アンモニア発電とは?クリーンな燃料として利用可能なエネルギー
脱炭素社会の実現に向けて様々な取り組みが実施される中、新たに注目を集めているのがアンモニアを利用した発電です。この記事では、アンモニア発電が注目されている理由やアンモニア発電の仕組み、解決すべき課題などを網羅的に解説していきます。
アンモニア発電とは?クリーンな燃料として利用可能なエネルギー
アンモニア発電とは、その名の通り、アンモニアを燃料とした発電方式です。発電時に温室効果ガスを排出しないアンモニア発電は、クリーンな次世代エネルギーとして水素とともに注目されています。
以下では、アンモニア発電が注目されるに至る経緯を解説します。
2015年のパリ協定では、「産業革命以前と比較して気温上昇を2℃より十分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求する」こと目的として掲げ、各国が長期的なCO2削減目標を設定しました。この目標を実現するため、各国政府は制度改革やクリーンエネルギーに関する技術開発などを進めています。
以前からクリーンエネルギーの一つとして研究されていたのが「水素」です。水素は、製造時のエネルギーに化石燃料を用いる場合にはCO2を排出しますが、発電時にはCO2を排出しません。そのため、水素を燃料する水素発電や燃料電池車は、CO2排出削減の大きな後押しになると期待されています。
一方で、水素利用における課題の一つに、貯蔵と運搬があります。常温で気体の水素は、その体積が大きく輸送効率が悪くなります。液化するには、極低温(-200度以下)を保つ必要があり、他のエネルギー資源と比べて輸送コストが大きいという問題を抱えています。
水素発電、水素エネルギーについては「
水素エネルギーとは?メリットや利用方法を解説!」をご参照ください。
上記のような問題を解決するために、水素キャリア(運搬方法)として検討が始まったのが「アンモニア」です。アンモニアも常温・常圧時では気体ですが、少しの圧力を加えるか、少し冷却するだけで(-30度程度)液体となるため、水素と比べて貯蔵・運搬が容易です。一時的に水素をアンモニアに変換し、使用時に再度変換して水素を作れば、貯蔵や運搬のコストを低減できます。
水素キャリアとしてのアンモニア活用のみならず、アンモニアを直接燃料として利用するアンモニア発電の検討も進められています。
アンモニアは窒素原子と水素原子のみで構成されるため、気体水素と同様、燃焼時にCO2を排出しないクリーンな燃料として利用が可能です。
そもそもアンモニアとは?
アンモニアは1909年にハーバー・ボッシュ法という工業製法が確立したことで、大量生産が可能となりました。アンモニアは窒素肥料の原料になるもので、これによって化学肥料の大量生産が可能となり、農産業に革新をもたらしたと言われています。
こういった背景から、農業分野では重要な役割を担うアンモニアですが、エネルギー分野ではこれまで積極的に活用されてきませんでした。アンモニアは「燃えにくい」ことが理由の一つであり、燃焼速度が遅く、酸素濃度が高い場合であっても火炎がすぐに消失し、安定的に燃焼し続けることができませんでした。
こうした状況を打開したのは、東北大学 早川、小林らの「スワール流」に関する研究です。気体状態にあるアンモニアの渦状の流れを制御することで効率的に空気と触れさせ、安定的に燃焼を持続させることに成功しました。このような研究を通して、アンモニアを持続的に燃焼させることが可能となり、アンモニア発電が現実的な選択肢として名乗りを上げることになりました。
アンモニア発電の取組み1:混燃
アンモニア発電は、アンモニア燃料を燃焼することで発生する熱エネルギーによりタービンを回転させ、電気に変えるもので、その原理は火力発電そのものです。
アンモニアは燃えにくいため、専用のバーナーが必要にはなりますが、既存の火力発電設備の燃料にアンモニアを用いることが可能で、石炭火力発電にアンモニアを混焼する取組みが注目されています。将来は、アンモニア混焼比率を段階的に高め、100%アンモニア専燃を目指す計画です。
東京電力グループと中部電力の合弁会社であるJERAは、アンモニア混燃方式をいち早く取り入れ、2024年には愛知県碧南市の碧南火力発電所にて、アンモニア20%の混燃実証を目指すと発表しました。
アンモニア混焼火力発電は、実験室レベルでは十分に高効率な発電が可能となっていますが、今後は商用規模に拡大されることが期待されます。
アンモニア発電の取組み2:燃料電池
「アンモニア発電」というと、先に述べた石炭火力発電でアンモニアを混焼する、またはアンモニア専焼とする「火力発電」を指すことが多いようですが、「水素」の代わりにアンモニアを用いた「燃料電池」の研究も進められています。京都大学と国内民間企業による共同研究グループが研究を進めています。
燃料電池は、2枚の電極板を導線で繋ぎ、極板間を電解質(導電性物質)で満たしたものです。負極にアンモニア、正極に酸素を吹き付けるとそれぞれ以下のような反応が生じ、起電力を生み出します。
負極:2NH3 + 3O2- → N2 + 3H2O + 6e-
正極:3/2 O2 + 6e- → 3O2-
燃料電池全体で見ると、
2NH3 + 3/2 O2 → N2 + 3H2O
燃料電池には大規模な設備が必要ないため、将来的にはアンモニアを用いた燃料電池車や家庭用発電システムが開発されることが期待されます。
アンモニア燃料電池は、既に水素燃料電池と比べても遜色のない発電効率を有します。しかし、動作温度が高い(700度~900度)ために劣化が激しいことが問題となっています。この劣化のメカニズムを解明し、長く使える燃料電池を開発することが今後の課題となります。
アンモニアの生産と供給
発電燃料としてのアンモニア利用と共に進めていかなければならないのが、アンモニアの生産と供給の問題です。
貿易統計及び経済産業省生産動態統計年報によると、2019年の国内アンモニア消費量は約100万トンです。日本の石炭火力発電をすべてアンモニアに置き換えた場合、必要なアンモニアは約1億トンの試算となります(経済産業省資源エネルギー庁)。アンモニア発電を拡大するためには、アンモニア自体の生産拡大や海外調達が必要です。
アンモニア生産方法
アンモニアは水素から作られますが、現在主に利用されている水素の工業製法は2つあります。
1つは、石油や天然ガスなどの化石燃料に含まれるメタンから水素を分離する方法です。この方法では、水素生成時に温室効果ガスが発生しますが、これを回収して地中などに貯留します(CCS)。このように、CO2の貯留を通して製造工程で発生するCO2を抑えて生成した水素を原料として作られるアンモニアは「ブルーアンモニア」と呼ばれます。
もう1つの方法は、水の電気分解により水素を生成する方法です。電気分解に必要なエネルギーを化石燃料で賄う場合には、CO2が発生することになりますが、再生可能エネルギーを用いれば、製造工程で発生するCO2を抑制することができます。このように、再生可能エネルギーを用いた電気分解により生成した水素を原料として作られるアンモニアは「グリーンアンモニア」と呼ばれます。
CO2排出量を削減するためには、上記のブルーアンモニアやグリーンアンモニアの生産拡大と活用を進めていくことが課題の一つとなっています。
日本におけるアンモニア発電の計画としては、政府がアンモニアの国内消費量を2020年に300万ton、2050年に3,000万tonとする目標を定めています。また、国内エネルギー政策の大枠を定めた「第6次エネルギー計画」の中で、2030年の国内電源構成のうち、約1%を水素・アンモニアで賄うことが定められています。
個別の企業では、アンモニア活用で先行するJERAが、アンモニア発電に関するロードマップを示しています。JERAは、2030年にはアンモニアを20%混燃する火力発電所の運用を開始し、2040年までに保有する全火力発電所で20%混燃を達成する計画です。その後は混燃率を高め、2050年までに、全火力発電所でアンモニア専燃を達成する計画です。
引用:2035年に向けた新たなビジョンと環境目標について(JERA)
アンモニア発電のメリットと課題
このように、石炭火力発電におけるアンモニアの混焼または専焼化がエネルギー分野におけるアンモニアの主な用途となっていますが、これ以外にも、船舶燃料や水素キャリアとしての用途も期待されています。
最後に、アンモニア発電によるメリットと課題を簡単にまとめます。
メリット
1. 発電時にCO2を排出しない
アンモニアは水素と同様、発電時にCO2を排出せず、地球温暖化抑制に貢献します。また、グリーンアンモニアまたはブルーアンモニアの場合には、製造時のCO2の発生も抑えることが可能です。
2. 水素と比べて貯蔵・運搬が容易
アンモニアは液体として運搬できるため、水素サプライチェーンの課題である貯蔵・運搬の難しさを解決します。
3. 輸送や貯蔵インフラが一定程度整っている
アンモニアは、これまでにも化学肥料や樹脂の原料として広く用いられてきたため、輸送や貯蔵インフラが一定程度整っています。水素サプライチェーンのようにゼロからインフラを整備する必要はありません。
課題
1. 商用規模でのアンモニア混焼火力発電
実験レベルでは十分な発電効率が得られているアンモニア発電ですが、商業用の大規模発電は、まだ実証段階にあります。今後アンモニア混焼比率を高めつつ、大規模発電にアンモニア燃料を用いていくことが期待されます。
2. NOxの排出抑制
水素と異なり、アンモニアは燃焼時に酸性雨の原因となるNOxを排出するため、NOx対策が必要となります。
3. 安定供給へ向けた製造基盤・サプライチェーンの構築
現在の石炭火力発電をアンモニア専焼に切り替えるとすれば、アンモニアの国内生産量が大きく不足しています。アンモニア発電普及のためには、アンモニアの国内製造拡大、および輸入を含むサプライチェーンの整備も必要となります。
アンモニアは、環境問題への対処から今後需要が大きく拡大することが見込まれている一方で、供給体制が未整備である現状です。将来の需要拡大を見据えたアンモニアのサプライチェーン構築が望まれます。
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