「付加価値の高い優良な再エネへ」切り替えるべき納得の理由 - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

コラム

最終更新:2024.08.27

「付加価値の高い優良な再エネへ」切り替えるべき納得の理由

「再生可能エネルギー」とひと言でいっても、電力を地域や自然と共生しているものから、環境への配慮が必要なものまでさまざまです。近年、グリーンウォッシュが国際的に問題視される中、どこで作られたかを追跡できる「トレーサブルな再エネ」の価値が高まっています。創業時から「顔の見える電力」を標榜してきたUPDATER 代表取締役の大石氏に「優良な再エネ」の魅力を伺いました。

「再生可能エネルギーの生産者を見える化し、電気を選択する楽しさやワクワクを生み出すことで、気候変動の解決に取り組む」。そんな思いをもとに成長を続ける「みんな電力」。現在は社名をUPDATERとし、「空気」や「土壌」「ファッションブランドのエシカル度」など、さまざまなものを可視化させています。独自のブロックチェーン技術を活用するなど、最先端企業ともいえる同社ですが、その成り立ちは草の根そのもの。代表取締役の大石氏に過去から現在、今後の展望までたっぷり伺いました。

電力という富は誰でも作れる。みんなで作って好きな電気を選ぶ

上野 大石さんは異業種から電力業界に参入されたことで知られています。改めて経歴を教えていただけますか。
大石 はじめは、広告の制作会社でコピーライターのアシスタントをしていました。その後、ベンチャーのソフトウェア会社、凸版印刷の新規事業開発と転職して、「ビットウェイ」の起案・事業化などいろいろと手がけました。
大石 英司|おおいし えいじ株式会社UPDATER 代表取締役広告制作会社を経て、凸版印刷株式会社で電子出版・有料デジタルコンテンツ流通の先駆けとなる「ビットウェイ」の起案・事業化に携わった後、2011年にみんな電力株式会社(現:株式会社UPDATER)を創業。小型ソーラー充電器の販売や世田谷区との再エネ啓発事業からスタートし、2016年より再エネ電力の小売り事業を開始。現在は「顔の見えるライフスタイル」の実現に向け、電力以外の”顔の見える化”にも取り組む
大石 英司|おおいし えいじ
株式会社UPDATER 代表取締役
広告制作会社を経て、凸版印刷株式会社で電子出版・有料デジタルコンテンツ流通の先駆けとなる「ビットウェイ」の起案・事業化に携わった後、2011年にみんな電力株式会社(現:株式会社UPDATER)を創業。小型ソーラー充電器の販売や世田谷区との再エネ啓発事業からスタートし、2016年より再エネ電力の小売り事業を開始。現在は「顔の見えるライフスタイル」の実現に向け、電力以外の”顔の見える化”にも取り組む
上野 そこまでは電力と無縁な人生ですね。
大石 そうですね。でも、新規事業を起案するにあたっては、当初から「才能の発掘」と「貧困の解消」をテーマにしていたんです。東大阪という格差の激しい町出身でいろいろと見てきましたし、自分自身もキラキラした人生じゃない。ある種の劣等感があるんです。電力に直目したのは、40歳を間近に次のテーマを集大成にしようとしていたころでした。
上野 その時期に、ソーラー付き携帯充電器をカバンにぶら下げている方を見かけられたと聞きました。自分のケータイの電源が切れそうなタイミングで「この人の電気を買いたい」と思った話は有名です。
上野 昌章|うえの まさあき『Green & Circular』編集長三井物産株式会社 デジタル総合戦略室DX第二室 兼デジタルテクノロジー戦略室 次長。1993年入社、情報産業本部やプロジェクト本部において、ITや再生可能エネルギー関連の新規事業開発に従事。2020年10月よりデジタル総合戦略部にて脱炭素関連事業のDXに取り組む
上野 昌章|うえの まさあき
『Green & Circular』編集長
三井物産株式会社 デジタル総合戦略室DX第二室 兼デジタルテクノロジー戦略室 次長。1993年入社、情報産業本部やプロジェクト本部において、ITや再生可能エネルギー関連の新規事業開発に従事。2020年10月よりデジタル総合戦略部にて脱炭素関連事業のDXに取り組む
大石 それが2007年頃です。「電力という富は誰でも作れる。みんなで作って好きな電気を選べたらいいよね」という構想を得たわけです。当初は新規事業企画のネタでしたが、凸版印刷とは関わりのない事業だし、あまり誰も興味を示さなかった(笑)。だからこそ、会社に迷惑をかけないで独立できるとも思ったんです。
上野 創業は2011年5月ですが、3.11の影響は大きかったのでしょうか。
大石 いや、3.11との因果関係はないんですよ。先ほどお話ししたように、極めて個人的な動機から始まっているんです。ベンチャーで唯一、過去3回の電力スパイク(急激な電力価格高騰)でも生き残れたのは、起業の動機が他社とは違ったからだと思っています。

自分で話していても、何で生き残れたのかわからない

上野 創業当初はどんな事業をされていたのでしょう。
大石 創業時は、発電量をAndroidスマホで読み取れるFelicaチップを埋め込んだ世界初の小型ソーラー携帯充電器を作っていました。ポイントが貯まると省エネグッズと取り替えられるというものでしたが、不具合が出て返金したりと、ひどい有様でした。
それ以前は、エネルギー民謡を歌うアイドル「エネドル」と共に全国をどさ回りしたりもしました。
上野 思いついたことはすべてやられたわけですね。
大石 そうですね、当時はなんで独立しちゃったんだろうと思っていました(笑)
上野 そこから今のビジネスモデルにどうシフトしたのですか?
大石 2016年に、家庭用電気も含め電力が完全自由化される流れになったんです。そこで「小さな太陽光発電所の電気を集約化し、好きに選べる仕組み」を作ろうとしました。
上野 同じコンセプトでも、投資家を集めて発電所を作り、それを売るやり方もあったと思います。そうではなく、プラットフォーム的なビジネスにしたのはなぜでしょう。
大石 「FIP制度」などがはじまり改善されてきましたが、国民の原資を使う「FIT(固定価格買取制度)」のやり方が腑に落ちなかったんです。それならば、「高くても納得して電気代を払う方が気持ちいい」。そう考えたので自分はやりませんでした。
※FIP制度やFIT制度について詳しく知りたい方は「FIP制度とは? 固定価格買取制度(FIT)との違いや 導入のメリット・デメリットをわかりやすく解説」をご覧ください
上野 確かにそうですね。一方、発電所をお持ちの方に電力を供給してもらわないといけない。それもまた大変だったのではないですか?
大石 本当に大変でした。聞いたこともない、資金力もない会社に誰も売ってくれません。厳しい条件の提示もありましたが、協力してくれる人がひとり、ふたりと増えてきて6~7つ集まったところでスタートしました。

それに加えて厳しかったのが、電力の「需給管理」の仕組みです。今でこそIT化してブロックチェーンで紐づけていますが、当時は需給管理の仕組みなんて電力会社用に開発されたものしかなかった。大手ITベンダーに見積もりを取ったら高額で、そもそも相手にしてくれないんです。そんなときに協力してくれる方たちが現れて、既存のシステムをベースに実現させることができました。
上野 電力の「同時同量」を実現するためには、かなり難しいシステムが必要ですよね。
大石 はい。自分で話していても、何で生き残れたのかわからない。一歩間違えばとっくに潰れている場面だらけです。
上野 でも、大事な局面になると助けてくれる方が現れる。現状に問題を感じている人と繋がる、特別なスキルをお持ちなんだと思います。
大石 わらしべ長者みたいな感じですよ(笑)
上野 長く商社勤めをしていますが、それこそが一番重要なスキルだと思うんです。新しいことを始める際に、「協力しよう」という方が現れるのは素晴らしいですよ。

トレーサブルな再エネに切り替える企業が増え続ける理由

上野 近年、「再エネを高くても買いたい」という人が急激に増えていると聞きました。それはなぜでしょうか。
大石 その話は主に法人事業ですね。サステナブル市場は国連などの規制と連動するんです。例えば、「CDP」(※1)がありますよね。日本で認定されているのは現在3社で、当社もその一つです。また、CDPには大手の電力会社は認定されていません。

しかし、「みんな電力」から電気を買えば、どこの再エネ事業者から購入したのか確実にわかる。これは「追加性」(※2)にも関わる話で、購入先がわかれば(企業としての)評価点が高くなる可能性があるわけで、皆さんやり始めているんです。
※1 CDP:企業や自治体に環境情報の開示を求め、その情報を投資家などに提供している国際的な環境NGO団体
※2 追加性:再エネ電力や証書・クレジットを購入することで、新たな再エネ設備を普及・拡大させる効果があるとみなされること
上野 なるほど。多少高くても付加価値があるわけですね。
大石 日本の場合「実質再エネ」と「再エネ」のふたつありますが、実質再エネを買っている人は、どこの発電所由来かわからない。証書を使ってオフセットされてはいますが、石炭火力による電気を買っている可能性もある。

また、世の中には、環境配慮の足りないメガソーラーや、不必要な伐採をして輸入した木材を使用しているバイオマス発電所もある。そういったものは国際的に厳しい目が向けられていて、将来的に「そうは言っても、3年前は森林破壊をしていましたよね?」と過去のことを訴求される可能性もあるわけです。

さらに、皆さんあまりご存知ないんですけど「実質再エネ」と「再エネ」は日本でも法律上の区分が違うんです。予見性の高い企業は、多少高くてもトレーサブルな再エネを買った方が結果的に安くつくことをご存知なんですよ。
上野 そういうことなんですね。
大石 基準を満たし、社会的に合意性のある「優良な再エネ」が将来的に取り合いになることもよくわかってらっしゃる。例えば、ソーラーシェアリングの再エネを購入している需要家は、CDP基準を満たすだけでなく、自然資本や生物多様性という「TNFD」(※3)の観点でも優位な需要家になれるんです。復興支援につながる再エネ電気であれば「地方創生」にも貢献できる。

つまり、電気の選び先ひとつで付加価値がたくさん付いてくる。結果的に就活生の人気就職先として新たな雇用が生まれ、尊敬される企業となり、株価も上がる。そう考えると実は安いんですよ。
※3 TNFD:自然関連財務情報開示タスクフォース。生物多様性を課題としながら、企業の経済活動と自然資本との関わりを開示していく国際的なフレームワークのこと
上野 高くてもいいから買うというよりも、経済合理性があるから購入するわけですね。
大石 そうなんです。すでに購入されている企業は、発電事業者との関係も深め始めています。そうなると、「次もあの会社に売りたい」となりますよね。コストだけで選んでいると、欲しくても買えなくなる可能性があるので、純粋に早めに購入することをお勧めしているんです。
上野 この話は非常に説得力があります。本格的にいろいろと考えなくてはいけないというか、波に乗れない人は淘汰される時代が来そうですね。

ブロックチェーンを使い、購入先を証明する「みんな電力」

大石 「みんな電力」で使用している、電力のブロックチェーンをご覧になったことありますか? この画面を見ればわかるように、当社では30分ごと、どこの再エネ事業者から購入したのか証明することができます。
大石 例えば、秋田の風力発電所のウォレットに100トークンあります。これを発電量に置き換えて、購入者のウォレットに100トークン移動します。電力が移動したことを証明する仕組みは、私たちの特許技術です。

他社がブロックチェーンを使おうとしても難しいのは、送金手数料です。一般的なブロックチェーンは1回送金するのに数百円かかる。40箇所の発電所から調達したら、30分で数万円にもなってしまう。でも、僕らは1回の移動を0.0001円ですることができる。そのミドルウェアに価値があるわけです。

この技術をベースに、空気をトレサビリティする「みんなエアー」や、土をトレサビリティする「みんな大地」などに応用しています。
上野 ブロックチェーンの特性をここまでしっかり活用している例をあまり知らないので驚きました。さらに、そのテクノロジーを使って再エネのみならず空気や土壌まで広げていらっしゃる。

ブロックチェーン技術を活用し 空気をモニタリング

大石 重要なのは、そこから出てくるビッグデータです。「みんなエアー」では15分ごと約5000箇所の空気のデータを採取しています。すると、どのオフィスで熱中症が起こりやすいのか、どのオフィスでダニやカビが発生しやすいのか、感染しやすいのかということがわかってきます。

そうなると、これまでなんとなく空気清浄機を提案していたところの「質」が変わってくる。さらに、「この状況でウェルビーイングな会社と言えますか?」みたいな話にもなります。
多機能空気質センサーで常時モニタリングする「みんなエアー」。空気中に含まれるCO2やPM2.5などの数値データを15分単位で取得し、空気質モニタリングクラウド「MADO」で分析している
多機能空気質センサーで常時モニタリングする「みんなエアー」。空気中に含まれるCO2やPM2.5などの数値データを15分単位で取得し、空気質モニタリングクラウド「MADO」で分析している
上野 まさに、UPDATERですね。
大石 現在、横浜市では教室のウェルビーイングを目指すということで、「みんなエアー」のセンサーを市立の小学校・中学校・高等学校の全508校に設置しています。
その結果をフィードバックすることで、CO2が1000ppmを超えると子どもたちが自主的に換気するようになったと聞きます。さらに、子どもたちが家庭で話すことで空気に対する意識が広がっていく。
企業の場合は統合報告書に載せるニーズがあるため、証明のためにブロックチェーンに書き込むことになります。
上野 「みんな大地」では、土自慢の農家さんに土を採って送ってもらい、分析して「土壌診断レポート」を出されていますよね。良い土壌であることが証明されれば、農家さんにとってPR材料にもなる。
大石 農園と連携している企業は、「生物多様性への支援」として統合報告書に書くことができます。
その他にも、世界最大級のエシカル評価機関「Good On You」と連携した「Shift C(シフトシー)」というサイトでは、ファッションブランドのエシカル度を5段階のシンプルな結果で見られるようにしています。
上野 脱炭素領域では「見える化」がキーワードですが、ここまで広範囲に徹底されているとは驚きました。しかも、 ビッグデータやテクノロジーを使って差別化して拡大されている。
大石 僕らのそういった一面は意外に知られていないので、ぜひ多くの人に知っていただきたいところです。

新たなイノベーションはCO2算定の先にある

上野 最後に、このビジネスで叶えたい大きな夢や、描いている社会を教えてください。
大石 世界は誰にでも変えられると思っています。変える方法はふたつあって、1つは「選挙」、もう1つは「消費」です。消費の場合、エシカルなチョコレートを買うだけで子どもでも世界を変えることができる。「気候変動」と言うと壮大な気がしますが、今日からでもできることはたくさんあります。

企業側においても、さまざまな分野の人たちとコラボレーションすることで、世界一CO2排出量の少ない商品を作ることもできる。つまり、自社やサプライチェーンのCO2を算定したら、次のステップとして何かを生み出すところまで、皆さんと一緒に取り組んでいきたいと思っています。
上野 CO2算定の先に、新たなイノベーションがあるわけですね。それはとてもポジティブで素敵な提案だと思います。本日はありがとうございました。

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