Green&Circular 脱炭素ソリューション

ソリューション電池・水素

最終更新:2024.02.16

車載用電池システムの開発から生産・リース・二次利用・リサイクルまで モビリティの電動化を通じ脱炭素社会に貢献

蓄電や充放電制御といった技術を核にモビリティの電動化を促進し、現在はそれら技術を活用したサービス型ビジネスモデルへと領域を広げている三井物産バッテリーソリューション室。その成長戦略に迫ります。

2050年のカーボンニュートラル化に向け、世界各国や各都市では電動モビリティの導入を通じたゼロエミッション政策が進展しています。一方で、モビリティの電動化は、導入のコストや航続距離、充電インフラの設置等、未だ解決すべき課題が山積しています。三井物産バッテリーソリューション室では、それら諸問題を解決すべく、さまざまな企業に出資し、持続可能な環境の構築に取り組んでいます。その仕組みについて話を聞きました。

蓄電技術、充放電技術で “環境にやさしい街づくり”を実現する

――まずは、バッテリーソリューション室が描いている未来や、その戦略について教えてください。
上原 バッテリーソリューション室では「蓄電技術、充放電技術で “環境にやさしい街づくり”を実現する」をビジョンとして掲げています。また、当室ではモビリティ領域に注力しており、電池パックメーカーの「Forsee Power(フォーシー パワー)」や、EV充電マネージメント技術を持つ「The Mobility House(ザ モビリティハウス)」に出資しています。さらに、2023年11月には総合的な電池サービス(Battery as a Service)を手がける「NEoT Capital(ネオティ キャピタル)」にも出資参画いたしました。
※「The Mobility House」について詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
成長戦略としては、Forsee PowerやThe Mobility Houseのような要素技術(蓄電・充電制御技術)を持つ会社に投資をすることで、まずは当社として電動モビリティの開発に貢献していく。そして、NEoT Capitalのようなファイナンスや電池のエコシステム形成(リユース・リサイクル)を手掛ける会社への投資を通じて、電動モビリティの普及を促進。最終的には、当社がモビリティの電動化に必要なソリューション開発をターンキーで提供することを目指しています。
上原 慎太郎|うえはら しんたろう
三井物産エネルギーソリューション本部Sustainability Impact事業部 バッテリーソリューション室 プロジェクトマネージャー。
2016年入社。入社後、モビリティ第一本部にてブラジルの貨物鉄道運営事業、欧州三井物産にて英国の旅客鉄道運営事業等、交通プロジェクト案件を担当。2020年より現本部にて、Forsee Powerと車載用電池のリース・リユース・リサイクルのエコシステム形成(Battery-as-a-Service; BaaS)に向けた取り組みを担当し、直近は両社のBaaS事業推進プラットフォームとしてNEoT Capitalへの出資を担当。
――電池パックメーカーである「Forsee Power」について教えてください。
渡邊 2011年設立のForsee Powerは、フランスのパリに本社があります。三井物産が出資参画したのは2017年、その後2021年にはEURO-NEXT市場に上場しました。当社としてはAPAC地域、とくに日本でのマーケティング活動に注力しています。
渡邊 あきほ|わたなべ あきほ
三井物産エネルギーソリューション本部Sustainability Impact事業部 バッテリーソリューション室 プロジェクトマネージャー。
2016年入社。入社後、モビリティ第一本部にてブラジル旅客輸送事業を担当。その後、本店にて北米での自動車代理店事業を担当し、2020年より日系自動車メーカーの在メキシコ販売代理店に出向。2022年より現本部にてForsee Power製バッテリーを使った電動化ビジネスに注力し、主に本邦OEM向けのセールスマーケティング、鉱山周りの電動化プロジェクトの他、電池交換式等、バッテリーを軸とした事業形成に従事

バスを中心に二輪、トラック、建機や農機向けの電池パックを製造する「Forsee Power」

――同社の強みはどこにあるのでしょう。
渡邊 Forsee Power社はバス・二輪・トラック・建機や農機といったオフハイウェイ向けの他、鉄道向け等のバッテリーを主に扱っており、耐振動性や出力・容量のバランス含め多種多様な商品ラインナップがあり、お客様のニーズに合った最適な電池システムを提供できることが強みです。品質・安全面でも、同社はフランスと中国にR&D機能を備えており、新技術の研究やバッテリー性能の更なる向上に励んでいます。又、グローバル展開をしていることから、各拠点でサポート体制がある点も、お客様にとっては魅力的です。
電池パックの主な構造。Battery Management Systemの部分で、過充電・過放電の防止や温度管理等、安全制御をしている
――競合他社も多いなか、Forsee Powerがここまで順調に伸びている理由はどこにあるのでしょうか。
片寄 現在Forsee Power社の売上の約7-8割はバス向けと、電動化が先行して進んでいるEVバスに戦略的に注力してきたことがあげられます。中でも欧州は都市バスのEV化が早かったことで、需要を取り込むことができました。これにより、供給不足が続く電池セルを安定的に確保できていることも成長要因と考えています。
片寄 太智|かたよせ たいち
三井物産エネルギーソリューション本部Sustainability Impact事業部 バッテリーソリューション室。
2022年入社。入社後、現本部にて車載用電池を活用したサービス開発や欧州における電池リユース事業実現に向けた取り組みに従事し、直近はNEoT Capitalへの出資を担当。

鉱山のダンプトラック向けに改造EVも手がける

――近年は鉱山の電動化にも力を入れられているようですね。
渡邊 鉱山会社の多くは世界的大企業ということもあり、脱炭素化に関しては株式市場からのプレッシャーも大きいことがあります。一方、ダンプトラックといった鉱山機械の電動化にあたっては、未だ電動化された車輌が少ないことや、現場ごとで地形やオペレーション体制も変わることから、求められる電池の容量や出力が異なり、加えて長時間の稼働が求められる中で充電時間をいかに短縮するかなど、技術的な課題が多いのが現状です。

そこで、現在弊社がパートナーと共に取り組んでいるのが鉱山向けダンプトラックの改造です。すでに豪州のサービスコントラクターとMOUを締結しており、ディーゼルで走るダンプトラックの脱炭素化に向けて取り組んでいます。
片寄 改造サービスが生まれた背景として、電動ダンプトラックの選択肢が未だ少ないこともありますが、比較的まだ新しいディーゼル車をすぐに買い替えるのは経済合理性の観点から難しいというお客様の困りごとがありました。その問題に対し、Forsee Power社の電池を活用した改造デザインをエンジニアリング会社と考案し、鉱山オペレーションの脱炭素化に向けたアプローチを見出したということです。これは鉱山に限らず、同じ悩みを抱える既存のディーゼルバスにおいても、同様の取り組みを欧州や北米で現在取り組んでいます。

日本法人設立によりアフターサービスも充実

――2023年9月にはForsee Power Japanも設立されました。
渡邊 グローバル体制としてはフランス、中国、そしてインドとポーランドに工場があり、2024年より北米工場が生産開始予定です。日本法人の設立にあたっては、当社がマーケティング活動をおこなってきたこともあり、既に何社かプレスリリースを出して頂いておりますが、海外展開をしている日系OEM企業が増えたことが背景にあります。

EVの開発には2~3年と長い時間がかかり細かな技術調整が必要です。また、大型の電池パックは一度充放電をしてしまうと規制上、国外に持ち出しづらく、現地でのサポートが必要なケースもあります。これまでも、弊社がForsee Power社と共にサポートをしてきましたが、今回日本法人を設立したことで、よりスピード感を持ってアフターセールス対応ができるようになりました。
――モビリティの電動化を加速させるためにどんなことが必要でしょうか。
片寄 電池パックやモジュールの標準化・規格化は、モビリティの電動化を加速させるために重要だと考えています。すでに欧州では「The Swappable Batteries Motorcycle Consortium(SBMC)」という交換式バッテリーコンソーシアムがあり、Forsee Powerもメンバーとして参画しています。
渡邊 標準化が広がることで、BaaS(Battery as a Service)の世界も広げやすく、繋がりやすくなってくると思います。

電池や車体、充電インフラに対するアセットマネジメントを提供する「NEoT Capital」

――NEoT Capital(ネオティ キャピタル)は、まさにBaaSを手がける会社ですよね。
上原 NEoT Capitalは、フランスの電力公社傘下のEDF Pulse Ventures(イーディエフ パルス ベンチャーズ )と、Forsee Powerによって2017年に設立されました。2023年11月より三井物産も出資参画しています。

我々は、Battery as a Serviceを「総合的な電池サービス」と呼んでおり、EVに搭載されている電池、もしくはEV車両そのもの、さらには付随する充電インフラを含めたアセット(資産)に対し、定額制のリースを提供しています。
――EV化が広まってきたことで、BaaSに注目が集まっています。その背景を教えてください。
上原 EVの導入課題には、①導入コストの高さ ②航続距離 ③最適な充電インフラの構築 ④充電時間(稼働できない時間)等があります。例えば、一般的に既存のディーゼルバスとEVバスでは、車体価格で2倍以上の差があり、バス事業者ともなれば数百台規模を運営しているため、すべてを電動化するとなれば初期コストはおのずと高くなります。また、それらに加えて充電インフラや電力系統の拡張工事などの費用もかかります。NEoT Capitalでは、EV導入時の障壁となる初期コストをオペレーティングリースを通じて引き下げ、またEVのオペレーションに応じた最適な車両や充電インフラ設備の選定、導入を支援しています。

さらに、EV導入時のよくある懸念事項として、電池の寿命があげられます。EV電池は現在も技術革新が続いておりますが、とくに商用車では車体よりも電池の寿命が短くなるケースがあります。NEoT Capitalではそうした課題に対し、車体の寿命にあわせた長期のBaaS(電池性能保証)を事業者に提供しています。事業者はBaaSの活用により中長期のランニングコストを可視化できることに加え、将来の電池交換や、電池性能などに対する懸念から解放されます。
――NEoT Capitalの優位点はどこにあるのでしょうか。
上原 オペレーションが予想しやすい商用モビリティに特化して、事業者の要望に応じた最適なBaaSの提案ができる点です。NEoT Capitalは、バス、トラック、船舶など、乗用車以外の大型商用モビリティを中心にサービスを展開(※)しています。商用車は稼働率が高く、かつ長期間使われるため、EVの特徴であるメンテナンスコストの低さというメリットを享受しやすいのです。さらに、NEoT Capitalは事業者のオペレーションに応じた最適な車両・電池・充電インフラの選定及びリースの組成までターンキーでソリューション開発できる、技術ノウハウと投資プラットフォームを持ち合わせている点が強みと考えています。

※NEoT Capitalは2023年12月末時点で、欧州市場を中心に、EVバス約350台や電動船(電池容量:約12万kWh相当)、EV用充電器約7,000基の資産を管理・運営しています
片寄 NEoT Capitalは、現時点ではゼロエミッション規制で先行する欧州をターゲットに事業展開していますが、今後欧州での事業実績をもとにグローバルでのサービス展開を目指しています。

蓄電池としてリユース、最後はリサイクルして資源循環させる

――EV車で使われた電池はどのように処分されるのでしょうか。
上原 NEoT Capitalでは、「電池の価値を最大化すること」をコンセプトとしています。新品の電池パックは、オペレーションの最適化や、充電方法の工夫も含めなるべく長くモビリティで使っていく。しかし、いずれ航続距離などの問題で交換が必要となるケースがあります。モビリティで使用済みとなった電池をすぐに廃棄するのではなく、定置型蓄電池や可搬式蓄電池など、違う用途で活用できないかと考えています。
――可搬式蓄電池というのは、フェス会場などで使われるディーゼル発電機の代替のようなものですか。
片寄 おっしゃる通りです。音楽フェスやスポーツイベントにおける電源など、臨時で大量の電気が必要となる場面での活用です。モビリティ用の電池は耐振動や耐衝撃、温度変化を考慮して設計されているため、それらの特徴を最大限活かせるリユース用途の一つと考えています。
上原 蓄電池としての役目が終わると、次はリサイクルされます。電池の中に含まれているリチウムや、ニッケル、マンガン、コバルトなど三元系と呼ばれる有価金属などを抽出し、再びセルの製造に使用する。三井物産グループとして、こうした電池産業における資源循環のエコシステムを構築していくことを中長期で目指したいと考えています。
――リサイクル技術を有している会社も参画企業内にあるのでしょうか。
上原 三井物産では金属資源本部を中心として、鉱山などへの資源投資から、電池原料のトレーディング事業をおこなっています。金属資源本部などと協業しながら、廃電池のリサイクルまで手掛けることで、電池の価値をその一生を通じて最大化するエコシステムを構築していきたいと考えています。
――バッテリーソリューション室の展望を教えてください。
上原 冒頭でもお話しした通り、モビリティの電動化には様々な課題があり、バッテリーソリューション室としてはForsee Power、NEoT Capital、The Mobility Houseといった関係会社と協力しながら、お客様にとって最適なソリューションを開発するお手伝いができればと考えています。
――最後に、この事業を通じて叶えたい夢を教えてください。
上原 電動モビリティの普及促進を通じて、輸送分野におけるCO2排出削減に貢献していきたいと考えています。社会にとって必要不可欠なヒトやモノの移動にかかる交通インフラを、ビジネスを通じて持続可能な形で脱炭素化を実現していければと思います。
片寄 「モビリティの電動化」とひと言でいっても、従来のシステムでは対応できない細かな問題や課題が点在しています。それらは世界共通の悩みでもあります。私たちは総合商社ならではのネットワークを活用しながら、いろいろな分野の人と寄り添いながら、一緒に解決できればと考えています。
渡邊 脱炭素社会の実現は、電動化だけが唯一の方法ではありませんが、現在担当しているのは電池の世界ですので、まずはこの領域でモビリティの電動化促進に向けて皆様と協力し合いながら取り組んでいければと思います。そして、脱炭素に向けた最初の一歩を、共に踏み出すパートナーとなることができれば有難いです。
——本日はありがとうございました。
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