Green&Circular 脱炭素ソリューション

ソリューション電池・水素

最終更新:2023.07.14

西豪州 グリーン水素製造(Yuri Project)が導く水素と脱炭素の未来

三井物産では、2016年頃よりクリーン水素関連事業を推進してきました。その後、案件の多様化が進む中で全社一丸となった戦略的取組を加速すべく、2020年にエネルギーソリューション本部設立、2023年4月に部体制へと発展させ水素ソリューション事業部を新設しています。 本記事では、 水素ソリューション事業部にて取り組む、西豪州グリーン水素製造プロジェクト(Yuri Project)を軸に、脱炭素化に向けた水素関連の国内外動向や三井物産の取り組みについて話を聞きました。

CO2排出削減が困難とされる分野(Hard-to-Abate-Sector)での利用が期待されるクリーン水素。製造コストの低減と需要創出が課題で、その普及には時間を要するとされていますが、海外では大規模産業用の再エネ由来グリーン水素製造・供給が始まりつつあります。Yuri Projectは、豪州初の大規模産業用の水素製造プロジェクトであり、これを基点として水素供給ハブの構築を目指します。

世界的なサプライチェーン構築と、地産地消型エコシステムの構築を目指す

──まずは、水素ソリューション事業部とその取り組みについて教えてください。
谷村 当社は2016年頃よりクリーン水素バリューチェーン構築の取り組みを本格的に開始し、これまで複数の事業に参画してきました。その後、案件の多様化が進む中で戦略的な取り組みの必要性が高まり、全社一丸となってこれを加速するため、組織を編成・拡大して現在の「水素ソリューション事業部」となっています。当部では、大きくは日本/アジア向けを含むグローバルなクリーン水素サプライチェーンの構築、ならびに水素先進地域を中心として域内バリューチェーンを繋ぎこむ、地産地消型の水素エコシステムの構築を目指しています。
三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 水素ソリューション事業部 グローバル水素事業室 谷村千春。2009年入社。入社後、エネルギー第一本部にて石油物流、石油ガス生産開発及びガス物流事業会社管理を経験。現在はグローバル水素事業室にて、豪州・AP地域の地産地消型水素事業の新規案件開発を担当。

CO2排出削減が困難な分野(Hard-to-Abate Sector)で期待される「水素」

──水素社会の実現には時間がかかるというのが定説ですが、水素は脱炭素ソリューションの中でどう位置付けられているのでしょうか。
谷村 現在、世界中の国や企業が、2050年での「ネットゼロエミッション」を掲げ、再生可能エネルギーの利用促進や次世代燃料開発、排出権取引などの脱炭素ソリューションの導入を進めています。中でも水素は、「Hard-to-Abate Sector」と呼ばれる、CO2排出削減が困難な分野での活用が期待されています。具体的には、原料に化石燃料由来の水素等を使用する化学品分野、製造過程に電気では難しい高温の熱需要がある製鉄などの工業分野、鉱山などで利用される重機といった分野での水素活用です。
──水素は燃焼時にCO2を排出しないクリーンエネルギーとして知られていますね。
谷村 現在でも様々な分野や用途で利用されている水素ですが、そのほとんどは天然ガスや石炭などから生成される化石燃料由来の水素であり、その製造過程でCO2を排出する「グレー水素」となっています。これに対し「グリーン水素」は、再生可能エネルギーを用いて水を電気分解することで製造されるもので、燃焼時のみならず製造過程においてもCO2を排出しないクリーン水素となります。化石燃料由来の水素製造時に排出されるCO2を回収・貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)することでCO2排出を抑えた「ブルー水素」もあります。
──そういった背景から「クリーン水素」は注目されているのですね。
谷村 脱炭素化が困難な分野での活用が期待されているということで、CO2を排出しないクリーン水素(グリーン水素またはブルー水素)は、産業化に一定の時間を要するとしても、カーボン・ニュートラルを実現するためには必須の技術と捉えています。このような水素への期待もあり、水素の需要は現在年間約9,000万トンですが、2050年には6億6,000万トン程に成長すると言われています。

海外で先行する地産地消型のグリーン水素プロジェクト

──グリーン水素普及に向けた課題には、どのようなものがあるのでしょうか。
三ツ矢 グリーン水素が普及・拡大するための最大の障壁は、既存燃料・商品と比較した製造・輸送コストの高さと、車両や機械等の各利用先アプリケーションの普及、即ち需要創出にあります。グリーン水素の製造には再生可能エネルギーを必要としますので、特に再エネ調達コストの低減が望まれているところです。需要については、国・地域により異なりますが、製油所や石油化学といった化学品分野におけるグレー水素の代替需要と、燃料電池、船舶・航空燃料といったモビリティ分野向けの需要が期待されており、今後サプライチェーンの確立が進むにつれ、混焼を含む大規模水素発電燃料や水素還元製鉄などの分野における水素需要も見込まれています。
三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 水素ソリューション事業部 グローバル水素事業室(MIT Hydrogen Australia Pty Ltd出向) 三ツ矢有香。2008年入社。エネルギー本部戦略企画や本邦LPG事業M&Aプロジェクトを経て、主に石油・ガス生産開発事業に従事。2018年から水素・クリーンアンモニア新規事業開拓に携わり、豪州YURI案件への参画を実現。現在はENGIE社とのJVであるYURI事業会社の取締役と当社水素・クリーンアンモニア新規事業開拓を担う(在メルボルン)。
──水素先進地域では、既にグリーン水素が普及しているのでしょうか。
三ツ矢 このような課題を克服し、水素を普及させるには時間がかかるというのが一般論ですが、水素先進地域である欧米では、大規模産業用(数百MW級)のグリーン水素製造設備が既に建設中で、地域の水素需要を取り込む形で地産地消型の案件が走りはじめています。MW(メガワット)クラスの大規模産業用のグリーン水素製造設備はまだ世界に数えるほどしかありませんが、当社はそのような先行案件に早期参画し、エコシステムを確立・拡大していく事を目指しています。
──水素先進地域ではない日本では、どのような取組を予定されているのでしょうか。
三ツ矢 日本は、独自の水素戦略を掲げ、カーボン・ニュートラルに向けて水素の重要性を認めています。一方で国土が狭く、自国の再生可能エネルギーだけではグリーン水素の供給力に限界があること、またブルー水素についても、枯渇した油田などのCO2貯留場所が限られていることなどから、国内生産のみで全ての水素需要を賄うのは難しい状況です。そのため、競争力のあるクリーン水素を海外から輸入することも視野に入れて、国内では安定的な水素サプライチェーンの構築に取り組んでいます。

豪州の水素供給ハブとして期待されるYuri Project

──三井物産も参画する西豪州におけるグリーン水素製造事業「Yuri Project」の概要を教えてください。
三ツ矢 Yuriプロジェクトは、三井物産と仏電力大手ENGIE S.A.社の合弁会社が西豪州ピルバラ地域にて、太陽光パネル(18MW)及び水素製造装置(10MW)を設置し、グリーン水素を製造する事業です。製造されたグリーン水素は、大手窒素系肥料メーカーYara International ASA社の100%子会社であるYara Pilbara Fertiliser Pty Ltd社 に供給され、クリーンアンモニアの原料として利用されます。2024年の生産開始を目指しています。
グリーン水素プラント完成予想図
──この事業に取り組む意義はどのようなところにあるのでしょうか。
三ツ矢 豪州は広大な土地を有し、太陽光・風力といった再生可能エネルギーの高いポテンシャルから、将来の競争力あるグリーン水素製造拠点として世界的にも注目されています。Yuriプロジェクトはその豪州で初の産業規模でのグリーン水素事業であり、水素供給のハブになることが期待されます。また同時に、アンモニア製造は上述のHard-to-Abate Sectorと呼ばれる産業の一つです。農業や化学品、将来的にはエネルギー資源として人々の暮らしに必要なアンモニアを、環境負荷を減らす形で製造する試みという点において、社会的な意義も大きいと考えます。
──Yuri Projectが順調に進めば、さまざまなところに波及効果を生みそうですね。
三ツ矢 当社は西豪州で金属・エネルギー・化学品などのさまざまな事業に参画しています。当社がこのプロジェクトに参画することで、既存アンモニア向けグリーン水素製造拠点としての拡大はもちろん、同地域の周辺需要を取り込みながら、西豪州のピルバラ地域を水素供給ハブとして機能させ、豪州における水素の地産地消モデルを確立していきたいと思います。また将来は、当社のグローバルネットワークも活用しながら、日本に競争力あるグリーン水素を供給することも含め、グローバルサプライチェーンの構築を目指していきます。
YURI Projectの事業パートナーであるENGIE社のプロジェクトチームの皆さんと(メルボルンにて)。

低炭素・ゼロエミッションなエネルギーサプライヤーへ

──なるほど。では、今後のビジョンを教えてください。
谷村 水素の普及には製造コストの低減と水素アプリケーションの普及・拡大が不可欠であり、当社は本事業参画を通じてそれらの実現のための第一歩を踏み出しています。将来的には規模の拡大とコスト削減を実現することで、日本・アジアへの輸出機会を創出し、日本・アジアにおける温室効果ガスの排出削減、ひいてはカーボン・ニュートラルの実現に貢献することを目指しています。また、既存アンモニアプラントへのグリーン水素供給を商業規模で実現することで、産業用途のグリーン水素製造・供給の知見を獲得し、豪州のみならず他国・地域への横展開も目指しています。
──最後に、脱炭素社会に向けて、Yuri Projectを通じて叶えたい夢を教えてください。
谷村 当社はエネルギーサプライヤーとして、これまでに液化天然ガスや石油・石炭などの様々なエネルギー資源の安定供給を担ってきました。世界が脱炭素化に向かう中で、今後は安定供給に加え、低炭素化・ゼロエミッションに資するエネルギーサプライヤーとしても貢献していきたいと考えています。
三ツ矢 ゼロエミッションは地球規模の挑戦であり、水素は究極のゼロエミッション燃料です。当社は、クリーン水素のポテンシャルが高い豪州での本事業参画を通じて、商業規模の水素製造事業実績や案件開発・操業ノウハウを獲得し、グローバルな水素供給事業者として持続可能な地球の未来に貢献していきたいと思います。
──本日はありがとうございました。

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