Green&Circular 脱炭素ソリューション

ソリューション低炭素燃料

最終更新:2023.01.27

エタノール由来のSAF(持続可能な航空燃料)で脱炭素社会の実現を目指す

化石燃料を使わない航空燃料のSAF(持続可能な航空燃料)が、世界的に大きな注目を集めています。さまざまな製造方法があるなかで、三井物産がエタノールからSAFを生産する米国LanzaJet社の技術に注目したのは何故なのでしょうか。さらには、国内生産に向けてどのようなヴィジョンを描いているのでしょうか。その取り組みについて話を聞きました。

航空業界では脱炭素化に向けて、2050年にはCO2排出量ネットゼロという目標を掲げています。その実現に向けて重要な課題の一つが、SAF(持続可能な航空燃料)の利用促進です。エタノールからSAFを製造する米国のLanzaJet社の取組みを通して、SAFの現状と課題、今後の展望について整理します。

航空業界のCO2排出量の65%がSAFにより削減される

――三井物産では米国のLanzaJet社と共同で、SAF事業に取り組まれています。まずは、SAFに注目された背景を教えてください。
磯貝 航空業界のCO2排出量は、総排出量の2~3%を占めると言われています。コロナ禍で航空需要は一時的に減少しましたが、将来的には増大することが確実です。そこで航空業界では、2019年以降CO2排出量を増加させないこと(2024年以降は2019年比で85%にCO2排出量を抑える事)、さらには2050年にCO2排出量ネットゼロを目指すことを目標に掲げ、4つの施策「新技術の導入」「運航方法の改善」「代替燃料(SAF)導入」「経済的手法(排出権等)」を進めています。
三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 次世代エネルギー事業部 SAF室長 磯貝暢紀。2001年入社。財務部を経てエネルギー本部にてLNG事業開発・管理を担当。2007年より金属資源本部ベースメタル部で銅トレーディングに携わり、上海駐在も経験。2013年に再びLNG事業開発・管理に従事、エネルギー第一本部・第二本部戦略企画を経て、現在はSAFの事業開発に注力している。
――CO2排出削減において、SAFが果たす役割はどれくらいあるのでしょうか。
髙田 SAFは化石燃料由来の航空燃料と比較して、50~90%のCO2排出量を削減することができます。様々な見方はありますが、航空業界でのCO2排出量の65%程度がSAFを通じて削減されると見ており、機体の軽量化や運航方法の改善などに比べても、CO2排出削減への貢献度が高い施策として注目されています。
三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 次世代エネルギー事業部 SAF室 髙田健伍。2015年日揮株式会社に入社。同社では機器エンジニアとして圧力容器の設計を担当。2019年に三井物産へ入社。現在は、国内外にてLanzaJetのATJ技術を活用したSAF製造事業開発を担当している。
――将来的に、航空機にも、自動車でいうところのEV化やFCV化の可能性もあるのでしょうか。
髙田 すでに電動の飛行機の研究開発も進んでおりますが、短い距離しか飛ぶことができません。水素というオプションもありますが、水素はどうしてもジェット燃料に比べるとエネルギー密度が低く、航空燃料と同量の液体水素を航空機に搭載しても、短い航続距離に留まる可能性が指摘されております。今後の技術革新にもよりますが、航空機は2050年以降もジェットエンジン及びジェット燃料(航空燃料)が主流になるのではと考えております。

原料となるエタノールは安定供給が可能

――なるほど。現在、SAFには廃食油から作られる「HEFA」、都市ゴミや木材残渣から作られる「FT」などいくつかの製法があります。LanzaJetはエタノールを原料とする「ATJ: Alcohol to Jet」という製法を用いていますが、その優位性を教えてください。
髙田 SAFの商業化で先行しているのは廃食油を用いる「HEFA」です。廃食油の活用は数年前からRenewable Dieselで先行し、SAFもすでに商業化されていますが、廃食油の調達可能量に課題があります。「FT」は、都市ゴミや木材残渣を原料としてSAFを作る製法です。こちらも原料調達に課題があり、商業化には中長期的な視点が必要です。年間数億キロリットルにのぼる航空燃料の需要規模を考えると、原料となるエタノールの調達が比較的容易なLanzaJet社が用いる製法「ATJ」は優位性があると考えています。
――SAFの原料となるエタノールはどのように作られているのでしょうか。
髙田 現在よく用いられている原料は、米国産のトウモロコシとブラジル産のサトウキビのふたつです。
――LanzaJet社の技術の特徴はどこにあるのでしょうか?
髙田 SAFを生成する場合、SAFと同時にディーゼル(軽油)も生成されます。エタノールを原料とするLanzaJetのATJ製法では、SAFを最大9割生産できることに加え、SAFとディーゼルとの生成比率を選択的に調整することができます。FTやHEFAでは、このSAFの選択性が6割程度であり、つまりLanzaJetのATJ製法はSAFを選択的に多く生産できることがメリットの一つです。この技術は、米国エネルギー省傘下の研究所と共に2010年からおこなっており、プロセス全体での特許も取得しています。

排ガスからエタノールを作るLanzaTech社から2020年にスピンアウト

――改めて、LanzaJetという会社について教えてください。
髙田 LanzaJet社は、排ガス(一酸化炭素と水素)から微生物の発酵技術を使ってエタノールを製造する技術を持つLanzaTech社から、2020年にスピンアウト(独立)した米国シカゴを拠点とするスタートアップ企業です。なお、三井物産はLanzaTech社、LanzaJet社、両社の株主でもあります。
尾渡 LanzaTech社の技術は、工業排ガスのみならず農業残渣・都市ゴミ等をガス化することで、エタノールのみならず化学品等、多様な目的生産物を製造し、日々の生活にて使用される物質に置き換えることができます。つまり、独自に開発した微生物を活用し、カーボンのリサイクルをおこなっていると見ることもできます。
Mitsui &Co.(U.S.A.),Inc. 所属、LanzaJet・LanzaTech常駐 尾渡柚香。2016年入社。エネルギー本部にて電力会社向け一般炭トレーディング・新規事業開発を担当。2018年には出資先の豪州資源会社のマーケティングチームでの勤務を経験。2020年より次世代エネルギー事業新規投資での経験を経て、2021年に渡米。現在はLanzaTech・LanzaJetにてグローバルな新規事業開発を担当している。
――LanzaJet社は、LanzaTech社の技術開発力から生み出されたSAFに特化した会社ということですね。
髙田 はい、LanzaJet社は、エタノールからSAFを製造する実証実験を成功させた世界唯一の会社です。現在、米国ジョージア州に年産3.8万キロリットルのデモプラントを建設中で、2023年に完成予定です。これを機に商業化に向けて動き始めるといった状況です。

2027年までに年間約22万キロリットルの国内生産を目指す

――日本でもプラントを建設する予定だと伺いました。
髙田 コスモ石油と共同で、2027年までにSAFを年間約22万キロリットル、ディーゼル燃料を年間約2.4万キロリットル製造することを目標に掲げています。
――年間22万キロリットルというのは、国内における航空燃料のどれくらいの割合を占めるのでしょうか。
髙田 日本国内では、年間約1,000万キロリットルの航空燃料が使われており、現在の国内航空燃料の約2%を担う規模になります。
――原料などのサプライチェーンは、どのように想定されているのでしょうか。
髙田 当社では、ブラジルから飲料・工業用エタノールを輸入しており、4割強の国内シェアを有しています。そのため、既存のサプライヤーやロジスティクスを利用することができます。
また、ブラジル産サトウキビ由来のエタノール生産には、サトウキビ残渣であるバガスを原料にしたバイオマス由来の電気が使われているなど、環境負荷が小さいこともあり、当面はブラジル産サトウキビ由来のエタノールを供給していく予定です。
磯貝 原料の安定供給、エネルギーセーフティの観点からは、国産化も検討の視野に入っており、先ほど話にあったLanzaTech社の技術を使い、国内工場から出る排ガスを利用してエタノールを製造することも検討しています。

脱炭素化に向けて一般消費者のSAF認知度向上も必要

――SAFの導入にあたってはコストの問題もあると思います。現在は化石燃料より高価でも、航空会社の企業努力で購入が進められているという状況でしょうか。
髙田 SAFは、既存の航空燃料に比べるとまだ高値であることは間違いありません。SAFの導入・普及に向けては、航空各社の企業努力に加えて、一般消費者の理解も必要と考えています。
例えば、一部の航空会社では、利用者が追加の航空料金を払うことにより、自身が航空機を利用し移動する際に排出されるCO2を削減できるプログラムを導入しています。このように、多少の費用負担を受け入れて、環境に良いことをする意識を高めていくことが必要と考えています。
尾渡  米国では、Google Flight等で表示されるフライト毎のCO2排出量を意識している人が多いと思います。それ以外にも、CO2排出量などの数値を目にし、環境を意識させられる場面が増えており、欧米では環境意識の高い企業や個人が、社会全体にプレッシャーをかけているようにも感じています。
(写真左)LanzaJet社のCEOであるJimmy Samartzis氏
髙田 欧州を中心に、多少のプレミアムを払ってもCO2削減に貢献するほうがクールだという感覚が広がっています。日本でも環境教育が進んでいると伺っておりますが、より国民全体の脱炭素に対する意識を高める仕組みの必要性を感じています。私がSAFに関わり始めた2019年には「SAF」というワードをニュースで見る事はありませんでした。しかし、近年は政府・民間企業の努力により、徐々に世の中におけるSAFへの認知度が高まっているのを感じます。このような最終消費者への認知度を高める仕組みを官民一体となって取り組む事が重要と考えております。

SAFはエネルギー分野におけるコア産業のひとつ

――今後のヴィジョンについてお聞かせください。
磯貝 国内では年間1,000万キロリットルの航空燃料が消費されているなか、公表されているSAFの国内生産計画値はまだまだ足りません。先ほどの消費者への理解促進なども含めて、SAFの利用を促進し、同時に社会にとって受け入れ可能な価格でSAFを供給できるように、ブレイクスルーを考えていきたいと思います。
髙田 エタノール由来のSAFにおけるCO2削減効果は、化石燃料由来のジェット燃料に比べて60~80%が見込まれています。というのも、燃焼時のCO2はゼロとみなされますが、SAFの生産時にはCO2が排出されてしまうからです。今後は生産時に再生可能エネルギーを用いたり、輸送時のCO2削減にも取り組むことで、CO2排出量ゼロのSAFづくりを目指していきたいと思います。
尾渡 米国政府は、2030年までに年間30億ガロン(1,100万キロリットル)のSAF生産・供給を目指すと発表し、LanzaJet社は2030年までに米国内で年間10億ガロン(約380万キロリットル)のSAF生産にコミットしています。航空産業の脱炭素化は難しいことで知られており、SAFは今後の Energy Transition(エネルギー転換)分野におけるコア産業だと考えています。
我々三井物産は、総合力とグローバルでのネットワークを生かしながら、LanzaJet社のような脱炭素のソリューションを持つClimate Tech(気候テック)会社と共に、世界の脱炭素化に貢献していければと思います。
――本日はありがとうございました。

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