業の上流企業(探鉱・開発、採掘、輸送)として唯一の「Lighthouse」となり、日本企業として、南米の工場として初めての選出です(2021年1月時点)。
評価されたのは、AIを活用した故障予知です。多くのAI活用が実証実験に留まる中、我々のAIモデルは既に実用化され、10隻のFPSOで故障予知がおこなわれています。
FPSO Cidade de Campos dos Goytacazes MV29
提供:三井海洋開発(株)
芳賀 故障予知の取組を開始してから開発したAIモデルは800に及びます。競争力のあるAIモデルの開発により高精度な故障予知が可能となったことから、これをFPSOに限定せずに広くプラント設備や工場に展開するため、MODECからスピンオフする形で2021年の6月にShape社の設立に至りました。
三井物産プロジェクト開発第三部第四営業室 芳賀由理
2019年入社。入社後、チリ海水淡水化建設案件を担当。その後、FPSO(浮体式生産貯蔵積出設備)事業でブラジル・ベトナムに於ける建設・操業案件に従事。2023年よりFPSO室で出資するデジタルソリューション開発・販売会社であるShape Brazil社に於いて経営企画及び故障予知・GHG関連商品含めた外販活動に尽力中。
──故障予知というのは、プラント設備にとって重要な要素なのでしょうか。
田辺 Shape社はAIを活用したデジタルソリューションを通してFPSOのO&M(オペレーション&メンテナンス)をサポートしますが、中でも故障予知は重要な機能の一つです。FPSOでは、コンプレッサーやガスタービンなど、さまざまな設備機器が稼働していますが、こうした機器が稼働停止すれば、稼働率が悪化し事業収益を損なう恐れがあります。また同時に、化石燃料の供給が滞れば、エネルギーの安定供給を脅かす可能性もあります。このダウンタイム(機器の稼働停止時間)を最小化するために、高精度な故障予知が必要となるわけです。
──ライバル企業と比べた場合のShapeの強みはどこにあるのでしょう。
田辺 Shape社のソリューションは、FPSOのオペレーターであるMODECが自らのペイン(事業上の痛み)を解消するために開発されました。設備機器メーカーやシステム会社など、故障予知サービスを提供する企業は多くありますが、現場を良く知るオペレーターが開発している点が大きな特徴だと思います。これによって、プラント設備・オペレーションに関する知見(Operational Technology)に基づくAIモデルの開発を可能としています。
──ブラジルを拠点としているのには、理由があるのでしょうか。
芳賀 ブラジルは原油産出国として世界8位のプレゼンスを持ち、また出資元のMODECはブラジルの原油産出量の約25%を担うFPSOのオペレーター、かつShape 社デジタルソリューションのユーザーでもあります。このような観点から、現場とユーザーに近いブラジルのリオデジャネイロに開発拠点を設置しています。

Shape社が提供する4つのデジタルソリューション

──Shape社4つのソリューション「Lighthouse」「Aura」「DBMS」「VET」、それぞれの概要を教えてください。
田辺 「Lighthouse(ライトハウス)」は故障予知です。プラント設備機器の運転状況など、さまざまなデータをプラットフォームで一元管理し、AI分析を通して故障予知をおこないます。
芳賀 「Aura(アウラ)」は脱炭素ソリューションです。各種センサーを通してデータを収集し、温室効果ガスの排出量を可視化します。Auraは可視化のみならず、AIによる分析を通してプラント性能を維持しながら、温室効果ガスの排出を最小化できるプラントオペレーションの最適化提案をおこないます。
芳賀 「DBMS(デジタル・バリア・マネジメント・システム)」はリスク分析ソリューションです。プラント全体に潜む機器故障などのリスクとそのインパクトを分析し、適切な対応策の決定を支援します。
多くのプラント設備では、そのリスクをスタティック(静的に)に分析し、現場の経験や勘に基づく属人的なリスク対応をしていますが、「DBMS」ではダイナミック(動的)なリアルタイム分析をおこない、「Bow-tie(蝶ネクタイ)analysis」と呼ばれるリスクアセスメントの評価手法を用いて、起こり得るリスクのRCA(Route Cause Analysis)・Impact分析を通じたシステマティックなリスク回避を実現します。
田辺 最後の「VET(バーチャル・エンジニアリング・ツール)」とは、プラント全体の最適化ソリューションです。シミュレーション環境を整備し、自動最適化、リアルタイムでの最適化提案をおこないます。
故障予知はコンプレッサーなどの単一機器を対象とするのに対し、「VET」はプラント全体を最適化し、例えば配管の目詰まり(スケーリング)などの異常を検知し、対応することが可能となります。プラント全体の最適化は、技術者の経験による部分が大きいところですが、これを最適化する手段を提供します。

プラント設備向けの脱炭素ソリューション「Aura」

──脱炭素ソリューション「Aura(アウラ)」について、詳しく教えてください。
田辺 Auraでは、運転状況などのデータをプラットフォームで統合管理し、温室効果ガスの排出量やエネルギー効率といった指標をリアルタイムにモニタリングします。これらのデータをAIが分析、将来発生する温室効果ガス排出量を試算し、機器運転を最適化するなどの排出削減施策を提案します。
芳賀 そこでは、設備機器の各種設定値などの具体的な提案がAIにより示され、これによって温室効果ガスの削減が可能となります。既存のオペレーション状況によりますが、プラント設備にAuraを活用することで、5〜10%の温室効果ガス削減が可能です。
田辺 Auraは温室効果ガス排出量を可視化すると共に、設備機器の運転を最適化することにより、温室効果ガスの削減を実現します。最適化の手法にはさまざまありますが、プラント全体のGHG排出箇所や排出量等のImpact分析をした結果、現在はガス処理設備に着眼し、コンプレッサーの最適運転を実現する圧力値や流量の提案、Nominal parameter(公称値/設定値)とReal parameter(実測値)の分析による最適な機器のオン/オフタイミング提案等を通じて温室効果ガスの削減を実現しています。
排出量の可視化をサポートする企業やサービスは多くありますが、これに加えて、現在の運転状況から将来の排出量を予測・試算し、排出削減の提案までおこなえる点がAuraの最大の特徴だと思います。

FPSOから他のプラント設備へ横展開

──この4つのソリューションは、FPSOのみならず、他のプラント設備にも既に導入されているのでしょうか。
芳賀 もともとはFPSOにあるコンプレッサーやタービンなど、大型回転機の故障予知が中心でしたが、現在では陸上プラント設備にも導入が進んでいます。既にアジア圏の石油・ガス精製プラントや、南米の製紙プラントへの導入実績があり、Shape社では「石油・ガス」「金属資源」「発電設備」「製紙業」を重点産業とし、ソリューションの展開を図っています。
──あらゆる業種に展開できると考えてよいのでしょうか。
田辺 今後は、再生可能エネルギー(発電設備)にも展開が可能です。あくまで一例ですが、直近では水力発電設備への導入検討が南米で進行中です。このようなプロジェクトを通して、安定的な発電設備の稼働、ひいては再生エネルギーの安定供給に貢献できると考えています。
──三井物産が果たす役割は、どのようなものでしょうか。
田辺 当社の役割は大きく二つあります。一つは、三井物産のグローバルネットワークを活用して、Shape社のソリューションを異業種含めて拡販していくこと。もう一つは、デジタルの知見をShape社に提供・蓄積していくことです。例えば、当社ネットワークを通じたデジタル会社とのパートナリング推進、当社デジタル総合戦略部と連携し、各業種のSaas系企業の成功事例紹介を通じたInsight提供です。
Shape社は社員100名のうち90名が開発拠点に在籍、うち60名がエンジニアのいわゆるテック集団です。三井物産は、さまざまな業種・業界のデジタル化に関わっています。そこで培われた知見、特にビジネス×デジタルの知見をShape社に集積し、競争力のあるサービス開発を促進していければと思います。
──最後に、Shape社の業容が拡大し、技術も進化すると、どのような未来が待っているのか、お聞かせください。
芳賀 FPSOは、主に海底油田から原油を生産する設備であり、その安定稼働は即ち、エネルギーの安定供給の一役を担っています。脱炭素化を進めるために、再生可能エネルギーへの切り替えなどを一気呵成に進めようとすれば、今度はエネルギーの安定供給に問題が生じ、一足飛びに脱炭素化を進めることは現実的ではありません。
古くからエネルギーの安定供給の役割を担ってきた三井物産では、こういったエネルギーの安定供給と脱炭素化双方の観点から、段階的なEnergy Transition(エネルギー転換)を図ることが使命であると考えています。
田辺 脱炭素の観点からは、現場の知見とAI技術により、プラント設備での温室効果ガス削減を進め、ひいてはカーボンニュートラルの実現に貢献していきたいと考えています。
──本日はありがとうございました。
Shape社のデジタルソリューションは、プラント設備の稼働率向上と脱炭素化を目指すあらゆる産業を対象にしています。ご興味を持たれましたら、まずはお気軽にお問い合わせください。

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