ペロブスカイト太陽電池とは?メリットや実用化への開発動向を解説 - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

ソリューション再エネ

最終更新:2025.07.10

ペロブスカイト太陽電池とは?メリットや実用化への開発動向を解説

ペロブスカイト太陽電池は、再生可能エネルギーの普及に向けた次世代太陽電池として注目されています。仕組みやメリット・デメリット、実用化に向けた企業の取組みについて解説します。

ペロブスカイト太陽電池は、脱炭素社会の実現に向けて、近年注目を集めている次世代の太陽電池です。従来のシリコンベースの太陽電池に比べて、高効率かつ低コストで製造可能なこの技術は、エネルギー生産の新たなパラダイムを切り拓くと期待されています。本記事では、ペロブスカイト太陽電池の仕組みやメリット・デメリット、実用化に向けた企業の取組みについて解説します。

ペロブスカイト太陽電池とは?

青空の中輝く太陽の写真

新素材「ペロブスカイト」を活用した太陽電池

ペロブスカイト太陽電池は、「ペロブスカイト」と呼ばれる特定の結晶構造を持つ化合物を用いた次世代太陽電池のことです。ペロブスカイト構造を持つ材料には太陽光を効率的に電気エネルギーに変換する特性を持つものがあり、太陽電池に応用されています。特に、有機金属ハロゲン化物型ペロブスカイトは、その高い光吸収率と電荷輸送能力から、太陽電池の活性層として有望視されています。この技術は、2009年に日本発の発明として世界中で注目を集め、2030年の実用化に向けて開発が進んでおり、再生可能エネルギー戦略において重要な役割を果たすことが期待されています。

従来の太陽電池と次世代型太陽電池との違い

従来の太陽電池の主流は、シリコンをベースにしたものであり、耐久性に優れ、高いエネルギー変換効率を持つものの、製造コストが高いという課題がありました。一方、次世代型と呼ばれるペロブスカイト太陽電池は、製造コストを抑えつつ、効率的に太陽光を電力に変換することができます。
また、ペロブスカイト太陽電池は、低温での製造が可能であり、設備投資を抑えられるだけでなく、製造時のエネルギー消費量も削減できます。さらに、シリコン系太陽電池は、パネルが重く、設置場所も限定されるのに対し、ペロブスカイト電池は軽量で柔軟性があり、さまざまな形状に加工可能です。これにより、建物の外壁や窓、車両など曲面への設置など、従来の太陽電池では難しい用途にも適しています。
*太陽光発電については、「太陽光発電の現在地と課題ー期待されるペロブスカイト太陽電池 」の記事でも紹介しています。

構造や仕組み

出典:国立研究開発法人産業技術総合研究所 産総研マガジン
出典:国立研究開発法人産業技術総合研究所 産総研マガジン
ペロブスカイト太陽電池は、光吸収層としてペロブスカイト構造を持つ物質を用いる点が特徴で、その原材料は、光を非常に効率的に吸収する特性があります。通常、その構造は、透明電極、ペロブスカイト層、電子輸送層、ホール輸送層、金属電極の5層構造で構成され、光が透明電極を通過しペロブスカイト層に到達すると、ペロブスカイト層で光子が吸収され、電子とホールが生成されます。電子は電子輸送層を経て金属電極に運ばれ、ホールはホール輸送層を通じて裏面の電極に到達します。この過程で電流が流れ、発電が行われることになります。

ペロブスカイト太陽電池のメリット

製造コストの低減と製造プロセスでのエネルギー削減

ペロブスカイト太陽電池の製造コストが低い理由は、主に素材の安価さと製造プロセスの手軽さにあります。ペロブスカイト材料はシリコンに比べて非常に安価で、採掘や精製にかかるコストを低く抑えることが可能となります。
製造プロセスでペロブスカイト材料は溶液状に調整され、基板に均等に塗布されます。このプロセスは、従来のシリコン電池のような高温での処理を必要とせず、常温で行えるため、エネルギー消費を大幅に削減できます。また、ペロブスカイト材料をインクのように使用し、基板に印刷することで、非常に短時間で大量生産が可能になります。これにより、設備投資やエネルギー消費も抑えられ、結果的に製造コストを低減できるのです。

柔軟性と軽量化を実現

ペロブスカイト太陽電池は、その独特な構造と製造方法により、柔軟性と軽量化を実現しています。従来のシリコン太陽電池と異なり、ペロブスカイト太陽電池は薄い層構造で構成されており、特に光を吸収するペロブスカイト層は非常に薄くても効率的にエネルギーに変換することが可能です。また、製造過程においてポリマーシートなどの軽量基板に塗布や印刷で製造できるため、重いガラス基板を必要としません。さらに、ペロブスカイト層は小さな結晶の集合体で形成されるため、折り曲げやゆがみに強く、軽量化が可能で柔軟性を持たせることができます。
これらの特徴により、ペロブスカイト太陽電池は1m²あたりわずか1kgほどの重量を実現し、従来のシリコン系パネル(15kg/m²)と比べて大幅な軽量化を実現しています。こうした柔軟性と軽量化は、従来設置が困難だった場所への設置や持ち運びも可能で、多様なシーンでの活用が期待されています。

ペロブスカイト太陽電池のデメリット

原材料の安定性

ペロブスカイト太陽電池の課題の一つは、原材料の安定性です。ペロブスカイト層中の結晶構造は、大気中の水分や酸素の影響を受けやすく、耐久性に課題があります。吸湿性を持つペロブスカイト太陽電池の材料は、大気中の湿気を吸収し、性能が低下する原因となることがあります。こうした問題を解決するために、保護膜の導入や、安定性の高いペロブスカイト材料の開発などの取組みが進められています。また、カプセル化技術を用いて、水分や酸素の侵入を防ぐことで、安定性の向上を目指す取組みも行われています。耐久性を高めるための素材や製造技術の開発が、今後の重要な課題となります。

エネルギー変換効率の安定性

ペロブスカイト太陽電池は、開発初期から高いエネルギー変換効率を示していますが、その効率を長期的に維持することが課題です。シリコン太陽電池のエネルギー効率は14%~20%程度が一般的である一方、開発当初の2009年頃、ペロブスカイト太陽電池のエネルギー効率は3%程度です。特に、温度変化や湿度、紫外線などの環境面での条件が影響し、短期間で性能が低下することがあります。これにより、商業化に向けて長期的な性能評価が必要であり、安定性を確保する技術の進展が不可欠です。特に、効率を維持しつつ、環境条件に強い構造を持つ材料や製造方法の開発が実用化に向けて、重要なステップとなります。

世界から注目される次世代太陽電池

未来のオフィスビルを感じさせる画像

企業による実用化に向けた取組み

ペロブスカイト太陽電池は、日本、アメリカ、中国、スイスをはじめとする多数の研究機関や企業で高性能化と安定性向上に取組んでおり、技術開発競争が激化しています。日本も技術面では世界最高水準にあり、特にフィルム型では、製品化における大型化や耐久性向上において世界をリードしています。
積水化学工業株式会社は、30cm幅のフィルム型ペロブスカイト太陽電池のロールtoロール生産に成功し、耐久性10年相当、発電効率15%を実現しています。今後は、1m幅での量産化技術を確立し、2025年の事業化を目指しています。また、パナソニック株式会社もガラスと建材が一体化したペロブスカイト太陽電池の実証実験を開始しています。加えて、京都大学発のスタートアップ企業、株式会社エネコートテクノロジーズは、小型フィルム型ペロブスカイト太陽電池を活用し、IoT機器などの多様な用途に向けた実証プロジェクトを進めています。
研究開発においては、鉛の使用削減や効率向上を目指した接合層の改善、多層構造の導入や製造プロセスの最適化が進められています。近い将来、ペロブスカイト太陽電池は、既存の太陽電池を一掃する可能性があり、エネルギー問題の解決に大きく寄与することが期待されています。

ペロブスカイト太陽電池が拓く未来

ペロブスカイト太陽電池の実用化は、エネルギー分野だけでなく、さまざまな産業分野にも影響を与える可能性があります。例えば、建材一体型太陽電池や、フレキシブル太陽電池として、多様な用途への展開が考えられます。また、低コストで製造できることから、発展途上国への普及も期待されています。他にも、ペロブスカイト太陽電池の技術は、他のデバイスにも応用できる可能性があり、今後の発展が注目されます。
しかしながら、技術的な課題はまだ多く、安定性や耐久性の向上、製造コストの削減など、解決すべき課題は山積していますが、そのポテンシャルを最大限に引き出すための努力が続けられています。

参考

関連する記事

関連ソリューション

ご質問やご相談など、
お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォームはこちら