木質バイオマス発電の先駆者、真庭市。地域資源を生かす取組み
岡山県真庭市は、間伐材や製材から出る端材といった未活用の木材を活用し、2015年から木質バイオマス発電所を稼働している国内を代表する自治体です。真庭市 地域エネルギー政策課の藤本氏、市場氏にお話を伺いました。
木材や枝葉などを燃やし、発生した熱を利用して電気を起こす木質バイオマス発電。脱炭素社会を目指すうえで、化石燃料由来のCO2排出量を抑えながら地域のエネルギー確保も叶えるものとして注目されています。大自然の中で育まれる木質バイオマス発電所は、どのように稼働しているのでしょうか。木質バイオマス発電の先進地域として、日本を代表する岡山県真庭市 地域エネルギー政策課の藤本氏、市場氏にお話を伺いました。
市民自らが構想した、地域の未来のためのエネルギー
——木質バイオマス発電における先駆者的な真庭市ですが、そもそもどういった問題意識から木質バイオマス発電が始まったのでしょうか。
市場 木質バイオマス発電がはじまった背景には、真庭市の特長が大きく関係しています。真庭市は2005年の市町村合併によってできた市で、県下で最も大きな面積を誇ります。そして市の面積の8割ほどが森林であり、古くから木材の集散地として知られていました。
そのため木材に関する産業は地域の基幹産業であり、現在でも、立木を伐採し、丸太を生産する業者が約20社、切った原木を売る市場が3箇所、そして製材業者も30社ほどあります。山から木を切り出し、加工して、最終的な製品を販売するまで、すべてのサプライチェーンが市内で完結しています。
森林の約6割は植樹を施した人工林で、そのうち約75%がヒノキです。しかし直近30年は植樹があまり行われておらず、同時に、ヒノキも木材として利用できる時期を迎え始めました。必要な木を切るとともに、植林を行うといった、森林のライフサイクルを整えることも地域の課題と捉えています。
丸い幹を四角い材に加工しますので、製材所ではどうしても出荷されない材木や端材が出ます。その量は年間約8万㎥という膨大な量で、産業廃棄物として有料で処分していました。そうした木材をうまく活用するためにと考えられたのが、真庭市の木質バイオマス発電でした。
藤本 明弘|ふじもと あきひろ(右)
真庭市 地域エネルギー政策課係長。2006年、真庭市に採用、水道事業、林業・バイオマス産業課を経て2024年から同年新設された地域エネルギー政策課に配属、太陽光によるオンサイトPPA事業、小水力発電事業に携わり、市の再生可能エネルギー100%政策の推進に従事。
市場 太貴|いちば たいき(左)
真庭市 地域エネルギー政策課主事。2023年、真庭市に採用、林業・バイオマス産業課を経て同地域エネルギー政策課に所属。脱炭素社会に向け、市民会議をはじめとした市民や事業者への普及啓発活動や新たなバイオマス燃料活用等、真庭市地球温暖化対策実行計画の目標達成に向けた取組に従事。
藤本 木材産業自体は、明治の中頃から発展したそうです。富原村初代村長が、「材木を売ることで税金のいらない村に成長させたい」と壮大な想いで植林を始めました。みんなで助け合いながら地域産業に発展したようで、昔から自分たちで地元を盛り上げていく意識が引き継がれているのかもしれません。
市場 1992年頃、中国横断自動車道が開通し、高速道路ができると産業や人材の流出が起きるのではないか、という懸念があがるようになりました。そこで当時の若手経営者たちが集まり、有志で立ち上がったのが、「21世紀の真庭塾」です。
世間の変化を敏感に感じとり、地域の未来について議論を進める中で、現在の木質バイオマス発電につながるアイデアが生まれました。エネルギーの確保と持続可能な地域活動の連携を考えたことに始まり、市が先導したことではなく、市民たちの議論から起こったことなんです。
藤本 現在木質バイオマス発電の発電規模は約1万kWほどを保っています。それに必要な燃料は年間約11万トンで、未利用材、端材を使用しています。一般世帯に換算すると、約2万2千世帯が生活できる電力量に相当します。電力活用として、発電量の約3割ほどを真庭バイオエネルギーという事業者が買い戻し、そこから市内の公共施設、約100カ所に供給しています。全量をFIT(以下、固定価格買取制度)で売電をしています。
真庭バイオマス発電所
——2030年までに地域エネルギー自給率100%の目標を掲げています。その目標に向けて、他にはどの様な取組みをしていますか?
市場 オンサイトPPAによる再エネ電源の供給もスタートしています。 市内の小中学校や学校給食の調理施設などの公共施設の屋根を民間企業に貸し、企業が太陽光パネルを設置し、公共施設に電力を提供しています。
藤本 こうしたオンサイトPPAの施設は、2024年9月現在、5か所で稼働しています。2025年3月末には、10か所での稼働を予定しています。木質バイオマス発電所に加え、こうした取組みも合わせて、2030年には、市全体のエネルギー自給率100%の目標を達成したいと考えています。真庭市全体の地域エネルギー自給率は2020年の段階で約62%であり、真庭市役所本庁舎では地域由来の再エネを100%使用しています。
地域産業をより知ってもらうためにできること
——木質バイオマス発電の燃料材に地域の木材を活用することで、地域経済への効果もあったのでしょうか。
市場 燃料には、間伐材や、真庭市内で製材された際に発生する端材などを活用することになっており、製材所等から買い上げて木質チップにしています。木質バイオマス発電所ができる前の2012年と、できた後の2017年を比較してみますと、経済効果として木質バイオマス産業による生産額は52億円の増加でした。発電所に限らず、発電所へ資材を運搬する人材や、木材を集める集積地に原木を運ぶ人材、原木からチップへ加工する人材等、関連産業をすべて含めた経済効果となります。
藤本 市内の製材所も、規模はさまざまです。そのため経済効果として一概に測れないことも多いと思うのですが、むしろ製材事業の成長によって発電所が賄われていることは間違いありません。皆さんのおかげで発電できていると考えています。
真庭森林組合木質バイオマス月田総合集積基地
——木質バイオマス発電を進めるうえで、課題となっていることはありますか。
市場 燃料の安定供給があげられます。現在、固定価格買取制度で売電しているため、最終的な電力の販売価格が固定されています。また、近年、全国各地で木質バイオマス発電所の建設が進められており、真庭市周辺地域にも新たな木質バイオマス発電所ができ、燃料の安定供給は非常に重要な課題になっています。対策として、市内の広葉樹を伐採し、搬出する素材生産業者を支援することにより、広葉樹の木質バイオマス燃料化を促進している他、新たな木質バイオマス燃料として、耕作放棄地などの未利用土地への超短伐期の早生樹の栽培実証を開始しています。
真庭市バイオマス集積基地
藤本 真庭市は、もともと木の産地ですので、建築に木を使うことは積極的で、早くから庁舎や公共施設に木材の活用を進めていました。
そして、2014年には、関係7府省(内閣府、農林水産省、経済産業省、環境省など)が共同で推進する「バイオマス産業都市」に真庭市が選定されました。地域の特色を活かし、バイオマス産業を軸に、環境にやさしく災害に強いまち・むらづくりを目指す地域が、「バイオマス産業都市」です。
「バイオマス産業都市」選定をきっかけに、「真庭バイオマス産業杜市構想」を掲げ、木質バイオマス発電事業のほか、付加価値の高い木質バイオマスの活用を検討する「木質バイオマスリファイナリー事業」、廃棄物の資源化を目指す「有機廃棄物資源化事業」、木質バイオマスという地域資源を活かす「産業観光拡大事業」を4つの柱としています。
また、2021年に木材の利用促進に関する法律が改正されてからは、公共施設に限らず、民間施設や一般住宅にも木材を、と呼びかけるようになりました。いまでは、住宅に木材を活用する際の補助金制度も作られ、新築に限らずリフォームやリノベーションでも使える制度になっています。
こうした取組みが、新たな関連産業を生み、木材利用量が拡大することで、地球温暖化対策にも貢献し、それが結果的に地域力の向上につながると考えています。
市場 産業面での取組みに加え、木質バイオマス発電に対する普及啓発活動も欠かせません。木材生産業界では、木を余すことなく使い切りたいという想いで始まったことも理解されていますが、市民のなかには地域の木材産業や木質バイオマス発電所について、あまりご存知ない方もいらっしゃるからです。
2006年からは、市内外の方を対象に木の生産現場や集積地、そして木質バイオマス発電所の様子を見て回る「バイオマスツアー真庭」という取り組みを始めています。2022年度は82回も開催され、約2,700人の方に参加していただきました。先ほど紹介した「産業観光拡大事業」の推進にも貢献しています。
藤本 同様に、地元の子どもたちに向けた取り組みも行っています。市内の小・中学生たちには、必ず一度は木質バイオマス発電を知る機会を持ってもらえるようにと考えています。事前に木質バイオマス発電に関する講義を行って、そのうえで発電所や木材の集積地を見学する内容になっています。
森林への意識を高め市民や企業と連携する
——木質バイオマス発電に関する今後のビジョン等も計画はありますか。また、地域産業を支える行政の姿勢として、お二人はどんなお考えをお持ちでしょうか。
市場 真庭市は2022年に脱炭素先行地域に認定されましたが、その際、2ヶ所目の発電施設を建設することが目標に掲げられました。現時点では設置場所や運用等も含めてまだ検討段階ではありますが、第2バイオマス発電所の設立も視野に入れている状況です。
個人的には、地域の森林や、林業・木材産業に対して意識が高まることで、さまざまな取り組みが広がっていくのではないかと考えています。市もそうした需要や期待に応えるように運営を行い、市民との連携をより良い循環に変えていければよいなと考えています。
藤本 私も、あくまで市民や民間企業の想いが先で、市はお手伝いをすることが理想かなと思います。他の自治体の方に偉そうに言えることもありませんが、地域ごとの特長や機運もあるはずなので、そうした流れを壊さずに、一緒に進めることが役目かと考えています。
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