ZEV(ゼロエミッションビークル)とは? ZEV規制の動向も踏まえ、その普及に向けた課題を解説 - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

ソリューション次世代電池

最終更新:2024.09.18

ZEV(ゼロエミッションビークル)とは? ZEV規制の動向も踏まえ、その普及に向けた課題を解説

CO2などの温室効果ガスや大気汚染物質を排出しない乗り物、ZEV(ゼロエミッションビークル)。
世界各国でその普及促進が図られる中、日本での普及は遅れている状況です。
ZEVを普及促進するZEV規制の動向などを踏まえ、今後のZEV普及拡大に向けた課題を読みときます。

ZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)とは

ここ最近、ZEVという言葉を耳にする機会が増えました。ZEVとは文字通り、ゼロエミッション(排出がゼロ)な乗り物を意味し、地球温暖化の主たる原因とされるCO2などの温室効果ガスや大気汚染物質を排出しない乗り物のことです。排出がゼロな乗り物であれば、自動車をはじめとして、電車、飛行機、自転車などもZEVに該当します。
似た言葉に「エコカー(eco-car, eco-friendly car)」がありますが、エコカーは環境に配慮した自動車のことで、温室効果ガスなどの排出が必ずしもゼロではありませんが、一定程度抑えられている自動車を指します。
現在、走行時に温室効果ガスを排出しない自動車には、電気自動車(BEV)と燃料電池車(FCV)があります。FCV(燃料電池車)はとくに、走行時に排出されるものが水だけであることから、ZEVであると同時に「究極のエコカー」とも目されます。また、ガソリンエンジンと電気の両方を搭載するハイブリッド車については、ZEVに含めるかについて意見が分かれるところです。

BEV:Battery Electric Vehicle/バッテリー式電気自動車

車載されたバッテリー(蓄電池)に充電し、電気でモーターを駆動させることで走行する自動車をBEVと呼びます。バッテリー(蓄電池)には、主にリチウムイオン電池が用いられます。

電気はエネルギー密度が低く、貯蔵に大きな車載バッテリーが必要になるため、1回の充電で走行可能な距離が短いことが指摘されています。現在は、走行距離が計算でき、定常的に充電が可能なルートバスなどに利用が限定されていますが、今後は近郊移動を目的とした小型乗用車(シティコミューター)としての普及が期待されています。

FCV / FCEV:Fuel Cell Vhicle / Fuel Cell Electric Vehicle/燃料電池車

燃料”電池”車と訳されることから、電気を蓄える蓄電池(バッテリー)と混同されることがありますが、燃料電池とは発電装置のことであり、その原理は理科の実験でお馴染み、水の電気分解の逆反応です。水の電気分解では水に電気を通すことで酸素と水素に分解しますが、燃料電池では酸素と水素を化学反応させることで、電気と水を発生させます。これによって電気を取り出し、モーターを駆動させることで走行します。

FCV(燃料電池車)はBEV(電気自動車)と比べると構造が複雑で大型になるために、一般に車両価格が高くなります。乗用車では、世界初の量産型FCVとなるトヨタMIRAIの販売開始が2014年12月、当時1台数千万円と考えられていたFCVを700万円台(補助金適用で500万円程度の負担)で提供可能としたことが話題となりました。

一方で、水素はエネルギー密度が高く貯蔵性が高いので、長距離走行が可能であること、多くのエネルギーを必要とする大型車や貨物車に適用可能であることから、バスやトラックといった大型商用車やフォークリフトなどへの適用が期待されています。

PHEV、HEV:(Plug-in) Hybrid Electric Vehicle:(プラグイン)ハイブリッド車

ガソリンを燃料とするエンジンと、電気で駆動するモーターの両方を搭載した自動車を「ハイブリッド車(HEV)」と呼びます。多くのハイブリッド車はエンジンの排熱を利用して電気を作りますが、一方で外部から充電が可能なものを「プラグインハイブリッド車」と言います。ハイブリッド車は電気で駆動するモーターを搭載しているため「電気自動車(EV)」に分類されますが、一方でガソリンを使ってエンジンを駆動する、つまり一定量のCO2や大気汚染物質を排出しますので、厳密にはZEVには分類されません。

ガソリン車と比べると、電気モーターを搭載するために車両価格は高くなりますが、エンジンの排熱を利用して電気を生成・利用しますので、燃費性能が高く、ZEVほどではないにしても環境に配慮された自動車ということがハイブリッド車のメリットで、日本では最も導入が進む電気自動車となっています。

世界で進むZEV規制とは

2050年のカーボンニュートラル達成という世界共通の目標に向けて、世界でZEV規制が進んでいますが、ZEVとしての目標は、「2035年までにすべての新車をZEVにする」ことに収れんしつつあります。ここでは、主要国・地域におけるZEV規制についての動向を解説します。

米国:2035年にすべての新車をZEVに。HEVは20%まで

ZEV規制とは、ZEVの販売比率目標を設定し、各社に達成を求める規制のことであり、米国カリフォルニア州で1990年代にZEV法が施工され、新車の一定割合をZEVにすることが義務付けられたことが始まりとされています。

米国カリフォルニア州ではその後、数度の目標修正を経て、2022年4月に新たなZEV規制案を発表、州内で販売する全ての新車を2035年までにZEVにする(2026年までに35%、2030年までに68%)目標を示しています。
なお、ハイブリッド車(HEV)については、毎年20%を上限として導入を認めるとしています。

さらに、カリフォルニア州ZEVプログラムに賛同する、ニューヨーク州をはじめとする13州がこれに追従すると見られています。

EU:2035年にすべての新車をZEVに。ただしe-fuel利用のガソリン車は認める

EUでは旧来、自動車の燃費に一定の基準を設け、その燃費を上回る場合に罰金を科す燃費規制を敷いてきましたが、2022年10月、EU理事会と欧州議会は「2035年までにすべての新車をZEVにする」法案に合意しました。ただし、ドイツなどのEU主要国がこれに反対し、合成燃料(e-fuel)を使用するガソリン車については、新車販売を認める形に法案を修正しています。

合成燃料(e-fuel)とは、再生可能エネルギーを用いて製造された水素(グリーン水素)と大気中のCO2から製造する石油代替燃料です。

日本:2030年代前半にすべての新車をZEVにする方向で調整、HEVを認める方向

日本では、ZEV規制が敷かれていないためにZEV(BEPとFCV、HEVを含まない)の普及が遅れていることが指摘されてきましたが、日本政府は2030年代前半までにすべての新車をZEVにする方向で調整中との報道もあり、水面下では検討が進んでいるようです。なお、日本のZEV規制では、HEVをZEVとして認める方針のようです。

東京都はこういった動きに先行し、5年前倒しの2030年にガソリン・ディーゼル車の都内新車販売を禁止する方針を打ち出しています。

世界各国のZEV普及状況

ZEVの普及は、中国、欧州が先行

世界各国で、ZEVの導入が加速しています。ZEV規制や、ZEVを普及促進するための各種補助金制度も奏功し、
また近年ではロシアのウクライナ侵攻をきっかけとした自国のエネルギー安全保障の観点などもあり、
新車販売に占めるEVの比率が高まってきています。
特に中国(29.0%)、欧州(21.0%)でのEV普及が大きく進展、日本(3.0%)は遅れをとっている状況です。

なお、図は新車販売に占めるEVの割合を示していますが、FCV(燃料電池車)は普及率が1%未満と小さく、現状ではEVの普及率≒ZEVの普及率とみて良さそうです。
主要国の新車販売に占めるEVの割合
主要国の新車販売に占めるEVの割合

日本は、HEV(ハイブリッド車)の普及導入が中心

日本では、1997年に世界に先駆けてトヨタがHEV車を発売したこともあり、ZEVの販売台数に占めるHEVの割合が約40%(2022年)と高い傾向にあります。同割合はEU(56%)、米国(19%)、中国(25%)とまちまちですが、HEVをZEVとして認めるかについては、各国で様々な議論があるところです。

軽自動車サイズのEV車発売で、今後のEV普及が期待される日本

2022年、日産自動車と三菱自動車から、軽自動車サイズのEVが発売され、その売れ行きが好調となっており、
EVの販売台数も2022年には前年比2.3倍と大きな伸びを見せています。
日本では元々軽自動車の売れ行きが好調であることに加え、走行距離が短いことが指摘されるEVでは、セカンドカーとしての利用に軽自動車サイズのEVがフィットしたことなどが要因として考えられています。
これをきっかけとして、日本でもEVの普及率が高まっていくことが期待されます。

ZEVの普及にあたっての課題

ZEV普及に向けては、ガソリン車並みにコストを下げることが求められます。車両価格を低減することでZEVの普及を促進する、車両価格を低減するために量産体制を構築する、エネルギー需要に対応するためにインフラを整える、といった具合に、バリューチェーン全体を構築し、最適化することが求められます。

車両価格の低減

各国エコカー減税や補助金制度を導入することで実質的な購入価格の低減を図っていますが、一般にZEVはガソリン車と比べると高額です。

例えば、メルセデス・ベンツのガソリン車”GLB”と共通構造を持つ電気自動車”EQB”を比較すると、車両価格はそれぞれ611万円、822万円(2023年8月時点)となっています。
先述のセダンタイプのFCV車であるトヨタMIRAIでは、車両価格は700万円程度、補助金を加味すると500万円程度(発売当初)で、ガソリン車と比べるとまだまだ高額です。

車両価格が高くなる要因の一つは、主要部品の調達コストです。電気自動車(BEV)の場合にはバッテリー、FCV(燃料電池車)の場合には燃料電池のスタックやリチウムイオン電池に不可欠なレアメタルの調達などを含めて、コスト低減が望まれます。

充電/水素供給インフラの整備

BEVであれば充電ステーションや高速充電器、FCVであれば水素ステーションの充実が求められます。

電気自動車(BEV)の場合はとくに、1回の充電で可能な走行距離がガソリン車に比べて短いため、安心して走行できるように充電ステーションの拡充が求められます。

FCVにおいては、水素インフラがまだまだ未整備の状況で、水素ステーションの設置や水素を貯蔵するため高圧水素タンクの開発が進められています。

グリーン燃料の製造・供給体制の整備

カーボンニュートラルの観点からは、電気自動車(BEV)で利用する電気は再生可能エネルギー由来のグリーン電力、燃料電池車(FCV)に用いる水素は、製造時にCO2を排出しない、いわゆるグリーン水素を用いなければ、CO2排出削減の観点では効果が限定的になります。
そのため、世界各所で再生可能エネルギーの利用拡大はもちろんのこと、グリーン水素製造プロジェクトなども走りはじめています。
なお、電気自動車(BEV、HEV)の普及が進むと、世界的に電力需要が増大し、至るところで局所的に電力の需給ギャップが発生することが見込まれています。これに対応すべく、電気自動車に搭載された蓄電池(バッテリー)を利用して地域の電力系統全体で需給調整を行う、いわゆるV2Gのサービスも試行されています。

三井物産のZEVに関連する取組み

ここでは、三井物産のZEVに関連する取り組みや事業を紹介します。
詳細については、以下のリンク先をご参照ください。
電動・水素燃料電池バス製造
ポルトガルのCaetanoBus社が製造するBEVバス、FCVバスを提供しています。また関連会社と連携して、EV及びFCVに関するワンストップソリューションを提供します。
電力最適化(EV車載蓄電池利用)
EV車の普及が進むと、電力需要が増大し、至るところで局所的な電力需給ギャップが生まれることが想定されています。ドイツでは、The Mobility House社と連携して、車載用蓄電池も活用して電力需給調整機能を提供し、地域の電力系統全体を最適化する取り組みも行っています。
グリーン水素製造(豪州)
オーストラリアでおこわれている大規模産業用クリーン水素製造プロジェクトであるYuri Projectに参画、地産地消型の水素エコシステムの構築を目指しています。
グリーン水素製造(欧州)
三井物産は、Lhyfe社を通じて、欧州で地産地消モデルのグリーン水素製造に取り組んでいます。
地場の風力や太陽光発電の再生可能エネルギー源を利用することにより、製造過程でCO2を出さないグリーン水素の製造を可能にしています。
高圧水素タンク・水素供給システムの開発
世界最大の樹脂ライナー製炭素繊維強化圧力タンクメーカーであるノルウェーHexagon社の技術を活用し、FCVトラック用の高圧水素タンク、水素供給システムの開発を進めています。
水素ステーション事業
アメリカ・カリフォルニア州で水素ステーションの開発を手掛けるFirstElement社に出資し、水素ステーションの拡充とFCVの普及を進めています。
ZEV普及には、競争力のある車両を開発し、その普及を促進させる「需要創出」と、
増大する需要を賄うグリーン燃料などの供給体制を整える「サプライチェーンの構築」双方が不可欠となります。
三井物産では、電力及び水素の双方において、バリューチェーン全体でこれに貢献していきます。

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