V2G(Vehicle to Grid)は、EVのバッテリーに蓄えた電力を電力網と双方向にやりとりできる技術です。これにより、再生可能エネルギーの変動を吸収し、電力需給バランスの安定化に貢献するほか、EVを活用した新たなビジネスモデルの創出が期待されています。駐車中のEVが電力系統と連携して機能することで、脱炭素社会の実現やエネルギー課題の解決につながる技術として注目を集めています。
V2G(Vehicle to Grid)とは?EVが「走る蓄電池」になる
V2Gの基本的な仕組み
V2G(Vehicle to Grid)とは、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)のバッテリーに蓄えた電力を家庭や地域の電力ネットワークに供給したり、逆に充電したりする技術のことです。地域の電力需給バランスの調整機能としての活用や、再生可能エネルギーの安定的な活用、新たなビジネスモデル・サービスの創出等が期待されています。
通常EVは電力を充電し、走行時に電力を使用しますが、V2GはEV・PHEVのバッテリーを「蓄電池」として活用し、電力が余っている時に充電、電力が不足している時に電力系統へ放電する仕組みとなっています。この技術により、駐車中のEVは「走る蓄電池」と言われています。
ただし、地域に存在する膨大な数のEVバッテリーを統合的に管理する必要が出てくるため、需給をコントロールする「アグリゲーター」と呼ばれる事業者が、発電事業者や需要家(電気使用者)の間に立ち、その管理を担います。
アグリゲーターの役割
アグリゲーターとは、複数の分散型エネルギー資源(DER:Distributed Energy Resources)を統合管理し、電力市場や系統運用者と連携する事業者のことを言います。
アグリゲーターの役割は以下の4点です。
・ EVの統合管理 :多数のEVの充放電状況をリアルタイムで把握し、最適なタイミングで電力を供給・吸収
・ 電力需給の調整 :系統運用者(例:一般送配電事業者)に対して、EVの蓄電能力を活用して需給調整
・ 電力市場への参加 :卸電力市場や需給調整市場に参加し、EVの蓄電能力を活用して電力を売買し、収益の一部をEVユーザーに還元
・ 通信・制御インフラの構築 :EVとアグリゲーター、電力系統をつなぐ通信・制御システムを構築・運用
V2Gが世界的に注目されている背景
出典:資源エネルギー庁「EV等の電力システムにおける活用に関して」p.6
V2Gが注目されている背景には、主に2つの要因があります。一つは、各国で進むEV導入の加速、もう一つは再生可能エネルギーの拡大に伴う電力系統の課題です。
各国がEV導入目標を掲げ、EVシフトが加速しています。例えば日本では、2024年時点でEV・PHEVの新車販売比率は約2.2%と低水準ですが、2030年までに乗用車の新車販売に占める電動車(EV・PHEV・FCV・HEV)の比率を100%とし、小型の商用車の新車販売においてEV・PHEVの比率を20~30%とすることを目標としています。
また、EUでは2030年に新車の平均CO2排出量を2021年比で乗用車は55%、小型商用車は50%削減することが義務化され、2035年には新車のCO2排出量100%削減義務化により、ガソリン車やディーゼル車は事実上の販売禁止となる予定です。このように、各国の政策がEV導入を加速させ、V2Gの社会実装を後押ししています。
もう一つの要因は、再生可能エネルギーの導入拡大に伴う電力系統の不安定化です。太陽光や風力といった再エネは、天候や時間帯によって発電量が大きく変動するため、需給のバランスの調整が難しくなっています。これにより、需給調整力(調整電源)の確保やエネルギー安全保障、レジリエンス強化が求められています。
そこで、V2GはEVの移動性と蓄電機能を活かして、電力が必要な場所・時間に柔軟に対応できる技術として期待されています。再エネ時代の電力安定化とレジリエンス強化に貢献する有望な技術であるV2Gは、エネルギー問題の新たな解決策として注目されています。
V2G導入による2つのメリット
①電力系統の安定化と需給調整力の強化
太陽光や風力等の再エネは、天候や時間帯によって発電量が大きく変動するため、導入が進むほど電力の「余る時間」と「足りない時間」の差が大きくなる点に課題があります。
V2Gは、EVという移動可能な蓄電池を活用して、余剰電力を蓄え、必要な時に放電することができます。そのため、再エネの変動を吸収し、安定した電力供給を支える仕組みとして機能するところにメリットがあります。
また、EVの移動可能な特性を活かして、地域ごとの需給バランスを調整できるため、街の電力供給において、従来の発電所では難しかった細かな制御が可能です。電力需要が急増するピーク時間帯や災害時には、EVからの電力供給がレジリエンス強化に貢献する可能性があります。
②EVオーナーにとっての新たな価値と収益機会
V2Gは電力が安い時間帯に充電し、高い時間帯に放電することで、電気代の節約や収益化が可能です。ただし、これらの充放電のタイミングは、EVユーザーが個別に操作するのではなく、アグリゲーターが電力市場の状況や系統の需給バランスを踏まえて制御します。ユーザーは、あらかじめ設定した条件に基づいて、最適な充放電が自動的に行われる仕組みに参加する形となります。
企業の営業車や配送車等、駐車時間の長い車両は、この駐車時間を活用して電力系統に貢献し、新たな収益機会を得ることができます。また、TCO(Total Cost of Ownership:総所有コスト)の削減にもつながり、電気料金が安い時間帯に充電を最適化することで、車両のエネルギーコストを大幅に削減可能です。
V2Gと類似技術の違い - V1G・V2H・V2Xを比較
V1Gとの違いとは- V2Gへの進化
V1G(Vehicle-One-Grid)とは、EVを充電する時間帯やスピードをコントロールすることで、電力の使われ方を調整する仕組みのこと。例えば、電気が余っている時間にEVを充電することで、電力会社の負担を減らすことが可能です。
V2GとV1Gの違いは、V1Gは「EVに電気を入れる」だけの仕組みに対し、V2Gは充電するだけでなく「EVに貯めた電気を電力会社に戻す(放電する)」ことができるように、EVと電力系統が双方向で電力を供給可能な点にあります。
V2Hとの違いとは – 供給先と目的
V2H(Vehicle to Home)とは、EVの電力を家庭用の電力供給源として利用する技術を指します。V2GとV2Hの違いは、電気の供給先が「家」か「電力系統(グリッド)」かという点にあります。どちらもEV等のバッテリーを電力源として活用する技術ですが、電気の供給先の規模と目的がそれぞれ異なります。
V2Xとの違いとは - V2Gを含む広範な概念
V2X(Vehicle to Everything)とは、車両とあらゆる対象(家庭、建物、電力網、他の車両、インフラ等)を通信技術で接続し、双方向で情報や電力をやりとりする技術です。V2GはV2Xのうちの一つで、V2XはV2Gを含む上位概念であるため、V2G、V2HはどちらもV2Xに含まれます。
V2G導入の課題と解決に向けた取組み
日本における課題
日本ではEVの普及率がまだ低く、充電設備の稼働率も上がらないことが課題となっています。さらに、急速充電設備の導入には高いコストがかかるため採算が合わず、インフラ整備がなかなか進まないのが現状です。また、充放電を繰り返すことによってバッテリーの寿命が低下することも懸念されています。この課題の解決策としては、EV導入や設備設置への補助金活用やスマート技術の導入が挙げられます。
欧州における課題
欧州では、都市部と地方でインフラ整備の進捗に差があり、V2G対応設備の規格非統一も課題となっています。これに対し、EUは「Horizon Europe」プログラム(EUが運営する最大規模の研究・イノベーション支援プログラム)を通じて、V2G技術の普及と標準化を支援しています。
その代表的な取組みとして、SCALEプロジェクトでは、EU、OEM・充電機器メーカーやその他関係企業、研究機関、自治体が約1,000万ユーロを共同出資し、2022〜2025年の3年間をかけて、スマート充電およびV2Gインフラ拡充を目指し、ユーザーのニーズ調査や技術開発、規格整備が進められています。
企業事例:The Mobility Houseの充電管理システム
こうしたインフラや規格の課題と並行し、V2Gを経済的に成り立たせ、電力系統を安定させる技術的なアプローチも不可欠です。その先進事例の一つが、The Mobility House社のアプローチです。
The Mobility House社が開発した充電管理システム「ChargePilot®」は、複数のEVを同時に充電する際の電力ピークを賢く制御(スマート充電・負荷管理)することで、電力需要のピークを自動で平準化し、事業所の電力基本料金を大幅に削減できるものです。ISO 15118等の国際規格に準拠し、複数メーカーの充電器との統合が可能です。The Mobility House社は欧州におけるV2Gの拡大と規格標準化の推進に積極的に取り組んでいます。
*The Mobility House社の取組みについて詳しく知りたい方は「
【ザ・モビリティハウス】EV充電の最適化でコスト削減!その先に広がる電力ビジネスへの想い 」をご覧ください。
日本におけるV2Gの補助金と今後の展開
V2Gの技術は、再生可能エネルギーの変動を吸収し、電力系統の安定化やレジリエンス強化に貢献する次世代のエネルギーインフラ技術です。EVの普及とともに、その社会的・経済的価値は今後更に高まっていくと考えられます。
V2Gの実証事業には2016年度から継続して補助金が導入されており、2024年度・2025年度においても、GX推進対策費の一環として、分散型エネルギーリソース(DER)やアグリゲーション技術の社会実装に向けた支援が継続・拡充されています。
企業にとっては、脱炭素経営の推進やエネルギーコストの最適化、新たな収益機会の創出といった観点から、V2Gの導入は大きな可能性を秘めています。今後の制度整備や技術進展を見据えながら、自社のエネルギー戦略の中にV2Gをどう位置づけるかを検討することが、持続可能な成長への第一歩となるでしょう。
参考
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